表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逸材の生命  作者: 郁祈
第四章 アメリカの才女編
57/130

崩壊のカウントダウン

 ──ダン!!

 私は全速力で御神槌さんに向かっていった。


 「おせえッ!」


 だが、御神槌さんはヒョイと私を避けてしまう。


 「おーっらよっと」


 避けた上にクルッとその場で周り強烈な一撃が私に襲いかかる。


 「んだよ。想像よりか弱いじゃねえか。境川が異常すぎたか・・・」


 あまりにも弱い私に御神槌さんは本気でかかってこない。でもそれでも歯が立たない。


 「そんなんで守るとか言うのか。けっ──言うのは自由だが行動に移せるほど実力はねえみたいだ。所詮お前には無理なようだな」


 「そんなこと・・・」


 ググと全身に力を入れて立ち上がる。

 少なくとも(よう)を100パーセント使っている状態ならいつもの私よりは身体能力は上昇している。

 足掻くんだ。負けない・・・絶対に!!


 「ほぉ、まだ来るか」


 私は再び御神槌さんに向かっていく。

 

 「またそれか」


 違う。今度は真っ向からじゃない。

 私は急ブレーキをかけザザザと廊下に止まる。それと同時に左足に力をいれクルッと右足を左にやり回転する。


 「あ・・・?」


 なんの意味のない行動だが、私には策がある。


 「無意味だな」


 そう言って拳を振りかざそうとする。

 だが、


 ──ガン、


 御神槌の拳は振り上げる前に壁にぶつかった。


 「これは──教室の壁」


 そう。回転したのには意味があり。廊下の直線上では御神槌さんの大きな攻撃の得意範囲。でもそれを90度回転させれば広さはグッと縮まる。

 それに気づかず大ぶりで来ようとした御神槌さんは壁に拳がぶつかったのだ。


 「それがどうしたァッ」


 お構いなしにそのまま拳を振りかざす。

 だがその位置からだと速度かつかず。


 「そこ!!」


 私は間一髪で回避することができた。いつもより速度が落ちているため、かわす事ができた。


 「・・・知能だけは一流か。瞬時に考えつくその戦法、侮れやしない」


 攻撃がかわされたにも関わらず御神槌さんはまだ余裕そのものだった。


 「だが勝敗は別だ」

 

 その言葉を発した御神槌さんの瞳はいつになく本気だった。


 ──シュゥゥゥゥ.....


 御神槌さんが拳をグッと構え腰を低くする。何かの構えを取った。

 あれは・・・空気弾。空気を操る力を持つ御神槌さんの得意技。周囲の空気を拳の周りに集め一気に撃つ技。

 目視することの難しい技でかわすのは至難の業だ。


 「喰らいなッ──」


 ドンッッ、拳が前に押し出される。


 避けるにもこの距離感が短い状態では無理だ。

 ボゴォォ・・・かわすこともできず私は心臓辺りに痛みが走る。


 「ッ・・・・」


 そのまま吹き飛ばされ壁に衝突する。

 その音とで周りのクラスから人が顔をだす。

 ガヤガヤと騒ぎの中私はフラフラと立ち上がった。


 「これが逸材者の実力だ。半端者のお前に何ができるというのか。守る・・・それは容易く行えるほど甘くはない」


 実感する。生が闘ってきた中に入る逸材者 御神槌忍・・・生と同じくして無の部屋で育った逸材者。その実力はそれそうにあるものだった。

 これまで出会ってきた逸材者も相当な手練だったかもしれない。でも御神槌もそれと同じように驚異の実力を持っている。


 「はあ・・・はあ・・は・・・あ・・・」


 空気弾により私は一気に体力が持って行かれている。意識を保つので精一杯だった。

 赤い髪も徐々に元の黒い色に戻り始めている。赤、黒・・・と反転して色が変化している。


 「どうやらその力を保つだけでも限界のようだな」


 「まだ・・・負けて....」


 その時私は意識がフッと飛んでいくのがわかった。

 目の前の視界がぼやけていく。そしてそのままガクッと膝から崩れ落ちていった。


 


 「──力尽きたか」


 目の前に倒れている命を目の前にして御神槌はそう言った。

 

 「バカが・・・力もないくせして俺に挑むとは愚かな奴だ」


 「それでも守りたかったのかもね」


 後ろから楠がそう言ってくる。


 「守りたい気持ちは誰にでもある。でもこいつがしようとしているのは犯罪者を匿うことだ。それをみすみす見逃すのは俺にはできねえ」


 「最初は境川くんを倒す立場だったのによく言うわ」


 「フン、Mr.Kの考えも満更悪くはないと思っていただけだ」


 「....そう・・・で東雲さんをどうするの?」


 目の前に倒れている命。このまま放置しておくのは問題になるだろう。


 「ったく、迷惑かけやがって」


 御神槌は頭をかきながらそう言った。


 






