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逸材の生命  作者: 郁祈
第四章 アメリカの才女編
47/130

決戦前夜

 ──コツコツコツ....と足音が反響する。

 そこは音が響く所だ。


 「シャルル様」


 そう言って手下っぽい人物はシャルルに話しかける。


 「たった今連絡があったところ、伊吹龍は境川生に敗れたとのこと・・・」


 「──ほぉ?」


 話に振り向かず、続けろとシャルルは言う。


 「はっ、情報によりますと標的を外すことのない伊吹龍がなんと攻撃の際放った銃弾が外れたと言われております」


 「銃弾を外した・・・・それは外させたというのが正しいだろうな。恐らく何らかの方法で伊吹の攻撃を妨害したのだろう」


 シャルルはニヤリと笑い、


 「──境川生...フッ、面白い」


 そう言ってシャルルは部屋の奥へと消えていった。

 シャルルは動じることなくただ単に笑っているだけだった。余裕で不敵な表情からは絶対な自信があるということなのだ。












 

 






 ──家に帰りテレビをつけるとどのチャンネルも緋鍵高校の近場のニュースばかりだった。

 内容はどれも同じで「学校付近で銃発砲!?」「緋鍵高校近辺にて重体少年が倒れていた」などだった。

 俺は救急車が来る直前に引き上げているので直接その場には居合わせていない。重体少年という言葉は俺にも当てはまると思うが、まあ・・・俺はスグに完治するだろうし、問題ないだろう。


 ボロボロになった俺は現在、手と足がまともに使えない。辛うじて足は動くため歩くことはできるのだが、両手は伊吹により射抜かれており、まだ完全に動かすことはままならなかった。


 「(しょう)・・・大丈夫?」


 命は俺を心配してくる。


 「ん?ああ・・・大丈夫だよこれくらい」


 本当は腕とかブンブン振って元気アピールの一つでもしてあげたいが流石にそんな力はなく俺は優しい声だけでしかそう伝えられなかった。


 「しかしシャルルが刺客を差し向けてくるとは迂闊だったわ」


 ソファに座っているルナは悔しそうな顔でそう言った。

 シャルルはアメリカにいる極悪な存在だ。だがそのシャルルが俺たちを前もって始末しようとしたことに誰もが予想外だったのだろう。

 

 「だがまあアレだ伊吹のおかげで色々新しい戦法も身につけれたんだ」


 伊吹との闘いで身につけた新しい技「視線誘導」──それは対象の相手の視線をずらし錯覚を引き起こさせる技だ。発動条件が"こちらが二人以上"というちょっとネックなところもあるが、発動できれば大きな効果をもたらすのだ。

 例とし敵がルナを見ているとする。だがそこで俺が視線誘導を発動し一瞬だけ視線を俺の方に向けると相手の視界からはルナが一瞬消えたように見えるのだ。これをうまく使うことで敵の攻撃をずらしたりこちらが消えたような攻撃が可能となるのだ。

 

 「確かにあの技はすごいと思うわ。でも使えば使うほど弱くなるじゃない」


 ルナの言っていることは確かだ。視線誘導の唯一の欠点・・・そうそれは乱用できないということだ。手品や戦法もそうだが一度見て体感してしまったものには効力が薄れてしまうのだ。そしていずれには視線誘導に翻弄されることなくなってしまう。

 

 「・・・そうだな。確かにあの技は乱用できない。だが、シャルルには勝てると思うぜ」


 「何を根拠に・・・」


 根拠なんてない。あったとしても言える事ではないのだ。俺は気づいているのだ。シャルルを倒す唯一の方法。そうそれはルナの逸材能力にかかっている。

 もしルナが何かをきっかけに逸材の力を「完全に」使いこなせれば誰よりも強い力なのだろう。だがそれはまだ言う時ではない。

 

 「生・・・明日には出発しちゃうんだよね」


 「ああ。そうだな明日の朝には飛行機に乗り込むつもりだ」


 向こうとは時差もあるし明日には出発することになっている。行くのは当然俺とルナ。リアも連れて行きたかったのだが、彼女はアメリカで一度逮捕されているから迂闊に連れて行くのはマズイとルナに言われたためお留守番だ。

