弱者の気持ち
「──私を・・・強くして」
ルナは真剣に俺に向かいそう言ってきた。
「強くか・・・」
それは少しだけ予想できた言葉だった。
「私は・・・貴方より強くなりたい・・・!だから・・・!!」
その言葉はとても強く訴えかけるような声をしていた。
俺だってルナを強くしてやりたい。でも俺は修行なんて行ったことは一度もない。
この力は与えられた"才能"に近いからだ・・・生まれついてではないが、俺はルナに教えることは無いのだ。
「なあルナ、お前は十分に強い」
俺はルナの頭を撫でた。
「んっ・・・でも貴方には勝てなかった」
顔を赤くしながらもルナは下を向きながらそう言う。
「あの時私は負けるつもりはなかった。貴方の実力を試そうとしたのは確か、でも勝つ自信はあったの」
だが結果は俺が勝った。本気が見たいと言われたので『時間跳躍』を使い、俺の体感速度を1.5秒先に行かせることでルナに気づかれることなく攻撃できたのだ。
「・・・あれはちょっとチートっぽいから」
そうとしか言えない。この技は使える者はMr.Kと俺しかいない。未来の俺が使っていることから俺は単に使えるようになった時期が早いだけなのだろう。
「力だけじゃない。貴方は頭もいい・・・その二つを兼ね備えてるから負けることがないのよね?」
「・・・・違うよ」
それは違う。俺は頭も良くないし強くもない。
だが、ルナは知らない。俺の全てを。
「頭なら俺はルナに負ける。だって──お前は今もこうして日本語を喋っているじゃないか。とてもじゃないが俺は英語は喋ることは出来やしない」
つい忘れがちだが、ルナはアメリカから来たアメリカ人。髪だって金色だし、瞳もエメラルドの瞳をしている。
「ねえ・・・もう一度私と闘ってくれない?」
それは突然だった。
俺はこの言葉を予想できただろうか。答えは簡単。無理だ。ルナはもう一度俺と闘うと行ってきたのだ。
「・・・・お前が納得するならそれでいいよ」
俺がルナに出来ることはそれだけだ。だから俺は外に出た。
夜、公園。当然なことで誰も人はいない。これなら思う存分に闘えるだろ。
「さあ、いいぜルナ。かかってこいよ」
俺がそう言うとルナはブゥゥンという音とともに光のオーラを纏いだした。
夜だというのにルナの周りは明るい。それを通り越して眩しいくらいだ。
「はぁ!!」
命と闘った時に見たルナの弾丸、これは・・・!
数が多く俺は捌く前に交わすことにした。
ドン、ドンッバシュウウ!!!
交わしても交わしてもどんどんルナの指からは弾丸のような光の弾が放たれる。
御神槌の空気弾と違うのは形を認識できるのと、一回に飛んでくる弾の数だ。
ルナの攻撃は連射タイプなのでここはおとなしく交わすしかない。
俺は華麗に交わしながらルナに元に近づいていく。
「くっ・・・・当たらない・・・!」
この距離・・・時間跳躍すれば勝てるな。
俺は足と腕に力を入れたが、
「・・・・」
踏みとどまった。
ここで攻撃してはルナは成長できない。前と同じ結果になってしまう。それではダメなんだ。
俺は攻撃することなく大きく後退した。
「あら?攻撃してこないの」
ルナは弾を飛ばしながらそう言ってくる。だがその弾は当たる気配はない。
「──その弾はやめてもらうか」
俺は手を前にかざし力を込めて"消滅"の力を放った。
フッ──という風はルナの弾丸を全て消し去った。
「なっ・・・・!」
風はルナのもとには届かず。そう調整したしな。
「くそ・・・」
光のオーラを纏ったまま、ルナは接近をしてきた。接近戦か。
ルナの格闘センスはお墨付きなので少々厄介かな。
パンチ、キックと様々な攻撃をしかける。俺は間一髪で交わしながらルナの隙を伺う。
「はああ・・・・りゃりゃりゃ!!」
スッ・・・っと交わされるが、ルナは攻撃の手をやめない。
「・・・・」
俺は交わすのを止めた。
これがルナの限界か・・・。
「なんのつもり──」
ドゴォォォ。
大きな隙をつくった俺に一発の拳を当てに来たが、一瞬の差で俺は前と同様ルナのお腹にカウンターとして思いっきりパンチをした。
時間跳躍を使ったのだ。1.5秒というアドバンテージは俺やルナのように素早く動く相手には大きな差となる。
「ぐ・・っは・・・・」
「どうした前と同じか・・・ルナ」
俺は声のトーンを落とし、少し迫力のある感じでそう言う。
ガシッ、
ルナは殴った俺の拳をもうひとつの手でグッと握った。
「つ、捕まえ・・・た」
そういったルナはオーラの光を一気に強めた。
「・・・・ッ」
「この距離・・・なら」
そう言って掴んだ手から光の弾が生み出される。
これは・・・ゼロ距離の弾丸か!!
