起源の逸材
「この国の現状・・・教えてくれるのか」
向かい側に立っているルナは真剣な瞳でこちらを見ている。この感じは本気を意味している。
「ええ。いずれは話さなければいけないと思っていた。でも言い出せなかった・・・それは私の落ち度」
「言い出せない・・・?」
それほど重大なことなのだろうか。
それから少しの間があった。なんとなく気まずい空気だったのだが、しばらくしルナは口を開いた。
「私たちの国、アメリカ・・・正式にはアメリカ合衆国。それは普通の国だった。昔まではね」
昔という単語に俺は気になった。
「──先進国かつ世界最大の国民経済を有し、経済は豊富な天然資源と高い労働者の生産性により支えられていたの。でもそれはほんのひと時だったわ。ある時この国にある一人の人物が現れたの」
「誰だそいつは」
「私もまだその時は生まれていなかった。それほど昔の人物・・・でもこの人物は代々ユーフラテス家では受け継がれている情報──その名は」
ルナの語り口調は徐々に早口になっている。緊張しているのだろうか。
だがそれでもルナは語るのをやめない。俺に伝えようと必死だった。
「突如現れたその人物はこう名乗っていました。オリジオンと」
オリジオン・・・聞いたこともない名前だ。
「性別は男か女かは流石に記録が残っていない。でも確かな情報、それは──逸材者だったということ」
その言葉に俺は反応を示した。
逸材者・・・そんな昔から居たのか。
「そうね。私も驚いたわ。そんな昔から逸材者が存在したいたなんてね。でもその考えは間違いよ」
「どういうことだ?」
「──オリジオン、その人物は逸材者の原点。つまり人類で最古の逸材者なんです。故にこう呼ばれている。"起源の逸材"と」
起源の逸材・・・人類最古の逸材者。まじか・・・。
「当時どこの国にも逸材者という存在はいなかった。故にオリジオンに勝る知性の持ち主など存在していない世の中だった。そんな中オリジオンは国の改革を行ったのよ」
国の改革。それは今までの人々の暮らしを一変させるものだった。
まずアメリカで行われたのは逸材者の繁殖。オリジオンに気に入られたものは即座に教育され、監禁されていたらしい。
逸材者を増やし他の国に対抗できる力を身に付け戦争を行う。それがオリジオンのやり方だった。
だが、その考えは国全員が賛成するものではない。逸材者に目覚めたものでも僅かながらオリジオンに対抗する者もいたと言われている。
しかし、圧倒的な力の前に戦争を反対する派閥は一瞬で敗北し、屈したという。でもその派閥で屈しながらも足掻いた一家がルナの家のユーフラテス家だった。
ルナの二代前のユーフラテスが遂にオリジオン一派を倒すことに成功し、このアメリカは普通の国へと戻っていった。だが、オリジオン無き今でも影でその陰謀は行われている。
それに加担するのが悪の逸材者、そしてユーフラテス家の人間であるシャルルだった。
他にもシャルルの手下である伊吹やカトリックと言った逸材者は少なからずオリジオンに近い思想を持っている。
「そのオリジオンの陰謀を受け継いでいるシャルルを止めるのがお前の目的か」
「ええ。そうよ。シャルルはあれでも私たちユーフラテス家の人間。国を守る側の私たちの身内が敵というのはとてもいいことじゃないの。だからなんとしてでも私はシャルルを止める」
でも自分の力では止めれないと知り、ルナは遥々俺の元にやってきた。Mr.Kを倒した逸材者、ルナが尊敬している人物を倒した俺を頼って。
だが俺は知っている。ルナの実力を・・・。なぜルナがMr.Kに仕込まれた体術を持っているのにも関わらず弱いのかを。
知っているが俺は言うことはできない。弱さを克服するにはルナ自身が気づいていなければいけないからだ。他人を頼っていては強くなれない。自分で気づいてこそ真の力は開放される。
だから俺は──それまでルナの味方だ。
「なるほどな。国のためルナは闘うか。やれやれ規模が大きくなっていくな」
ただ家族を止めるだけなく国を背負っているとはたまげたもんだ。
だが、引き受けたからには全力でやるだけのこと。
「生、貴方が来てくれて本当によかった・・・感謝するわ」
自分だけでは敵わない。それでルナは俺に頼った。もし俺を必要にならなければルナはきっと強く成長したのだろう。
このままでいいのだろうか。俺はどうしたらルナを覚醒させられるのか。シャルルを倒すには必要な力、それをルナは持っている。
ライブラリータワーに到着する前には答えを見つけないとな・・・。
──夜景の景色が見ることのできる高さ。そこにシャルルは存在していた。
窓ガラス越しに外を見て地上の様子を伺う。
「シャルル様」
後ろから声がかかる。
「どうした?」
「・・・カトリック様が倒されました」
「カトリックが・・・思っていたより早かったな」
恐らくはルナたちが動いているのだろう。なるほど、夜に襲撃する策で来たというわけか。
可能性が一番少ないと見ていた線で来ている。Mr.Kを倒したという逸材者。そいつは相当な知性を持っているな。
「クック・・・となるともう間もなく来るか。だが、果たしてこちらにたどり着く余裕はあるのか。見せてもらおう」
窓に反射して映るシャルルの不敵な笑み。その余裕さは絶対に負けないという自身を持っているのが分かるものだった。




