人生は公平ではない。それに慣れよ。【その参】
キンッ・・・カンッと金属音が鳴り響く。
リアの剣技を俺が全て素手で弾いている音だった。
右左とリアの攻撃は猛威を振るっており避けるまもなく弾くだけで精一杯のものだった。
「流石・・・兄様!!まともに攻撃が当てられないなんて・・・ねッ」
喋りながらもリアは攻撃の手を緩めない。
それどころか攻撃の速度が打つたびに速く鋭く・・・重くなっていく一方だ。
(これがリアのテンポか。ノってくるとどんどん強くなっていく形・・・)
俺は冷静に分析しながらリアの攻撃を弾く。手だけでは捌ききれないので、希に足も使いつつ攻撃を弾く。
リアの紫色の瞳はどんどん輝くをましている。それは最初に闘った時と同じだ。
力が強くなっている。そうなると瞳が明るくなるのがリアの特徴だ。だが、この攻撃に合わせて今だに「空間停止」を噛み合わせてこないのには少しだけ疑問を抱く。
いくら過去のトラウマが合ったとしても刀を出す際などに使用する力、それをこの局面で使わないのには納得がいかない。
人を殺すことに抵抗があるとしても、止めることは最大限の強みだ。力を持ち合わせていながらそれを使わないのは愚の極み。愚か者のすることだ。
(...それは俺もあてはまる・・・か)
俺は今だに隠し続けている。命にも御神槌、楠・・・棗、会長....そういった出会ってきた人物全員に隠し続けている力が沢山ある。
なぜ使わないのか。それは明白だった。その力に順応する相手がいない。ただそれだけに過ぎないのだ。
力も持っていてもそれが使えない。相手が弱ければ自然と自分の力はセーブされてしまう。
例えば格闘ゲーム。自分は熟練者。一方で相手は初心者。こうなり熟練者はこう言った。
「手加減はしない」と。だが、口ではそういうが相手が初心者だということを脳が理解してしまっているせいで、自然と熟練者は本気が出せないのだ。
それでも熟練者は負けることはない。"最小限の力で勝利をする"それが力を持ち合わせても出しきれないということなのだ。
「人生とは公平ではない」──宿敵だとか因縁のライバルだとかはそんなの実際は巡り合わせない現状だ。
自分の力を出し切れる相手などそうは存在しない。どちらかが一方的なのがこの世の真理。
互いに互角など万に一つの可能性も存在しない。いたとしたらそれは奇跡だ。生きているうちにそんな人と巡りあえれば互いに成長しとても張り合いのある人生となるだろう。できればの話だがな。
俺とリアは互角に見えるが実際そうではない。リアが空間停止能力を使えば俺に勝てる可能性は十分にある。勝てる可能性はな。
だが俺にはまだ沢山の能力が存在する。それは圧倒的な力でリアを倒すだろう。だが、俺はリアの力をある程度理解してしまっている。
理解してしまっては本気は出せない。ましてやリアは俺の大切な家族だ。家族を傷つけるなどもっぱらだってことだ。
だからこうして何もしないでただひたすらに俺は拳と足を使ってリアの攻撃を弾いているだけの状況なんだ。
「兄様、弾いてるだけですか。仕掛けてこないんですか!?」
刀を振るいながらリアはそう言う。
(さて、どうでるか)
時間跳躍を使って1.5秒先の世界に行き先に攻撃を仕掛けるか、視線誘導を使ってリアの認識から俺を消すか、ただひたすらに筋力強化してこのまま挑み続けるのもよし・・・。
極限の極致は発動に時間かかるから無理だな。それに使うまでの相手ではないだろうし。
この力を使ったのはアメリカでアリスとカトリックと闘った時くらいだな。リアもアメリカ人だけど、まだ幼すぎる。この力を目の当たりにするのはもう少し後でもいいだろう。
結果的に時間跳躍か視線誘導の二択ってところだな。まあ妥当っちゃ妥当だけど....。
「仕方ねえか」
俺はリアの刀を捌きながらそう言った。
ビュンと飛んでくる攻撃を弾くのを俺はやめ後ろに後退する。
