守る気持ち
──生がアメリカに行き一日が経過していた。
こちらは朝だが向こうはまだ夜なのかな。
いつもならこの時間帯は生を起こしに行くはずなのに私は自分の家にいる。
「はぁ・・・」
コツコツと階段を降りるとそこには
「東雲起きたんですか」
生の家に住んでいるアメリカから逃げている犯罪者であるリアが居る。
生がアメリカに行っている間、リアは私の家に居るよう頼まれたのだ。まあ私の家には母も父もいないからいいんだけど何となく気まずいものはあった。
「リア。おはよう」
「おはようございます。・・・東雲元気ないですね」
私を見てリアはそんなことを言った。
「そう?」
「いつもならもう少しテンション高めかなと思うのですけど・・・あっ、もしかして兄様のことですか?」
兄様、リアは生のことを兄様と呼んでいる。なぜそう呼ぶのかは知らないけど少しだけそう呼べるリアの事が羨ましく思っていたりする。
「えっ、生・・・のこと」
あながち間違っていなく私は顔が赤くなっていく。
「やっぱりです。東雲は兄様のことを溺愛していますものね」
「ええ。そ、そうかなぁ」
「そうですよ。だって東雲 私が兄様にくっつくといつも怖い顔しますし」
ジト目で私のことを見てリアはそういった。私そんなに怖い顔してたかなぁ・・・。
顔を手でささっと触ってみるがなんというか分からなかった。
「そんなことより朝飯です」
リアはお腹減ったと言わんばかりにそう言ってくる。
一度私のご飯を食べて以来リアは私の作るものを凄く好んでくれている。悪い気がせず純粋に嬉しい気持ちだ。
だけど事ある毎に私のご飯を強請ってくるようになってきてるからどうにかしないとなと思う。
「すぐ作るわよ」
そう言って私は台所に向かう。
朝だし簡単なものでいいだろう。
私はご飯に味噌汁、それと焼き魚といった至ってシンプルな朝食にした。
「東雲は今日も学校ですか?」
バクバクと食べながらリアは聞いてくる。
「そうね。今日は平日だし普通に学校ね」
「いいなぁ。私も学校とか行ってみたいです」
「いやーリアは厳しんじゃないかしらね。一応指名手配みたいなものだし。迂闊に外に出たら捕まっちゃうわよ」
悪い子ではないのだが、過去に犯した罪というものは中々消えるものではない。ましてや脱獄してきている身としてはもっとも悪い状態だ。
しかもリアの容姿は酷く目立つものでありその象徴とも言える赤く長い髪の毛は一瞬でバレてしまうだろう。
「ちぇー・・・」
「リアは外に出たいの?」
「そりゃ出たいです。兄様と一緒に出かけたり東雲やルナたちとも遊びたいです」
忘れがちだがリアは私たちよりも年下。そう考えればまだ精神的にも子供な一面があってもおかしくはない。
そんなリアを家の中に留めておくのは難しいことだった。
「遊びたいか・・・。そうねえ...」
少なくともリアの件がどうにか対処することができれば外に出ることはできるだろう。
でも家族を殺したという事実は消えやしない。それを無実にする方法なんてそう容易く出てくるものではない。
こんな時 生だったらきっと何か案をだしてくれるはず。
私はいなくて気づいた。無意識のうちに私は困ればいつも生にばかり頼っていたのだと。
何があっても生だったら解決してくれる。その考えに私は彼を頼ることばかりしていた。別に向こうだって悪い気はしていないはず。でもなぜだろう。頼っているのは私だけじゃない。皆だって頼っている。
人に頼っていては自分の力は引き出せない。そうね・・・今は生はいないんだもの。私が導き出すしかない。
「──ちょっと待ってね」
私はダンと立ち上がり部屋に向かった。
「これで・・・よしっと」
部屋にあった私が昔着ていた衣服や装飾品、それをリアに譲り着てもらった。
「これなら結構イメージは変わるんじゃないかな?」
目の前にいるリアは数分前とは大きく違い服装も日本人風になり、長く赤い髪は帽子により隠された状態になっている。
パッと見リアだと分かる人物はいないだろう。
「おぉ・・・東雲すごいです」
リアは目をキラキラと輝かせ鏡に映る自分の姿を見てはしゃいでいる。
「これなら多少外に出ても大丈夫じゃないかな」
「行きます!!東雲の学校の傍まで一緒に行きます!!」
まだ時間は早かったがリアの力強い腕に引っ張られ私は学校に向かうことになった。
「おお・・・ッ」
外に出るなりリアは驚きっぱなしだった。なんでも逃亡中は目がかすんでいてあまり景色を見れてないらしくこうして落ち着いて見るのは初めてらしい。
「すごいです。外です。人です」
一歩歩けば反応し何だか可愛く見えてきた。
「これが外ですかー」
「どう?楽しい」
「楽しいです。東雲ありがとう・・・」
楽しそうで何よりだった。
それからリアと一緒に電車に乗り、学校の最寄り駅で降りた。
「リア帰りは一人だけど大丈夫?」
通学路を歩きながらリアに話しかける。
「ノープログレムです。電車はまだ理解できてないけどいざとなれば屋根を飛び移って帰れますので」
それはちょっと迷惑だから控えて欲しいかな・・・。
「年が同じだったら高校に来れたのにね」
「確かにそうですけど、でも!これでよかったと私は思います」
「どうして?」
「東雲がお母様みたいに接してくれるので!!」
力説された。でもお母さんか。リアみたいな子供は正直悪い気持ちはない。
「あはは・・・生は兄さんなのに私はお母さんなんだね」
「兄様は兄様だけど・・・東雲がお母様なら兄様はお父様」
兄さんでお父さんって複雑すぎないかしら。まあリアが納得するならいいんだけど。
「じゃあルナさんはお姉さんだね。それでリアが妹」
「むーリアの方がお姉さんです」
「年齢的に考えたらリアは妹だよね」
そこだけには中々納得していなかったけど、しばらくすると諦めた。
「これで私たちの家族構成は完成です」
えっへんとリアは言った。
私がお母さんで、生がお父さん。そしてリアがお姉さんでルナが妹・・・。
「何だか楽しいい家族ね」
「ですです。早く兄様帰ってこないかなぁ」
生はお父さんらしいけど呼び名は結局兄様のままみたいだ。でもリアは家族を失っているがこうして元気にしているんだ。
例え偽りの家族だとしても私はこの関係を崩したくはない。生じゃないけど仲間を守るという気持ちが分からなくもない気がしてきた。
それからリアと楽しい話をしながら私は緋鍵高校の前まで着いた。
楽しい時間は終わりおを告げる。
「じゃあ、リア。また家でね」
そう言ってリアにバイバイと手を振ろうとしたとき、
「楽しそうだな」
正門に寄りかかって立っている一人の人物を目撃した。
リアも足を止めその男の方をみる。
「境川生はどうした?それに・・・あの女もいないな」
目に映る人物は以前 生が倒した逸材者"伊吹龍"だった。
「生はいないわよ」
「なるほど。アメリカに向かったか」
ちょうどいいといい。伊吹はよっと言い数歩前にでる。
「幸いまだ人げも少ない。ここでお前たちを倒し境川の反応を見るとしよう」
ジャキッと銃を構え伊吹はそう言った。
逸材者の絶命を願う彼には私を殺す動機が確かにそこにあったのだ。
境川たちの行動と並行し 日本でも進展アリ。境川のいない日本で勝ち目はあるのだろうか・・・!?