 



 「──ん・・・・?ここは」


 私は目が覚めるとそこには天井があった。

 ムクリと起き上がるとそこはベッドの上。でも見たことのない所だった。

 

 「保健室・・・」


 朝リアを預けた際にチラッと見渡したときここの景色が見えていた。私は保健室に運ばれていたのだ。


 「一体誰が....」

 

 瞬時に浮かび上がるのは御神槌さん。でも彼は私の守りたい子(リア)に対していい印象は持っていない。だから敵対することになった。

 だから御神槌さんが運んでくることはないだろう。


 「東雲起きたんですか!?」


 シャッとカーテンが開きリアがダイブしてくる。


 「きゃ、ちょ、リア・・・!?」


 帽子を外しいつもの長い髪の毛が現わになっているリアが居た。

 髪の毛からはとてもいい匂いが伝わってきてまごう事なきリアだった。


 「リア・・・大丈夫だった?」


 御神槌さんに見つかればどうなっていたか。


 「私は大丈夫ですよ。それより東雲の方が重症だったです」


 私はあははと薄く笑いながらリアをギュッと抱いた。


 「リア・・・良かった。無事で」


 まだリアはここにいる。確かに居るんだ。大切な私たちの家族・・・・。守ると決めた存在。それはまだ確かにここにいるんだ。

 

 「東雲・・・?」


 リアはどうして私が抱きついているのか理解できていなかった。


 「貴方は──私が・・・守るから・・・」


 私は小声でリアの耳元に向かってそう言った。

 リアを守るということは即ち私は悪の立場になるということ。たった一人の少女を守るためなら私は悪にでも何にでもなってみせる。


 ──ガラガラガラ


 突如保健室のドアが開いた。


 「そこにいたか・・・リア・ルノアベル」


 入ってきたのは御神槌さんだった。どうやらリアを探していたみたいだ。


 「東雲・・・こいつは・・・」


 「リアッ・・・逃げて・・・じゃないと貴方は」


 私の必死の叫び声はリアに届いたのか。まだ大きな声は出せなかった。でも必死で私はリアを逃がすために叫んだ。


 「えっ──」


 リアが私の方に振り向いた瞬間、リアの身体にグニャとした空気が見えた。


 パァン・・・・その空気は大きな音を立てリアの身体に触れた瞬間に割れた。


 「がっ・・・」


 今のは御神槌さんの空気弾だ。いつの間に放ったんだ・・・。


 「そら立てよ犯罪者。おめえはここでおしまいだ。脱獄した犯罪者、さぞかし罪が重たいだろうなァ」


 コツコツと一歩ずつリアの元に近寄っていく。

 ポケットに手を突っ込みながら歩く御神槌さんは徐々に近づいてきている。


 「リア!!立って・・・リア!!」


 ベッドから動こうかと思ったが私は思いのほかダメージが大きく動くことはできなかった。

 でも声だけでも必死に呼びかける。だが、リアは地面に伏せったままだった。

 こんな時、生だったらどうしているか。

 違う。いつまでも生に頼ってはいけない。生だったらとかじゃない。

 私だったら・・・そう考えるんだ。


 ボッ・・・と私は全身に力をいれ髪色を赤くする。


 「ん・・・?まだそんな力を持っていたか」


 見掛け倒しかも知れない。でも影の力は使わないより使ったほうがいいんだ。


 「守るんだから・・・絶対に・・・」


 「馬鹿が。そんな覚悟は死を意味するも当然。分かっているのか」


 御神槌さんの視線がリアから私の方に向けられる。

 

 「だが、どうしてもというのなら仕方がない。少なからずお前とは共に過ごした仲だ。殺しやしない・・・ただ、二度とそのような思想を抱くことはできなくさせてやる」


 そう言うと同時に手を前に出す。

 シュゥゥゥゥ....と御神槌さんの手のひらに空気が集中する。

 どうやら構えはいらずして空気弾は放てるみたいね・・・。


 「(ごめん生。私もうダメかも)」


 もうどうすることもできず私は目を閉じてしまった。


 ──ピキーン・・・・キンッ


 そんな音がした。


 何の音か気になり目を開けてみた。

 そしたら私の目の前に居たのはリアだった。


 「馬鹿な・・・お前さっきはそこに」


 突然前にリアが現れたことに御神槌は驚いた。


 「──東雲。私嬉しかった。東雲が私を守ってくれると言ってくれたこと・・・嬉しかった。でも私は東雲が傷つくのは嫌だ。もう家族は失いたくない・・・だから」


 その目は覚悟を決めた目。リアは手を上にかざす。

 その瞬間、手の上からはパアアと光り刀が出現する。


 「私が相手・・・!」


 「刀か。どうしてもお前たちは離れる気はない、ようだな・・・。やれやれつくづく悪についたものだな。東雲命。始めてお前たちや境川に出会った時はお前らが悪になるなんて考えたことなかったよ」


