時間跳躍
ルナと名乗る女の子とは俺の腕を掴みこう言った。
「──ユーフラテス家を守ってください」
この意味が俺には理解できなかった。
「えっと・・・ルナだったか?どういう意味だ??」
「あっ、そうよね。何も話してないものね。・・・ここじゃあれだし」
そう言われて俺は屋上に連れてこられる。幸い今日は始業式だけ(俺たちは他校なので不参加)なので一応今は放課後という時間だった。
まあだから問題ないだろう。教室では今頃先生の紹介とかしてると思うけど。
「それでなぜ守って欲しいと」
「──私の家、ユーフラテス家はとても大きな家なんです。そのせいで周りからは色々言われてたタチでね」
そしてルナは話してくれた。ユーフラテス家は大きな家だが大きすぎるがゆえに周りから妬まれ色々被害を受けていたらしい。
そんな時、それを匿い保護してくれていたのが、Mr.Kだったという。
その時のルナはまだ小さかったがハッキリと覚えているらしい。彼が来てから家は被害がなく平和に暮らせていたと。
Kと呼ばれる人物はその間私の家で宿泊をし、アメリカで色々作業をしていた。
彼が休みの日には私はMr.Kから勉強を教えてもらっていた。そのおかげで私は頭のいい女の子に成長をした。
Kに憧れ日本語を勉強し始めたと言う。ルナの日本語は驚く程に達者なものでとてもじゃないがついこないだまでアメリカにいたとはにわかに信じがたいものだ。
「ちょっと前にMr.Kが何者かに倒されたと聞きました。私は彼が行っていたことを知ってはいませんでしたが、日本に来て執事から聞いたの」
それでも彼女はKを信頼しているようだ。経緯はどうであれ彼奴の行いは世界各国に広まっているんだなと俺は理解した。
「Mr.Kの死亡情報は世界に流れています。それをしった私の家を妬む人々は再び昔のようになったの」
「でも──対策とかは昔と違ってあるだろ?」
そういったがルナは逸材者である俺を訪ねてきた。きっと一人じゃできない何かを抱えているんだ。
そう思ったときルナは口にしてくれた。
「──『シャルル・ヴァン・シュトローゼ』という逸材者が居たんです」
逸材者というキーワードに俺は反応する。
「彼はとてつもなく悪い心をもち、ユーフラテス家を潰しに来ています。今はまだ耐えていますがいずれは飲み込まれてしまう・・・。そうなる前に私が日本に出向き、Kを倒した逸材者を探してたの」
状況はなんとなくだが察することができた。シャルルと言う男がルナの家を襲っている。
Mr.Kの守りがなくなった今、シャルルを倒せるものはいないということか。
「でもなぜ日本に来た?そっちにももっと強力な逸材者だっているだろ?」
「いるかもしれない。でも、協力なんてしてくれるはずがない。シャルルのやつが相手だとして協力なんてしてくれないわよ」
それほどにシャルルという存在はやばい存在らしい。
「だから・・・協力してくれない?」
ルナは改めて俺に聞いてくる。
正直言って俺は面倒事はこれ以上関わりたくない。Mr.Kを倒しこれからが平和になるってのに今度は日本列島超えてアメリカと来る。
これは付き合ってられない。
でもたった一人の女子が日本を訪ねてきている。そう思うと俺は考えてしまう。
ここで断れば後悔するか。それとも協力して後悔してしまうか。どちらにしても俺は過去のように既視感を使うことができない。
右目を失っている今、俺でシャルルを倒せるかと言ったら無理だろう。
「──俺はKの闘いで右目を失っている。当然力も落ちているんだ」
右目を見せて俺はルナにそういった。
「・・・・なら、ここで貴方の力を見せてください」
彼女も諦めきれないとばかりにそう言ってきた。
「貴方の力をみて、本当にどうしよもなく使えないと判断したら私も諦めるわ」
「──はぁ・・・・」
言う言葉・・・間違えたかもなぁ。
俺は頭をかきながら考える。手加減して失望させるか。どうするか。
だが、
「言っておくけど私は本気の貴方をみるんだから手加減は承知しないわよ」
見透かされたようにそう言ってきた。
「何度言うが俺は右目を失っている。大きなハンデだぞ」
「過小評価もここまでくれば相当ね。でも嘘ね。私には分かる。貴方のその隠しきれないオーラ、見ててわかるもの」
・・・・これは隠せないみたいだな。
そう思って俺は構える。
