Shut up! You scum.
「──黙れってんだよ下衆が」
俺はシルバーと言われる男に向かってそう言った。ルナを侮辱したコイツを許すわけにはいかない。
「生!!」
「はっ、おもしれぇ...こんな好戦的な猿は始めてだ」
舌をだしペロッと仕草をするシルバー。身長も筋肉も俺たち日本人とはかけ離れている。だが、こいつは逸材者ではないと瞬時にわかった。
理由は極めて簡単。それは俺を猿呼ばわりしたことだ。もしシルバーが逸材者なら俺の存在を知っているはずだ。いくらこいつが日本人を馬鹿にしているからといってもMr.Kを倒したという俺の存在はどこからか聞いていてもおかしくはない。
「いいぜ。いっちょ遊んでやるよ。お前みたいな馬鹿はシャルルさんに合わせるまでもねえ」
シュッと拳を前にだし瞬時に戦闘態勢に入る。
そしてシルバーは思いっきり拳を振り
「死ねえ!!」
と叫んだ。
だが、
「ッ・・・!」
シルバーの拳は俺に届く前に止まった。
「どうした?」
「な・・・ッ」
恐らくシルバーの視界には一瞬だが俺という存在が消えたはずだ。俺はシルバーが攻撃した来た瞬間、左手をゆっくりと伸ばした。
人間視界にふと現れた物が目に入れば嫌ずともその物の方に視界が寄ってしまう。それを利用したのだ。結果的にシルバーの視線は誘導され見ていた範囲から俺の姿が映らなくなったのだ。
「貴様・・・猿の分際で」
何が起きたのかも分からないシルバーは怒りで冷静を失っていく一方だ。
「くそがァァ」
ブンブンと拳を俺に向けて振りかざすが、シルバーの攻撃は全て俺には当たらなかった。
「なぜだ!なぜ当たらない!!」
「──そりゃあな」
ボゴッ、と俺はシルバーの目の前に入り一発決める。
俺の拳はシルバーのお腹にヒットしシルバーはそのまま前から倒れた。
「お前が殴っていたところは俺がいないところだったからな。常人のお前には俺がいるように錯覚したのだろうな」
聞こえてはいないだろうが俺はシルバーに向かってそう言った。
辺りからザワザワと声がする。少し派手にやりすぎたみたいだな。
「ルナ、行くぞ」
「え!?あっ・・・」
逃げるように俺とルナは空港内から抜け出した。ここで目立つのは少々宜しくないからな。シルバーの処理は誰かがやってくれるだろう。
空港から出てしばらく俺たちは走った。
「はあ、はあ・・・生、さっき貴方・・・」
息が切れたのかルナは立ち止まり俺に話しかけてきた。
「行ったのって視線誘導だけじゃないわよね?だってシルバーが殴った時貴方は確かにその場に立っていた。でも攻撃は生をすり抜けた・・・」
「・・・跳躍だよ。視線誘導と時間跳躍の合わせ技」
対象の相手の視界を混乱させる技である「視線誘導」、それに加えて1.5秒だけ先の世界に行くことのできる技「時間跳躍」
世界の先に行くことにより俺は相手に消えたかのように目の前から消え、攻撃を繰り出すことができる。まあ実際その時間内に俺がいないから消えているで表現は合っているんだが。
それでだ。通常は消えている俺だが、そこで視線誘導を同時に使うことで消えた俺の位置に俺がいるように錯覚させることが出来るんだ。つまりさっきの状態で言うとシルバーの視界には1.5秒前の俺の姿が映っていたということになる。
本来は消えている俺の姿だが、錯覚に引っかかることによってそこに俺がいるかのように思わせたのだ。
「・・・それ普通に凄くない?」
「そうか?」
「時々思うんだけど生ってやっぱり常識外れの強さよね」
ルナから見れば俺はそんな風に見えているらしい。だけど俺にとってはMr.Kや御神槌と言った奴らの方が十分に強いと思っている。
「でも貴方はそういう人たちに勝ってきてるじゃない」
「まぐれだ」
「まぐれで二回も私に勝ったというのかしら」
「・・・・・」
そうだった。ルナとは二回闘っている。しかも俺の全力を見せてくれと言われた時だってあった。つまりルナはある程度俺の実力を把握しているということになる。
ガサ....後ろの茂みの方から誰かが出てきた。
「....見つけた」
それはさっき空港で倒したはずのシルバーだった。
「さっきはよくもやってくれたな」
「なんだ懲りないやつだ。また倒されに来たのか?」
「はっ、倒されるのはそっちの方だ。ルナが連れてきた猿がまさか逸材者だとは思わなかったよ。しかもどうやらただの逸材者じゃないみたいだな。その強さ、見せてもらったからな」
シルバーは俺の実力を垣間見たというのにも関わらず、挑戦的な態度だった。
なぜだろうか一瞬彼は余裕そうな笑みを浮かべたのだ。
「やれやれ」
俺は頭をかき時間跳躍を使った。
世界がスローに見えてくる。当然今の俺の動きは超越した速さであり、ルナやシルバーから見ればまだ俺が動き始めたのも体感できていないであろう速さだ。
こんどこそ終わりだ。
俺はそう思ってもう一度シルバーの腹を目掛けて拳を向ける。
だが──
「来ると思ったぜ」
「ッ!!」
その刹那バッと俺は後退した。フッと時間跳躍は解除され、時は正常に動き始めた。
驚いたことにシルバーは1.5秒先の世界に入ってきた。逸材者でもないこいつが俺に反応したのだ。
「驚いているな?しかしまあこちらも驚かされたぜ。猿ごときが時間を越える力を持っているとはな・・・」
シルバーは不敵にこちらを見てくる。時間跳躍を攻略してご機嫌のようだった。
「生の攻撃を防いだの・・・!?」
