魔王の逸材者
──暗い一室、そこはホテルの宿ではなく、ただの洞窟のような空家だった。
電気は無く、ロウソクで照らされいる炎が唯一の灯り火となっている。
「ふぅ・・・」
そこに樹は居る。宿にも止まらず、ただこの暗いところで正座をし目を閉じているだけだ。
彼が思うことは一点に変わらず復讐心だけだった。
「境川・・・」
「相変わらずね、イツキ」
後ろから女性の声がする。この暗い空家に樹いがいの人物が存在していた。
女性は長くプラチナブロンドをした髪型に頭には青色のリボンが結ばれている。
「アンジェリカか。音もなく現れるやつよ」
アンジェリカと呼ばれる女性、音もなく樹の背後に立っている。
「どうかしたのか?」
「報告に来ただけよ」
「報告?」
「ええ。東──東京に境川生がいるとの目撃情報があるわ」
「東京か・・・ここからだと少し時間がかかるが、日本にいるのなら早いこと」
そう言って樹はスッと立ち上がる。
「今すぐにでも出発するぞ」
「待って」
アンジェリカは樹を止めた。
「あくまで噂かもしれないけど、境川生はあのMr.Kを倒したと聞いているわ。いくら貴方でも敵うかどうか・・・」
「Mr.K...日本に滞在していた最強とも謳われた逸材者か。奴が居たせいでシャルル様は思うように動けなかった。本来ならば俺が殺したかったところだが、今現在の目的は憎き境川のみ」
樹はチャキッと目の前に置かれている刀を手に取る。
鞘にしまわれており、このご時世には存在しなさそうな刀だった。
「──復讐心に駆られると人はここまで恐ろしいものに変えるのね」
アンジェリカは外を見る。そこには酷く無残にも殺されている人たちの死体の山。犯行はもちろん樹が行ったものだ。
これが樹の力、復讐心で変わってしまった樹の逸材・・・。
「運命、か。」
樹はどんどん変わっていくのだろう。それでもアンジェリカはそれに従いついていく。
この二人には腐れ縁のような何かがあるかのようにずっと行動を共にしているのだった。
「アンジェリカ・・・やはり出向くのは明日の朝にする」
「あら?急な変更ね」
樹は錆びてヒビの入っている窓から外を眺め、
「お前を無理させるつもりはない。休息は必要だ。このように場所は悪いところだが許せ」
これだ。復讐心だけかと思っている樹には仲間に対する思いだけは正常に動いているのだ。
樹はアンジェリカを大切に思っている。シャルルも同じだったのだろう。だからその人物が殺されたことに怒り、恨んでいるのだ。
「・・・そうさせてもらうわ。悪い場所とは思ってないわよ、とっても居心地のいいところよ」
「・・・・そうか」
魔王の逸材者、そう呼ばれているが彼の力は未知数。手に持っている刀を使うのかはたまた別の何かが存在するのか。
外にある無数の死体は何を意味しているのか。ただ単に樹の恨みの量を図る糧にしか見えないのだった。
「──兄様って強いよね」
夜、家でご飯を食べているとリアが突然そんなことを言い出してきた。
「確かに生は強いわよね。無の部屋で教育されてたにしてはちょっと度が過ぎるというかなんというか」
御神槌と比べても圧倒的に実力差がある。闘った命にはそれが感じ取れていた。
「急だな。俺が強いか・・・。それは客観的に見ればの話だ。主観、俺から見ればどうってことのない。当たり前をやっているだけだよ」
「キャラもクール系・・・・ますますリアの好みです」
「お前の好みを教えられても俺は反応に困るだけだ」
「でも生って何考えてるかわかりづらいわよね。もうちょっと感情だしてもいいんじゃない?」
俺の表情は常に暗いような感じがある。心の中では結構出しているつもりなのだが、やはり無の部屋で教育されたせいか感情が死んでしまっている。
「一応出しているつもりなんだけどな」
「同じ無の部屋からっても御神槌さんとは色々大違いよね」
向こうは俺より一年早く部屋を出ている。つまりは俺より早く才能を開花させた存在。脂質だけなら向こうが上なんじゃないかと。
だが、俺には無類の逸材能力が存在している。
「五感強化」や「時間跳躍」、そして今は使えないけど両目が使えるなら「既視感」最近だと「視線誘導」とか物を消す「消滅」の力を持っている。
あと奥の手だけど「極限の極致」が使える。まだ出してはいないけど結構俺のストックは存在しているんだ。
相手の動きを模倣してストックするルナの逸材とは違って俺は自分で磨き上げた力をストックしている。
だからまだ相手の動きを真似する相手などにも負けることはない。多分な。
身体能力は無の部屋で戦闘訓練とか色々やったから手にした肉体といってもいい。
もし相手に肉体強化系の逸材が合ったとしても多少は渡り合えるくらいの実力はあると思うんだが、アメリカであんな強い逸材者を見た以上、その考えも変わって行く気がするよ。