 今回の闘いに御神槌(みかづち)も楠も会長も棗も連れて行かない。何が起こるか分からないこの闘いにあいつらを巻き込むわけには行かないからな。


 「本当は私もついていきたいんだけど」


 命は寂しそうな表情をしそう言った。


 「でも私は足でまといにしかならないからね」

 

 「そんなことはない」


 命のマイナスな言葉に俺は違うと言い張る。


 「お前の力は知っている。未来を見る力それは俺にとってどれほど助けられたことか」


 その能力がなければ俺はMr.Kには勝てなかった。その力がなければ俺は死んでいた。

 

 「だから決して足でまといなんかじゃない!それだけは本当だ」


 「生・・・」


 その言葉に命は少し表情がよくなる。

 やっぱり悲しい顔はされたくないよな。笑っている方が俺も元気になれる。そう思った。


 ピンポーン

 突然チャイムが鳴った。


 「あれ?生誰か来る予定あったっけ?」


 「いや特には・・・」


 もしかして新手の敵か?伊吹を倒し今の状態の俺なら仕留められると新しい敵を送り込んできたのか。


 「ルナ。悪いがちょっと見てきてくれ」


 俺は万全に動くことができないためルナにドアを開けるように言った。


 

 「はいどちらさ──」


 玄関越しに聞こえたルナの声が聞こえなくなる。


 「ルナ?」


 俺は命に支えてもらい玄関の方に足を運ぶ。

 

 「──久しぶりだね。境川くん」


 そこにいたのは小さい容姿をし子供に負けないくらいの顔つきの青年・・・ここ最近合わなかった人物、恋桜学園の学園長だった。


 「生この子と知り合いなの?」


 ルナが学園長を指刺して聞いてくる。


 「知るもなにも俺たちの元々の学園長だよ」


 「えっ、この子供が・・・!?」


 ルナがそう言うと、


 「君失礼だよ。僕はこれでも君よりは年上なんだからね」


 そう言って怒っていた。


 「兄様~お客さん?」


 後ろからリアがガバッと現れる。

 

 「あれ境川くん・・・この子達は・・・?」


 いつの間にか賑やかになっていた俺の家の住人たちを見て驚いている。

 まあ無理もないよな。元々一人暮らししていると言っておきながらこんなに人を連れ込んでいるんだから。


 「中で話しますよ。どうやら俺を訪ねてきてるみたいだし」


 「・・・ありがと」


 そう言って学園長は俺の家に上がり込んだ。





 「──てな感じでルナとリアは俺の家に居るんです。まあ話したとおり俺とルナは明日からはちょっと遠くに行くんですけど」


 ルナとリアのこと、そして明日のことや今日のことを俺は学園長に話した。

 みんなには席を外してもらっているため二人だけで会話を進めている。


 「なるほどね。リアさんはあのテレビで報道されていた子だったわけね。どうりで見たことあると思ったよ」


 お茶をすすりながら学園長はそう言う。


 「それで学園長は何で俺を訪ねてきたんですか?」


 本題はこっちのはずだ。俺は元々学園長と合う約束はしていない。なら向こうの要件が本題のはずなのだ。


 「恋桜学園の今後について教えようかなと思ってね」


 そう言って学園長は喋ってくれてた。


 「──まずMr.Kという存在がいなくなりウチの学園は大きく変わろうとしている。本来彼が支えていた部分は今人手が足りなくなってしまっている。皆協力してくれてはいるんだけどMr.Kが抑えていた物はとても僕たち一般人では難しいことばかりだったんだ」


 Mr.Kが恋桜学園に与えていた影響はとても大きいものだった。あの学園の決まりやルールは彼が決めたものであってその人物がいなくなったことで改革が進められてるらしい。

