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逸材の生命  作者: 郁祈
第四章 アメリカの才女編
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無駄な感情

 「後は私に任せて・・・生」 


 ルナは任せろと俺に向かって確かにそう言ったのだ。


 「あら、フェンにすら勝てない貴方にしては言うじゃない」


 バチバチと瞳から稲妻のオーラを出しているアリスはそう言った。

 

 「いや、侮るなアリス。ルナ様はれっきとした逸材者。弱っていたとしても全力で挑まなければこちらが負けることもありえるぞ」


 どんな時でもフェンは油断をしなかった。

 その証拠に再びポケットからドライアイスを取り出している。またルナを氷漬けにするつもりなのだろう。


 「再び氷りなッ!!」


 そう言って手元にあるドライアイスをルナの方に投げつける。

 それと同時にドライアイスの蒸気は氷に変化し、再びルナが氷漬けになりそうになる。


 「ルナッ!!」


 俺は叫んだ瞬間──


 「ッ──」


 ビュン─低い姿勢からの全力のダッシュ、ルナの動きは無駄の少ないダッシュだった。

 あの動きはまるでMr.Kそのものの動きだ。


 「なに!!?」


 「ッく!!」


 フェンの前にアリスが一瞬で立ちふさがる。あくまで至近距離の闘いはアリスが主体のようだ。

 だが、極限の境地に入っているアリスの動きよりもルナの動きは一歩先に行き、立ちふさがるアリスを交わし背後を取った。


 「馬鹿な・・・!アリスの動きを超えた・・・!!」


 アリスが背後を取られたことに気づき振り返ろうとしたが、

 ──ヒュン・・・バゴォ!!!!

 振り向く瞬間、ルナのビンタのような振り払いの攻撃がアリスを襲った。


 「きゃあッ」


 振り返るアリスよりも先に攻撃をし、見事に意表を突いた。極限の極致に入っているアリスを超えたのだ。

 その動きはMr.Kの動き、簡単な移動や攻撃の仕草だが、今ルナが行った行動は一寸の間違いもない、Kそのものの動きだった。


 「あの動き・・・まさか」


 フェンは今の動きで大体何が起きたのかを悟ったようだ。

 俺も薄々は感じていた。ルナの逸材能力について。

 他の逸材者とは違ってなんの取り柄の能力がないルナだ。オーラを(まと)い、それを弾丸のように飛ばすことが出来るが、威力はたかが知れているものだった。

 だが、それは本来(・・)の力ではない。ルナの真の力は彼女の膨大な知識量だ。

 アメリカで『才女』と(うた)われてきたルナ、それは相当な知性を持っているからだ。フェンと同じくし知略型の逸材者。ところがルナとフェンには大きく違うところがある。

 まずフェンだ。こいつは知識はルナと同格だが、コイツの場合他人をみる知識はない。

 一方でルナはというと人を観察し、その動きを把握することができる。Mr.Kに戦闘スタイルを教えてもらった際、物にすることができたのもそれのおかげだろう。

 つまり、ルナの逸材能力は『模倣(もほう)』──他人の動きを真似ることだ。


 「まさか模倣の逸材者だったとはな・・・ルナ様も大概危険な存在のようで」


 あくまでもクールを装うフェンだが、態度がみるみると悪くなっているのが分かってきた。

 口調が崩れてきているのだ。


 「私だって自覚はしていないわ。真似事なんて力の部類に入らないでしょ。ただ物覚えがいいだけよ」


 ルナはあくまで自分の力を認めていなかった。


 「再現ができるのは驚異だ。ですが、勝敗は別ですよ」


 フェンがそう言うと後ろから猛スピードでアリスが襲いかかってくる。


 「──終わりだッッ!!!」


 「ッ!!」


 速さに意表を突かれた。ルナは再現であって対応はできない。

 だからルナが反応するよりも先に身体を掴まれてしまった。


 「くっ・・・・」

 

 「あははははは!!さっきは不意を突かれたけど、所詮はあの程度よね。安心したわ。貴方が私より下だってことで」


 ルナは胸ぐらを掴まれ足が宙に浮いている状態になっている。あの状態では身動きが取れない。

 

