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逸材の生命  作者: 郁祈
第四章 アメリカの才女編
46/130

視線誘導

 「勝つか・・・はっ、その状態でどうやって勝つというのか」


 倒れている俺の前に伊吹は銃を向けそう言った。


 「そこの二人も逸材者のようだが、所詮は雑魚だ。その二人を使ったところでお前に勝機などない」


 伊吹の力はどんな位置からでも狙撃することのできる空間絶対領域、それは建物に逃げようが射抜いてくる恐ろしい力だ。

 だが──


 「命、お前は常に伊吹の弾丸のくる場所を見ていてくれ。そしてルナお前は命が指示した場所に向かい弾を飛ばすんだ」


 命の力で未来を見通し弾丸を予測する。そしてその弾丸をオーラを(まと)ったルナに迎撃してもらう戦法だ。

 伊吹は命とルナの力をまだ詳しく把握していない。それが唯一残された勝機だ。


 「・・・分かったわ」


 「命、足引っ張るんじゃないわよ」


 二人は納得してくれた。


 「──やるぞ」


 「「ええ!!!」」


 俺の合図と同時に二人は戦闘態勢に入る。命は一瞬で力を解放し(えい)の姿に変わる。


 「ッ!!消えろ──」


 伊吹の叫び声と同時に四方八方に弾丸が放たれる。弾丸は壁に当たりカンカンと跳弾を繰り返している。

 通常なら予測することのできない銃弾、だがしかし


 「ルナさん!右斜め上45度」


 命が指を刺しその位置を示す。


 「そこね!」


 ダン!とルナの指先から中くらいの弾が放たれる。

 パァン....と放った先に伊吹の弾丸があり見事に相殺された。


 「なにッ・・・」


 "予測不可能(・・・・)"な弾丸を"予測(・・)"し防いだ。その光景に伊吹は驚きを隠せなかった。

 

 「俺の攻撃方向を予測した・・・いや、まさかな」


 ヒュんヒュンと残りの弾丸が跳弾を繰り返している。だがやはり─


 「ルナさん左下と左斜め上来るよ」


 「OK!──そこね!!」


 命の指示通りにルナは弾丸を撃ち落とす。当たる前に行動しているため当然俺たちに向けて放たれた弾丸は全て無力と化した。


 「馬鹿な・・・そのようなことが」


 「伊吹、お前は命とルナを雑魚呼ばわりしたな。一つ教えてやるよ。どんない弱くてもきちんと使いこなさえればどんな強いものよりも強いんだぜ」


 ゲームとかでもよくある雑魚キャラ、どんなノーマルでも上のランクには遠く及ばない。でもそれは一見そう見えるだけ。どんなに強いものでも使用者が弱ければ話にならない。

 強さだけが全てじゃない。戦術や使い方によって物は大きな進化を遂げるのだ。現に未来を見るだけの命、オーラを纏いそのオーラで闘うルナ。一見使いどころのない力に見えるが、二人が合わさうと未来を予知し、攻撃の方向を見通しそれをルナが迎撃するという完璧な戦術が完成する。

 

 「・・・・これは撤回する必要があるみたいだな。そこの二人も侮れないわけだ」


 伊吹は驚きはしているが特別焦っている様子もなく、冷静にそう言った。

 

 「しかし──未来が見えるからといってこの俺の攻撃が防げると思っているのなら心外だな」


 ヒューーーン・・・後ろからそんな音がした。


 「ッ、ルナさん後ろ──」


 音に気がつくと同時に命が後ろを向き叫ぶ。

 ルナもそれに反応し振り向くが、


 ドォン・・・


 ルナの反応速度より、弾丸の速さが上回りルナに銃弾が直撃した。


 「る、ルナッ」


 弾丸をまともに食らった・・・・そう思ったが、

 ルナは倒れずそのまま立っていた。


 「・・・あ、危なかったわ」


 弾丸はルナの目の前にポロっと落ちる。

 どうやらルナの纏っていたオーラが盾の代わりとなりルナの身を守ったようだ。


 「ちぃ・・・厄介な力だ」


 ルナを仕留めたかと思っていた伊吹は倒れなかったルナに対してそう言った。

 

