復讐のプロローグ
──愛知、某所....
ザーザーと雨が降りつける中、傘をささずしてその男は立っている。
男は雨で分かりづらかったが、瞳からは大きな涙が流れている。
「シャルル・・・・逝ったか......」
口からでた名前はちょっと前にアメリカで亡くなった「シャルル・ヴァン・シュトローゼ」という人物の名前。
「うっ・・・・く.....ああ・・・・・・」
男は嘆き、その場にしゃがみこみ苦しみ叫んだ。
地面に手を置きダン!ダン!!と右手で地面を叩きつける。
「許さない・・・・私は許さない・・・・」
その時から男は恨みに包まれる。
瞳からは光を失い。死んだような目と変わりゆく。灰色の髪の毛に死んだ目、それこそ今この場で誕生した男の姿だった。
「──境川...生・・・絶対に・・・お前だけはこの手で・・・・」
恨みによって憎悪に包まれた男、その名は
──織田 樹と呼ばれていた。
──俺が日本に帰ってきて数週間が経過している。
あいも変わらず俺は平穏に生活をしている。
「生、起きてるー?」
ノックをせずにガチャリとドアを開け命は入ってくる。
「兄様ーー!!おはようですー!」
ピョコっとしたからリアも出てきた。この二人・・・ノックくらいしてくれ。
「どうしたお前たち、悪いがノックくらいしたらどうだ」
「大丈夫よ、いるかどうかの状況は分かってるから」
「命の未来視は優秀です。ノックが不必要になるくらいに」
なるほど、そういうことか。命の逸材 それは未来を見る目だ。予め未来を見てからここに来たってことか。なんとも便利になったものだ。
「だが俺にも都合ってのがあるからな。やはりノックしたほうが・・・」
「「だが断る」」
リアと命は揃いも揃ってそう言った。
「この東雲命が最も好きな事のひとつは自分の主張を言う人に「NO」と断ってやる事よ」
「ただのゲスじゃねーか」
「冗談よ」
おーおー・・・ついには命が冗談を言うようになったよ。これも成長か。
「んで、何の用だよ」
「あーそうそう」
「兄様アメリカから帰ってきたばかりで知らないと思ったから教えに来たの」
「・・・・?」
「最近生は寝たっきりだったでしょ、明日から学校だとしてもそろそろ伝えておこうかなってね」
「通うところが緋鍵から恋桜に戻るってならこの前ちょっと聞いたが?」
学園の修理が終わったようで明日からは元通り俺と命は恋桜学園に戻るのだ。
元々緋鍵高校は一時期的なものだったのであまり思いれもないし俺たちは特に思うこともなかった。
「それはまあ、後で確認がてら言うつもりだったのだけど」
何かを言いたそうにしているが、命は歯切れ悪くして言い出してこない。
ようやく決心したかのように命は口をもう一度開いた。
「昨日、恋桜先輩から電話があったの」
「珍しいな」
「恋桜先輩はこう言っていたわ」
『──東雲か。まあいいどちらにせよお前たち二人に知らせることだ。・・・最近各地で不穏な動きが見られている。東西南北それぞれに渡って事件が相次いでいてな。逸材者が絡んでいると見てもおかしくはない。ああ、安心しろ。調査しろだなんて言わない。ただ、警戒はしていてくれ。その地域もいずれは何かしら起こるかも知れないからな』
「不穏な動き・・・ねえ」
「先輩は逸材者が関わっているって言ってたけどそんなに逸材者って日本にいるのかな」
「分からない。リアみたいに外国から日本にきているケースもあるし、そんなところだろうよ」
各地で不穏な動き、気にはなるが所詮は騒ぎを起こすだけのこと。殺人事件とかならまだしもどうせしょうもないことに決まってる。
「一応伝えたわよ。生も注意してよね」
「大丈夫です。何があってもリアは兄様を守るからーー!!」
リアはいつも元気いっぱいだった。まだ俺たちよりも若いからか。元気な奴だ。
「ありがとうな命、まあ警戒はしておくよ」
次の日、
「あー学校か・・・・久々で面倒だな」
登校中俺は命と歩きながらそう言った。
「もーシャキっとしてよ」
「久々過ぎてな。いやこの生活が嫌なわけじゃねえよ。ただなぁ・・・」
ちょっとだけリアが羨ましく思うよ。
彼女は学校にも通うことができないので俺の家で留守番している。彼奴家で一人の時何してるんだろうな。
「うぅ・・・11月は流石に冷えるわね。生は寒くないの?」