これまでに俺と似た逸材を持っているのは「千里眼」を持つ"有田院"、そして「順風耳」遠くの音を聞き取る耳をもつ「カトリック」、極限の極致・・・多分無効だと名称は違うと思うけど同じくしてリミットを外す力をもつ「アリス・フレアクレス」
この三人は俺が使用する能力を持っている逸材者だ。
全員に共通しているのは皆、生まれついての逸材者ということ。俺よりも早くその力に触れ、経験を積んできた猛者たちだ。
アリスとカトリックには苦戦を強いた。なんといってもアメリカの逸材者だからな。普通に強かった。
有田の野郎とは決着がついていないがなにせ向こうは力がない。卑劣な行為をして俺たちを苦しめた存在なだけ。もう会うことも会いたいとも思わねえな。
「でもリアの力も強いわよね」
命がふとそんなことを言う。
「リアって言っちゃえば時を止める力なんでしょ?そう考えると純粋に最強なんじゃ・・・」
確かに俺でも静止した世界で動く力は持ち合わせていない。
「うーん。私もよく分からないですけど、空間停止能力は時間停止って感覚なんですけど、止まった世界を持ってくるって感じなんです」
どういうこっちゃ。
「ほら、私よく刀を突然出すじゃないですか」
「ああ。アレか・・・」
気がついたらリアの手元には刀が握られている。始めて会った時もそうだったな。
「あれは止まった世界に刀を置いているんです。そこから取り出すから突然でてきたようにみえるって感じですかね」
「それじゃ任意で空間は止められないの?」
「やろうと思えばできるとは思う・・・です。でも・・・」
リアの顔は少し悲しげだった。
「恐怖、か」
「えっ・・??」
リアは一度その力を持って家族を殺している。停止能力、それは時間ではなくリアが願ったもの全て。
目の前の石だけ止まれと思えばそれだけが止まる。そして個人の生命を停止させることもリアの思いのまま・・・それがリアの力だ。
だが、家族を殺した恐怖は今もなおリアの心の奥底で残り続けている。その恐怖がある限り、リアは自分の逸材を最大限使うことはできないのだ。
「兄様の言うとおりです。私は逸材者として若すぎたんです。だから私は自分が逸材者であることに誇りなんて感じていない」
過去に色々背負ってきたリアは今も辛い思いをしている。
俺はポンとリアの頭に手を置く。
「気負う必要はない。リアはリアの思うようにすればいいんだよ。何があっても俺は死なないし裏切らない」
「兄様・・・」
「もう生はいつも無茶な発言ばかりするんだから」
命はやれやれと言わんばかりに微笑んでいる。
「守る気持ちは何よりも強い。俺はそう信じている」
「まあ否定はしないわよ」
そうだったな。この前聞いたけど命は一度リアを守るために御神槌と闘ったらしい。ハッキリ言って命に勝目はないが、意外にも御神槌と渡り合ったと聞いている。
結果は敗北だったけど未来を見るだけの命が御神槌と闘えたことに俺は驚いた。
(伊吹には感謝しとかないとな)
あの時命とリアを助けたのは伊吹らしい。敵だったアイツが俺たちを助けてくれた。一応感謝はしておくとするよ。
シャルル亡き今、彼奴はまだ俺たちを仕留めに来るかは知らないけど、もし次に闘うことがあるのなら少しは手加減してやるかな。
三人で話ながら食事を進めていく。
そんな時テレビの方から、
「──それでは次のニュースです。愛知県名古屋の方でまたもや殺人事件が行わてたようです。犯人は前回同様かと思われ警察は慎重に操作を進めています・・・」
「・・・・これは」
間違いなく奴だ。俺を狙っている人物、魔王の逸材者.....奴の犯行だ。
「兄様・・・」
「生・・・・」
二人は心配そうに俺を見つめてくる。
「大丈夫だ・・・。だけど....関係ない人々を巻き込んで・・・何の意味があるってんだよ」
学園でも学園長に言われた。俺がでなければどのくらいの犠牲が出ることかと。答えは簡単だった。今のように関係ない人が全て殺されていくだけ。
やつと出会ったが最後、ジ・エンドなんだ。
「・・・・・ッ」
そろそろ俺も覚悟を決めなきゃいけないみたいだな。
そう思ったとき、再びテレビから
「──っとただいまの新着情報によりますと、犯行を行った人物は東京に進んでいるとのこと、これが定かではありません。ですが東京に住んでいる方、そしてその周辺の地域の方は警戒をしておいてください」
思いもよらない情報だ。
「・・・こっちに来ているか、魔王さん」
出向く手間が省けるってもんだ。
来るなら来い!俺がたたきつぶしてやるよ。
俺はグッと拳を握り。そう思った。
【キャラ説明】
■織田 樹
性別:男
能力:???
説明:シャルルを心から尊敬し慕っている。だが境川に殺されたと知り恨みを持ち境川を狙っている。世間からは「魔王の逸材者」と呼ばれてる。
容姿:灰色の髪の毛
学校:???