 「さて....そろそろ決着つけたいな」


 「貴様・・・まだそんな力が」


 様々な箇所を撃たれた俺だったが、何とか力を振り絞り立ち上がった。

 正直言って足にも手にも力が入らない。立つのが精一杯って言ったところかな。

 でもこの二人が勝機を作ってくれたんだ。無駄にはできない。


 「二人が頑張ったんだ。ここで俺が立たずしてどうするんだよ・・・」


 「生・・・」


 「ダメよ。無理しちゃ」


 命に支えられてしまう。守るって決めたのに守られてやがる。情けないぜ全く。


 「私たちは大丈夫だから」


 ルナの優しい言葉が俺の心に届く。だが、


 「なっ」


 ルナの右方向からいつ伊吹が放ったか分からない弾丸が飛んできた。

 俺は手のひらを弾丸の方に向け、


 フッ──と風のようなものを出した。


 バシュゥッと弾丸は一瞬で消滅し、跡形もなくこの場所から破片残さずして消えた。

 

 「大丈夫・・・か。今みたいに不意打ちもあるんだぜ。命が油断していれば弾道は予測できない。だろ?」


 俺は消滅の力を使って弾丸を消すことができる。しかし、その範囲は小さく四方八方から飛んできた場合は対処できない。

 最も高速で一個ずつ消してけば問題ないのだが、弾丸の速度は人間より明らかに速く俺の「時間跳躍(タイムリープ)」で少し先に言っても無駄となってしまう。

 

 「フン、立ち上がるもそこからでは何もできない様子だな。境川生──お前は確かに強い奴だ。それほどの攻撃を喰らいよもや立っていたものは存在しない。お前が初めてだよ」


 伊吹は俺が動けまいと知っていて余裕そうにしている。

 だが、確かに俺は動くことはできない。今だって命が俺を支えているから立っていられる。そのせいで命は周りに集中できなく弾丸を予測できなくなっている。

 でもだ。勝つには・・・俺が動くしかない。この二人では伊吹を倒すことはできない。ましてや俺ひとりでも尚更だ。

 皆で力を合わせることで勝てる。その策が俺にはある。

 その策はふと俺が"出来るんじゃないか?"と密かに思っていた秘策だ。

 

 「ルナ・・・」


 俺は小声でルナに喋りかけた。

 内容は俺の策、ルナにどう動いて欲しいかを俺は的確に伝えた。


 「──生・・・本気なの」


 「ああ。本気だよ」


 正直言ってこの策は通用するかが分からない。だが、もし可能なら伊吹の攻撃は防げることになるんだ。


 「策を講じようが、無駄だ」


 バッと銃を構え再び攻撃態勢に伊吹は入る。

 それは予想通り俺の方ではなく壁の方に銃口を向け、発砲しようとしていた。

 

 ──跳弾、それは逸材能力により高度なテクニックを可能にした伊吹が使用可能な技。だがそれには欠点がある。そうその欠点とは「一ミリでも狙いをずらせば狙ったところには届かない」という欠点だ。だが通常なら伊吹は絶対にミスをすることはない。それは逸材者が故の自信でもあり、そういう力を持っているからだ。

 だが、伊吹の場合欠点が存在してしまう。そうそれは一瞬かつ高度な動きのため狙いをずらす、つまり「視線をずらす」ことで僅かながら射程を変えることができるのだ。

 挿絵(By みてみん)

 視線誘導──それはもしかしたら出来るんじゃないかという俺の目論見で生まれた考え、方法は至って簡単だ。「ミスディレクション」言わばスポーツやマジックで使われる一種のフェイント技だ。

 伊吹は俺を撃ちに壁の方に銃を向けた。だが、奴自身の視線は俺の方を見ている。それは俺の位置から壁の場所を把握し放つのだろう。

 

