残虐/天命
俺は食堂を出て廊下を歩いている。
時刻は昼で今は昼休みだ。学食で飯も食べたし後はチャイムが鳴るまで気の向くままどこかブラブラしているだけさ。
廊下を歩き俺はふと窓から校庭を眺める。
綺麗な地面、そして誰も外に人の気配はない。
(──魔王が来ればここも血の海となるのか・・・)
それだけは避けなければならない。樹は俺が止めなければならない運命なんだから。
(さあ、いつでも準備はできているぜ・・・)
──今日も樹とアンジェリカは相変わらず道をトコトコと歩いている。
刀は目立つため、袋にいれ持ち歩いている。
「明日の夜には東京に着くだろうな」
樹は歩きながらそう言った。
ここ最近樹はまともに食事を摂取していない。どこかで飢え死にするのではないかとアンジェリカは心配しているが樹本人が「大丈夫」と言っているため、アンジェリカもそれ以上は何も言っていない。
だけどアンジェリカの瞳は樹を心配している目だった。
「心配は無用だぞ、アンジェリカ。復讐を遂げるまで倒れやしない。この身体は恨みで強くなっているのだからな」
「・・・・・・」
そうは言っても何も飲まず食わずだといくら逸材者とはいえども死んでしまうはず。だというのに樹は今だピンピンしている。
それほどに境川が憎いのだろうか。
以前と変わらずトコトコと前を歩く樹、だけど樹の足がふと止まった。
目の前には一人の男が立っている。
黒い髪をした男、それはどこかみたことのある人物だった。
「──ほぉ、久しいな...."伊吹"」
伊吹龍だった。樹と同じくしてシャルルについていた逸材者の一人だ。
「ニュースを見てな。もしかしてとは思ったけどお前だったか。織田」
「なんだ?手助けにでも来たか」
ニヤリと樹は笑いそう言う。
「バカなことを──俺はシャルルに雇われただけ、奴が死んだ以上俺はもう自由なんだよ」
「どうして仇を討とうとしない?シャルル様の考えこそ、これからを生きていくために必要なことだろうに」
「逸材者の滅びこそ俺の望み、確かに最強の逸材を手にしたい彼奴からすればどのみち逸材者は殺していただろう。俺の考えとも一致してくれているな。だけど、それだけだ。考えが似ているだけで別段惹かれるものはなかったんだよ」
伊吹はハッキリと樹に対してそう返答した。
その言葉に樹は
「なるほど。なら邪魔しに来たということか?」
「どう解釈するはお前の自由だ。だけど関係の無い人々を巻き込むのはいささか許しがたいことだ。ちょっとは止めさせてもらうぜ」
「お前とは分かり合えないか」
樹は袋から刀を取り出す。
一方で伊吹は制服のポケットから銃を取り出した。
「──かつての仲間として織田、俺はお前を止める。それが俺のできる最後の手向けだからな」
「勝った気でいるか。面白い・・・銃で刀に勝てると思ってか?」
「ったり前だろ。死んだ人間に媚びているようじゃ俺には勝てないぜ織田」
「ッ・・・・!貴様」
樹は伊吹の挑発に引っかかり感情は表に出ていないが怒りを表しているのがすぐに理解できた。
彼の周りから放たれる禍々しいオーラ。それが樹が魔王と言われている正体なのだろう。
「私の生きがいを奪った境川を私は許さない・・・!!絶対にこの手で殺す・・・!!」
ダンッ!!と樹は伊吹を目掛けて走り出す。
チャキッと伊吹は銃を前に構える。
「人はいずれ死ぬものだ。逸材者としての運命。それはこういうことなのかもしれないな」
パァンと伊吹は引き金を引く。銃弾は樹の目の前を目掛けて飛んでいる。
チャキ、──キン!!
しかし樹は伊吹が放った弾丸を軽く真っ二つに切り裂いた。
「この程度か。お前も弱くなったものだな伊吹」
「たかが一発回避しただけだろ」
ヒュン──と樹の左右から何かが飛んでくる。
「む・・・!?」
弾丸だった。
「俺の逸材能力、忘れてないだろうな。織田・・・」
キン──キン──虚しくも伊吹の攻撃は真っ二つに切られてしまう。
「忘れてないさ。"狙撃の逸材"──どんな位置からでも狙える広範囲の射程距離・・・言わばお前に銃で挑めば勝ち目のない力だろう」
「覚えていたか」
ジャキジャキと銃をリロードしながら伊吹はそう言う。
「私の能力も忘れたわけではなからろう?」
樹の逸材、それはどんなものなのだろうか。
伊吹は決して余裕そうな顔をしていない。勝てるか怪しい感じの表情をしている。それほどに樹の逸材能力は危険なのだろうか。
「・・・・」
「少しだけ披露してやろう」
そう言って樹は一度刀を鞘に戻した。
「──追の剣...."残虐/天命"」
ザンッ!!ザンッ!
刀を思いっきり空を裂くように樹は振るった。
その瞬間、振るった剣先から剣風のようなものがフゥ...と飛び出てそのまま目にも止まらぬ早さで伊吹の方に飛んでいった。
「・・・!」
それにいち早く気づいた伊吹はパァンと銃で対抗するが、
パキっと銃弾は剣風により裂かれてしまった。
「なんだ・・・と」
パァン!!・・・伊吹の銃は手に持ったまま真っ二つに切り裂かれた。
これが樹の力、残虐/天命だ。刀だというのに遠距離攻撃を可能とした剣技。
樹がなぜ刀なのに銃に勝てるような顔をしているのかがここで理解できるものだった。
「銃は破壊させてもらった。・・・終わりだ伊吹ッ」
刀を一度鞘に収め再び技の構えをし樹は止めの体制に入っていた。




