狙撃と魔王
銃は破壊されてしまった。
狙撃を得意とする伊吹には勝ち目のない状況となっていた。
「終わりだ──伊吹」
刀を構え魔王の逸材と呼ばれる織田樹はそう言う。
「残虐/天命・・・懐かしい技だな」
「覚えていたか」
ピンチな状況だというのに伊吹は焦りもせずそう言う。
「お前の剣戟はかなり特殊だからな。至近距離の武器だというのにも関わらず、今のような遠距離攻撃を持ち合わせている。天性の才能とも言ってもいいなお前の逸材は」
刀の風圧をカッターのように飛ばす技、それにより伊吹の銃は粉々になっている。
遠くから刀で切られたような技・・・その威力は剣風とは思えない威力。
「私の剣技のストックは山ほど存在しいている。だがしかし、貴様に見せるのはこれだけよ。これだけで十分よ」
「・・・・舐められたものだ。銃を失った俺に勝ち目がないと思っているな?」
「ほざけ」
そう言って樹は刀を大きく振りかざす。さっき同様、刀の先からは剣の風がビュン!!と飛び出た。
前方に立っている伊吹を目掛けてものすごい早さで剣風は襲いかかる。
「その技、見切ってしまえば避けるのは容易い!!」
伊吹は逃げるどころか、樹の方に向かって走り出していた。
目の前から襲いかかってくるのは樹の放った「残虐/天命」、しかし剣風が目の前に達した時、伊吹は右に跳躍しそれをかわした。
ダン!と大きな音を立ててジャンプをした伊吹、そしてクルッと横に一回転をしブン!!と手元に握られた何かを樹に向かって投げた。
「無駄だ」
伊吹が投げ放ったものはあっさりと樹の刀の前に消滅した。
クルッと一回転したのは物のスピードを上げるための行為、さして遠くの距離でないのに樹は超スピードで投げられた物を切り裂いたのだ。
「我が"残虐/天命"を避けたことには評価しよう──だが、生身の貴様に何ができるというのだ」
伊吹は既に着地しており、前かがみの体制で樹を見ている。
「そうだな。俺は狙撃の逸材者だ。当然ながら物を飛ばすことにしか特化していない。銃を失えば戦闘なんぞできやしないだろうよ」
だけどなと伊吹は言い、
「──死者を追い求めているお前をここで止めなければこの世界は危ないと感じているんだ」
シャルルを尊敬している樹、それはシャルルが死んでいる今でも同じことだ。
だから伊吹は怖いと感じている。死んでもなおシャルルを慕う樹が恐ろしく感じているのだ。
「少なからず俺とお前は仲間だったからな。一応の情けとしてここで止めることを俺は決断した」
死者を追い求めている樹を止めるために態々東京からこの離れた場所までやってきたというのだった。
「シャルル様は・・・・私の全てだ。それを失った私の気持ちなど貴様に・・・わかるというのかァァアアアアアアアア!!!」
壮絶な叫びとともに伊吹の目の前からビュン──と姿を消す樹、消えたと錯覚するほどに早かったのだ。
「ッ!!?」
伊吹が次に樹の認識したのは目の前だった。
「──馬鹿な・・・早い」
「・・・"残虐"・・・・『刹那』」
鞘から引き抜かれた刀は伊吹の首を目掛けてスローで首元に近づく。
キンッ──伊吹はギリギリで刀を素手で弾いた。弾いたところが刀の刃ではなかったので血は出ていない。
「・・・ちっ、弾いたか」
「あぶねえ....な。なんて技・・・いや速さだ」
一瞬で伊吹の前まで行き首を切ろうとしたあの技「残虐/刹那」、一歩間違えれば伊吹は死んでいた。
「恨みで人はここまで強くなると・・・・そういうのか」
伊吹は感じていた。恨みで人が変わってしまった樹、その彼が目の前まで迫ったさっき樹は誰かと似た雰囲気をまとっていることに。
(あの死んだような瞳・・・そして驚異的な逸材能力....織田は・・・)
