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逸材の生命  作者: 郁祈
第五章 復讐の魔王編
73/130

貫く意志

 魔王の逸材、織田樹(おだいつき)

 彼は境川を恨んでおり境川がいるとされる関東地方の東京を目掛けて足を進めていた。

 

 「・・・・・」


 今のご時世、移動手段には様々な方法が存在している。

 電車、新幹線、バス、車・・・このように遠くの移動に関しては活気的な形になっているのだが、樹は徒歩で東京に向かっていた。

 不可能ではないのだが、それでは時間がかかりすぎる。休憩を入れながらとしても遅くて4日くらいはかかるだろう。電車などを使えば数時間で着くのを樹はあえてこの方法で向かっているのだ。


 「イツキ、電車とか使わないわけ?」


 日の照らす中、アンジェリカは樹に対してそう聞いた。


 「──俺がそのような乗り物を使えば、向こうに悟られる危険性だってある。それに・・・」


 そう言って手元に持っている鞘を見る。

 

 「こいつ(・・・)がある異常、乗り物は乗れないだろうしな」


 樹の手にしている鞘にしまわれた刀。この時代では銃刀法違反となってしまうため、樹は公共機関に乗ることが許されていないのだ。


 「アンジェリカ。別にお前は電車を使っても構わないのだぞ?追って私は向かっているのだから、先に行っていても別段構わないが?」


 「遠慮しておくわ。貴方を1人にすると何をするか分からないんだかもの」


 「愚問な・・・私が襲われるとでも?」


 「違うわ、また昨夜みたいなことをするんじゃないかと思って」


 復讐心に駆られている樹は自分の行く手を阻むものは全て殺している。警察に悟られる危険性を避け、周辺にいる人々までも襲っているのだ。

 その度に樹は身体が赤く染まり果てる。幾度も幾度も帰り血を浴び、その死んだ瞳で無類の人々を切りつけている。

 アンジェリカにはその光景はひどく耐え難いものだったのだ。


 (人の復讐心は....恐ろしいわ.....早く終わって欲しいものだけど)


 そう願うも樹が境川に勝つ保証はない。いくら樹が強かろうと彼が尊敬しているシャルルを倒した存在、それだけで無理なんじゃないかとアンジェリカは思っている。

 しかし樹の瞳は遠くを見ており、勝ち負けなど考えてもいない様子だ。

 時々人とすれ違うが、樹はその人にすら目にかけてなく、ただテクテクと無心で歩いているだけだった。

 そんな時だった。

 

 ──ドン!!


 樹が目の前にいる小さな子供とぶつかった。


 「・・・!」


 その時樹は始めて目の前にいる存在に気がつく。


 「子供・・・か」


 「す、すみません」


 遠くから母親らしき人物が駆け足でこちらに向かってきてそう言ってくる。


 「・・・・・」


 樹は子供を上から見下ろしており、左手はチャキッと鞘から刀を抜こうとしている。


 「イツキ・・・!!何をッ・・・!!!」


 「この私にぶつかるとは・・・不注意もいいところだな。なにせ私は機嫌が悪い。許しを乞うても拒否ほかない」


 そして──ザシュッッ.....

 樹はやってしまった。目の前にいた親子二人をなんの躊躇(ちゅうと)もなく一瞬で殺してしまったのだ。


 「イツキ.....」


 「・・・・」


 もう樹は誰にも止められないのだろう。彼に近づくものは全て殺されてしまう。昔はあんな性格じゃなかったというのに。変わりすぎてしまったようだ。


 (ここまで来ると、私まで境川生が憎く思えてくるわね)


 彼をこのような憎悪に変えてしまったのは間違いなく境川の仕業だ。彼には罪はないが、間接的にはそういうことになってしまう。

 だけどそれと同時に今の樹を止められるのは境川を除いて他にはいない。つまり、樹を止める可能性のある人物はこれから樹が殺そうとしている相手だけなのだ。


 (私は──どちらを応援すればいいのかしらね)


 樹を救いたいと願いつつも、樹には負けてほしくはない。

 どちらも叶えようなんてことは傲慢にすぎない。だけど私はその二つを成さなければこの状況は収まらないと薄々感じ取っていたのだった。









 それからずーと歩き続けて気がつけば夜になっていた。

 

 「そろそろ休むか。アンジェリカ、お前は疲れただろう」


 そう言って樹は近くの茂みに入り寝れそうなところを探し出す。


 「何度も言うが、お前は普通に東京を目指してくれて構わん」


 「丁重にお断りするわ。心配なんだからね貴方が」


 昼間あったことを見る限り、明日も明後日もそれが起き続けてもおかしくはない。

 次は絶対にそんなことをさせないためにも私は樹についていかなければならないのだ。


 「そうか・・・ついてくるのは自由だが、私の邪魔だけはするなよ?」


 私の考えを見透かしたのか、樹はそう言ってきた。

 そして樹は寝れそうなところを見つけてくれた。

 昨日に比べると今回は屋根もなく上を見上げれば夜空が見える形の寝床だったが、これくらいは耐えてみせる。

 普段では体験できないことだし、意外と不満はなく、夜空を見て寝れるのは意外といいもんだった。


 「ねえ、樹・・・貴方、この復讐が終わったらどうするつもりなの?」


 寝そべりながら私は樹にそう問う。


 「学校?それともこのまま路頭に迷う?目的が終了したらどうするわけ」


 「・・・・」


 しかし樹は答えようとしない。あるいは答えがないのか。

 しばらく間が空き、ようやく樹は口を開きこう言った。


 「──私は・・・この復讐を終えたらシャルル様の後を継ぐ」


 「具体的に言うと?」


 「世界に進出し、シャルル様のやろうとしていたことを私が実行する。世界を支配し、我が支柱に収め世を安定へと導くのだ」


 スケールの大きいこと。しかしそれは本当にシャルルが行おうとしていたことだった。

 世界を手にする。言葉で表すのは大変簡単だが、実際に行うとなれば相当な年月を要することだろう。

 それでも樹はやり遂げる気なのだ。シャルルが成し遂げようよした理想を、貫き通そうと努力しているのだ。


 「それにはまず境川を始末しなければ始まらない。奴を殺したとき、私の人生はスタートするのだ」


 月夜に照らされながら樹は自分の考えを貫く意志を私に・・・・見せたのだった。

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