知識と経験
「ほぉ・・・境川様もアリス同様に同じ力を持っていましたか。これは驚きです」
フェンは驚いているがまだ余裕そうな表情だった。
同じ力、それは極限の極致のことだ。生は極限まで集中状態になることでその力を発揮できる。
だが、アリスはどんな状態でも、いや好きな時になることができるのだ。それがアリスにとって与えられた逸材の力だからだ。
『最高の力と頭脳がでに入る』紛れもなくその力は最強クラス、御神槌のように『物体を消滅する』や、リアの『時間停止』命の『未来視』などそれらを凌駕するシンプル且つ強力な力。
「余裕そうね。フェン・・・私が相手じゃ不足かしら」
ルナは決して弱くはない。だが、アメリカに来てからは対して勝つことはしていない。
このアメリカにいる逸材者たちのレベルがあまりにも高いのだ。日本の逸材者とは比べ物にならないくらい超越した力、そのせいでルナが弱く見えている。
「不服ではないですが、いささか実力に迷いが見えますね。ルナ様の力はオーラを扱うだけではないと、私は見ています」
敵ながらもルナの状況を一々説明してくれる。こいつはそれほどまでに余裕で勝利する自身があるということなのだろうか。
「ですが、目覚めを待っていてはこちらとて勝利は薄くなっていくばかりです。残念ですが、そろそろ終わりにしましょう」
そう言ってフェンはポケットから何かを取り出した。
「──これは『ドライアイス』です。ご存知のとおりとても冷たい物。これを」
ブンとドライアイスをルナの足元に投げる。シュゥゥと冷たい煙がルナの周りに包み込まれる。
「そして貴方の待機中に染まっているその空気は一瞬で凍る!!」
「なッ──」
ルナが言葉を発した瞬間、ルナの足から首の辺りまでが一瞬で氷漬けになった。
「こ、これ・・・は・・・」
「瞬間凍結です。貴方のオーラは攻撃を防ぐ傾向が多々見られたので封じさせてもらいました。最も──動きも封じましたけどね」
丁寧口調だが、その実力は圧倒的だ。
アリスが戦闘をしフェンがそのサポートをする。この二人は完璧なコンビとしてやっていけるくらいの実力があった。
ルナは手足が動かない状態で、もはやどうすることもできなかった。
「このまま止めを行ってもいいですけど、この氷ではどのみち数分も持たないでしょう。時期に貴方は凍死しますね」
その通りだった。ルナはもはや全身が凍えている。顔が青くなっていき、体調も悪くなっている。
「しょ、生.....」
「境川様に助けを求めますか、フフ・・・無駄ですね。彼は今アリスと闘っているのですから」
──ビュン、ドゴドゴ・・・。
アリスの攻撃を避け俺は攻撃・・・そしてそれは避けられる。
もうそんな状態が幾度なく続いている。
お互いが極限の極致の状態に入ったことにより、状況は一歩的から同等まで上がった。
「へえ、やるじゃない。面白くなってきたわ」
「・・・・・」
俺とアリスの動きはもはや人並みの動きではない。高速で動きあっているため、はたら見れば俺たちは目の稲妻のオーラが動いているようにしか見えないだろう。
それくらいに早い闘いなのだ。
アリスが攻撃すれば俺は避け攻撃する。でもそれは届かない一撃だ。お互いが読み合っている状態で、攻撃は当たることをしない。
だが捌ききれない攻撃は腕で受け止めてなるべく吹っ飛ばされないようにするんだ。
ドォォォンン!!!
拳と拳がぶつかり合いそんな音が響いた。
お互いにそのままバッと後ろにジャンプし距離を置く。
「まさか、私の動きについてくるとはねえ・・・それだけじゃないか。同じ力を使うんだもん。ビックリだわ」
「随分と余裕そうだな。スグに追いついてやるよ」
「おー怖い怖い。追いつくねえ・・・」
アリスはニヤリと笑うが、目だけは笑っておらず本気の表情だった。
「──やってみなよ」
そう言うとアリスの瞳から出ている稲妻は更に激しくバチバチと音を立てより一層に力を増した。
「この力の経験は私が上、貴方に負けるとは思ってないわよ」
ちぃ、まだ上があるのかよ。底なしかアリスの力はよォ・・・!
