不平等な世界
──織田樹は俺を狙いついに東京に向けて進行を進めている。
あと数日もすれば俺の元にやってくるに違いない。
正直なところ勝ち目は分からないが、他人を巻き込むその力は俺にとって脅威でしかない。一番の気になる点は、『大勢を巻き込む力が素手のはずが無い』という事だ。
恐らくだが樹の逸材は何らかの武器を使用していると俺は仮設している。リアと同じくしての武器使い。そうなると少々手厳しいところが俺には存在していた。
「………」
シャルルを慕いその復讐心で俺を狙う逸材者、殺す動機としては十分かもしれない。些細なことで人は事件をよく引き起こすからな。それは逸材者とて例外ではない。
「だけど何なんだ…」
脳裏に浮かぶのは復讐心以外の感情。樹にはシャルルを慕う以前に俺を殺す理由があるんじゃないかと少し思い始めていた。
そんなことを学園の食堂で俺は1人で考えていた。
棗や命は今回はいない。リアは家で待機なゆえに俺はボッチで存在している。
「──考え事か?」
ふと声がする。俺は顔を上げるとそこには会長が居た。
何だかこの出会い方はデジャブを感じる…。
「そうだったな。初めてお前と会った時もこんな感じだったかな」
メガネをクイッとやり会長はそう言う。
「懐かしいですね。そんな出会いでしたっけ?」
「ああ…。この学園の入学テストを満点で乗り切った猛者がいるということで伺ったんだよな」
「今じゃすっかり輪の中ですけどね」
「そうだな…だが、不思議と今の状況は嫌いではない」
会長はフッと笑いそう言う。
「お前はどうなんだ境川?」
「…俺は」
どうなんだろうか。現状満足はしているはずだ。元々俺は平穏に生きれれば他はどうでもいいと考えていた。命さえ守れればいいと思っていた立場たがらな。でもこれまでのことを通して考えは変わったかもしれない。守る者が増えたかもしれない。それでもその状況に俺は満足しているのか?
不思議と答えは出なかった。頭ではまとまっているのに言葉には表せない。逸材者として失格とも言える思考だったかも。だけど会長の出した質問は予想以上に俺を苦しめていた。
「──誰もがフルで満足した生活を送ることは出来やしない。世の中は理不尽で出来ているのだからな」
「・・・・」
「例え自分がいい思いをしないるとしよう。その対象で誰かは悪い思いをしいい思いをしてる人間を恨見倒す、それがこの現代だ」
全員が幸せだなんて言葉はおとぎ話に匹敵するレベルだと会長は言った。
「誰よりも一人間を慕い、ついていった人物がいるとしよう。ある男は平和と称しその慕っていた人間を殺した。そうすると、男は満足したとしても、相手側はその男を恨みこの世をい生きていくことだ」
会長の言いたい事、それはだんだんと俺は理解してきた。
「それって……まさか」
「お前の思うとおりだろうな。これは今現在この世で起きていること。とある逸材者が行っている現状に過ぎない」
織田樹──彼もまた、シャルルを慕い生きてきた人間だ。その人生を台無しにしたのは紛れもなく俺……なんだ。
「だが、人が人を恨むのは自然だ。多数の個性があるからこそ、人は争う。実質不可能なんだよ。皆平等に生きることなど」
「それでも俺は魔王の逸材者が行ってることはいいとは思いませんよ」
無関係の人々を殺すその残虐性、それは決して許される行為ではない。それだけは確かなんだ。
「俺を殺したいのなら、さっさと来いってんだ。俺はこの学園で奴を待っているんだからな」
「…あくまで待つだけか」
「できれば争いたくはないですからね」
話し合いでカタがつくとは思っていない。それでももうできれば争いたくはないな。樹を倒してもどうせまた新しい人物が現れるんだ。だったらここで止めておきたいよな。
「十中八九争うだろうな。それでお前は勝利する見込みはあるのかね?」
「どうでしょうね……いともたやすく行われるあの行為。それを見る限りでは難しいですかね」
「ハッキリいうか…」
会長は何かを想定していたことの質問が終わったのかクルリと後ろを向き「まあ頑張れよ」とだけいい去っていった。
「・・・織田……樹」
奴はこうしている間にもまた関係のな人々を巻き込んでるのだろうか。
俺は椅子から見える窓の外を眺めそう思うのだった。




