ずっと伝えたかった気持ち
もうひとりの逸材者「有田院」
彼は同じ逸材者である生に興味を抱き始める
だが生にその気はなく、院のことを無視しようとしたのだが・・・・
──私は生が好きだ。
それは昔からのことであり、今もである。
だけど私の想いは届かず、生には気づかれない。
それでもよかった。幼馴染だから一緒に入れる。それだけでよかった。
でも今日、生を見ていて感じてしまった。
彼の知らない一面を目の当たりにして私はますますこの気持ちが抑えきれなくなった。
でも告白したところで彼は気づいてくれない。
告白をしたら今の生活は出来ない・・・・。
「私・・・どうしたらいいんだろう」
この気持ちを伝えるべきなのか、そうでないのか。それが分からない。
そう考えているうちに私は眠りについた・・・・。
──とある場所に存在する、豪華な家、
そこにもうひとりの逸材者である、有田院は存在していた。
「なに?襲撃に失敗しただと」
「はい・・・10人ほど向かわせたのですが、どうにも返り討ちにあったらしく」
返り討ち、有田はまだこの仕業が境川が行ったことだとは知らない。
「この有田院の忠実なる部下を返り討ちとは、この街は相当な手練が居るみたいだな」
「しかしながら、今回の件で返り討ちにしたのは"襲わせに向かった人物"です」
襲わせに向かった人物とは当然、境川生のことだ。
「何だと!!?」
ありえん・・・奴は俺と同じ逸材のはずだ。力はないと見ていたが・・・・
いや、頭脳だけで勝利したということなのか
「どちらにせよ、この件が私の主犯だとバレるのも時間の問題だな」
奴は逸材、時間が経過するにつれ私の居場所も掴むだろう。
「では、どうなさいますか?」
有田はニヤっと笑い、
「──第二の刺客を向かわせろ」
「朝か・・・」
昨日に引き続き俺は朝早く目を覚ました。
携帯で時間を確認すると昨日と大体同じ時間帯に起きていた。
「起きるか」
布団から起き上がり、俺は体をググッと伸ばした。
「昨日は色々ありすぎたからな、今日はなるべく平和に過ごしたいものだね」
チラッと机の方に目をやる。そこには昨日に襲撃にいあった証拠でもある、"銃弾"が置いてあった。
匂いを辿った結果、今回の件は有田が関わっているみてまず間違いない。
「だが──なにか腑に落ちないんだよな」
そもそも有田が俺を襲う理由などないはず、同じ逸材だからか?
でも俺と彼奴は根本的に逸材のレベルといい、キャリアが違う。
キャリアだけでみたら俺は有田には遠く及ばないが、自信を持って言えたたちではないが、これでも"無の部屋"の卒業者という大きく誇れることは俺にもある。
生まれ持って逸材を持っているが、最初は困惑していたはずだ。だが、その点に関し俺は違う。
無の部屋は逸材者を作る場所だ。だから予め逸材についての知識や、その他云々を覚えさせられる。
知識だけでは張り合えるのだ。
「ったく、たださえ学園で生き残るのに必死だってのに・・・・手間を増やさせやがる」
だが、有田はしばらく無視していても害はないだろう。
だから俺は机の上の銃弾を机の中にしまい家から出た。
家のドアを開けるとそこにはちょうど命の姿があった。
「よお、おはよう」
いつものように何気なく挨拶をする。
「お、おおおはよおう」
なんか不自然だな・・・・。
「どうした?何かあったのか」
命が心配だったので何かあったのかを聞いてみる。
「い、いや何もない・・・・わよ」
俺を見るなり、顔を赤くし、目をそらす命。俺の顔になんかついているんだろうか?
「ち、違うの!気にしないで」
命が気にするなというので俺はとくにこれ以上詮索するのをやめた。
「命、少し早いけど俺は学園に行くわ」
「えっ、どうしたの!?」
「・・・そんなに驚くか・・・ちょっと学園のことで気になることがあってな。人ごみが多いとそれなりに困る。だから早めに行くんだ」
「じゃあ、私も・・・着いていく」
そう言って命は俺の隣にたったったと小走りで走り、俺と一緒に少し早いが学園に向かった。
朝早くから学園に向かったから、当然誰もいないだろうと予想していたが、運悪くも俺の予想は見事に砕かれてしまった。
「すごい・・・・なにこの人の量」
命が見たのは学園の校庭に集まる無数の人々。
見たことはないが、どれも恋桜学園の制服を着ているところからおそらくは先輩なんだろう。
「これは何だろうな」
人は把握したが、集まっている理由は理解できない。今日は何か特別な日だったかな・・・・?