正直言って俺はこの段階が限界点だ。その段階でアリスと互角だったが奴は更に上に力を増した。つまりは振り出しに戻されたってことだ。
驚異しかないが、俺は不思議と落ち着いていた。心が乱れることもなく整然とアリスと向き合っている。
「・・・・・」
「あら、あまり驚きはしないのね」
「そんなことだろとは薄々予想はしていたからな。極限まで力を解放するのがお前の逸材ならそれくらいはやってみせるだろうとな」
「フフ、ちょっとは期待できそうね──なら」
ドン、シュ──
「──思う存分殺せるわね」
アリスは一瞬で俺の背後に周りそのまま心臓をめがけて拳を放ってきた。
だが、俺は直前でアリスの動きに反応ができ、
「くッ」
間一髪とはまさにこのことだろう。ギリギリで体制を崩すことで俺はアリスの攻撃を避けたのだ。
こちらも少なからず極限の境地に立っているから微弱ながら動きが分かるんだ。
俺は距離を取るためにタンタンと二回後ろに回転し大きく跳躍して少しアリスから離れた。
こんな時 御神槌やルナとか伊吹みたいに遠距離系の技があれば攻撃できたんだろうな・・・。
「(そう言えばルナは・・・)」
チラッとルナの方に目をやる。
「ッ!!」
俺は目にしたのは氷漬けになっているルナだった。
「ルナッ!!」
助けに向かおうとしたが、
「どこに行く気?」
「ちぃ!!」
超スピードでの移動が可能であるアリスに一瞬で間合いを取られ俺は動けなかった。
このままではルナが・・・。
その考えは雑念。極限の境地を使用するにあたっての不要な情報だ。
集中し潜在能力を解放するこの力は紛れもなく強い。だが、必要以上の考えや雑念が入れば徐々に力は解除されていってしまう。
俺はまさに今、その状態だった。
「・・・なぁんだ。ここまでのようね」
アリスはそれを見抜いたのか。つまらなさそうにそう言った。
「なんだと・・・?」
「さっきまでの威勢はもうなくなったも当然。雑念はその力を弱めるだけ。私と違って純粋にその力が使えるわけじゃないんだから貴方はもう私には勝てないわ」
ボゴォ....その刹那、俺は一瞬何が起きたのか理解できていなかった。
アリスの動きそれは極限の境地の効果が切れた俺には見えるはずもなく、大きな一撃を喰らい俺は吹き飛ばされた。
「がっは・・・!」
受身を取ることもできず俺は地面に叩きつけれられる。
「くっそ....ルナを助けなければ」
あのままルナを放置していれば彼女は凍死してしまう。一刻も早く助けないと手遅れになってしまうんだ。
残された力で俺はルナの元に歩いていく。
しかし、アリスはそれを許すはずもなく、
「逃がさないわよ」
ダンッ、と俺の頭を足で踏み、俺の動きを抑えた。
「日本人にしてはやった方ね。まあでも私には及ばない。ルナだってそうみたいね。なんであんたを頼ったのか分からないわ」
勝ち誇っているのかアリスは喋り口調になる。
ルナとの距離は僅か200メートル・・・。助け出してやる。
俺は足に力を入れ、最も得意とする技、時間跳躍を発動した。
「──ッ!?」
瞬時に俺はアリスの元から姿を消す。
1.5秒先に行くこの技・・・だが、アリスからすればたかが1.5秒であり、ラグもなくスグに俺の存在に気づいた。
「面白い技ね。でも相手が間違えないで」
背後から思いっきり俺は殴られ吹き飛ばされた。
「アリス!!それは罠だ!!」
遠くからフェンの叫び声が聞こえるが、既に遅かったぜ。
「あっ!」
アリスも気づいたようだ。俺を吹き飛ばした先、それは
──ルナの元だった。
氷漬けになっているルナにそっと触れる。
「くっ、やらせないわよ」
ビュンとアリスはこちらに向かってくる。
目の前にはフェンが立っておりそちらも何か攻撃をしようとしているが、発動に時間がかかっておりまだ仕掛けてこない。
つまり今警戒するのはアリスだ。
「だが、遅かったな」
──パリィィィン
『消滅』の力、それを使い一瞬でルナにまとわりついている氷を消した。
ザザザ、アリスは移動をやめ、途中で止まる。
「・・・ん・・・?生・・・・」
氷から開放されたルナはゆっくりと目を開け、俺の方を見た。
「よぉ・・・」
今ので力を使ってせいか俺は言葉を出すこともままならなくその場に倒れた。
「生!!!?」
ルナは俺の方に駆け寄る。
「・・・悪いな。まだアリスを倒していない。くっ・・・これからだってのによ」
相手はまだ二人だ。このままルナ1人にやらせるのは危険だ。
俺はグググっと立ち上がろうとするが、
ルナは俺の手を握ってきた。
「ルナ・・・?」
ルナの手はとても冷たい。さっきまで氷漬けだったからなというのが瞬時に分かる。
だが、ルナの表情はとても暖かい笑みだった。
「後は私に任せて・・・生」
【キャラ説明】
■フェン・ブリューガルト
性別:男
能力:「知性の逸材」
説明:力の方ではなく珍しくも知性を大きく使用するタイプの逸材者。数々の功績を残しておりその名は世間に知れ渡っている。
容姿:クール系
学校:──




