夏の「エピローグ」
Mr.Kを倒した俺達は命や無の部屋の子供たちが介護されている病院に向かった。
途中で棗や倒れている御神槌と楠に遭遇した。
「──随分と派手にやったもんだな」
病院のベンチで棗にそう言われる。
「命ちゃんは今だ目を覚まさず、御神槌は重症で全治一週間、お前ときたら足と腕の骨折だもんなぁ・・・・」
「お前が異常すぎるんだよ」
棗の身体はどこも怪我をしていなかった。俺と会長が駆けつけた時にはもう既にゾンビを倒していて白衣の男やあの施設の関係者は警察に突き出されていたのだ。
我ながら棗の存在が怖く思えてくる。仲間でよかったと思うよ本当に。
「まあでもこれで本当に一件落着ってことだよな」
俺は目的を果たした。Mr.Kが死に無の部屋は警察により取り壊しが入るだろうしこれで全てが終わったのだ。
あとは学園がどう変化するかだ。
聞いた話によると学園は半壊中でまだ工事が終わっていないとのことで二学期からは俺達は複数のグループに別れそれぞれ別の学校に登校することになっている。
詳しくは二学期、9月1日以降に分かるみたいなのだが、それまでに俺はやらなくてはいけないことが一つだけある。
「命・・・」
そう、目を覚まさない命を助ける。それが俺の最後の役目だ。
この赤く染まっている右目は本来命のものであり、これを託したことにより命は一度死んでいる。理由は分からないが奇跡的に命を吹き返したのだが目を覚まさずにいるのだ。
だが、目を覚まさせる方法は検討付いている。
それは──この右目の返却、だがそれをすれば俺の右目は再び光を失うだろう。
だが俺はそんなことで迷うことはないと決め、命の病室に入った。
中は広く、誰もいない。眠っている命を除けば。
俺は病室に入り命の前まで歩き始める。
「ただいま、命──終わったよ」
俺は優しく微笑み眠っている命に話しかける。
「そして返しに来た。お前の力」
そっと手を握り俺は目を閉じる。そして段々と意識を失っていき俺は命の腕を握ったまま眠ったのだった──
「ん、ん・・・ん・・・?」
私は目を覚ます。あれここは病院・・・・でも私は確か。
脳裏に映るのは命を生に託した自分。でも私は生きている。
手に暖かい感覚があった。布団から起き上がり見てみると生が眠っているのだった。
「また助けられちゃったのかな」
そう思ったとき私の脳に生の記憶と思われるものが瞬時に流れ込んできた。
「ッ・・・これは」
その映像は私が生に命と力を託したあとの内容だった。
「・・・そっか、倒したんだ」
状況を理解し私は生の頭を撫でる。
「お疲れ様・・・・」
優しくそう言って私は愛する人の寝顔を見ていた。
病院の屋上、そこには会長と愛桜存在してた。
時刻はもはや早朝で日が昇り始めている。
「──Mr.Kは死亡しました。これから色々が動き始めますね」
「そうだな。学園の上の存在が消え、無の部屋という怪しいところも見つかってしまったのだ。今頃日本政府は慌ただしいだろうな」
メガネをクイッと上げ会長はそう言う。
「それに、二学期からは学園には行かず、全校生徒それぞれが各地の高校や学園に配属されるみたいではないか」
「学園の修理が終わっていませんからね。それが何か問題でも?」
「世界には様々な逸材者がいるだろう。お前や境川などを含めずに他にもMr.Kを知りその仲間もいるはずだ。奴が死んだということはスグに知れ渡る。今度はそいつらから襲われることがなければいいんだがな」
「会長は不安ですか?」
「・・・・やられる生徒が、な」
「フフ・・・確かにそうですね」
愛桜は笑いながら会長と話を続けた。
これからの学園のこと、そしてこれから起きる出来事の対策を・・・。
──命とは違う病室。そこには御神槌と書かれた名前の部屋があった。
「心配かけちまったな。楠」
ベッドに横たわりながら御神槌がそういった。
未来の境川と戦って引き分けた。その時にボロボロになって倒れたのだ。
「ホント・・・心配かけたんだからね」
本をパタッと閉じて御神槌の言葉に反応する。
「悪かったって。だけど結果的にはこれで良かったんだ。全て終わったんだからな」
「そうね──でも本当にこれで終わりかしらね」
「どういう意味だよ」
「Mr.Kの活動は日本だけでなく世界にも進出していたのよ。それは海外でも逸材者を制作しているということ」
「・・・?」
楠は溜息をついて、
「噂だけど外国の逸材者は私たちとは違ってトレーニングを積んでいるそうよ。それにMr.Kのことをとても尊敬している人が多かったと言われてるわ」
「つまりその外国の逸材者が俺たちを襲って来ると?」
「そうなるわね。近いうちだけど、いえ・・・もうこの日本に来ているのかもしれないわね」
楠は窓から空を眺めてそう言った。
俺はどれくらい眠っていただろうか、ふと気づき俺はかばっと目が覚めた。
「──」
そして目の前には微笑みながら俺を見ている命の姿があった。