向こうもそうしているからだ。
制服姿の女子生徒と闘うのは気が引けるがしょうがないか。
ダン、っと向こうから俺の方に突っ込んできた。
「ッ・・・」
俺の死角である右寄りに近づいてくる。俺の視界から外れるような動きだ。
そして蹴り、殴りと連撃を俺に喰らわせてくる。
ドゴ、ダンッボゴォ・・・ドガガガガガ・・・。
ルナの攻撃は重くはないが速く鋭いものだった。
俺は視覚からの攻撃で最初は防ぎようがなかったが、次第に左目の位置に映るようになり、攻撃を捌きだした。
「嘘──視覚から攻めたのに防いでる」
ルナは攻撃の手を休めずに俺に向かって足と拳を繰り出す。
だが──
ガシッ、
俺はルナの拳を受け止めた。
「なるほど・・・こんなものか」
Mr.Kには遠く及ばないが、闘い方が少し似ているルナの攻撃。それは過去にKがルナに勉強以外を教えていたということが分かる。
でもそれでもシャルルという男には適わないらしい。
「くっ、まだよ」
ルナは俺に攻撃を防がれたが諦めず後退をする。
だが、その距離は"俺の射程範囲"だぜ。
俺は足に力をいれ高速でルナの元に移動する。
彼女はまだ俺がここにいることを理解していない。Mr.Kが使用した数秒先の未来に飛ぶ技「時間跳躍」
命の瞳を受け継いだ時に俺が一時期的に使うことができた技、あの時は"8秒"という先まで移動できたが、
目を失った俺にはできなくなっている技だった。でも俺は技量のみで"1.5秒"の速さならギリギリで行うことができたのだ。
未来の境川がやっていた技、それを真似たのだ。
ドゴ──
俺は身体が止まっているルナの腹を背中を抑え殴る。
「──時間は追いつく」
俺がそう言うとルナは
「がはっ・・・」
俺が殴ったダメージを受けた。1.5秒速く動いた俺の攻撃がようやくダメージとなったのだ。
「う、嘘・・・・速い・・・・」
ルナはそう言って気を失った。
「ふぅ、ちょっと大人気なかったが全力を希望したんだ。これくらいは当然か」
ルナの戦闘スタイルには驚かされたが、やはり女の子というだけあって攻撃は重くなかった。
それが原因でシャルルという男にも勝てないのだろう。彼女はMr.Kの残した逸材者。
俺はルナを見て、思う。協力するか否か。
時間跳躍を使えば大抵の相手に負けることはない。俺より速く動くことのできる人物には通用しないがルナに通じたということは恐らくシャルルにも通用するはず。
「時間はまだ少しあるだろう・・・俺もそれまでには決断するさ」
気絶しているルナを抱き抱え俺はこの高校の保健室に向かった。
「それじゃよろしくお願いします」
俺は保健室にルナを預けた。転んで倒れただけといったので特に問題はないだろう。
「さて──」
教室に戻りたいが、今戻っても気まずいだけだし・・・どうするかなぁ。
そう考えながら廊下を歩く。当然ながらそこには知らない人達でいっぱいだ。
緋鍵高校の生徒はもう始業式を終えてるみたいでどこも教室にとどまる生徒、帰り支度を始めてる生徒ばかりだ。
当然制服も違うので俺はそれそうに目立っていたが話しかけてくるものはいない。俺たちのいる学園がどんな風に見られているのか少しだけわかった気がする。
ピリリ、
ポケットが揺れる。メールか。
携帯を開き、メールを確認する。命からだ。
『生どこにいるの?』
怒ってるのかなか・・・少し冷や汗をかきながら俺は
『教室に向かってる』
と返信しておいた。
そろそろ教室に戻るとするか・・・・。
「──生どこにいってたの!!」
帰ってくるなり俺は命に怒られる。
「しっかし、二学期初日からサボるとはお前もすげえな」
御神槌がケラケラ笑いながらそう言う。
「御神槌さん。笑い事じゃないよー」
「──で境川。今度は何に巻き込まれた」
御神槌の表情が険しくなる。
「なんのことだ」
俺はとぼける。
「とぼけても無駄だぜ。少し前に空気が乱れていた。まるで誰かが交戦しているみたいな感じだ」
空気を使う御神槌にとって少しの乱れでも感づいてしまうみたいだ。
「・・・なあ シャルル・ヴァン・シュトローゼってやつ知ってるか?」
俺がシャルルの名を口にすると、楠が本を閉じて、
「貴方、それをどこで知ったの?」
いつになく真剣に聞いてきた。
「ある女の子に頼まれた。シャルルを倒してくれって」
ルナや外国のことは伏せ俺はそういった。
