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逸材の生命  作者: 郁祈
第一章 学園編
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逸材の誓い

 ──あたり一面が壁だ。

 どこを見渡しても壁・・・窓もない。あるのはただ"開かないドア"だけ。

 小学生を卒業した俺はスグにこの環境に連れてこられた。

 何もないこの環境。いるのは同じ年の子供が数人だけ・・・・。


 「・・・・・」


 俺はこの頃に感情の少しを失ってしまったのだろう。

 何もない環境。そこで過ごすということはあまりに辛いこと。

 俺が生きていられたのはただ一つ・・・・この場にいた仲間のおかげ。


 「境・・・川・・・くん・・・貴方は生きて・・・・・」


 俺の前にいる子供の声がどんどん霞んでいる。

 食事も最低限しか与えられないから、俺たちは悪ければ餓死していく。

 だが、俺は生きた。生き延びたんだ。ある人のおかげで。


 中学を卒業する年頃。俺はこの何もない空間から出ることが許された。

 

 この頃には俺も少しは感情を取り戻していたが、人に対する接し方など忘れてしまった。


 後ろを振り返り、俺を閉じ込めた忌々しい空間を見つめ、


 「──お別れだ」


 この場所を後にした。










 

 チュンチュンと鳥の鳴く声が聞こえる・・・・。朝だ。


 「ん・・・夢か」


 随分と懐かしい夢を見ていた気がする。懐かしいが、あまり好ましくない夢をみていた。


 「珍しく起きれたか・・・・」


 いつもならもう少し寝ていて、幼馴染の命が起こしに来るのが日常だったのだが、今日は違った。

 退学をかけた小テストの日だからか、早く起きれたのだ。

 普段寝坊とかしている人でも、テストの日になると急に早く学校に来たりするアレと同じだろう。


 「早く起きたことだし、たまには命でも起こしに行ってやるか」


 制服に着替え、となりの家にある命の家に向かった。

 命の家も両親が家を開けており、お互いに鍵を持っている同士なので、俺でも命の家に入ることができる。


 玄関に入り、階段を登ると命の部屋が存在する。

 

 軽くノックをし、返事がないので寝ていると判断し、俺はドアを開けた。



 そこにいたのはなんともまあ、可愛らしい寝顔をした命の姿だった。


 「すーすー・・・・」


 パジャマ姿の命、枕を抱いており、髪もいつもと違って、ポニーテールでなく下ろしている。

 命の変わった一面を目撃して俺は何とも言えない気分になってしまった。


 「お、おう・・・」


 お越しに来ただけなのだが、こう起こしづらい・・・・。この可愛い寝顔をもう少し見ていたい。そう思ったのだ。


 なので俺は命の部屋に入り、机の椅子に座り込んだ。

 命の寝顔を見て俺は、少し懐かしい気分になった。


 「久々にみたな・・・命の寝顔」


 机には恐らく俺の家から帰ったあとも少しだけ勉強をしていたと思わせる道具が置いてあった。

 何とも秀才な子だ。


 ふと、命の机を見ていると、一冊のノートが目に入った。


 「これは・・・」


 アルバムだった。

 パラっとページをめくるとそこには小学生のころから中学卒業までの命の写真があった。


 俺は小学卒業と同時に命と合わなくなったため、中学生の命を見るのはこれが初めてだった。

 今と容姿はあまり変わっておらず、違う点と言えば、制服が違うのと、少しだけ表情が悲しそうだ。


 「まあ、でも可愛いな。この制服姿も」


 パラパラめくっていると最後のページから紙が一枚落ちた。


 「おっと」


 拾い上げ、その紙を見ると・・・・


 

 「せーーーーいーーーー?」


 後ろから怖い声が聞こえる。

 この声は・・・・



 「何してるのかなぁ?」


 ニコニコ笑顔で後ろに立っていた。


 俺は紙をアルバムにはさみ、バンっと閉じて命の方を見た。


 「命・・・・いや、これは」


 弁解しようと思ったが、どうしたらいいのか分からなかった。

 女子の部屋に無言で入っている。これは何とも言えない。とくにこの年頃の女と言ったら。



 「す、すまん・・・いや、でも寝ている命も可愛かったぞ・・・?」


 なぜ、疑問形で言ってしまったのだろう。でも肝心の命は、


 「えっ、」


 顔が一瞬でボッと赤くなり


 「そ・・・そそそそそそんな」


 滅茶苦茶戸惑っていた。







  