 シュゥゥゥゥと拳に集められた空気は御神槌さんがギュッと握り締め消滅する。

 

 「これがもし運命だとするのなら甘んじて受け入れよう。だが俺は負けない。悪は滅ぶべきだ。リア・ルノアベル、お前を連行させてもらう」


 「上等です。私はここで過ごすんだ。お前なんかに負けるものか!!」


 御神槌さんは拳をリアは刀を構える。

 

 「はああああああ」


 「やあああああ!!」


 二人はそのままお互いに激突し合った。


















 

 「──ねえ恋桜学園の生徒が呼んでるよ」


 席に座っていると突然クラスの人に声をかけられた。

 俺を呼んでいる人物が居る・・・。恋桜学園、あの境川がいたところか。

 なんのようで誰が来たか。俺は席を立ち廊下に出る。


 「・・・ほぉ」


 そこには意外な人物がいた。


 「貴方が伊吹龍ね」


 こいつは確か・・・ああ。アレだ朝 御神槌忍を見たとき一緒にいた女か。


 「私は楠楓、貴方にお願いしたいことがあるの」


 楠・・・そいつはどうしたことか友好関係など皆無の俺を訪ねてきたのだった。

 

 「要件によるな」


 どうせくだらないことだろうと俺は思っていた。

 だが、


 「御神槌と東雲さんの二人を止めてくれないかしら」


 予想はしていた。少しくらいは・・・だが、俺が驚いたのは別のこと。

 このプライドの高そうな楠が頭を下げで俺に頼んできたのだ。

 

 「あの二人は私の友達・・・でも今は少しだけ関係が崩れている。貴方が逸材者を好んでいないのは理解している。でも、それでも頼めるのは今、貴方だけなの」


 確かにあの二人を除けば逸材者はグッと絞られるだろう。存在はしていてもこの校内には存在していない。

 

 「関係が良くないといったな。それはなぜだ?」

 

 「・・・・それは....」


 「言えないことか。どちらにせよ俺には関係のないことだ。他を当たれ」


 俺はクルッと振り向き教室に戻ろうとする。

 だが楠は俺の袖をガシッと掴み離さなかった。


 「離せ」


 「断るわ。私はお願いに来たの。貴方が了承するまで離さない」


 「俺には関係無いといったはずだ。お前らがどうなろうと関係ない。むしろ逸材者同時で争うのなら本望だ。逸材者の消滅を願う俺からすればそんなことは願ったり叶ったりなんだよ」


 それは俺の本心だった。逸材者がいる限りこの世の中から戦争は消えない。いつかは訪れると思っていた終戦、そんな来ない未来を待つのをやめ俺はシャルルの下についた。

 だが境川に負けた俺は今、成すことは何もない。ただひっそりと逸材者の存在が消えるのを待つだけだ。


 現に今だってそうだ。仲間だったみたいだが、争っている。逸材者同時何らかの意見の食い違いが起き闘いが勃発している。

 それを止めろだと?確かに俺は終戦を願っている。だが、もうウンザリなんだよ。逸材者が争っている姿なんてよ。

 俺はそれを消すためにこの力を振るっている。



 ──ドゴォォッォォォン!!!!


 突如下の方から妙な爆発音が聞こえた。


 「なんだ・・・」


 「ッ・・・・」


 これはもしやアイツ等か!!

 俺は走って音の方に向かう。


 「あっ、ちょっと」


 楠も俺の後に続き移動してくる。

 たったったと走り保健室の前までやってきた。

 

 その光景は驚くことに無残な保健室の姿になっていた。

 煙でよく見えやしなかったが、一人の男の姿が立っているのが見える。


 「貴様・・・・」


 その姿は間違いなく御神槌忍そのものだった。


 「御神槌....」


 後ろにいた楠は両手を口に当てガクガクと震えている。


 当然だった。楠が目にしているのは御神槌の足元だ。そこにいたのは



 ──倒れている二人の少女の姿だったのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