ドォォン・・・・!!!
ルナは起死回生の一撃に賭けた。遠くからどんなに数をこなし撃ったとしても俺には当たらない。だったら接近戦に持ち込み俺を誘導し、一発に賭けたんだ。
シュゥゥゥ・・・・。
ルナのオーラは光を失っていく。どうやら力を使い果たしたようだ。
「ゼロ距離で交わす・・・?」
ルナの数メートル先、そこに俺は居た。
「わりぃな。本気で行かせてもらった」
俺は弾丸が当たる直前──時間跳躍を一瞬で発動しルナの攻撃を機動を少しそらさせ一瞬で後ろに後退したのだ。
だが、1.5秒では足りず、俺は少しだけ被弾してしまった。
「あのデカさ・・・被弾だけでも威力はあるか」
「・・・・また勝てなかった」
ルナはその場で力が抜けたのか地面に座ってた。
俺はルナの元まで歩く。
「お前の力は見させてもらったよ。強いじゃないか」
「貴方がいうと褒めてるようには聞こえないわね」
「褒めてるさ。考えもいいと思うよ。あれが交わせなかったら俺は負けていた」
多分他に回避法はあるけどあの一瞬、そんな考えは思いつかないな。
「ねえ、一つ聞かせて」
「なんだ?」
「──本当に何者・・・貴方」
この時ルナの瞳に俺がどう映っているのか気になるところだった。
「逸材者って言ってるだろ。最高傑作のな」
俺は手を差し出すとルナはそれに掴まり起き上がる。
「逸材者・・・貴方はその壁すら超えてもっと上の存在に見えるわね」
「ハードル上げるなよ」
俺は軽く笑いながらそう言う。
「今だって笑ってるけど貴方のその瞳、それには何で感情がないのよ」
ルナは俺の瞳を見つめてそう言う。
「感情・・・それは失ったんだ」
無の部屋、何もないところでの生活。それが俺の感情を失わせたところだ。
「私も感情を捨てれば強くなれるのかな」
きっと冗談で言ったのだろう。だが俺は
「バカなことを言うな。そんなんで強くなってもその先に未来なんてない」
「──強い貴方には分からないでしょうね!!弱者の気持ちが!!」
ルナは怒ってしまった。そして
バン、
と顔をビンタされた。その時のルナの目は顔を真っ赤にして泣いていた。
「・・・・なんで貴方なんかがMr.Kを倒せたのよ・・・・」
その言葉は俺に対しての嫌味なのかどうなのかは分からなかった。でもルナは尊敬していたんだ。Mr.Kを。
本来彼女は俺を恨んでもおかしくない。シャルルを倒す前に俺を倒すのが目的でもおかしくないのだ。
「逸材なんて無くなればいいのに・・・」
「そうだな」
彼女は本気で言った言葉。それは俺も同意できることだ。でも俺は・・・どんな気持ちなんだろう。
逸材が無くなればそれは世界の平和に繋がるのか。世の中は不平等だらけだ。逸材が消えたとしても現状は変わりやしない。
「ちょっと一人にして・・・少ししたら帰るから」
「・・・分かった」
俺はルナを公園において先に帰ろうとしたとき、公園の出口に付近に一人の長身の男が立っていた。
「お初にお目にかかります。わたくしルナ様の執事でジョセフと申します」
丁寧に挨拶してきた男はルナの執事のジョセフと言った。
「何かようですか?ルナなら向こうにいますよ」
俺はルナの居る方に指をさす。
「いえ、ようは貴方にあります。境川様」
「俺?」
「ええ。ルナ様についてお話があります」
ジョセフは立ち話はなんだといい。車の中で話すことになった。
「それで話ってなんですか?」
ジョセフはふーと一息いれ、
「──ルナ様とシャルル様についてのご関係です」




