甘い人間
──えー拝啓、命のお父様、お母様。いかがお過ごしでしょうか。
私、境川生は無事にこの街に帰ってきて命と楽しく過ごしています。
いつも変わらず命は温厚で、俺のことを思ってくれて非常に有難い日々です。
ですが、その温厚な彼女は今・・・初めて激怒しているかもしれません。
俺の目の前にはバチバチと睨み合っている、命とルナが居た。
しかも命に至っては髪と瞳の色が赤色になっており逸材者能力である影を100パーセント表に出している。
「あんた何よ。赤髪何かになっちゃって。変身?はっ、中二病かしら」
命の変化した姿を見てルナは嫌味のように指摘してくる。
「──あら?見た目の変化は一番わかりやすいのよ。貴方みたいに元から金髪だとあまり実感がないみたいね」
温厚な命も今回ばかりは口調が悪くなっている。恐らく影が100パーセント出ているせいだろう。
二人の言い争いは長く続いた。どちらも女子高生なんだなと思わせるような口喧嘩で少し平和だなと思っていたが、
「こうなったら実力行使ね。私は維持でも彼をアメリカに連れて行くわ」
「生は私のものよ。勝手に連れてかやしないわ!」
二人はそう言って構えをとる。
ルナはMr.Kに仕込まれているから戦闘知識や実戦経験はあるのだが、命が闘うのは実質これが初めてだ。
どう考えても命が不利だよな。
ダッ、っとルナは走り出す。
そして拳を大きく上げそのまま勢いをつけて振りかざず、だが──
「ッ・・!」
命はそれを避ける。
「甘いわね!!」
避けた命に向かってルナは手から着地し、そのまま足で命の顔をめがけて足を飛ばす。
「きゃッ」
条件反射かは知らないが命は手を咄嗟に顔に近くに持ってきてルナの攻撃を腕で耐える。
少し遠くに飛ばされたが、吹き飛びはしなかったので命に外傷は無かった。
トッ....華麗に着地をし、ルナはクルッと振り向き命の方を見る。
「あら、防いだの・・・思っていたより戦闘経験ありっぽい?」
「──悪いけどないわよ。これが初めて闘うわね」
「へえ・・・のわりには結構いい腕してると思うわよ──でも私には及ばないわね」
「どうかしらね」
命は強気だったが、
「ッ・・・」
余裕そうに笑っているルナの身体の周りから黄色いオーラが出ていた。
「(あれは・・・)」
俺が屋上でルナとやりあったときには使ってこなかった。
そう言えば思い返すとあの時ルナは自分の身体技術だけで俺に挑んできた。俺は本気出して「時間跳躍」を使っていたがルナは何も使っていないのだ。
「(つまり、このオーラがルナの・・・)」
「何──黄色い・・・?」
命もルナから出る黄色いオーラに気が付く。
「これは私の力──アメリカでの私は《才女》と呼ばれてるの。日本風で言うと《逸材者》ね」
才女・・・才能に優れた女。それがルナか。
「私の能力は《オーラ》他人の見るのはもちろん、自分の場合こういうこともできるのよッ」
そう言ってルナは手を前に翳す。眩い光ともにルナの手には光の玉が出現した。
「へえ、何に使うか知らないけどそんな光ってるだけの玉、意味あるのかしら」
「こうするのよ!」
片手だけでなく両手を前にだし、ルナは叫ぶ。それと同時に光の玉は弾と変化し、ルナの手から連続で射出された。
ドババババババ、という音の中数弾を連続で飛ばしていく。
「──なっ」
命は避けることもできず、その大量の弾を目の前で食らってしまった。
ドゴゴゴォォォンン。光の弾が撃った場所は煙で前が見えなくなっていた。
「どうよ、これが私、ルナ・ユーフラテスよ」
ドヤッと煙の方向にいるであろう命に指を刺し自慢げに言う。
「ゲホゲホ・・・・なんなのアレ」
命はボロボロではあったが、軽い傷だけだった。制服は少しだけボロボロになりこれはどうみても命の負けかなぁ・・・と思える感じだ。
「お前らそこらへんでやめとけ」
これ以上命に何かあったら俺が止めに入らなくてはならなくなるので俺は二人に声をかける。
「ちょっとなんでよ。今私が優勢なんだからこのままトドメよ」
ルナが俺の言葉を無視して再び手を前に翳す。
「──ルナ」
フッと俺は目に力を入れる。
その瞬間ルナの周りに纏われていたオーラはパァンという音と共に消えた。
「う、嘘・・・なんで」
「生・・・」
「これ以上の戦闘は認めない。それでも尚言うことを聞かないなら俺はお前に絶対協力しないからな」
その言葉はルナにとってとても効いたらしく、
「あ──分かったわ・・・ゴメンなさい」
手を下ろし引き下がってくれた。
「命もだ。もう終わりでいいか?」
俺がそう聞くと命はふぅと言って力を解き元の状態に戻る。
「悔しいけど・・・今の私じゃ勝てないから。諦めるわ」
素直に言うことを聞いてくれた。やはり命はなんだかんだで俺のことを知ってくれているな。ちゃんと物分りのいい子だ。
このまま家の前で話すのもあれだったので俺はルナを家の中に入れた。
「それで、なんで俺の家の前にいたんだよ」