 「──む!」


 伊吹は引き金を引く間際に自身に向かっているルナの存在に気がついた。


 「なるほど、撃たせまいと来たか。ならまずは貴様から──」


 今だ!!伊吹の視線は俺からルナへと変わった。


 パァン、と銃が放たれる音が響く。

 カンカンカン、と跳弾の音がし、どこから攻撃が来るか予想できない。だがルナはそのまま伊吹へと向かって言っている。


 「フッ、バカめ・・・終わりだ」


 銃はニヤリと笑いルナの背後から迫る弾丸に着目する。

 だがしかし、伊吹の放った弾丸は、


 スっ・・・とルナの横を通り過ぎ、ドン、と壁に激突した。


 「なに・・・」


 「はあああ!!!」


 放った攻撃がカスリもせず伊吹は驚いた。だがルナはその間に伊吹に迫っていた。すかさずルナは伊吹に一撃をかます。


 「がっは・・・・」


 攻撃は見事にヒットした。ルナの一撃は伊吹に相当なダメージを与え、そのままガクッと姿勢が落ちた。


 「馬鹿な・・・攻撃を....外すなどッ」


 倒れながらも伊吹は何が起きたのかと困惑している。

 そう。視線誘導。伊吹がルナに標的を合わせたとき、放たれる一瞬で俺は圧力を出し伊吹の視線を一瞬だけこちらに向けたのだ。

 それをすることにより伊吹は反射的に攻撃をルナから俺に変えざる負えなくなる。だが、直前までルナに攻撃を仕掛けようとしていた伊吹は当然ながらルナの方向に向かって放つことになる。だが、それは少しだけ位置がズレた状態で撃つという形で終わるのだ。

 高度な位置、そして精密な角度・・・その二つが成すことで始めて跳弾は成功する。

 ほんの少しのズレを利用し俺は伊吹の攻撃を外させたのだ。

 一瞬の視線誘導ということで伊吹本人には自覚がない。これは人間の脳が騙されている、言わば錯覚なのだ。

 手品でも例えば「この右手を見ていてください」と言われれば、嫌でも右手に着目するだろう。右目に夢中な人は左手にある隠されたコインに気がつかない。音や大きな動作を使い人の視線をそちらに向ける。人間はどうしてもその方向に向いてしまいその間、視野が狭まるのだ。

 だがしかしこの技にもデメリットは存在する。

 まずこの技は視線誘導、何度も使えば向こうに気づかれてしまうという欠点だ。つまり使えば使うほど、この技の効力は薄れてしまう。

 もう一つは視線誘導なので目の不自由な人物に対しては効力がないに等しくなってしまう。

 なので結果的に言えばこの技はもう伊吹には通用しないだろう。だからここで終わらせるんだ。


 目の前に崩れ落ちている伊吹に俺は近づく。


 「──くッ....」


 伊吹は立ち上がろうとしているが、ルナの一撃で結構ダメージを負ってうまく立つことができなかった。

 

 ジャキッ・・・だがその体制のまま伊吹は銃をルナの方に向ける。


 「動くなッ・・・動けば撃つ」


 いつリロードしたのかも分からないくらい速いスピードだった。ルナの攻撃する暇もなかった。

 

 「伊吹──お前はもう終わってるんだよ」


 「何を言って・・・・!!」


 伊吹はその瞬間ハッと気がついた。

 そう、今のセリフで伊吹の視線はルナの方から俺に向いた。つまり伊吹から見ればルナは一瞬──


 「なっ・・・消え──ゴハッ」


 ルナの大きなケリを喰らい大きく吹き飛ばされた伊吹。近くの壁に激突しそのままガクッと倒れた。


 「なっ言っただろ──もう終わってるってな」


 伊吹は嫌でも俺に視線を寄せてしまう。それは俺という存在がとても異様に目立つからだ。そのおかげてルナや命は一時的に敵の視界から消えることになる。

 その応用として、ルナの攻撃のタイミングに俺が視線誘導を合わせたのだ。


 「生・・・全く無茶な策を立てるわね」


 ルナはやれやれと言わんばかりにこっちに近づきながらそういった。


 「お前がちゃんと動いてくれてよかったよ」


 「ルナさんも凄いけど生も凄いわ。まさか弾丸を当てさせないって・・・思いもしなかったよ」


 「まっ、その策は結構危ない賭けだったけどね」


 ルナの言うとおりだ。もし伊吹に視線誘導が通じなければルナはあそこで死んでいた。・・・運が良かっただけなんだ。

 俺の考える策は味方が生き残れる策ではない。そうこれでは俺は皆を守ることは到底できないということになる。


 「(・・・考えていてもしょうがないか)」


 これが俺の闘い方なんだ。それは変えれない・・・。

 そう思っていると後ろから救急車の音が聞こえた。

 

 「・・・救急車が来たみたいね」


 「ならあとはそいつらに任せよう」


 俺はそう言って命とルナと一緒に家に帰っていった。この闘い方がいつまで通用するか分からない──でもやるしかないんだ。

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