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逸材の生命  作者: 郁祈
第四章 アメリカの才女編
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命に過ぎたる宝なし

 「──日本の逸材者、判明しているものだけピックアップしてくれ」


 会長は突然そのようなことを言い出した。


 「その意図...申し訳ありませんが私には分かりえないです。会長」


 「そうだろうな・・・だがこれは極めて必須事項だ、境川たちが今現在転校先の高校、そこに逸材者がいないとは限らない」


 校内を荒らす行為、それは通常の事件や揉め事ではないということと推測できる。

 逸材者が絡むからこそ、それは決して普通ではない。異例とは言い難いが異常というのが正しいことだ。


 「少々お時間を」


 愛桜はそう言ってタッタッタと走り去っていった。










 ──アメリカでは、

 ドォォォォンと大きな音が立っており、ライブラリータワー最上階は大きな炎に包まれていた。

 それはシャルルが境川とルナに対して放った一撃であり、止めにふさわしい威力だった。


 「よもやこの火の海だ。生きることは愚か死体すら残せまい」


 (──もし生きているとするのなら、可能性は低いが....)


 シャルルの頭の中に一つの回避方法が思い浮かぶ。しかしそれは決して「絶対」という可能性を持った方法ではない。どちらかといえば可能性の低い方法だ。


 ──コツン、

 石が地面に当たる音がする。


 「・・・生きてたか。悪運が強いのか悪あがきが過ぎるのか...どちらにせよ、悪いことだな。境川、ルナ」


 煙が消え、二人の姿が現わになる。

 シャルルが放った超火力の点火攻撃を二人は動かずして無傷で抑えていた。

 

 「はあ・・・はあ・・・はあ・・・ルナ、大丈夫か」


 「ええ、なんとかね。生はもう・・・ダメみたいね。体力が限界って顔してるわ」


 「バカ言え、まだ動けるさ。なめんなよ」


 「フフ、頼もしいこと。でも意地張るのもそこまでよ。私だって限界。貴方も限界。これは参ってる状況なのだから」


 境川もルナも二人揃って体力の限界が来ている。境川は元々動き回っていたりして体力が普通に限界を迎えている。

 反対にルナは一気に逸材者の動きを真似していた故に大きく体力を消耗してしまったのだ。

 形成は変わりシャルルが優勢となった今の立場、ピンチに追い詰められたのは二人の方になったのだ。」


 「Hun.体力切れ、か。なんとも無様な決着よ。だがそれも一つの未来、耐えたようだが、どちらにせよこの勝負、俺の勝ちなわけだ」


 スッと手を再び前に出す。


 「なんだ、覇気が感じないぞシャルル。もしかして"手加減"してるのか?」


 「境川生・・・当たり前だろ。今のお前たちに本気を出したところでだ。これくらいの火力で葬れるわ」


 シャルルの言葉に境川は目を強めてこう言った。


 「お前、この闘いが終わったらどうするつもりだ──最強の逸材者と名乗るのか──世界を支配するのか」


 「貴様・・・」


 強く言い放つ境川、そして片目だけの境川はシャルルの顔を睨みつけ


 「全力で来い、これがアンタのクライマックスだ!!」


 そう言った。


 「く・・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおああああ!!!!!!!」


 シャルルは突然叫びだす。

 地面が震えているかのようにブルブルと振動が伝わる。

 紛れもなくシャルルの本気が伺える。

 

 ──パチン!!!


 大きな音と共にドォォォンン!!!とこれまで以上に大きい爆発が境川たちを襲う。


 「終わりだ!!!」


 「・・・まだよ!」


 爆発の中からルナの叫ぶ声が聞こえる。


 シュゴォッォと熱い炎の中、ルナは


 「──I can't lose!(負けない!!)これがラストチャンスよ!」


 光のオーラを纏って最後の抵抗とばかりに模倣した「消滅」の力を使って正面のところだけを消し去った。

 消す範囲を一点に絞ることで、僅かな力で消滅が使えるのだ。


 「(しょう)!!」


 「ったく・・・仕方ねえか」


 境川は頭をかき、首をボキボキと左右に鳴らす。

 そしてタッタッタと残されたホント僅かな体力でシャルルの元にめがけて走り出す。


 「──命に過ぎたる!!そこに宝なし!!」


 ダン!!と大きく踏み込んで跳躍をする。


 「くっ、これしき燃やして・・・」


 「遅い!!!」


 空中からの全力の一撃がシャルルの右腕に命中する。

 ザンッと無残な音と共にシャルルの右腕は大きく吹き飛んだ。


 「が・・・」


 「これで・・・・終わりだ!!!」


 着地した境川はクルッと振り返りシャルルのお腹をめがけて拳を当てる。

 そして


 「喰らいな!」


 ドンッとボールを押すかのような力でシャルルのお腹に攻撃した。


 「くっ・・・・」


 ドン、とシャルルは壁際まで吹き飛ばされる。


 「クックック・・・・よ、よもや・・・我が一撃を掻い潜るとはな。いやはめられたか」


 「・・・そうでもない。俺もルナも賭けだったんだ。成功するかは予測できないレベルのな」


 「・・・運は貴様らに味方したか。どうやら俺はここまでのようだな」


 フワとシャルルの身体が後ろに倒れる。


 「ッ!!シャルル!!」


 境川が叫ぶも間に合わず、シャルルはそのままタワー最上階から落ちていった。

 その速度は早く、境川とルナが壁際にたどり着く頃にはシャルルの姿は見えなかった。

 千里眼を使って確認はしたかったが、体力の限界でそれどころではなかった。


 「まさか・・・こんな終わり方とは」


 「・・・・ッ」


 ルナの表情は倒せてホッとした顔ではなかった。

 シャルルを倒したいという気持ちはあった。だが、このような結末はルナ自身望んでいなかったはずだ。

 

 「いいのよ生....あの人がやってきたことは少なからずこうなってもいいという覚悟の元だった。悪いことをした人はバツを受けなければならない。シャルルはそれに従ったまでよ」


 「ルナ・・・」


 ルナはそうは言っていたが、目元から涙が溢れているように見えた。






 ──ほどなくしてアメリカの警察たちが駆けつけてきた。

 あれほど大きな音がしたのに来なかったということはそこらへんは警察なのだろう。


 (厄介事は片付くまで放置、か)


 俺とルナが1階に降りてくることにはシャルルの落ちたところは片付けられており、その死に顔は見ることができなかった。

 だが、これでいい。これ以上ルナの気持ちを悲しくすることは俺にとってもいいことでない。

 

 「これで終わったのよね」


 突然にルナがそう言う。


 「ああ。終わったんだよ。家族を失うことにはなったが、これが結末だ」


 「ありがとうね生。感謝しているわ」


 「バカ言え。なんだかんだ言ってここまで来たのは俺の意思...ルナ?」


 隣にいるルナがフッと身体が前に倒れていく。

 俺はギリギリでルナを支える。

 心臓は動いているし呼吸もしている。よかった死んではいない。


 「全くヒヤヒヤさせやがる」


 俺は少しだけ微笑みそう言った。





 点火の逸材者、シャルル・ヴァン・シュトローゼ ここに死亡が確認される。 

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