「おや、境川生ではないか」
先輩、ということは・・・ともあり少し期待してそれは見事にビンゴだった。
「ちょうど今、あなたに会いたかったところですよ──生徒会長」
「珍しいな。お前がこんな時間に来ようとは・・・おやそちらの女子生徒は・・・お前の彼女か?」
命を見てそういった。
生徒会長にそう言われて命の顔はみるみると赤くなり、耳まで赤くなっていた。
「彼女・・・へへ・・・他人から見られるとそうなんだ・・・」
「別に彼女じゃありませんよ、ただの幼馴染です」
俺はキッパリと会長にそう言い伝えた。・・・少し命は残念そうな顔をしていたが。
「そんなことはどうでもいいんです。会長、これは一体なんの騒ぎですか?」
校庭には無数の生徒で溢れている。しかもそれは全て上級生の集まり。
朝からこのようなことをしているなんて、日常茶飯事とは少し言い難い光景だ。
「これか・・・今朝方二年三年生が急遽お呼ばれしたんだよ。この学園の校庭にな。──誰が我々を呼んだのかが今だに分かっていなく、朝早くからかり出されたこの生徒どもは起こっているのだ」
見てみろと言わんばかりに視線をそちらに見させると、確かに血気盛んだな。あまり関わりたくはない。
「なるほど。大方理解しました。何にせよ呼ばれたのは上級生の方々のみ。下級生である我々は用事がありますのでこれにて」
会長に一礼をし、俺は昇降口の方に歩いて行った。
「あっ」
命も続いて一礼をし、俺の元に走ってきた。
「──生、よかったの?」
「ん・・・?何がだ」
「さっきの校庭の騒ぎよ」
ああ、あれか・・・。どうせ呼ばれていたのは上級生なんだ。俺たちが口出すことはなんに一つ無いだろう。
「でも、みんな凄かったね。先輩方元気な人たちでビックリしたよ」
手を合わせながら命は少し笑いながら言う。
「ああ、そうだな」
俺がそう言うと、命はしばらく何も言ってこなかった。
少しの間沈黙が続いた。
「なあ、命」
ふと思ったことがあったので、命に質問しようと後ろを振り返ったら、
「──命・・・?」
命が居なかった。
「ッ!!!?」
ついさっきまで一緒に廊下を歩いていた命が消えた!!これは一体・・・・
自慢ではないが、俺は後ろに人がいなくなったら気配で大方分かる。だが、今回に限っては全くもって気づくことが出来なかった。
俺はスグに聴力の力を発動させ、近くの音を探知し始めた。
だが、近くに命のような足音は存在しなかった。
「拐われた・・・ってのが一番シックリくるか」
近くに拐ったような足音もしないが、俺に気づかせることなく、命が消えたんだ。相当気配をコントロールできる類の奴なのだろう。
「──だが、必ず見つけ出してやる!!」
俺は命を守ると誓った。だが、その誓は今果たすことはできなかった。俺は怒りでいっぱいだったが、せめて、感情を表にださず、冷静を装った。
──学園の六階よりさらに上、屋上
そこに東雲命は存在していた。
「──ッ」
手で、口を塞がれ喋ることは許されなかった。
ただ、私の目の前には黒いスーツの男がいること。それだけしか理解できなかった。
「流石は忍びのプロ、足音、気配を完全に消していたな」
目の前にいる男は私を掴んでいる男に向かってそういった。
「だが、なぜその女を拐ってきた?」
「簡単なことだよ。この女はいつもあの逸材者と共に行動しているんだ。彼奴も相当こいつが気に入っている証拠、これでアイツも有田様に興味を向けるはずだ」
「人質か、・・・あまり感心しないことだが、有田様が奴をおびき寄せるためには手段を選ばないとお決めになったことだ。しょうがない」
この人たちから出た人物の名は「有田」・・・昨日私たちが出会ったもうひとりの逸材者。私を拐ったのは有田の手下たち。
同時に私は昨日の家の前にいた男の存在を思い出した。
「(なぜだかは分からないけど有田は・・・生を気にかけているみたいね・・・・)」
「しっかしこの女、結構いい体つきしているな」
「ッ・・・・」
私を掴んでいる男は私の身体を見るなるそう言ってきた。