「ッ・・・!」
今まで反撃に出ていた俺がいきなり後退したことに対しリアは警戒を一層に強めた。
「そう警戒することはないぞリア・・・」
俺は棒立ちでそう言う。
今の俺は隙だらけだろう。だが、リアは攻めてこない。それは危険だと分かっているからだ。
俺がただ単に立っているだけ、それだけでリアは恐怖を覚えている。
時間跳躍、それはこの距離でさえ一瞬で無かったことのように移動する技。1.5秒とは人からすれば大した時間ではないが、超人・・・逸材者からすれば十分なアドバンテージでもある。
それを先にいかれるとなると誰だって不利な状況下に陥るのだ。
リアはそれを悟ったのだ。だからあえて俺には攻撃をしてこない。
「兄様の目つきが....ッ」
リアからみた俺は一体どんな目をしていたのか。自分でもはっきりとは分からない。
だけど半分は実感しているつもりだった。俺の瞳はいつになく死んだ魚のような瞳をしているんだと。
なぜそんな風になっているのか。答えは簡単だ。俺は今現在あらゆることから意識を・・・興味を消している。
誰かを守りたいという気持ちでさえ、今は消すことにしたのだ。
「俺にとっての覚醒は"誓い"から生まれたものだ。でも、俺にとっての"足枷"はその誓いそのもの・・・」
誰かを守るという偽善じみた誓い。それこそが俺にとっての力を封印する一つの原因だった。
「リア、力を見せてやる。お前もいずれ・・・必要になることかもしれないからな」
「兄様・・・・──ッ!!」
ドン──俺はリアの目の前に一瞬で移動し腹にめがけて一撃を当てた。
リアはその場でガクッと意識を失い前に倒れる。
俺は倒れたリアをソっと支えそのままお姫様抱っこの形でリアを持ち上げる。
「・・・ごめんなリア。だけど感謝するよ。お前のおかげで刀の使い方や色々を学んだ」
トコトコと歩き俺は命の方に向かう。
「生・・・終わったのね」
「ああ。俺の勝ちだ」
「そう....」
命はどこかホッとしていた。
「リアは強かった。だけどまだ若すぎたのかもしれないな。だけどもしリアがこれから先、闘うことがあるのなら彼女は絶対に俺を超えるだろうよ」
俺がそう言うと命は、
「ううん・・・生は負けないよ誰にも」
そういった。
「俺は万能じゃない。絶対に勝つなんてことは無理だよ」
「無理じゃないよ。生は最強の逸材者だもん。たとえ相手が魔王だろうと外国の逸材者だろうと生は絶対に負けない」
「根拠は?」
「──信じてるから」
「ッ・・・」
その言葉は想定外だった。俺が負けないという根拠、それは命が俺を信用しているからだったのだ。
命の中で俺は最強の存在。だから負けないというのだ。
「そうか。お前がそう言うんならそれでいいか」
「・・・うん」
命は微笑んでみせた。
「....にい・・・さま・・・」
その時ちょうどリアが目を覚ます。
「起きたか。リア」
「えっ、あ・・・!」
リアは自分がどんな体制なのかを一瞬で理解して顔がみるみる赤くなる。
「に、兄様・・・これ・・・お姫様抱っこ・・・」
「問題あったか?」
普段から俺にべったりのリアだからむしろ歓迎の感じかと思ったがこれもまた想定外の反応だな。
「い、嫌じゃないけど・・・た、たたたタイミングが・・・!!」
これ以上見ててもリアがかわいそうなだけだから俺はソっとリアは下ろした。
地上に足をつけたリアは鞘にしまわれた刀を一瞬で取り出して俺の前に差し出す。
「これ・・・」
俺はそれを受け取る。
「貸してくれるのか?」
「兄様の実力は見せてもらった。きっと刀なら傘よりももっと上手く使えるはずです・・・だから」
リアは少しだけ下を向いた。
顔が赤い。だけど何かを振り絞った感じで顔を上げこういった。
「──負けないでね・・・お兄ちゃん....」
いつもと違う呼び方。それは一体何を示していたのか。分からない。だけどこれは負けられないなと俺はそう感じた。




