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逸材の生命  作者: 郁祈
第五章 復讐の魔王編
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平で和やかな...

 ──キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴る。


 「昼か・・・」


 「あら生、起きたの」


 「ん、まあな」


 隣にいる命に声をかけられる。俺は4時間ぶっ通しで寝てたみたいだな。


 「よーく寝るねえ生は」


 後ろから声がかかる。久々に聞いたな(なつめ)の声も。


 「眠いからな。本能に従ったまでだよ」


 「もう少しくらい抗う力持ちなさい」


 命は呆れたかのように「はぁ・・・」と溜息をついた。


 「生は学食行くか?」


 席を立った棗にそう聞かれる。


 「いや、俺は用事あるからな」


 「そっか・・・それじゃ後でな」


 そう言って棗は学食に向かった。


 「用事って?」


 棗が言った直後命に聞かれた。


 「学園長に呼ばれているんだ」





 それだけで納得する命もあれだともうが気にしたら負けなのかな。

 俺は階段を登って学園長室の前までやってくる。

 久々だなこの学園もこの部屋の前に立つのも。

 数ヶ月前のことなのにもうずーーーと前のことに感じてしまう。


 俺はコンコンと二回ノックをしてガチャリとドアを開けて学園長室に入った。


 「久しぶりだね」


 中で待っていたのは学園長の恋桜秋音(こいざくらしおん)だ。女みたいな名前をしてるが男でしかも小学生くらいの顔つきの大人だ。


 「お久しぶりですね学園長」


 「アメリカは楽しかったかい?」


 「まあそれなりに・・・楽しかったですよ」


 辛いことも沢山あったけど今思えばどれもいい記憶なのかもしれない。シャルルとの闘いはいいのかは判断に困るけど、あれも一つの運命だったんだ。受け入れるさ。


 「その割にはいい顔つきではないね」


 「生まれつきですから」


 「あちゃーそうきたか」

 

 学園長はハハハと笑っている。相変わらず豊かな人だ。

 

 「こうして呼ばれるのも久々ですしね」


 「そうだね昔はよく仕事を手伝ってもらっていたっけね」


 「生徒を扱き使う学園長もそうはいないでしょうね」


 「僕は常に常識から外れている存在だからね仕方ないよ」


 「自分でそういう人は大概(たいがい)常識人ですよ」


 「なら僕は常識人だ!」


 「そう言えば常識から外れていると思うのは侵害です」


 「ちぇ、面白くないねえ」


 学園長はブーブーと不満そうだった。

 

 「それで今回はどんなことで俺を呼び出したんですか?」


 「うわ。切り替え早いね」


 「昼休みは刻一刻と終わりに近づいていますので」


 「でも君授業中寝てるだけでしょ」


 言い返せなかった。実際その通りなのだから。


 「午後は真面目に受けますよ」


 「うっそだぁ~」


 「・・・・・」


 「わかったってそんなに睨まないで」


 学園長はコホンと一つ咳払いをして、


 「魔王の逸材者って存在はもう聞いてるよね」


 「ええ。今朝聞きました」


 「その逸材者は君を狙って今も活動を続けている。それは危険なことでもあり、同時に恐ろしいことでもあるんだ」


 「恐ろしいこと?」


 「無差別な人殺し、それはまだ小規模な地域だけだからいいとしても君がこの場所に居るとわかればすぐさまこちらにやってくるだろうね。その間にどれくらいの犠牲が出るか・・・」


 「遠まわしに俺がその魔王のところに出向けと言っているんですか?」


 「まあそうなるよね。君の気持ちは分かっているよ。でもこれは君自身が招いたことでもあるということは理解しているよね?」


 「アメリカでシャルルを殺した、それが魔王を目覚めさせる原因となった。復讐心に駆られる動機としては十分でしょうね」


 「その通り。つまり君を狙って魔王は殺戮(さつりく)に徹している。君が止めてないで誰が止めると思う?」


 「一学生に頼むことではないと思いますよ。そういうのは警察にでも任せておけばいい」


 「逸材者を警察に任せられると思うかな?」


 俺はアメリカで警察の動きを見ていた。シャルルとの闘い、それは決着がつくまで動かないというものだった。

 厄介事には手を出さない。それが警察のやり方だったのだ。


 「・・・・・」


 「分かっているだろ?もう君は動くしかないんだ。今すぐとは言わない。だけど答えは出してくれ」


 平穏な生活を手にしたかと思えばまたこうなるか。ここで魔王を倒したところでまた誰かが動くのだろう。

 平で和やかな世界を手にするのはやはり無理だというのだろうか。俺や逸材者がいる世の中では無理難題なのかもしれない。


 「ねえ学園長」


 「・・・?」


 「平和ってなんでしょうね」


 ふと漏れた俺の言葉。願っているのにも叶わない一つの願い。


 「それは・・・」


 学園長もすぐには答えられなかった。たとえ答えたとしても実行することは無理に等しいものなのだから。


 「俺は願っていますよ。今も・・・・これからも・・・」


 そう言って失礼しますと言って俺は学園長室を後にした。 





 どうしたら争いなんてなくせるのだろうか。どうしたら俺は闘わないで済むのだろうか。

 できるのなら教えて欲しい。誰しも争わないのならそれが一番いい。人間には相性が存在する。苦手な人とかが存在する。

 一人一人が個性を持つからこそ人は争う。それは逸材者も同じだ。全員が同じ逸材者なら争うことは無かっただろう。

 個人個人で力が違うかこそ、人は争っているんだ。誰もが知性だけなら闘う力なんて存在せず、意気揚々と世の中を過ごせただろう。

 

 叶えたい願いは──程遠く、手にするのも難しいものなのだ。

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