 「よしアリス、そのままとどめだ」


 「ええ!」


 空いている片方の手でルナにとどめの一撃をやろうとする。

 狙っているところは間違いなく心臓だ。


 「く──この!!」


 足掻くがルナの身体では手足が短くアリスには届かない。

 ブンブンと攻撃を繰り出しているがそれは全て不発に終わっている。


 「見ているか境川様、これが・・・──ッ!!!」


 フェンの向いた先に俺はいなかった。

 このままルナを死なせるわけには行かない。手も足も動かない限界間際だった。

 だが、限界なんてもんはいくらでも突破できる。ここで動かなかったら男じゃねえ。相手が強いのなら俺はその上を行くだけのこと。

 

 ──バチバチ....


 ダァン!!!


 俺は一瞬でアリスの目の前に移動し思いっきり宙にいる状態で蹴りをお見舞いした。


 「きゃ」


 ルナはその場で尻餅をつく体制になる。


 「馬鹿な!!動けるだと」


 フェンは俺がまだ動けたことに驚きを隠せなかった。

 だが、俺は結構限界だ。力を振り絞りなお立っているが、もって数分だ。その時間内でどちらかを倒さなければ俺たちに勝機はない。


 「たたた・・・やるわね日本の逸材者くん。まだその力が使えたのかい?」


 その力とは極限の境地のことだ。俺はルナを守るため今一度この力が使えた。

 でもまだアリスには及んでいない。

 これはさっきの状況に戻っただけだ。


 「ルナ」


 「生・・・?」


 俺はルナの方を向かず、こう言った。


 「もし今のお前に憧れがあるのなら、それは無駄な感情だ。切り捨てろ」


 「・・・・!」


 その言葉がルナにどう伝わったかは分からない。だが、


 「いくら生の頼みでもそれはキツイな・・・」


 座ったままの姿勢でルナはそう言った。少し声が小さく本当に無理なことに俺は感じ取れた。


 

 「話は終わったかい?」


 前からはバチバチと音を立て微笑んでいるアリス。

 背後からはポケットからドライアイスを取り出すフェンがいる。

 この二人を相手にするのは厳しい。なんとしてでもルナと共闘しなければ勝てない。

 

 「行くぞ!!アリス」


 フェンがそう叫ぶと同時にドライアイスを俺たちの真上に投げる。

 氷漬けにしアリスが一気にとどめさしにくるのか!!


 だが分かっていればどうってことない!

 俺は手を真上にやり、


 「消滅──」


 そう言うと手から風がフワァと出て上空の冷たい空気が一瞬で無と化す。


 「隙ありよ」


 だが手を上にあげた今の状態、俺は無防備そのものだった。

 間合いにはいられた。迂闊だ。フェンに気を取られればアリスを見失ってしまう。視線誘導の原理と同じだ。

 

 ──ボゴォッォ....


 一瞬何が起きたか理解できなかった。

 本来やられるのは俺だったはず。それはフェンも同じことを思っていたはずだ。

 だが、俺が目にしているのは胸に大きな跡ができているアリスの姿だ。そしてさっきまで尻餅をついてしゃがんでいたルナが立っている状態。

 まるで時間が飛んだかのような感じだった。

 

 「な、なに・・・が・・・・おき・・・て・・・」


 バタン・・・アリスはそう言って倒れた。

 倒れる直前目から稲妻が消えていたことからこれは本当に倒れたのだ。

 

 「──考えたわ・・・。生が何でさっきそう言ったのか」


 俺がさっき言ったこと。それは


『もし今のお前に憧れがあるのなら、それは無駄な感情だ。切り捨てろ』


 「私は過去と現在、二つにおいて憧れている存在がいる。それは絶対に切り捨てられない存在」


 ルナはクルッとこちらに振り向いた。

 その時ルナの表情は今までと違い明るい顔ではなく、少し寂しそうな瞳をしていた。

【キャラ説明】

■ルナ・ユーフラテス

性別:女

能力:「???」⇒「模倣の逸材」

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