まるで「境川生」のようだと。伊吹はそう感じていた。
織田と境川は雰囲気が似ている。死んだような瞳をどちらもしている。
だが育った環境が違う。織田は一般、境川は無の部屋・・・どちらも交わることのない人生だったはず。
それでもこうも似たようになるとは想像もつかないことだろう。
(境川も何かしら失ったものがあるのかもしれないな・・・)
伊吹は知らなかった。無の部屋にいたころ、境川に色々としてくれたただ一人の女性の存在。それを失っているということを。
境川と樹は大切に思っていた人を失った悲しみを背負っている。だから二人は似ているのだ。
「伊吹・・・その反応力、さすがと言いたいな」
「ギリギリだったけどな。お前そこそ・・・成長しているじゃないか」
「これがシャルル様を失った恨みの力だ。そこをどけ、今ならまだ殺しはしない」
「さっきの技、どうみても俺を殺しに来ていたけどな」
ビュン──互いに移動し合う。
樹は刀を振るい伊吹はそれをかわして拳で樹に挑んでいる。
お互いの攻撃は当たらずかわしては攻撃を繰り返していた。
戦況はどちらも互角、そう思えていたのだが、キンと樹が刀を鞘にしまいこんだ時だった。
伊吹の拳をひらりと避けクルッとステップを踏みこんで鞘にしまわれた刀を思いっきり振りかざした。
ドゴン!!と刀は伊吹の背中に直撃をする。そのまま樹は振り抜け伊吹は奥の木まで吹き飛ばされた。
「がっ・・・!」
木に衝突をし伊吹はその場に倒れ込んだ。
「貴様はそこで倒れていろ。私は境川を殺す。もし次に邪魔をするのなら今度は容赦しない・・・」
そう言って樹は立ち去ってしまった。
トコトコと横から足音がする。
倒れている伊吹の前に女がしゃがみこんで伊吹を見ていた。
「──イツキに勝負を挑むなんて愚かなことをしたものね。でもいい勝負だったわよ」
しゃがみこんでいる女性はスカートを履いており、あと少しだけ位置が悪かったら色々危ない感じだった。
無自覚なのが怖いってところだ。
「・・・くそ・・・・が・・・・」
伊吹は相当なダメージを負っており、立つこともできなかった。
「しばらくはそこで倒れてなさい。救急車は呼んでありますから・・・それじゃ」
そう言ってアンジェリカはスッと立ち上がり樹の元に歩いて行った。
樹とアンジェリカが去って15分くらいたった後に救急車が到着して伊吹は近くの病院まで運ばれたのだった。
──伊吹との闘いが終わり二人は再び道を歩いている
「・・・なぜ救急車を呼んだ」
樹はアンジェリカにそう聞いた。
「なぜでしょうね。イツキの数少ない友人、そう見えたからかしら」
「私に友などいない」
樹はハッキリとそう言った。
「本当にそう思ってるの・・・?」
「ああ」
即答だった。
「だが、アンジェリカ。お前は別だ。それだけは理解しておけ」
その言葉にアンジェリカは少しだけホッとしたような顔をしていた。
樹が一人でないことに安心したのだ。
(・・・狙撃の逸材者でもイツキは止められないか。やっぱりイツキは強いのね)
刀を使った今時の技とは言えない樹の戦闘スタイル。それは剣殺しとも言える銃をも超えたスタイルだ。
遠くにいようが近くにいようが関係のない攻撃──そのスタイルに勝てるものはいないと言える感じだった。
(境川生でも何かしら武器がないとイツキに勝つことなんて・・・)
生身の拳で樹に勝つことは無理だろう。
だからといって樹に対抗できる武器があるとは思えない。もし可能性があるとするのなら同じ刀だけ・・・。
それでも可能性があるだけだ。何があろうと樹は負けることはないだろう。
それが復讐心に駆られた男、魔王と呼ばれた逸材者の力だからだ。
二人は歩き続け、再び東京を目指すのだった。