ルナは何が起きたのかは理解していなかったが、自分で防げなかった技を何の取り柄のないシルバーが防いだことに驚きを隠せていなかった。
「猿ごときが俺に適うわけねえだろ。いきがるなよ猿がッ」
ダッとこちらに向かってくる。だが──
俺は再び時間跳躍を使う。だがやはり
「無駄なんだよ!!」
こちらの動きにシルバーはついてくる。1.5秒の先についてきているのだ。
どういうことだ。なぜこいつは俺の動きについてくる・・・。
考えてみるが、常人がついてこれる理由が思い当たらなかった。
深く考えているうちに俺はシルバーを一瞬だけ見失ってしまった。
「しま──」
ドゴォ・・・シルバーは俺の死角である右方向に回っており、強烈な蹴りを喰らわしてきた。
俺は反応できずに大きく吹き飛ばされてしまった。
「生!!」
「次はお前だぜルナァ・・・」
シルバーは首をクリッとルナの方向に向ける。
シルバーの攻撃は俺にとって強烈な一撃だった。今まで闘ってきた誰よりも重い攻撃、それは体格の違いである。
これがアメリカの実力・・・。逸材者のみでなく常人までもが俺たちの逸材クラスになっている。
だが、そう考えるとルナは俺たちより下にいる。つまりシルバー個人が恵まれた体格なだけか。
トコトコとシルバーがルナの方に向かっているのが分かる。ハッキリとしているのは今のルナではシルバーには勝てない。
奴はなんの力もないが、その体格は逸材の力をも超えている。アメリカ版棗ってところか・・・。
「へへ、ルナァ・・・」
「くっ」
ルナの目の前にシルバーが立つ。その光景はあまりにもありすぎる身長差で凄いものだった。
巨人の前に小さい人物。体格差で不利だというのに、力でも圧倒的に劣っているこの状況でルナに勝ち目なんてない。
「逃げろ・・・ルナッ」
俺はルナに向かってそう言う。
「はっ、猿が!まだ動けたか・・・だが立ち上げれやしないぜ。しばらくはな」
シルバーの攻撃は重く動けるようになるまで少し時間がかかってしまう。
だが──そんな程度で負けるかよ。
俺は目を見開き全身に力を入れた。
「──くらえルナァ」
シルバーは俺に喰らわせた蹴りをルナにもやろうと足をあげる。
「ッ・・・」
ルナは臆して目をバッと閉じてしまいその場から動かなかった。
ガッ、
「ん?」
俺は力を振り絞り、その場を立ち上がってシルバーの元に向かっていた。
故にギリギリで追いつくことができた。
「ほぉ、立っていたか猿」
ギラリと俺の方に視線を向ける。
「悪いが──俺の目的はアンタじゃない。ここで倒れるわけにはいかねえんだよ」
「目的・・・はっ、ルナと一緒に来たってことはどうせシャルルさんを倒すんだろうよ。だがなぁ貴様なんかが勝てるわけねえんだよ」
「だったら──」
「あ?」
いいだろう。アメリカの強さは理解した。常人でさえ日本とは比べ物にならないくらい強い奴らがいる国。そんな国が相手なんだ。
久々にやってやるよ。
──バチバチ・・・
俺の左目からバチバチとイナズマのような光が出る。
「なんだ・・・お前」
いつぶりだろうな。この力を使うときが来たのは。無の部屋で極限までに集中力を極めた俺だから使えるこの技。
無の境地に立つことで発動する力。
──極限の極致
極限まで集中する事で使用可能になる技。思考が一時的に停止し代価として身体能力が極限まで上昇する大技だ。
「はっ、何をしたかしらねえが意味がねえんだよッ」
ブンと拳を振りかざしたが、
フッ──と俺は目の前から姿を消した。
時間跳躍ではない。故に一瞬で拳を回避した俺の動きは残像となりちゃんとその姿を残している。
クルッとターンをして俺はシルバーの攻撃をかわしたのだ。
「速い!!」
シルバーは1.5秒先の俺に反応してきた。だが、今の俺の動きにはついてくることはできず、見事に翻弄されていた。
だが、今までの動きの経験から予測し、辛うじて俺の動きについてきている。
シュンシュンと俺とシルバーは高速で動きあい、お互いに攻撃の隙を伺っている。
ルナの視線からはどんな風に見えるのかは分からないが、ルナはきっと改めて俺の実力を知ってしまっただろう。
俺とシルバーの高速の動きは一見終わらないように見えたが、俺は身体強化をし動いている反面シルバーは自身の力だけで動いているため、体力が切れかかっている。
「しま──」
ガクッと足が崩れてしまい、シルバーはその場で動きを止めた。
「改めて思い知れシルバー」
グッとシルバーの目の前にジャンプし拳を構える。
そして──ドッゴオオオオオッ!!と大きな一撃をお見舞いした。
「──これが逸材者だ」
タッ、と華麗に着地し今度こそシルバーを仕留めた。
フッと目からは光が消え俺はいつもの状態に戻る。少し発動時間が長かったかな。この技は極限まで力を引き出すから使い終わったあとの体力の減りが大きい。
だからあまり乱用することはできない。一種の禁忌の技となる。
「生・・・貴方」
ルナには見られた。始めて会った時ルナは俺に全力を希望していた。だが、あの時俺はこの技をルナに対しては使っていない。
「ルナ・・・・その」
なんて言うべきか。力を隠していたことに対して謝るべきなのだろうか。
「強いのね・・・」
ルナはそれしか言わなかった。本当だったら怒られてもいいところなのにそれしか言わなかった。
その時のルナは俺の顔をみずに下を向いたままだった。