「み、命・・・」
右目には光がなく左目よりの視界で見る。
「生・・・」
「終わったよ・・・命」
「うん。知っている。全部見たから」
見たとはどういうことだったのか分からなかったが、命は目を覚ましてた。俺は嬉しかった。色々あったが守れなかった大切な人を助けることが出来たんだから。
「生、私ね。何で生き返ったか考えてみたの。貴方に命を託したはずなのにどうしたなのか・・・それで色々考えた。そして気がついたの」
そう言って命は手元からボロボロになったリボンを見せる。
それは前に命が知らない人から渡されたというリボンだ。
「これが・・・?」
「そう、このリボンには人の生命活動を一回だけ蘇らせる力が封じ込めてあったの」
いったい誰がそんな事をと思ったが俺は──
「気づいた?私も薄々思っていたんだけどね。ようやく気が付くことができたの」
そう、このリボンは俺が命に昔プレゼントした物だ。だがそれは小学生のときにあげたもの。《やつ》との時代に違いが無かった頃だ・
「渡してくれたのは未来から来た生。彼だったのよ」
御神槌が闘った相手、それは未来の俺(生)だ。そいつが命に一度会いに来ていたのだ。感情を完全に失った彼奴が命に私に来た。
「きっと感情を失っても私のことは思っていてくれたんだろうね。やっぱ生は生で私は嬉しいよ」
その言葉はきっと未来の俺にも届いているのだろう。敵ではあったけど、この行いについては感謝しきれなかった。
「(ありがとうな・・・・俺)」
俺は心の中で感謝をした。
「っと、そうだ命」
忘れてたぜ。学園のこと。
「ん?なあに」
「二学期からなんだけどな──」
俺は話した。これからしばらく通うことになる学園のことを。
「そっか・・・工事中なら仕方ないよね」
「まあ確かにそうだけど。行くところが同じだといいよな」
命がしょんぼりしている理由、それは俺と通うところが離れ離れになる可能性があるからだ。
恋桜学園では同じクラスで席も隣だったからあまり分からなかったが、もし離れ離れになったら俺も少し悲しい。
「祭りは参加できなくなっちゃったけど残りの夏休み、充実したいわね」
命はうっすら微笑みながらそう言ったのだった。
そうだな。俺は命の言葉に少しだけ笑いながら答えた。
俺たちも少しくらい学生らしいことしてもいいんだよな。今まで闘いすぎて日常を謳歌できてなかった。だからこれから少しずつ俺たちは日常を過ごすんだ。
──千葉県、成田市、 成田空港。
そこに大きなキャリーバッグを持った女のことがいた。
金髪で三つ編みを編みこんだスタイルのいい女の子、
「──Hey Joseph! I arrived at Narita.(ねえジョセフ!成田に着いたわよ)」
電話越しに女の子は英語で喋る。見た目は高校生くらいの女の子。ただひとりだった。
「Indeed, what is your father thinking....(全く、お父様も何を考えているんだか)」
ボソとそういった。彼女は自分の意思でこの日本にやってきたわけではなかったようだ。
「お嬢様。お待ちしておりました」
私の目の前に日本の執事がやってくる。
「──遅いわよジョセフ、全く。何で私が・・・」
「随分と日本語がお上手になりましたね」
執事のジョセフは褒めてきた。ちょっとだけ嬉しかったが、私がこうして日本語をしゃべることができるから、ここにこさせられてしまったのだ。
「で、ここからどうするのよ」
私は着いたらジョセフに聞けと言われているので聞いた。
「はっ、お嬢様は九月から・・・あと数週間後に日本の学校というところに通ってもらいます」
「学校~?」
「そうです。日本を知ってもらうにはとりあえず日本の決まりに従ってください。義務ではありませんが、なにせお嬢様は帰国子女。わからないことも多数ですのでとりあえずはという形で」
ジョセフは申し訳なさそうに言う。
「大丈夫よ。でも日本の勉強だなんてくだらない。でもそこにいるんでしょ?」
「・・・逸材者ですか?」
「ええ。そうよ。お父様の命令通り私は逸材者を探しているわ。学園に通っているって聞いてたし、どうせいくのならそいつがいるところなんでしょうね」
「・・・そうしたいのですが、何せその逸材者は情報がすくなくどこにいるかも分かっておりません。ですが、この日本のどこかにはいるはず」
「そうでしょうね。でなきゃこ《才女》である『ルナ・ユーフラテス』がこんなところには来やしないわ」
髪をバサッとやりルナはそう言った。
逸材者を探して海外からやってきた才女、それは新しい超常の始めりを告げるのだった。
【キャラ説明】
■Mr.K
性別:男
能力:「万能の逸材」
説明:逸材者の中でもトップクラスの人物。未来を見通せる万能の逸材を持っており、見通すだけでなく数秒先の世界に行くことが可能。
容姿:身長2m20cm
補足:無の部屋の設立者/恋桜学園の上に立つ