 その中心となっている人物は「恋桜(こいざくら) 祐春(ゆうし)」・・・会長だった。

 彼は今三年生で来年には卒業をする予定だ。それと同時に会長は恋桜学園の職員側に就くことになっているらしい。

 学園長も彼なら信頼できるしいい学園にできるはずだと言っているため反対者は出なかったとのこと。


 「祐春はホントデキのいい人物だよ。彼の行いは生徒会で色々伝わっていたからね。こんな形で学園を維持する側の立場に回るとは思っていなかったけど」


 「それだけを伝えに来たわけじゃないですよね・・・学園長」


 学園の変化、それだけならもっと遅く報告しても問題はないはずだ。だがこの時期に学園長が来たってことは他にも理由があるはずなんだ。


 「・・・相変わらず鋭いね君は」


 参ったなぁと頭をかきながら学園長は口を開いた。


 「──日本政府が君を欲しがっているんだよ」

 

 「ッ・・・」


 「君がMr.Kを倒したということは全国のトップクラスの人物には知れ渡っていることなんだ。外国の方では君を危険人物扱いしている国もある。いつ暗殺されてもおかしくはないんだよ・・・現状ね」


 俺を狙ってくる人物はいくらでもいる。だがそれに対抗するよう日本政府に俺が就き、やられる前に動くって寸法だろう。


 「もちろん君個人の意見は尊重されている。でも確かアメリカに行くって言ってたよね」


 「はい。倒さなきゃいけない人物がいるんで」


 「もしそれをやったら君はアメリカから敵視されるかもしれない。君たちの仲間に被害が行くことも十分にある」


 なるほどな。俺のこれから行っていく行動は世界を敵に回すということでも間違いはないのだろう。アメリカから見ればシャルルは悪の人物だが、逸材者として見られているため、人間的には欲しい人材なのだろう。

 だがもし、それを俺が倒したと聞けばアメリカは日本を生かしてはおかないのだろう。


 「それを踏まえて君はどうする?」


 日本政府に就くか就かないか・・・そんなの考えるまでもない。

 俺の答えはとうに決まっている。


 「入りませんよ。日本政府なんかに」


 「参考までに理由を聞かせてくれるかな」


 「──仮に俺が日本政府に就いたとしても、俺の命の保証はどこにもない。それに俺の暗殺なんて言葉はただの脅しに過ぎない。政府が本当にしたがっているのは俺の膨大な知性と力・・・それを欲しているんでしょう。仲間に危害が及ぶことは承知しているます。でも俺は決めたんですよ。何があっても守ると。その誓いがある限り俺は個人で皆を守りたいと思うからです」


 「なるほどね。わかった、そう伝えるよ」


 そう言って学園長は席を立つ。


 「帰るんですか?」


 「うん。伝えることは伝えたしね。学園が復帰したとき僕は君を待っているよ」


 トコトコと玄関まで歩いていく。

 

 「そう言えば気になったんですけど学園長の名前未だに知りませんね」


 ずーと学園長と呼んでいたせいか本名を聞いていなかった。


 「フフ、今更だね」


 「すいませんね」


 「いやいいさ──秋音(しおん)・・・僕は恋桜(こいざくら) 秋音(しおん)って言うんだよ。境川くん」


 ニッコリと無邪気な笑みを見せ学園長・・・恋桜秋音はそう言った。


 「じゃあね!」


 そう言って学園長は去っていく。

 バタンとドアが閉まる音を確認し俺は鍵をかけた。


 恋桜・・・?そう言えば会長の苗字も恋桜だったかな。

 まさか二人は親子・・・?


 今まで気がつかなかったがあの二人はどこか似ているところがあった。それは侮れない存在ということ。

 こんな形で教えられるとはな。まいったぜ。


 だけど最後に学園長に会えてよかったと思う。


 「それじゃ・・・しばしのお別れだな」


 こうして俺は最後の夜を過ごすのだった。

【キャラ説明】

恋桜(こいざくら) 秋音(しおん)

性別:男

能力:──

説明:恋桜学園の学園長。幼い容姿からよく子供と間違われることが多い。口調もどこか幼いところがあるが、生徒会長である恋桜祐春(こいざくらゆうし)の父親である。

容姿:子供顔/低身長

学校:恋桜学園 学園長

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