 「も、もう・・・次から部屋に来るなら連絡してよね!」


 登校中、命はずっとこんな感じだった。

 不機嫌と言ったら違うんだが、なんか少しいつもと違った様子だ。


 「悪かったな・・・」


 とりあえず謝っておくが、


 「い、いや怒っていないのよ。ただ、ビックリしただけだから」


 おぉ、珍しい。女子は普通怒るもんだと思っていたけど命は別格だったみたいだ。


 「にしても(しょう)が早起きって珍しいよね。なんかあったの?」


 「いや、単に気まぐれなだけだよ」


 本当に気まぐれだったのでそう返しておく。


 「棗くんテスト大丈夫かな。昨日頑張っていたけど」


 昨日は棗の姉にあったりと色々あったが、棗の頑張りも少しは分かってもらえてたし大丈夫だろう。


 「問題ないだろ。少なくとも赤点はないと思いたいね」


 だからそう言っておいた。


 「生はどうせ満点でしょ?見違える程 頭良くなっているし」


 どうせ満点。それは俺が"逸材者"だから言っているのだろうか。

 俺はこの肩書きは好きではない。逸材だから出来て当たり前。何かができるのは逸材だから・・・・。

 そう言われ続けてきたから。


 「あっ、ごめん・・・そういうつもりで言ったわけじゃ」


 おっと、顔に出ていたか。コイツはやばいな


 「いや、大丈夫だよ。俺はなんとも思っていないさ」


 頭を撫ででそう言う。

 俺は命の悲しい顔は見たくはない。幼馴染として長年付き合ってきたかか、こういった感情が残っている。


 そう、俺に残された感情の一つ・・・・。それは命がいなくてはならない。



 命と話しながら登校しているともう学園の前まで着いていた。


 教室に入ると、一部の生徒はテストの時間まで一生懸命足掻く感じで勉強をしているもの。

 赤点は回避できるとスマホをいじって予鈴を待つ者。

 もうだめだと悟りを開いているもの・・・・(勉強しておいたほうがいいぞ)


 棗はというと、まだ来ていなかった。


 「棗くんまだ来てないね」


 命も同じことを思ったのか、そう言ってきた。


 「まあ、寝坊はないだろう」


 「えっ、どうしてそう言い切れるの?」


 命がキョトンとして聞いてきた。


 「──さっき玄関で、靴を脱いでいたとき、棗の下駄箱には上履きでなく、外靴が入っていたのを確認した。そこから察するに、学園には来ているがまだ教室に来ていないだけということが分かる」


 俺がそう説明すると命はポカーンとしていた。


 「・・・どうかしたか?」


 「生ってやっぱり頭いいよね・・・ううんそれだけじゃなくて視野も広い」


 まあ、命にそう言われて悪い気はしないんだがな。


 ちなみに棗はというと、5階にいるな。

 何をしているんだ・・・?

 

 俺は頭がいいから逸材者と呼ばれているわけではない。世間では頭だけしか見られていないのだが本当は


 『頭脳、視覚、聴覚、嗅覚 ありとあらゆる機能が普通の人間より超越しているのだ』


 普通はその一つが満たしている人を"逸材者"と読んでいるのだが、俺は特殊すぎるのだ。


 命に説明したのは少し語弊があって、本当は──


 玄関に到着したとき、棗の靴箱から外の匂いがした。

 さらに棗の歩調音を聞き、居場所を大方絞り出し、現在、窓から棗の位置を特定することができたのだ。


 音を聞いて人の位置を把握するのは結構至難の(わざ)だが、慣れればどうってことない。

 だが、これには少し集中する必要があるのであまり多用することはない。

 いつもは視覚機能くらいしか使わない。だが、今回は棗が遅刻していないかを確認するためだったのでフル活用させてもらったわけだ。



 「まあ、もうすぐ来だろ」


 そう言って俺は席に向かった。


 が、


 ─ガン・・・・

 

 足を引っ掛けられた。


 「ッ・・・」


 俺は急に足をかけられたので、どうすることも出来ず、前から倒れてしまった。


 「生・・・!」

 