「あまりその女を傷つけるなよ?女を傷つけるのは私の流儀に反する」
「けっ、お前はいつもお堅いね。みろ、この女 なかなかの上玉だぜ?」
男がへその辺りを触ってきた。なんという屈辱か・・・。
私は必死にあがいたが、男の力は強く、私ではどうすることも出来なかった。
「(助けて・・・・生・・・・)」
心の中で助けを祈るしかない。もうそれしか私に出来ることはないのだ。
「ほぉ、おとなしくなったな。あきらめか?」
──カン・・・・
突然後ろの鉄格子のフェンスから音がした。
「ん・・・なんだうぁぁ」
私を掴んでいた男は見事に吹っ飛ばされたいた。
私は男から解放されたが、掴まれていたのは空中だったので、そのまま地面に落ちていくかと思った。
──だけど違った。
私はお姫様だっこをされていたのだ。
「──遅くなってしまったな・・・命」
私の目の前にいたのは私の好きな人・・・・境川生だった。
いつもそう。危ない時にはいつも生がいてくれた。だから私はこの人を好きになった。
今回もそうだ。遅くなったというながらも一生懸命私を探してくれたのだ。
「生・・・」
「境川生だと・・・貴様どこから!!?」
私がいた後ろはフェンス・・・そこから校庭を見渡すことができる。
つまりは、そこにはドアすらなく、人が登ってこれる場所もない。
「どこって・・・校庭からだよ」
「馬鹿な・・・ここは六階の上だ!!ジャンプしてこれる高さではない!!」
生は頭をかきながら、
「確かに常人だったらこの高さは飛んでも届かないだろうな」
生は私をゆっくり下ろし、
「だが、俺は逸材者だ」
一歩前に出た。
「お前たちが思っている以上に俺は斜め上をいくぜ」
そして、もうひとりの男の近くまでやってきた。
「・・・なるほど。我々は貴様を過信しすぎていたようだな。だから彼奴はやられたというわけか」
チラッと飛ばされた男の方をみる。彼はもう気を失っていた。
「そういうことだ」
普通なら焦ってもいいところなのに男はまるで焦らず、平然としていた。
そして胸ポケットからチャキッと・・・
銃を突きかざした。
「よもやこの間合い、避けきけると思うか?」
避けたら恐らくこの弾丸は命に当たる。そういう風にコイツは撃つだろう。
「撃ってみろよ」
生は動じることなく、男にそう言った。
「カッコつけるの・・・・大概になッ!!」
男はパァン!!と弾丸を飛ばした。
至近距離で音を聞いた生は相当うるさかっただろうが、生は顔を全く変えず、
バン・・・・シュウウウウウ
と、
「馬鹿な・・・・交わすどころか・・・」
手から煙が少し出てきた。
そして手を開くと
カチャン、と音がした。
地面には弾丸が落ちた。
「受け止めた・・・」
生は放たれた弾丸を交わすのではなく、全く動じず、その場で手を前にやり弾丸を掴み取ったのだ。
「一度だけ見逃してやる・・・。有田に伝えておいて欲しいことがあるからな」
生は顔を男に向けこう言った。
「──俺を振り向かせたければ自分でかかってこい。そう伝えろ。分かったか?わたかったなら・・・とっとと失せろ!!」
生は怒鳴った。
「くそ。覚えてろ!」
男は生の見逃しに応じ、ピューと退散していった。
生は男が行ったことを確認すると、振り返り私の方に歩いてきた。
そして私の目の前まで来て、
「怖ったかな・・・だが、心配をかけたな命」
笑ってそう言った。
「ううん・・・怖くはなかった。だって生が来てくれるって信じていたんだもん」
「フ・・・俺も随分と信頼されているんだな」
生は少し嬉しそうに、目をつむった。
──生は変わってしまった。だが、生は生・・・。どんなに変わろうが私の気持ちは変わらない。
「ねえ、生」
今回助けられたとき、私はすごく嬉しかった。私をお姫様抱っこしてくれたとき、凄くドキドキした。
この気持ちはもう伝えれずにはいられない・・・・だから・・・・!!
「──き・・・・」
「・・・?」
振られてもいい・・・私は、・・・私もここで変わらないといけないんだ。
「"──ずっと前から貴方のことが好きでした"」
私はこの気持ちを最愛の人に向かって言った。