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逸材の生命  作者: 郁祈
第四章 アメリカの才女編
39/130

本当の目的

 アメリカ──とある場所、


 「シャルル様・・・」


 「ルナ・ユーフラテスはいつぐらいにこっちにやってくる?」


 「はっ、遅くて5日以内にはやってくるかと」


 「5日か・・・まあいいだろう」


 シャルルは不敵な笑みを浮かべる。


 「あの落ちこぼれを始末するのは俺の役目だ。そして俺は最強の座につく・・・」


 部屋の中はシャルルの笑い声で包まれていた。









 


 「──ルナとシャルルの関係??」


 「はい、あのお二方は"兄妹"なのです」


 ルナの執事であるジョセフの口から放たれた言葉は驚きものだった。


 シャルルってのはあったことないけど兄妹なのか。


 「ルナ様が妹とで、シャルル様が兄という形・・・ですが彼女たちの仲はよろしいものではございませんでした」


 まあ実際敵対してるもんな。


 「幼い時ルナ様と喧嘩をしシャルル様は家を出ていってしまいました。それ以来帰ってくることがなかったのですが──」


 「襲撃か」


 ルナは家を守ってほしいと言っていた。それが一般人だったら俺を頼らず己で解決していたこと。

 でも兄であるシャルルが襲ったのだ。理由はルナへの復讐だろう。


 「そうです。ルナ様を激しく嫌っているシャルル様は逸材者としての力をコントロールし帰ってきたのです」


 「でもこうしてる間にシャルルはルナの家を襲わないのか?」


 「恐らくはルナ様に絶望を与えたいのでしょう。故にルナ様がいない状態では痺れを切らさない間は襲いはしないと我々ユーフラテス家は考えています」


 ルナがシャルルの逸材能力を詳しく把握していないのは幼い時以来だったからか。

 

 「なんで今になって帰ってきたんだ・・・」


 もっと早く仕掛けることも出来ただろうに。


 「おそらくですがMr.Kがお亡くなりになり恐れるものが無くなったのでしょう。実質Kに勝てるものはいませんでしたからね」

 

 なるほどな。俺がMr.Kを倒したばかりにこんな事態になってしまったのか。

 あの時の俺は世界に目を向けていなかったからな。どうしよもないわ・・・。


 「別に我々は境川様を恨んでなどおりません。ですが最初の頃はお嬢様は酷く恨んでいましたね」

 

 やっぱりそうか。ルナは誰よりもKを尊敬していたんだ。当然である。


 「ですが今はご安心を。お嬢様は変わったかのように境川様を恨まなくなりました。それどころか協力者に選ぶくらいなんです」


 変わったかのように・・・・?その言葉に俺は少し引っかかる。変わったか。恨んでいた俺を突然ふっきれたかのように恨まなくなることなんてあるのだろうか。

 現にシャルルはルナのことを今でも嫌い復讐心に駆られている。兄妹であるならその性格は似ていてもおかしくはない。

 

 「まさかな」


 ルナの本当の目的──それが一瞬俺は頭に想像できてしまった。

 兄をよく思わず俺を恨んでいるルナ。もし俺とシャルルをぶつけ"二人共死ねれば"どうなるだろう。

 俺もシャルルも倒しルナはそれで全てが思い通りに行く。

 でもこの考えはよろしいものではない。この通りに考えると俺の知っているルナは全て演技ということになる。

 

 「どうかしましたか?」


 ジョセフが心配そうにしてくれる。


 「いや、もしもの可能性を考えていたんだ」


 このことは言えない。確信がないからだ。

 でも俺は今のルナを信じる。アメリカに行きシャルルを倒す・・・その気持ちは変わらないのだ。


 「ありがとう。ルナについての疑問が少しわかった気がする」


 俺は軽く礼をして、車から出た。

 ルナについて理解した。彼女とシャルルの関係性、そしてなぜルナは"成長しないのか"を・・・。


 暗い夜道の中、俺は家へと向かって歩いてそれを打開する方法を模索した。

 









 朝、チュンチュンと外から鳥の鳴く音が聞こえる・・・。

 

 「朝か」


 昨夜は家に帰ってすぐに寝たけどルナは帰ってきたのだろうか。

 制服に着替え階段を下りてリビングに顔を出す。


 そこにはいつものように朝食の準備をしている命、そしてソファに座りテレビのニュースを見ているルナが居た。

 どうやら無事にあのあと帰ってきたようだな。


 「あら。生、おはよう」


 命は俺に気が付くなり挨拶をしてくる。


 「ああ。おはよう。ルナもおはよう」


 「・・・おはようございます」


 ルナはこっちを見ないで挨拶をしてくる。昨日執事から色々聞いたしなんとなく気まずさは残っている。

 しかも彼女はもう一度俺に挑み負けた・・・。本来なら合わせる顔すら無いのに彼女はこうして俺の家に居るんだ。


 「生、今日から学校行く場所違うから早めに出るわよ。ちょっと遠いんだし」


 朝食の準備を終わらせ命がそう言ってくる。

 ・・・そうだったな。ルナの服装も俺たちとは違うのは学校が違うからだったな。

 彼女(ルナ)と俺たちは通うところが違う。恋桜学園が半壊している今、俺たちは他の学校に移動しているだけ。そこでルナと出会ったのだからもはや運命的なんだよな。

 