 命が驚いていたが、クラスの反応は驚きではなく、笑いであった。


 「おい、見たか今の」


 「あれで視野が広いですって・・・クスクス」



 などと、言いたい放題言っている。



 「ねえ、命さん。あんな奴と関わるのやめなよ。あんなやつのどこがいいのよ」


 近くにいた女子が命に向かってそう言っている。


 命はというと、


 ボロ・・・


 涙を一粒流していた。


 「命・・・さん?」


 近くにいた女子は少し困惑していた。


 まずい。命が泣く・・・。



 ──泣く?命が・・・・・泣く・・・・──


 

 俺は立ち上がった。


 立ち上がった先に用意されていたのは人間の肘。

 これは俺は起き上がったと同時に俺の頭に肘をあてるつもりなのだろう。

 だが、俺は、それを手で先に受け止めた。


 「なに・・・?!」


 肘をスタンバイしてた人物は俺の行動に驚きを隠せなかった。


 「──」



 俺は目を鋭くして、クラスの周りを見渡した。


 ・・・なるほど、このクラス全員が主体でこのようなことをしたのか。


 コツコツと歩き、俺は命の前に立った。


 「ぐす・・・生・・・・」


 命は泣いていた。泣いてくれたのだ。俺なんかのために。

 俺はどんなにクラスに嫌われようと、コイツは俺の味方でいる。

 

 「心配かけたな。でも安心しろ。足を引っ掛けられただけだ」


 そう言って命を励ます。


 



 「ププ、なんだよ彼奴カッコつけやがって」



 遠くからぼそっと誰かが言っていた。


 俺は聞き逃すことをなく、その声がした方に向かってチョークを

 

 ビュンッ


 と投げた。


 チョークは誰にも当たらず、壁にめり込んでしまった。


 「え・・・」


 ぼそっと影で言葉を発した生徒は驚きを隠せず、カタカタ・・・とこっちを向いた。


 俺は一体どんな顔をしているのかはわからなかった。でもきっと怖い顔をしていたんだろうな。


 「言いたいことがあるならはっきりいいな。それとも何か?声が小さいのか。だったら悪かったな。謝るよ」


 そういった。

 その瞬間クラスはシーンとなり、一斉に俺の方を向かなくなった。


 「・・・少し教室を離れるわ」


 「待って・・・私も」


 命は俺の後を追い、二人で教室を離れた。





 


 屋上は風が強かった。でも幸い人は誰もおらず、ちょうどいい場所だった。


 「生・・・なんかゴメンね」


 命は屋上につくなり誤ってきた。


 「私が余計なことをいったらから、こんなことになったんだよね。その・・・ごめんなさい」


 「別に命は悪くない。遅かれ早かれ俺はこうなっていただろう」


 逸材と呼ばれ、俺は授業にでないことが多い。

 当然それではクラスに馴染むことは愚か、友達だってできやしない。

 だからクラスで嫌われても当然なのだ。   


 「命、そろそろ予鈴がなる。お前は教室に戻りな」


 今日は小テスト、教室に戻らないとテストは受けれない。

 テストを受けないとこの学園からは退学になってしまう。そうなってしまうのはよろしくない。


 「生は?」


 「俺は少ししたら戻る。大丈夫、チャイムには間に合わすよ」


 俺がそう言うと命はホッとした様な顔をして、屋上を後にした。


 



 「ごめんな・・・命」



 俺が教室に戻るといったのは嘘。


 俺はもうこの学園にいるべきではないのだ。


 俺はクラスに馴染むことはできなかった。いや、授業を真面目に受けたとしてもだ、俺は無理だったのだろう。


 棗と命がいたからこそ、2ヶ月間頑張ることができたのだ。

 あの二人には感謝してもしきれないなぁ。



 教室に戻ったところで、状況は悪ければ悪化しているだろう。

 チョークを飛ばしたやつはきっと俺が教室から消えて、何かもっとタチの悪いいじめ行為をしてるんだろうな。


 偏差値の低いこの学園。そりゃ当然のこと態度も悪い。

 だが、上に行くには真面目な生徒のみしか上がることは許されない。

 馬鹿は上がることは出来ず、切られるだけ。



 「高校中退したら、逸材者なんて呼ばれなくなるのかな」


 そうだとしたら願ったり叶ったりだ。

 俺はこの呼び名を嫌っているからこそ、今の俺となっている。

 もし、この呼び名が消えるのなら・・・変われるのかもしれない。


 「それで君はいいのかな?」



 後ろから声がした。振り返らずともこの声は聞き覚えがあったので俺は振り返らず答えた。


 「いいんじゃないですか?"生徒会長"」


 声の主は生徒会長だった。


 「ここを中退したらお前はどう生きる?中学卒業程度の学歴ではいくらお前といえども何もできやしないぞ」


 「俺はクラスに戻る価値はないんですよ。だから、どうにかして生きてみせます」


 「フム・・・・お前には期待してたのだが、やはりこの学園を選んだだけの逸材者だったか」


 いつものようにメガネをクイッと上げ、そう言った。


 「何に期待していたのかは知りませんが、俺は所詮こんな男なんですよ」


 「フ・・・そいつはどうだか。元"Nothing(何もない部屋)"のやつが言うか?」

 

