人生は公平ではない。それに慣れよ。【その弐】
「リア、見せてやるよ。武器使いでない男の武器の扱い方を」
俺はニヤリと笑い傘を構えた。
俺は傘を構える。だがそれはいつものように両手で刀を持つ正しい持ち方ではない。
片手で傘を持っている状態だ。つまりはブンブンとどうでもいい感じに振れる状態。通常の傘の持ち方ってところかな。
「兄様・・・なんのつもり」
刀をよく使ってきたリアからすれば今の俺の状態はふざけているようにしか見えないだろう。
だが俺は本気だ。未熟だからこそ編み出せる領域に気がついたのだ。
「俺は本気だぜリア」
だから俺はそう言った。
本当にそう思っているからこそそう言ったのだ。
「ふざけないで兄様。その持ち方は絶対に何の策もない証拠だよ。まだ扱いに慣れてないからってそれはいくらなんでも・・・」
「だったら行動で見せてやるよ」
その瞬間俺はリアの視界から消えた。
正確には消したのだ。
「なっ・・・消え・・・」
違う場所から観戦していた命でさえ一瞬俺のことを見失った。
「兄様・・・ど、どこに・・・!?」
「上だ!!」
傘を大きく振りかざす。
だがギリギリで回避された。
「私の目に映らなかった・・・。見失うなんて・・・何を・・・」
俺が今行ったのは"視線誘導"──対象の視線を別の方向に向けることで俺の存在を一瞬認識させなくする誘導技だ。
マジックなどで行われるミスディレクションに近い応用技といってもいい。それを俺は行い、一瞬だけこの場から消えるように錯覚させたのだ。
「あえてふざけているように見せかけて傘に視線を集中させたのね・・・兄様....」
「気づいたか。この原理に。さすがは逸材者だな。褒めてやるよ・・・リア」
そう。なぜ俺がこのようにまともじゃない持ち方にしたのか。
それはリアの推測通り視線誘導の矛先にするためだったからだ。視線誘導ということは相手の視線を俺でなく別の物に仕向けなければいけない。
だから俺はこの場にある「リアが一番」目にしやすい傘を利用したのだ。
現にリアは見事に引っかかってくれた。意外と人間はこういうのに弱いからな。この技は乱用こそできないが、一回目は絶対に協力な技。
引っかからないと思う人ほどハマっていく恐ろしい技なのだ。
「兄様に褒められるのは昇天するほど嬉しいけど・・・あんな技があるなんて思うと少し恐怖です・・・」
「言っておくが今のは序の口だ。これから見せるのが本当の意図だ」
そう言って俺は再びリアの前から姿を消す。
「またさっきと同じ・・・!」
だが俺はリアの上にいない。
それどころかこの時間軸に俺はいなかった。
「ッ・・・」
時間をコントロールするリアからすれば俺が行ったことは何かすぐ理解した。
「──ご名答だぜリア」
俺はリアの後ろに現れる。
「時間・・・跳躍・・・」
後ろに立った俺はすかさずリアに一撃をお見舞いしようと傘を降りつける。
ブン──と横に一閃、だがリアはその場でクルリとジャンプしてかわす。
だが、宙に舞った状態では次の攻撃はかわせない!!
俺は横、立て、横、と連続で空中にいるリアに向かって傘を振るう。
でもリアはそれでも身軽に回避を続ける。たまに手に持っている刀で俺の一撃を相殺させそのまま──カキーンと刀と傘が混じりあった。
「ほぉ・・・」
「くっ・・・」
俺は地上、リアは宙にいる。
重さ的にはリアが有利だけど押し切ることはできていなかった。
カンッ、と弾かれる音が響きそのままリアは後ろに後退した。
「あ、危なかったです・・・」
リアは流石に驚きを隠せていなかった。
あのふざけた持ち方で今の攻撃をしたのだから当然だった。
「惜しかった、か。次は決めてみせる」
時間跳躍を利用した瞬間的な攻撃、視線誘導と違って俺が一瞬本当に消えるのだから成功率は高い。
だが、しかし俺の時間跳躍はあくまで高速移動で行った究極の速さの移動にすぎない。
つまり足の筋力を増加させた俺の速さと互角なら一瞬だけ認識してしまうだろう。
リアは時間能力を持っているから直前で反応することができたのだ。
パキパキ・・・俺の持つ傘からそんな音が聞こえた。
そして、
──パキーン....