「ん・・・丁度いいくらいかな。なんだ寒いのか?」
「ちょっとね・・・あっ、でもこうすれば」
命はギュッと俺に抱きついてくる。
「おま・・・」
「こうすれば暖かいわ」
やれやれ、ルナといい女はよく抱きついてくることだ。悪い気はしないんだけど。
「──朝からお盛んなことだ」
後ろから声がする。
「会長・・・」
「久しぶりだな、境川」
メガネをクイッと上げ、そう言う。久々に見た気がするよ、その仕草。
「アメリカでは随分と苦戦をしいたようだな。だがそれも一つの経験だろう」
「・・・少し手こずっただけですよ」
ルナがいなければ勝てない相手だったけど、今思えばアリスやフェン・・・そんな奴らの足止めがなければもう少し簡単に勝てたのかもしれないな。
「それほど世界は広いってことだ。日本では最強の部類に入るかもしれない。だが世界でみればお前みたいな奴は沢山いるということだ」
「Mr.Kは最強だったんだろ。なら俺はそれを倒したんだから実質最強は俺なんじゃねーか?」
最強に拘りはなかったけど筋を通すならそれが正しいと思う。
「まだ"名乗りを"上げていない逸材者もいるってことだ。お前だって実際は名乗りをあげてない存在だっただろ」
その通りだった。俺は逸材者であることを名乗ってもいない。だがただMr.Kを倒した存在として、この世の中に知られているだけなのだ。それも極小数に。
「最近西のほうが騒がしい。もしかしたらお前より強い奴が暴れているのかもしれん」
「興味がないな。西のことに俺が関係あるとでも」
「ああ。あるさ」
会長は強くそう言った。
「西の連中が何をしていると思う?」
「興味ないといったはずだぜ」
「・・・そうだったな。なら教えてやろう。西──主に愛知周辺だ。恨みに駆られた逸材者が無差別に人を殺しているとのことだ」
「ッ・・・」
「しょ、生・・・」
俺と命はその言葉に旋律が走る。
無差別に殺す逸材者・・・。
「世間からはその人物は恐れられいつの日かこう呼ぶようになった」
──"魔王の逸材者"と。
「復讐心に駆られた魔王の逸材者は愛知周辺に存在する逸材者及び民を殺している。偶然にも生き延びた奴の情報によるとそいつはアメリカに尊敬している人物がいたらしい」
アメリカという言葉に俺は全てが納得いった。
「もうわかっているだろう境川」
「ああ」
魔王の逸材者、それはシャルルのことを尊敬している人物だ。つまり奴が誰に復讐心を向けているか瞬時に理解できたよ。
「狙いは──俺、か」
「その通りだ。魔王の逸材者はいずれこの地にもやってくるだろう。だが、お前だけで勝てるほどこれからの闘いは甘くはない。気をつけろよ」
そういい会長はスタスタと歩き去ってしまった。
「生....」
「大丈夫だ命。俺は負けないよ」
「でも・・・」
「魔王だか知らないけど復讐で倒せるほど俺は甘くはない」
どんな能力かは定かではない。だがアメリカで俺は色々学んだ。
待っているぜ魔王の逸材者。俺は逃げやしない。
「ただ・・・無差別に人を殺すやつは許しはしないな」
──新たな闘いは復讐によって幕を開くのだった・・・・ッ。
今まで名を伏せてきた逸材者、それはどんな力を要するのかは分からない。シャルルのように炎を使うのかそれとも別の力を持っているのか。
世間で付けられたあだ名「魔王の逸材」その力はどんな恐ろしいものなのかは俺には想像することもできない。
「無関係の人々を巻き込む力、それが彼奴の力だとするのならそんなやつに負けられるかよ」
俺は空を見上げそう思った。
「境川.....境川ッ・・・・境川ァァアァァ!!!!」
赤く染まった地面にたち男は叫んだ。
「許さない。お前は今もなおこの日本でヘラヘラと生きているに違いない。シャルル様を殺しなお生きるやつはもはや呼吸する価値もない」
ザシュッ・・・ザシュッと男は死体を切り裂く。
その度に血が男にブシャアァとおい被さる。
コロコロと男の足元に生首が転がってくる。
ブシュ...男は右足でそれを潰した。
「境川、貴様はどこで生きている。貴様が来ないのならこちらが出向くまで....待っていろ境川ァァア!!!」
そう言って男は暗い闇の中に消えていった。
第五章に入りました。
アメリカから舞台が変わり日本に帰ってきましたね。次は復讐心に駆られた男の物語、ここからどうなっていくのか・・・




