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逸材の生命  作者: 郁祈
第四章 アメリカの才女編
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アメリカの「エピローグ」

 ──シャルルとの闘いから3日が過ぎた。

 俺は今だアメリカに居る。なぜかというと飛行機の予定が明日だからだ。

 それまで俺はルナの実家にお世話になっている。とは言ってもここ数日俺はずっと部屋にこもりっぱなしだけどな。

 あの闘いはルナも俺も相当な疲労を強いた。だから数時間休むだけでは足りなかったのだ。

 かというがルナはバタバタと忙しそうにしているけどな。頑張り屋さんだなと俺は少しだけ感心する。


 「・・・明日には日本に帰るか」


 それは俺にとって当たり前のことである。

 だけど同時に"別れ"が存在する。

 

 ルナ。彼女はシャルルを倒すために俺を求めて日本にやって来た。つまりシャルルを倒した今、ルナは日本に帰ることはない。

 彼女はこのアメリカに残るのだ。

 俺はそれだけが心残りだった。

 別に恋愛感情とかではない。現に俺は命が好きだ。でもルナは一度俺に告白をしてきている。それは諦めがついたのかも定かではない。

 色々とやり残したことがあるんじゃないかと思い始めているくらいだ。


 ──コンコン、

 

 そんな時ドアのノックする音が聞こえた。


 「生?入るわよ」


 噂をすればだ。私服姿のルナが入ってくる。

 いつもどおり金色の髪型で三つ編み込をしたその小さき身体は輝いているように見える。

 

 「どうした?」


 「ほら生....明日帰るじゃない?だからさ....その....ね」


 ルナにしてはハキハキとせず顔を赤くして下を向きながら何かをボソボソと言っている。

 

 「言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ。聞こえないぞ?」


 「──そ、そうね....」


 納得はするが声は大きくならない。

 だが、次の瞬間


 ドンとルナは俺の身体を押し倒す。

 後ろは丁度ベッドなため身体にダメージはない。

 しかしこの状況はいささか困惑するものがある。目の前にはルナが俺を押し倒している。

 そして両手で退路を塞がれているため動こうにも動けないといった状況だ。


 「る、ルナ・・・・?ほんとにどうした」


 「私 以前 生に告白したわよね。生の気持ちはわかっている。でもやっぱり諦められないの」


 近くでルナを感じているせいか。息が俺に当たる。ルナが緊張してるのがスグに伝わった。


 「色々考えた。諦めようとも思った。それでも無理だった。だから一度だけ・・・」


 ルナはそう言って俺に──ギュッと抱きついてきた。




 「あぁ~ずーっとこうしてたいくらい」


 ギューッとルナは力を強くして俺に抱きついてくる。


 「ルナ....苦しい」


 「あ、あと5分!!」


 「そう言ってかれこれ2時間だぞ・・・」


 よくもまあ2時間も俺に抱きついてられるよ。飽きないか普通。


 「あ、飽きないわよ!!だって好きな人なのよ。普通飽きないわよ」


 一度好きってことを打ち明けると女って怖いね。俺学んだわ。命もそうだけど一度許すと取り返しつかなくなる気がする。

 脳裏に一瞬リアもなんじゃないかと思ったが彼奴は元々こんな感じだったわな。

 ん・・・もしかしてルナは羨ましかったのか。リアがこうしてきたことに対して・・・。


 「そ、そんなわけ・・・・ななななななくもないわ」


 あるんかい。

 そこ動揺するところかよ。と俺は心の中で突っ込んでおく。

 

 「このまま生を抱き枕にしたいわね」

 

 「御免こうむるわ」


 「スゥスゥ」


 「あれ?寝たか」


 「・・・・・」


 どうやら冗談抜きで寝てしまったみたいだ。

 まあ実際疲れてるもんな。あんな闘いの後だってのに平然と家のこととか国のこととかで動きっぱなしだったみたいだし。

 