傘が割れた。
耐え切れなかったのだ。俺の動きやリアとの交戦に。
「・・・・・あちゃー」
俺は手を額に当ててそう言った。
「傘壊れちゃったですね・・・兄様」
これからが本番だってのにこれはねえだろ。
ったくどうするかな。
だけどリアの持っている刀だって壊れるときがくる。そう、これは実戦・・・武器が壊れたことも承知でやる闘いだ。
「リア・・・続けるぞ」
「兄様・・・!」
リアはの瞳は驚きを表している。
「武器が壊れることを織り込んでの闘いだ。万が一・・・ってこともあるだろ?」
「でも兄様・・・素手は・・・」
危険、そう言いたいのだろう。刀を素手で相手すれば血がでることは明白。リアは心配してくれているのだ。
「大丈夫だ・・・当たらなければな」
自信満々に俺はそう言った。
私は離れたところでリアと生の闘いを見ている。
二人はとても凄かった。私では到底できない動きを見せている。
(やっぱり二人は強いんだね。リアもなんだかんだで反応いいし)
『──お前だってその気になればアレくらいできるだろ』
脳に直接言葉が響く。これは私の逸材能力であるもうひとつの人格的存在、影の声だ。
「・・・どういうこと」
『少なからず私が表にでればあの程度の動き、できると言っているんだ。だが、お前の身体に不可はかけたくない。だから実際できるかと言ったら無理をすることになるけどな』
「それ意味ないんじゃない」
『だが、できるということだけは頭に入れておいて欲しい』
「善処しますよ・・・」
二人の闘いを見届けながら私は影の言葉に答える。
『しかしながら生も相変わらずの動きだな。独特の動き、惹かれるものがある・・・って感じだ』
「惹かれるもなにも私は常に生に惹かれてるわ」
好きだという気持ちは日に日に高まっている。告白してからというもの生に対する気持ちは絶対的に失われていない。
生と一緒にいるだけでとてもいい気持ちになる。だから私は生と一緒にいることが好きでしょうがない。
『全く・・・私の気持ちは恐ろしいものだね』
もうひとりの人格に呆れられたけど特に反論する気は起きなかった。
『アメリカから帰ってきて一段と強くなったんじゃないかしら?彼右目失っているというのにそれを感じさせないわよね』
髪の毛で隠れているけど生の右目はとっくの前に本当に光を失っている。
死んだような目ではなく死んだ目となったのだ。
それでも生は闘い続けている。それでも勝ち続けているのだ。
「生は最強の逸材者よ。負けることは絶対にない・・・」
『その気持ちは理解できなくもないが、負けないということは絶対に存在しない』
「・・・・・」
『魔王の逸材者だったかしら?あれは危険な存在よ』
「知っているの?」
『・・・遠くから禍々しいオーラをここ最近で感じ取ってるのよ。恐らくそれが魔王のオーラ。日に日に近づいているしきっとそう』
「生が負けるというの?」
『確証はない。だけど・・・今の状態では勝てる保証もないわね』
私は生を見る。リアと互角に闘っており、優勢といえば優勢だった。
そんな生が魔王の逸材者に負けてしまう・・・影はそう言った。
(・・・・負けないでね生)
生が死んだら私はどうしたらいいのか分からなくなっちゃう。きっとこの力が暴走してしまうくらいに。
胸をギュッと握り締めて私は二人の闘いを見届けるのだった。