「愚問ね。私は貴方に協力して欲しいの。だから何度でも貴方に説得しに来るわ」
お茶をすすりながらルナはそう言う。
「でもあんなに強いのにルナさん・・・生に頼るんだね」
ルナの実力を身近で体験した命からすればシャルルとう男に勝ててもおかしくないという。
「・・・無理なのよ。シャルルはとてつもなく強い。下手したら貴方よりもよ」
そう言って俺の方を見ていう。
「俺より強いか」
「でも私と貴方が協力すればシャルルには勝てる。絶対によ」
「その自身はどこから来るのかは知らないが、俺はまだ協力するとも言ってない」
「そういうと思ったわ」
スッと立ち上がり、一旦表に出る。そして数秒とも立たずしてルナは帰ってきた。
ゴロゴロと大きなキャリーバッグを持って。
「おい、なんだそれ」
「何ってキャリーバッグ」
「それはみりゃ分かる。俺が聞いたのはなんでそれを持ってきたかだ」
ルナはニヤリと笑い、
「──貴方が納得するまで私はこの家で貴方と過ごすわ」
その言葉に俺が驚くよりも先に、
「え・・・えええええええ!!?」
命が尋常じゃないほどの驚きを見せた。
「わ、私だってまだ生の家に泊まってないのに・・・」
ボソボソと命が何かを言っていた。
「フフン、どうかしら」
「どうもこうもねえよ。俺はお前に協力することもここで生活を許すのも認めないぞ」
「大丈夫、そういうと思ってテントも持ってきてるから。外の庭を借りるだけよ」
俺が予めこの件も断ると予想していたのか。
だが、高校生の女の子を外で寝かせるわけにはいかないよな・・・。
頭をかきながら俺は、
「ったく、わーったよ。家に泊まることは許可してやるが、俺はまだお前に協力するとは決めてないからな」
そういった。
ルナはその言葉を聞いて、パアッっと明るい笑顔になった。
一方命は
「ししししししししょ生!!?ほ、本気なの!!?」
随分と慌てている御様子だ。
「だってこいつ外に放置してたら何しでかすかわからねえもん」
そう言うと命は「確かに」とちょっと納得していた。
「ちょっとそこの二人、それは酷いんじゃないかしらね!!」
部屋は二階の物置が空いてた気がするからそこを使ってくれ。
「りょーかい」
ルナはニヤニヤして命の方をみて、
「お先に~~」
そういった。
「ぐっ・・・・この女・・・」
命・・・髪が赤くなってる落ち着け落ち着け・・・。
どうやらルナが絡むと命は情緒不安定になり力を出してしまうようだ。影の時の命はいつもより好戦的だからちょっと怖いんだよな。
ルナがここに泊まるということはこれから朝命が起こしに来てルナと命と一緒にごはんを食べて、一緒に学校に行くんだな。
考えると俺の気が休まる時間減ったんじゃねと思ったがルナは既に二階にキャリーバッグを運んでいっていてもういなかった。
「まあ、仕方ねーか」
数日もすれば彼女は俺に諦めどこかに行くだろう。
もしくは他の逸材者に頼ることを決めるかどちらかだ。なんせよ俺はまだ迷っているだな。
ルナも早急に決めて欲しいだろうし俺も早めに答えを出さないとな・・・・。
何事も無く時間は過ぎた。ルナは俺の家の物置べやを整理し、自分の生活しやすいように変えて、命は一旦自分の家に帰り夕飯どきに帰ってくると言っていた。
俺はというとやることは特になかったので自室のベッドに横たわっている。
「こうしてると、楽だな」
朝起きて、学校に行き、帰り、寝る・・・そんな一日が楽だ。
だが俺は選択を間違えれば再び前のような危険な生活に逆戻り。俺の平穏な生活のため、ルナの申し出は断るしかないか。
「入るわよー」
ノックもなしにいきなりルナが俺の部屋に入ってきた。
「お前な・・・ノックくらいしたらどうだ」
「あら、忘れてたわ。次はする」
絶対こいつしないな。
「──で?どうしたんだ」
さっきまで部屋の整理してたこいつが俺のところに来たんだ何か理由ありって感じだろう。
「その・・・アメリカに行くのは遅くてもあと5日には決断して欲しいの」
ルナは申し訳なさそうにそういった。
正直言って俺は乗り気ではない。でもハッキリとしたことがひとつだけあった。
「おまえ、優しんだな」
俺がそう言うとルナは顔を真っ赤にして
「どどどういう意味よ!!」
そう言った。
「まずアレだ──そこまでして俺をアメリカに連れて行きたいのなら拉致でも何でもすればいい。だがお前は俺の判断に任せている。そこが点だ。才女とも言われるんだ。俺を陥れる策があってもおかしくはない。でもお前はそれをしない──よって俺はお前を優しいと見た」
期限が迫っているのなら俺をもっと強引に連れて行けばいい。だがルナは俺の意思を尊重したのだ。
こんないいやつ・・・みすみすスルーはできないか。
俺は頭をかきながら答えを出した。
「──行ってやるよ。アメリカ」
目を本気にし俺はそう言う。
あぁ、もう後戻りはできない。非日常に戻る生活だ。俺はなんて甘い人間なんだろう──
だが、この決断に俺は後悔はしてなかった。




