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逸材の生命  作者: 郁祈
第四章 アメリカの才女編
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お見通し

 私はいつも生を見ていた。

 彼の考えることは分からない。人とは表情を見てある程度思考が読めたりするもの。

 だが、境川生(さかいがわしょう)には情があまりにも少なすぎた。

 しかも彼の瞳には光が宿っておらず、瞳の奥には一体何が映っているのかすら判断することができない。


 Mr.Kとの闘いで右目を失ったが彼の力は衰えることがなく、圧倒的な力を誇っている。

 それは相手が空間停止能力を持つ「リア・ルノアベル」すら圧倒する驚異的な力。固定した逸材を持ち合わせおらず、彼の本当の力はなんなのかすら分かっていない。

 仲間だというのに、ましてや私からすれば彼とは幼馴染、だというのに私は生のことを知らなさすぎた。

 幼い時の記憶しか持ち合わせていない。高校になり再開することになった。御神槌(みかづち)さんや(くすのき)さん。棗くんに恋桜先輩たち・・・・みんなの実力とかは分かっているのに生については情報が少なすぎる。

 隠している?だとしたらなぜ。私たちに知られてはいけない力でも持っているというの・・・・?






 ──気がついたら朝になっていた。 

 私は起きて着替え、朝食の準備をしに生の家に向かう。向かうといっても隣なので移動は比較的短い。

 幼馴染である私は生の家の鍵を持っておりそれを使って家に入ることができる。


 いつものように朝食を作るのだが、いつもと違っている。以前はルナさんの分。そして今回はリアの分だ。

 生の周りには私を含めて三人の女性人がいる。リアとルナさんは生の家に住んでいる。ちょっとだけ羨ましかったりする。


 「あら・・・命。おはよう」


 2階からパジャマ姿のルナさんが降りてくる。こんな寝ぼけているルナさんを見れるのは案外私だけなのかもしれない。


 「ふあああ・・・」


 「ルナさんおはよう。顔洗ってきなね」


 「....ええ」


 といつものようにルナさんとはそういった感じの会話をしている。

 そろそろ生を起こしに行かないとなと思ったとき、


 ──バタン、バタン。


 2階からそんな音が聞こえた。


 「え・・・なに」


 私は急いで2階に上がり生の部屋に入った。

 そこにいたのは


 「──兄様~~!おはようございます」


 生のベッドに潜り込んで隣にゴロンとしているリアの姿があった。


 「ん・・・リア・・・?」


 「リアですよお兄様~~!この勢いで二度寝しましょう」


 リアはどういうわけか生にとても懐いている。好意というのかは分からないがどちらかというと子供に見える。

 

 「こら、リア。生と私、そしてルナさんは学校あるんだからもう起きないとダメなの」


 そう言ってリアを生のところからどかす。

 

 「ちぇ、東雲が邪魔しに来ましたか」


 「私の生に手を出すとはいい度胸ね。ルナ・・・?」


 私は脅しに目を赤くしリアに向かってそう言う。


 「ひぃぃ、東雲怖いです」


 目を赤くした私にリアはビビる。まあ、これに大した力はないんだけどね。

 

 「命・・・ほどほどにな」


 いつの間にか生は着替え終わっていた。

 

 「あれ?いつもの間に」


 「お前たちがじゃれている間にだ。なんだろうな命とリアを見ているとお前ら家族みたいに見えるぞ」


 「家族・・・?」


 リアは首をかしげる。


 「か、家族だなんて・・・そ、そんな・・・」


 私はつい意識してしまう。家族ってことは私がお母さんでお父さんは・・・生ってこと!?


 「東雲、顔真っ赤ですね。何考えているんだか」


 「知らんな」


 そう言って生は部屋を出て下に向かった。

 

 「あっ、私も行かなきゃ。リアも下りてくるのよ」


 生を追う形で私も1階に向かった。














 「──しかしながら命の朝食は美味しいわね」


 ズズズ、と味噌汁を飲みながらルナはそう言ってくれる。


 「く・・・まともにご飯食べました」

 

 リアは久々にご飯ということでバクバクと食べている。なんというか無邪気だなリアって。


 「・・・・・」


 生は無言で箸を動かしている。やっぱり何を考えているのか分からない。影も生のことを見ているみたいだけど理解できてないみたいだし・・・・。


 「ん?命・・・」


 つい生を観察してしまい私は生と目が合ってしまう。


 「あっ、いや・・・なんでもないの」


 フッと目をそらし私はご飯を食べた。






 

 「それじゃリア。お留守番よろしくな」


 生はリアの赤い頭を撫で、家から出た。


 ルナさんと生、そして私は三人で登校している。その間私は後ろに歩き生を観察していた。

 今日はルナさんと何か話している。きっとアメリカに行く事についてだろう。

 生はもう少ししたらしばらく日本を出てアメリカに行ってしまう。シャルルという逸材者を倒すというルナさんに頼まれた目的を果たすために。

 

 まさかアメリカに行くことになろうとは思いもしなかったよ。逸材者は日本だけだと思ってたけど世界中に存在しているなんて昔の私だったら絶対に思いもしなかった。

 

