望むなら
「──境川....まさか同じ地に立つことになるとはな」
本来ならさっきの炎で仕留められたからこそ、シャルルはそう言ったのだ。
「ようやく同じ地に立ったんだ。もう少し愛想よくしてもいいんじゃないか」
「死んだような奴が何を言っている」
俺の左目はまず光を失っているし、右目なんて生きたように感じやしない。それは客観的にみても同じことだ。
しかしあれほど遠距離攻撃を得意としているシャルルがここまで焦っていないことに俺は少しだけ不安を抱く。
(あの余裕そうな顔・・・何かあるな)
シャルルからは謎に満ちた何かを感じる。それのおかけで俺はこの場から一歩も動くことができない状態だった。
「どうした?こないのか」
指で来いよとシャルルは俺にそういう仕草をする。
絶対的な余裕だ。
生憎俺には遠距離技は持ち合わせていない。今はルナから受け継いでいるオーラが盾となっているが、これだって無限なわけではない。
ここに上がってくるまでに少なからずオーラに蓄積ダメージがある。だからこれ以上無理をするとオーラが割れ俺にダメージが通ってしまう。
シャルルの点火の力の威力はもう嫌というほど見ており分かっている。あれをまともに喰らえば一瞬で俺は消え去るだろう。
「来ないのか・・・」
シャルルは少し悲しそうな表情をした。
何かやりたかったことでもあるのだろうか。
「だが、許容範囲なことだ。そっちが来ないのならこの距離から当てるまで...」
スッと指を前にだし炎を出す体制に入る。
この距離・・・100メートルくらい離れたこの距離からシャルルは狙ってくる。
高層の最上階から地上までを狙う奴だ、この距離くらいどうってことないのだろう。そしてあの超離れた距離でも放ってからラグもなく的に命中している、そこから察するにこの距離だと回避するのも不可能に近いことになる。
(アメリカの逸材者はどいつもこいつも面倒な力持ちやがって)
──パチン、
その音が響いた。
俺はサッと両手を前に出し防御体制に入る。
入った瞬間、ボォ!!と俺の身体は燃え盛る。
だが、俺にはルナのオーラがある。ある程度は防げるはずだ。
「防げるとそう思っているな?」
シャルルは俺の心を見透かしたかのような言葉をかけてくる。
「俺の点火は距離が近ければ近いほど火力が増す。もっと近づけばそのオーラがなんぞ一瞬で塵にできたんだがな。悔しいがこの距離で妥協点だ」
ピキ、・・・・パキ・・・・
(ッ・・・オーラにヒビが・・・!)
「終わりだ!!!死ね!!境川!!!」
──ドゴーーーーーーーン......
タッタッタとルナは階段を駆け上がる。
生はジャンプで上まで行ったけど私にはそんな芸当はできない。あの動きは模倣できない動きだった。
だから走って私は生の元に向かっている。
「はあ・・はあ・・はあ・・・」
半分よりちょっと上に来たあたりか。私は体力が限界に到達していた。
ドゴーーーン
「ッ!!」
突然鳴り響く強大な音に私はゾッとする。
今の音はシャルルによる爆発音だ。
「生!!!」
残りのところを急いで駆け上がり屋上に出た。
「おや・・・ルナ。丁度いいところに来たな」
シャルルの先には大きな火柱が存在している。
そこには尚未だに燃え盛っている生の姿があった。
「──が・・・・く・・・・」
生はまだ辛うじてオーラが残っている。だからまだ塵にはなっていない。でもあの様子だともう時間がないのが一瞬で理解できた。
「クックック・・・見ているがいいルナ。俺は今を持って『最強の逸材者』となるのだ」
両手を大きく上げてシャルルは笑う。
このままじゃ生が死んじゃう・・・。もうオーラを纏わせることはできない。
あれができたのは奇跡に近い。それに今の生は燃え続いている。そんな彼に近づくことすらできない状態だ。
(──でも私は・・・助けるんだ)
何を血迷ったのか私はシャルルを超えて生の元へ走る。
(死なんて恐れない。生を助ける・・・それだけよ)
「驚いた行動だ、だが、やらせるか」
パチンと指を鳴らす。
小さい炎が私の足にボォ!と一瞬燃え、爆発した。
「きゃ!」
片足の軸をくるわされその場で倒れる。
「所詮は弱き女。逸材者でありながらその力が使えていないお前は必要ない。ここで死ね」
二人まとめて倒す気でいるシャルルは最後の一撃として再び指を前に出す。
パチンという音が鳴りシャルルの手から炎が飛び出す。
死ぬ前は世界が遅く見えるというがそれなのか、一瞬で燃えるはずの炎の描く移動先がよくみえた。
そしてその炎はやがて私の目の前まで来る。
(生・・・ごめん・・・・!!)
目をつむり私は覚悟を決めた。
──ボシュゥゥッゥ・・・!!
目の前からそんな音がして私は恐る恐る目を開けた。
驚くことにそこにはさっきまで存在していた『炎』が消えていた。
「──諦めるなよルナ」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。
「馬鹿な・・・・貴様ッ」
後ろを振り返るとそこには左目を失い見るだけで心が高鳴る人物、境川生が立っていた。
「生ッ!!!」
「境川──生きていただと。あの炎で生きていることはできないはずだ」
「あまり俺を舐めないほうがいいぜシャルル。紛れもなく今お前が相手しているのは逸材者の中でもイレギュラーな存在だぜ」
俺は一歩前にでる。そしてルナと並んだ。
ポンとルナの肩に俺は優しく手を置く。
「生?」
「ルナ。一緒に闘ってくれるか?」
「何をいって・・・・ッ!!」
ルナは途中で俺の言葉の意味を理解した。
そう、これは賭けだ。シャルルに勝つにはもはやこれしかない。
「──分かったわ。生が望むならやる」
「頼むぜ・・・」
「何を話していやがる」
シャルルの言葉は無視をしてルナはゆっくり目を閉じる。
精神が集中しているのがわかった。わずか1秒足らずだったが、ルナは準備ができたらしい。
さっきまで優しいオーラを放っていたルナが一瞬で冷たいオーラに変化する。
「これは・・・!!」
「──ふぅ....」
ルナは一息つく。その言葉だけでこの場に旋律が走った。
俺が頼んだことそれは
──俺自身の模倣だった。