 「・・・どこでそれを?」


 俺は驚いたが、顔には出さず、振り向き、生徒会長に問い詰める。


 「なに、驚くことはない。逸材者は世界で見れば大きな規模だが、お前のように若いうちからの逸材者はそういない・・・」


 「もし、あり得るとすれば無の部屋の卒業者・・・」


 無の部屋、それは俺が中学時代過ごしてきた部屋のこと・・・通称"Nothing(無の部屋)"

 この部屋はただ単に人間を教育するだけの部屋で、娯楽等を一切禁じられる部屋のこと。


 逸材の才能を秘めた人間だけが、ここに集められ教育される。

 そうすることによって、眠っている才能を若くして呼び起こすという極めて簡単なことを行っていた。


 だが、それは同時に、実験者である俺たいの命をもどうとみない奴らだったので何人もの犠牲が出てしまった。


 しかも、その部屋から出れるのは逸材の才能を開花させたもののみ・・・対象年齢は中学時代限定なので、3年間で才能を見いだせなかったものは、その場で殺されてしまうのだ。


 俺は奇しくもギリギリで才能を開花させ、あの部屋から卒業することができた。だから今という人生、俺は生まれ変わったとも言えた。


 「あの部屋は噂でしか聞いたことがないが、若くして逸材者とも呼ばれるのであれば、噂は信じる他ない」


 「・・・先輩、あなたはなぜ、そこまで知ることができたのですか?」


 「簡単なことだよ。俺には妹がいた。だが、その妹はこの前の3月に亡くなったのだ・・・・」


 「まさか」


 薄々、予想ができた


 「そう、俺の妹はお前と同じで無の部屋に連れていかれた。しかし、アイツは才能を見いだせず、殺された・・・」


 あの部屋には何人もの人がいた。だから生徒会長の妹の顔はわからない。


 「お前を見て、思ったことがあるよ。もし妹があの部屋から帰ってきたとしても、苦しいだけだっただろう」


 それは俺と同じになると言っている。


 「だが、俺はお前に妹の分も生きてもらいたいと思っている。故に、この学園からもいなくならないでほしい」


 妹さんは逸材の才能はあったが、反対に兄である生徒会長には才能がなかった。だからこの人は天才どまりなんだ。


 「──この学園は確かに、色々とおかしいところだ。だが、この学園を変えれる存在は、境川生、お前だけだ」


 メガネを上げ、更にこの人は、


 「お前に有力な情報だが、あえてここで言おう・・・」


 いつになく真剣になり、生徒会長はこういった。


 「──"Nothing(無の部屋)"の設立者・・・考案者はこの学園の裏にいる」



 

 ──俺たちを苦しめたあの部屋の元凶はこの学園に潜んでいる・・・・。



 ──つまり、この学園から退学をするということは、


 ──俺は、一瞬頭の中で命のもしもの時が浮かんだ。


 あいつに俺と同じ末路をたどらせてはならない。


 そのためには俺はこの学園で足掻くしかない。


 「俺が生徒会長になったのは妹のこともある。俺とてこの学園のやり方は気に食わない」


 ──だったら、やってやる・・・・!


 「いいでしょう。あんたの話、信じます・・・」




 『境・・・川・・・くん・・・貴方は生きて・・・・・』




 あのときと同じなんてゴメンだ。俺は・・・俺がこの学園を変えてみせる。



 俺は幼馴染を守るため、そう誓った。


【キャラ説明】

恋桜(こいざくら) 祐春(ゆうし)

性別:男

能力:──

説明:恋桜学園の生徒会長。メガネをかけておりよくクイッと位置直しをする。戦闘面、頭脳面に関しては逸材者と同レベル(でも逸材者ではない)

容姿:身長186cm

学校:恋桜学園 3年

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