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逸材の生命  作者: 郁祈
第五章 復讐の魔王編
77/130

人生は公平ではない。それに慣れよ。【その壱】

 「境川」


 それは唐突だった。さっき別れたはずの会長が声をかけてきたのだった。


 「どうしたんですか?」


 「伊吹龍という男を知っているか?」


 伊吹・・・あの狙撃の逸材者か。


 「ええ知ってますよ。でもそれが?」


 「愛桜(あいさか)から聞いた情報だが、織田樹という男に敗れたらしい....病院に搬送されたと聞いている」


 「ッ・・・・」


 伊吹の実力は身を持って体験している。俺と(みこと)、そしてアメリカの才女であるルナと協力してやっとのレベルだった男だ。

 どんな位置からも銃弾を当てに来るあの超広範囲の射程を持ったとしても魔王には敵わないというのだ。


 「これが魔王の逸材者の実力らしいな。他の逸材者から見ても郡を抜いての実力だ。生半可な逸材者では太刀打ちできないだろう」


 まさか伊吹が敗れるとは思ってなかったな。てか彼奴自ら魔王の逸材者のところに向かって言ってたのかよ。


 「伊吹と魔王は過去に仲間だったみたいだな。同じくついていた人物だったのだろう」


 そう言えば伊吹はシャルルに雇われて俺たちを殺しにやってきていたな。半分は伊吹自身の「逸材者の滅び」があったとは言えども根本的にはシャルルの依頼が大きかったに違いない。

 

 「境川、恐らくだが明日には魔王はこの東京に入ってくる。そろそろお前も太刀打ちする準備をしておくのがいいだろう」


 「忠告は感謝しますよ」


 明日には奴がやってくる。だったらもはやここでうじうじ考える必要もないってか。

 俺は適当に手を振ってその場を去った。




 


 家に帰ると既に命は俺の家に来ていた。


 「あら、生。お帰りなさい」


 「兄様お帰りです」


 リアも一緒になって玄関に顔を出してきた。


 「ああ・・・ただいま」


 「今日は早いわね」


 「ちょっとな」


 明日には魔王がくるんだ。ブラブラとして寄り道なんかしてられないよ。


 「なあリア」


 「はい。なんですか兄様?」


 「お前の持っている刀・・・あれを借りることはできるか?」


 銃を持つ伊吹に勝ったということは間違いなく奴は何らかの武器を持っている。もし向こうが銃だった場合、リアの刀でも勝てる見込みはないが、伊吹と銃撃戦で敵う相手はそういない。だったら銃でない何かということになる。

 

 「いいですけど・・・・兄様 刀振るえるんですか?」


 「いや・・・使ったことはない」


 今まで素手で闘うことばかりだったからな。武器に頼る闘いは俺に合っていないと自覚していたせいか結構避けて闘ってたんだよな。


 「まあ使いながら覚えるさ」


 「生は器用だし割とすぐに使いこなしそうよね」


 まあでもぶっつけ本番で初見じゃまずいと思うし・・・・


 「リア。少し実践に付き合ってくれないか?」


 俺は玄関に刺さっていた"傘"を抜きそう言った。






 俺の家から少し離れたところに河川敷がある。そこに俺とリア、観客として命が河川敷に立っている。


 「──全力でいいぜリア。最初から刀を使ってきてくれ」


 俺がそう言うとリアの手元には瞬時に刀が出現する。


 「私が兄様と闘えるのいは本望ですけど・・・傘・・・本気なんですか?」


 「俺はいつでも本気だ」


 俺は傘を構えそう言った。


 「・・・・だったら私も全力でいきます」


 同じくしてリアも鞘から刀を抜き構えを取った。


 「はあ!!!」


 ──ビュン!とリアが俺の方に向かって走ってくる。

 そして大きく跳躍しクルッと縦に一回転しそのまま刀を振りかざしてきた。


 「ッ──!!」


 キンッ・・・俺は傘を咄嗟に目の前に出してリアの一撃を防ぐ。

 だがリアの一撃は重く俺は押されていた。


 「武器の扱いは私のほうが上です。いくら兄様でも勝つのは至難ですよ」


 「・・・・・・」


 俺は力を出しなんとか刀を弾くことに成功した。

 だがリアは怯まず綺麗に地面に着地をする。

 ザザザと少しだけ俺の足は後ろに下がったが、俺も対して動いていないのでセーフだ。ここでヨロけたら一気に隙ができるからな。注意しないと。


 その刹那リアはタン!と左にステップを踏みそこからクルクルと回転をして刀を横から振るってくる。


 「スキありです兄様!!」


 「なに・・・」


 思っていたよりリアの次の行動が早かった。

 俺の傘はまだ上を向いておりこの横からの一撃を普通にガードするのは不可能だ。


 「──普通ならな」


 俺は傘をクルッと回転させて傘の先端をしたに向ける。

 そしてそのままおもいっきり傘を地面に突き刺し上手くリアの一撃を再び防いだ。


 「もらった」


 傘を手放しそのまま拳でリアに襲いかかる。


 「ッ!!!」


 だが俺の一撃が届く瞬間、リアは俺の目の前から姿を消した。

 15歩ほど後ろに後退しており俺はそれに気づくことはなかった。


 「・・・時間停止か」


 「危なかった・・・・です」


 「俺を襲わなかったか。その時間停止、やはり不完全というわけか」

 

 俺は傘を地面から抜きそう言った。


 「でも兄様。今の攻撃は中々良かったと思いますよ」


 額から少しだけ汗を垂らしながらリアはそう言う。


 「だけどこう言った武器の闘いはやっぱり馴染まないな。どうしても素手での方法が出てきてしまう・・・」


 傘を持っていない片方の拳をグッと握り締める。

 武器に頼らないと今回ばかりは厳しい。だけど今まで使わなかった代償がここに来て出てきてしまっている。

 本能が武器に頼らないのだ。人間慣れていない動きはどうして行わず、今までやってきた一番身体に馴染んている動きをしてしまうもの。

 例えば12年間鉛筆の持ち方を間違えて覚えていれば咄嗟に直したところでその12年の持ち方を失うことはなく、どうしてもそっちをやってしまうもの。

 それと同じで俺は武器を使うことに対して同じ状態となっているのだ。


 「だけどここで物にしたないと魔王には勝てない・・・・か」


 少し荒技だけど試してみる価値はあるか。

 さっきの動きでもしかしたらと思っていること・・・それをここで試すのも一興だな。


 「兄様・・・・?」


 「リア、見せてやるよ。武器使いでない男の武器の扱い方を」


 俺はニヤリと笑い傘を構えた。

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