 もし恋桜学園が半壊していなかったら・・・それはどういう未来になっていたのだろうか。俺とルナが出会わない世界。

 そしたら彼女は他にシャルルを倒せる人物を見つけ出すのだろうか。

 恋桜学園が半壊してなければルナはこっちには来ない。それはルナの通う緋鍵(ひかぎ)高校と俺たちの元いる恋桜学園の距離は駅数で言うと5駅近く離れている。

 故に本来俺とルナは出会うことのない存在だったのだ。

 

 「(まあ、あの優秀そうな執事ならそのうち俺を見つけ出しそうな気もするがな・・・)」


 ルナのお付の執事、「ジョセフ」彼はきっとボディーガードとしても強いだろう。服越しにでも分かるあの圧力。

 間違いなく会長や棗と同じで逸材者ではない強者の部類だ。加えルナに俺という存在を教えたのも恐らくは彼奴・・・。


 「ほら生、朝ごはん食べて。ルナさんは生が起きる前に食べ終わっちゃったよ?」


 「嘘だろ・・・」


 こいつ何時起きだよ。恐らく俺より帰った時間は遅いはずなのに早起きとか。


 「ったく・・・」


 俺は急ぎながらも朝飯を食べ、シャルルを倒す方法を考えていた。



 

 結局倒す方法なんてスグに思いつくわけでもなく、俺はただ単に学校生活をおくっているだけだ。

 学園から移動した今、俺は学園長の仕事を手伝うこともなくなりこうして普通に授業を受けているだけ。


 

 そして時間は昼、休み時間だ。

 

 「生、お昼ごはん一緒に食べよう」

  

 命が俺の前に来てそう言ってくる。

 

 「ん、ああ・・・。ちょっと自販機で飲みもん買ってくるわ。少し待ってろ」


 俺はそう言って席を立つ。



 自動販売機は俺たちの教室から少し離れた位置に置かれている。

 てなわけで俺は結構歩かされるってわけだ。


 ガゴン、自動販売機から落ちた飲み物を取ろうとしゃがんだ時、


 「境川くん。貴方、シャルルを倒すの?」


 (くすのき)だ。彼女が俺の背後に立っていた。


 「さあな。お前には関係のないことだ」


 「そうね確かに私には関係のないことよ。でも、倒すか倒さないか教えてくれてもいいと思うわ」


 その声は凛として透き通る声だ。


 「倒すよ」


 起き上がりながら楠の方を見て俺はそう言った。


 「俺はルナに協力する。その意図がもし俺を道連れにしようとな」


 ルナの目的は恐らく俺とシャルルの相討ち狙い。尊敬していたMr.Kを倒した俺、そして尊敬しているが悪に走った兄、シャルルを倒すには一石二鳥なんだ。


 「貴方・・・人が良すぎるわね」


 「なんとでも言え。俺はルナを信じる。そう決めたんだよ」


 「信じる・・・どうしてなの?貴方をも巻き込むのがそのルナって人の目的なんでしょ。なのに貴方は・・・」


 楠が心配しているのは俺の命。俺が死ねば当然 (みこと)は悲しむだろう。相手はアメリカの逸材者シャルルだ。俺も無傷で帰るなんてことは万に一つの可能性もない。


 「信じるのに理由なんてねえよ。俺が信じたいと思ったから信じる。それだけだ」


 たとえ裏切られようと俺はルナの味方をする。それが俺にできる彼奴(ルナ)への情けだからだ。

 尊敬していた人を倒した俺への報い。それができるのなら俺はとことんルナに協力するんだ。


 「大した信頼ね──貴方はもっと話の分かる人かと思っていたわ」


 「心外だな。俺は人のことなんて考えることはない。俺はただ平凡に暮らしたいだけだ」


 「その平凡な生活、自ら壊しに行ってるように感じるけど?」


 楠の言っていることは正しい。俺は自らの判断で人生を狂わせているんだ。でも最近気がついたんだ。


 「──俺にとっての平凡な人生、それはな」


 だから楠に俺はニヤリと笑いこう言った。


 「超常こそが俺の求める平凡なんだよ」


 「・・・バカバカしい。まっ精々頑張ることね。貴方が死んで彼女さんが悲しんだら私も見てて辛いんだから」


 そう言って楠はトコトコと歩き去っていった。


 「分かってるさ」


 俺は負けない。死なない・・・。これまで以上に過酷な闘いだとしても俺は勝つ。

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