 「お疲れ様だ・・・ルナ」


 寝ているルナを起こさないように俺はルナの髪をそっと優しく撫でた。


 「ん・・・・生.....大好き.....」


 寝言でも俺に対してそう言うか。全くこいつ(ルナ)には敵わないな。

 こんなに可愛い寝顔をしていても逸材者なんだよな。しかも能力は他者の動きを真似る「模倣」

 見かけによらずとはまさにこのことだな。シャルルとの闘いでルナは「俺」と「伊吹」の動きは再現できていたからな。恐ろしいぜ。

 何があってもアメリカとは敵対したくないものだな。まあ日本は戦争とかしないからそこらへんは安心なんだけど。


 「アメリカの才女・・・か」


 人生とは理不尽なことばかりだ。たった一人の少女のここまで気負わせるのだから。

 もし俺が同じ立場だったら俺は生きてはいけなかっただろう。無の部屋に連行されて強くなったが俺には感情が表に出ないようになってしまった。

 よくそれで勘違いされることが多いが、俺だって色々思うし考えたりする。平穏に過ごしたいと願い、行動しても理不尽にも俺は争いに巻き込まれる。

 自分の意思など尊重されるわけでもない。運命に従う。それが俺の生き方となってきている。

 ルナは俺の大切な家族だった。時間は短かったけど共に生活をしてそう思えたのだ。リアだって命だって大切な家族だ。

 こいつらだけは守ると俺は誓った。過去に守れないものがあったからこそ、この誓いは決して裏切ることはない。

 俺の生きる理由はそれだけ。

 もし、命やルナ、リアを失えば俺は悲しみに苦しみ、自害でもするだろう。

 彼女たちはそれほどまでに俺にとってかけがえのない存在となっている。


 「平和な世の中・・・・どうしたらできるのだろうか」


 平らで和やかな世界、それが「平和」

 それを願う者は少なくはない。世界で見ても沢山の人々がそう思っているだろう。

 だが、なぜそれが実現しないか。答えは簡単だ。誰もが願うからこそ叶わないのだ。一人の考えで動いたとしてもまた違う誰かの考えが別のところで動いている。

 その二つの考えがぶつかれば争いが生まれる。それは連鎖のように止まらず繰り返されるのみ。


 「俺の考えば逃げているだけなのかもしれないな」


 平和を掴み取りたいのなら俺が動くのが一番早い。だが、平穏を求めるがゆえに俺は動くことをしない。

 それどころか他人任せなところが多々ある。

 目立つことを嫌い俺は誰かを動かし実行するだけ。

 幸い俺は無の部屋から出たイレギュラーな逸材者。世間でも名は知れてはいないだろう。ごく一部は俺がMr.Kを倒したことで存在を知ったものがいるみたいだが、それは小規模だろう。そう信じたい。

 


 「──生......無理はしないで.....ね」


 「ッ・・・・」


 寝言だ。でもルナは心の中で俺をとても心配をしている。好いているからこそ失いたくないのだろう。

 俺が命を想う気持ちと何ら変わりのない思考。


 (俺は幸せ者だな・・・・全くよ)


 自覚はなかった。ましてや俺を好きになるやつなんていないと思っていた。

 正直言って俺を好きになった奴はどうかしているんだろうと思うくらいだからな。

 命にルナ、恋愛とは別にリアも皆俺を好いてくれてる。こんな感情を出さない人間に惹かれているんだ。

 

 「女はわからねえな。・・・どこで惹かれるんだか想像もつかない」


 俺はルナの頭をん撫で続けながらそう言った。

 もちろん独り言だ。

 この先も俺はこうして生きていくのだろうよ。









 

 ──ロサンゼルス空港

 そこは人がガヤガヤと沢山いる。


 「行っちゃうのね・・・」


 ルナは悲しい瞳をしている。


 「悪いが俺もそろそろ帰らないとな」


 帰りを待つものがいる。俺はそいつらにところに行かなければならない。


 「止めるか?」


 「ううん。止めはしない。悲しいけどまた必ず会えると信じているから」


 「そうか」


 俺はコツコツとルナの方に歩いてしゃがみ。


 「───」


 「ッ・・・!」


 「じゃあな」


 そう言って俺は手を振り飛行機の方に歩いて行った。





 

 「ルナ様。よかったのですか?境川様を行かせて」


 近くにいた執事がそう言ってくる。


 「いいのよ。また会おうと思えばいつでも会えるし」


 「しかしルナ様。貴方はアメリカを守るため、これからも予定は・・・」


 「わかってるわ。でも生は言ったもの」


 別れ際に生はこう言った。


『Don't need to say good bye, O.K.?』


 ──「さよならはいらないよね?」そう言ったのだ。

 それはこれから先絶対にあう保証があるといっても過言ではない言葉だ。

 何年先かは分からない。それでも生は必ず会いに来てくれる。もし来なかったとしても生は私が行くのを待っているんだ。

 今生の別れではなく、これは一時の別行動。私はアメリカで生は日本できっと逸材者として活躍するんだ。

 まあでも表に出ないのが生のプライドなら意地でも私は出させてみせるけど。

 

 (命やリアによろしくね・・・・生)


 あの二人がとても羨ましく思える。でも羨ましく思っていては前には進めない。どうやって会いにいくかをこれから先のことをもう今から決めておく必要がある。

 

 「楽しみに待っているわ。生・・・!」






 ──ゴォォォと飛行機は空を飛んでいる。


 「待っているぜルナ。家族として俺は待っている・・・お前の"帰り"をな」


 こうしてアメリカでの死闘は終わりを告げる。

 世界を跨いだ大きな闘い。だがそれは報道すらされることないひっそりとした事件の一つに過ぎないのだ。

 それが逸材者としての定めなのかは分からない。だが、これで終わりではない。まだ世界は広く、また日本列島でも事件は例外ではないのだから。 

アメリカの才女編 ついに簡潔です。

他の章に比べるとちょっと長い感じでしたが、楽しめたでしょうか?

引き続き逸材の生命をよろしくお願いします

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