 「(でも現にルナさんやリアがいるし・・・)」


 あの二人は逸材者。ルナさんは純粋に生まれついての逸材者でリアは突然変異の逸材者。だからルナさんは頭がよくてもリアは突然変異な為知恵はないがそれそうの能力を持っている。

 生や御神槌さんが頭がいいのは無の部屋という特別に教育されてきたからだ。つまりリアみたいなのが変異型の逸材者ってことになる。

 

 そう考えると生はやっぱり特殊な存在なんだね。変異型の逸材者であるがその頭脳は私やルナさんと同じで生まれつきの逸材者と同等、それ以上のものだ。

 最高傑作。以前生はそう言っていてそれは間違いなく彼に当てはまることだと思っている。

 今までの闘いを見ても頷ける。弾丸の当たらない場所を瞬時に計算したり掴み取ると言った怪奇的な行動を取っている生を私は知っている。

 だが生の本当に凄いところは逸材能力だけでなく、ただ単に力だけで戦うのにも特化しているという点だ。

 ルナさんと同じで恐らくはMr.Kに仕込まれたのだろう。だから普通に走るスピードとか生は通常の人を超越しているのだ。


 「(やっぱり謎ばっかりね)」


 そうこう考えているうちに私たちは学校に到着していた。電車内でもずっと観察しっぱなしで私は生を見ているだけで学校についてしまったのだ。

 珍しく楠さんたちと鉢合わなかったから気がつかなかったのだ。


 「じゃあルナ。また後でな」


 「ええ。命と生も頑張ってね」


 そう言って私たちはルナさんと別れ別の教室へと向かう。


 さっきまではルナさんがいたから生はルナさんと会話していたが、二人っきりになると会話がなかった。

 私はチラっと生の方を見たら、


 「どした?」


 目がまた合ってしまった。


 「な、なんでも・・・ない」


 そう言って目をそらす。


 「ふーん・・・」


 興味がないのか生は特に追求してくることはなかった。





 教室につきいつものように授業が始まる。

 




 ──そして昼休みだ。

 授業中はずっと生を見ていた。でもやっぱり分からなかった。生は黒板に目を向けずずっと景色を眺めているだけだった。

 やっぱり学校の授業の内容なんてもう理解しきっていているってことなのかな・・・。


 ふと生の席の目をやると生の姿は見当たらなかった。トイレにでもいたのだろうかな。

 楠さんも御神槌さんもいないし私は珍しく一人で昼食を食べることにした。


 「うん。我ながら上手に出来てるわね」


 自分自身でお弁当の出来を確認しつつ一人で黙々と食べていた。




 


 午後の授業も終わり気がつけばもう放課後だった。

 私と生は学校の入口前でルナさんを待っている。メールで「ちょっと遅れる」と来ていたのでもう少しかかるだろう。

 

 「──なあ、命」


 何をしたらいいか分からなかったとき、生がそう言ってきた。


 「どうしたの?」


 「お前今日俺のこと観察していただろ?」


 生が放った言葉は私が今日一日行っていた行動そのものだった。


 「え・・・」


 「なんとなくだ視線を感じたんだ。それに朝といい教室に向かうとき二回も俺と命は視線が合った」


 「そ、それはたまたま・・・だよ」


 「あれは偶然なんかじゃない。命が俺を見るときは大抵決まっている。だが今日視線があったタイミングはいつもと異なっていた。これが偶然と言えるか?もし言えたとしてもお前は何か俺について知りたがっているということだろ?」


 「あはは・・・生はすごいね。お見通しなんだもん」


 降参だ。生は凄い。たった一日で私の考えていることを読んできた。でも私は一日生を見て理解することはできなかった。


 「なあ命──少し屋上に行かないか?」




 


 私は生に言われて屋上にやって来た。

 そこは風通しがよく、夕方に吹く風は気持ちのいいものだった。


 「どうして・・・屋上なの?」


 でもその意図は分からなかった。どうして生が私をここに連れてきたのか。


 「命──お前が知りたがっているのは俺の考え、だろ?」


 「ッ・・・」


 悔しいけど・・・そこまでバレていたなんてね。

 私は一瞬目を閉じて、右目に力を解放させ開いた。


 「──お見通しなのね」


 赤く光り輝く右目。その未来にも生の考えは映らない。人の心を読むことはできない。私ができるのは未来を見通すだけ。


 「俺が考えているのは常にみんなの平和だよ」


 生はそう言ってきた。でも──


 ボッと私の髪の毛は赤くなり、結んでいたリボンも取れて髪がフアァとなった。


 「どうかしらね。私はそうは思わないわよ生」


 「・・・(よう)か」


 ──みんなの平和。確かに貴方はそれを思っているのかもしれない。でも私が気になるのはその先・・・貴方はもっと別の何かを感がている気がする。

 その時だった。

 ブアアと生の辺りから何かを感じ取った。


 その時の彼の瞳は今までにない目をしていた。


 「・・・なるほどな。いつからは知られると思っていた。でもそれは今じゃないと感じていた。お前には隠せなさそうだな」


 そう言って生は拳をギュッと握る。


 「──俺の願いはただ一つ・・・お前を守ることだけだ」


 そう言って拳を前につきだす。


 「なあ命。俺と勝負をしよう」


 その目は本気で生は私に勝負を仕掛けてきた。

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