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逸材の生命  作者: 郁祈
第四章 アメリカの才女編
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憧れるのはもうやめる

 『もし今のお前に憧れがあるのなら、それは無駄な感情だ。切り捨てろ』


 ──生は私に向かってそう言った。

 それはどんな意味なのかはすぐに理解できた。私の逸材それは『模倣』。

 他人の動きを見て再現する。言わば真似事だ。

 物覚えのいい知略型の逸材者である私にはお似合いの才能だ。でも再現には私自身ができると判断しなければできやしない。

 再現するにあたって不必要な感情──それは紛れもなく「憧れ」だ。

 真似たいと思いつつも心のどこか奥底で真似たくないと思うから再現できない。

 私が教えてもらったMr.Kの闘い方。それと同時に私は彼に対し憧れを抱いている。私なんかが再現してはダメだ。私が再現したら一層に弱く見えるんじゃないかと思ってしまう。

 憧れた人物の動きを真似ることはとても難しい。心の整理がついていないからこそ私は弱かった。

 

 (最初はどんなに教え込まれても再現できなかったっけなぁ)

 

 物覚えがどんなによくても実際逸材者の動きを真似ることはできやしない。だからこそMr.Kだって闘いの動きだけで技などは教えなかった。


 (でも今でも完全に再現できない理由はもうわかっているの)


 僅かなズレがまだ存在する。その理由は明らかに憧れだ。


 (再現したいと思いつつも 心の底では憧れの存在でいて欲しいからこそ真似ができない)


 生は言った。私に憧れを捨てろと。それは簡単なことではない。私の憧れた人物は過去と現在で二人。

 一人は「Mr.K」だ。私が過去に憧れを抱いた人物。この人がいなかったら今の私は存在していなかっただろう。

 そして二人目、それは今現在目の前にいるとっても好きな男の人・・・「境川生」だ。

 この二人に私は憧れている。それを捨てるということはもう生とKに対しては憧れを抱かなくなるということだ。

 私にとっての足枷(あしかせ)、その感情をここで外すときがきたのだ。

 

 (もう──憧れは終わり・・・・今度は私が見せる番・・・か)


 そっと目を閉じる。心の奥底で私は覚悟を決める。

 ただの模倣で勝てるほど相手は容易くはない。だが、もし私が完全に今の力を使いこなせれば勝機は必ずある。

 

 (お手本は腐るほど見せられてきた。だったらできる!!)


 私は目を開き、超越したスピードを出しアリスに一撃を喰らわした。

 それから少し間があり全員が私の存在に気がついた。


 「な、なに・・・が・・・・おき・・・て・・・」


 バタン・・・アリスはそう言って倒れた。


 「私は過去と現在、二つにおいて憧れている存在がいる。それは絶対に切り捨てられない存在」


 私はクルッと後ろに振り向いた。

 そこには生が立っている。その後ろには驚いて動こうともしないフェン。


 この時私は一体どんな表情をしていたのか分からない。

 でも私はこう言った。


 「憧れるのはもう・・・やめるわ」


 それは私の覚悟だった。目の前にいる生に対してもう憧れだなんて抱かない。私は私のやりたいようにやるんだ。

 

 





 ルナは俺に対して覚悟を見せてきた。憧れを捨てた。


 「・・・本当に捨てるとはな」


 実際ルナが俺やKに憧れていたことは知っていた。逸材者ながらして対した動きができていないルナは何かしら欠陥があると見ていたからだ。

 気づいたのは最近になって。だが驚いたぜ。憧れたを捨てたルナはもはや完全に動きがKソックリだったのだから。

 

 「過去にすがるのは悪いこと、常に前を向いて生きる・・・それが私の覚悟」


 

 「──くっ・・・」


 倒れているアリスはグググと立ち上がる。

 相当なダメージを負っているが、まだ完全には敗北していなかった。


 だが、極限の境地の状態がきれている今の状態ではもはやアリスに実力はない。

 ルナの・・・勝ちだ。


 「まだよ・・・私は負けてない・・・!」


 立っているのが精一杯だが、アリスは負けを認めようとはしない。

 