「頼まれったって・・・シャルルは外国の逸材者なのよ。どうして日本であるここでその名前が上がるわけ?」
「境川、お前・・・」
二人は俺の顔を真剣に見てくる。
だが今回ばかりは巻き込むわけにはいかない。楠の反応を見る限りMr.Kよりは力が劣るかもしれないが危険性がありすぎる。
「気にすんな。俺もまだ引き受けるか決めてない」
そう言って俺は誤魔化した。いや誤魔化せてはいない・・・。でも本当にもう巻き込むわけにはいかないんだ。
「そう言えばもう帰れるのか?」
周りを見ると生徒の一部はいなくなっている。
「ああ。担任も挨拶に来たしな。明日からは正式に授業だそうだ」
御神槌がこれ以上追求してくることなく、俺の質問に答えてくれた。
「・・・・・」
だが楠はずっと俺のことを見てきていた。きっと何か言いたいことがあったのだろう。でも俺は彼女の視線を避けて下校することにした。
帰り途中楠には睨まれていたが、目を合わせたら最後だ。
「ふぅ・・・」
なんとかシャルルのことは言われずに済んだ。ほっとしていたが、
「ねえ生。また何かに首突っ込むの?」
隣の家で必然で気に帰りが同じである命がそう言ってきた。
「・・・どうだろうな」
まだ決めてはいない。でも俺を頼って日本に来たんだ。それを考えると一人で帰すのは少し気が引けるよな。
「生は確かに強い。でもその目を失った状態では少し不安なの」
命はシャルルについて聞いてくることはなかったが、俺の身体を心配してくれている。
俺はこんなにも心配してくれる仲間を一度は守ることができなかった。
だから今回も俺の関わることに協力させるのは危なすぎる。Mr.Kとの戦いでは偶然にも俺の仲間は死ぬことなかったが、規模が外国にもなると俺にも検討がつかなくなる。
過去にもどる力である「既視感」は右目を失ったことで発動できなくなってしまったからこれ以上の後悔はしたくない。
だったら最善の方法として俺は仲間を巻き込まない選択を必然的にとることになる。
「ん?」
家の前に誰かが立っている。あれは・・・
後ろから見ても分かる金色の髪型にあの身長・・・・ルナだ。
「おい」
俺は後ろから声をかける。
「ひゃ、だ、誰・・・ってあっ」
驚いて振り向き俺だということに気が付く。しかし気絶して保健室にいたルナが俺より速く家にいるとは。
「お前なんで俺の家の前にいる」
「ジョセフに調べさせたのよ」
ドヤ顔でそういった。
「生、彼女は?」
命が横から聞いてくる。
「ああ・・・こいつは」
ルナのことを言おうとしたが──
「私は彼の依頼人よ」
そう言って俺の手に抱きついてきた。
ピキッ、
命の表情が固まる。
「へ、へえ・・・生の依頼人・・・そうなんだぁ・・・」
怖いぞ命・・・なんだ、怒ってるのか。
これまでに見たことないほどの圧力を感じる。
強引にルナを離そうとしたが、こいつ離れん・・・。
ゴゴゴゴ・・・と命から怒りが見える。
そして黒かった髪は赤色に変わっていき、
目も変わった。
「生。ちょっと彼女と話があるからどいてもらえるかな?」
そう言ってきた。赤い髪に赤い瞳、間違いなく今の命は逸材の力を100パーセント出し切っている。
「あら。そっちも逸材者なんだ。面白いわね。日本は」
クスっとルナは笑う。朝俺にボコボコにされたのに元気な奴だ。
俺の手からは離れたルナは道路に命と一緒に出る。
「頼むからこんな人の家の前で荒事は避けてくれよ」
一応警告はするんだが、
「──大丈夫、すぐに終わるから」
命がそういった。
「貴方なんて10秒で終わらせるわ」
命の言葉にルナが秒数宣言をする。
経緯はどうであれ、俺はこれが初めて命が自ら闘うところを見る。
100パーセント影のスタイルになった命はどんな力を持っているのか気になっていた。
未来を見る力をもつ今の命、Mr.Kに仕込まれた帰国子女であるルナ。どっちが勝つのだろうか。
俺は珍しくもこの二人のよく分からない争いに傍観者として見ているだけなのであった。
【キャラ説明】
■境川 生(第四章現在)
性別:男
能力:「???」
説明:平凡な暮らしを求めいたが、逸材者という立場のせいで様々な出来事に巻き込まれている。Mr.Kを倒したことにより逸材者からはその名が知られてしまった。
容姿:黒髪
学校:緋鍵高校 1年(恋桜学園が工事中のため一時的移動)