 「認めたほうが楽になるわよ」


 忠告はしたがそれでいうことを聞くほどアリスは素直じゃない。

 俺たちはアリスに気を取られ後ろにいるフェンの存在を完全に忘れている。


 「──下がれアリス!!これで終わらせる」


 声の方向を振り向くとそこには大きなエネルギーの塊を両手で持っているフェンの姿があった。


 「なに・・・あれ!」


 ルナも俺と同じ気持ちだったようだ。あの馬鹿でかいエネルギーは確実に俺たちを仕留めに来ている。


 「くっくっく・・・道連れにしてやる。ただでは敗北はせん。このエネルギーはここ周辺を一気に吹っ飛ばすほどの威力がある。逃げようとしても無駄だ」


 「血迷ったか!!」


 「生、私が気を引くから貴方はあのエネルギーを消して」


 ルナが言っているのは恐らく『消滅』の力を使ってということだろう。

 だがしかし、あの膨大な力を消すには今の俺では無理だ。精々できても半分消すことしかできないだろう。


 「でもやるしかないか」


 そう言って俺は手を前にかざす。

 

 ──パチン


 その時だった。指をこすりつける音が響いた。

 ボォッ!!その音と同時にフェンの周りは炎に包まれる。


 「これは・・・なん・・・があああ・・・・焼ける・・・・やけ・・・・ああああ・・・・・・!!」


 シュゥゥゥゥゥ.....激しい炎に包まれ、炎が消えた後、そこにはフェンの姿はなかった。

 あるのはそこにフェンがいたであろう焦げた影の後だけだった。


 「これは・・・」


 俺は後ろを振り向きアリスの更に後ろ、ライブラリータワーのはるか上空を見上げる。

 目の力を使いタワーの屋上を見る。


 そこには学園長くらいの身長をした黄色い瞳をした男の人物が俺たちを見下ろすかのように立っていた。

 その存在が誰だか俺は一瞬で気づいた。


 「シャルル──」


 俺がそうつぶやくと


 「ッ・・・・」


 ルナに緊張が走った。ついに対面することになるんだ。家族であるシャルルと。


 「シャルル様・・・!」

 

 アリスは俺と同じくして上を見る。


 「──僅かだが、『覚醒』を果たしたかルナ」


 高いところから声を出しているというのに下にいる俺たち全員にその声は透き通るように聞こえた。

 

 「シャルル・・・フェンは仲間じゃないの。なんで殺したの・・・」


 フェンはこの場から姿を消している。それはシャルルによって燃やされ殺されたのだ。

 改めて理解した。これがシャルルの能力『点火』か・・・。


 ルナの問いにシャルルは


 「──仲間、か。確かに奴は俺が雇った人物だ。だかしかし、奴が行おうとしていたのは辺り一帯の爆破。そんなもの許されると思うか?」


 「自分を守るため他人を殺すか。きたねえ奴だな。お前」


 「境川生か。長旅は辛かったろう。俺が葬ってやるよ」


 スッと指を上に構えパチンと鳴らす体制に入る。

 千里眼を使いそれを目視した俺は


 「ルナ!!俺から離れろ!!」


 そう叫ぶと同時にパチンという音が再びあたり一面に鳴り響いた。


 「ちぃ!!!」


 足の筋肉を強化し俺は一気に上空に跳躍をする。

 俺が上に逃げることを想定していたのか、四方八方に炎が出現した。


 「くっ!!」


 ──ブゥゥン・・・一瞬だが時間跳躍(タイムリープ)を使う。

 1.5秒で出来ることは限られるが、手を炎に向かってかざす。

 

 「消えろ!!」


 左、上・・・下と俺は徐々に炎を消していく。

 だが、


 ボォォ!!


 「なに──」


 バァァァァンンンン!!!!!!!!!


 時間を飛ばしていたのにも関わらず、シャルルの炎は俺の前で爆発をした。

 


 「生!!!」


 4つの内3つは消せたが、1つは消すことができず俺は直撃してそのまま地面に落下した。


 「何をしたかは分からないがあの炎を直撃して息があるか・・・」


 

 

 「生!!しっかり・・・!!心臓は・・・まだ動いてる」


 ルナは俺の心臓に耳を当てる。まだ鼓動があることを知りホッと息をなでおろした。


 「境川は虫の息・・・なら丁度お前たち二人を葬ってジ・エンドだ」


 遠距離からの攻撃に特化するシャルル。なすすべなく俺はダウンしてしまっている。

 敵であるアリスはシャルルのあまりにもの強さに微動だにせずその場で口を大きく開け固まっていた。

 

 「ルナ....お前は避難しろ。せめてお前だけでも生きるんだ」


 「そんなの・・・できるわけないじゃない」


 だがこのままではルナも倒れてしまう。俺はもう本当に動くことすらできない。

 指一本でも動かすことができない俺は現状役立たずだ。だがルナはまだ動ける。

 シャルルに勝つにはルナが闘うしかないんだ。だからここで死なすわけにはいかない。


 「──死ね、境川・・・そしてルナッッ!!」


 パチン、


 俺たちを殺す最後の音が・・・聞こえた。

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