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逸材の生命  作者: 郁祈
第三章 夏休み編
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5秒先の世界

 目の前にいる人物、Mr.Kは俺たちが来ると同時にこう言った。


 「──たどり着いたか。少し予想外だったよ。そして無の部屋から子供たちを連れ去ってくれたようだね。色々と狂っちゃったよ」


 身長が二メートルを超えた男Mr.Kは椅子に座りながらそういったのだ。


 

 「余裕だな。Mr.K」


 「恋桜学園生徒会長──恋桜(こいざくら) 祐春(ゆうし)か。逸材者でもないお前がここまで生きているとは思わなかったよ。希に見る逸材に近い天才だ。だが、所詮は天才止まり」


 余裕たっぷりなKはクックと笑いながら会長の情報を喋りだす。


 「私が出る幕はないと"見ていた"のが、例外を起こしてくれたようだな」


 その声はこれまで聞いたことのないドスの聞いた声だった。


 その声に俺と会長はブルっと来てしまった。


 

 「境川・・・・」


 「会長もですか。この相手、ヤバイっすね」


 声だけで次元が違うとわかってしまう。それは相当にヤバイということだ。


 「だけど」


 俺はそう言って足に力を入れる。一瞬でアイツの前に行けば反応できないと踏んだのだ。


 「はぁ!!」


 俺は高速で移動する。Mr.Kは案の定その場から動いていない。まだ俺の移動に気づいていないのだ。



 「──境川か。速いな」


 「なにッ」


 Mr.Kの声が聞こえたかと思ったら俺は吹き飛ばされたいた。


 身体が数箇所殴られた痕跡を持って。


 「境川、一体何が」


 会長が何が起きたか分からないと言う顔をしていた。俺にも分からない。確かにMr.Kは俺の動きについてこなかった。だというのに、目の前で奴は姿を消し、俺に攻撃していた。


 少し移動した場所にMr.Kは余裕そうにくつろいでいる。


 「──どうした境川?その程度か」


 「くそったれ・・・何したんだよ」


 「教えたらネタばらしになるが──それくらいいいだろう」


 そう言ってMr.Kは自分の力について話した。


 「私の力は未来を見通す能力、加えその未来に行くことが可能なのだよ」


 「未来を見る・・・・」


 ただ未来を見るだけでなく、その未来に行くことができる。


 「未来といっても精々5秒後の世界とかだ。明日や明後日などはみることは出来てもたどり着くことは叶いやしない」


 「つまりお前は先に5秒後の世界に存在することで、俺たちの前から姿を消したわけか」


 俺と会長の意識が5秒後に追いついた時、初めてMr.Kを目視することができるようになる。

 その間、Mr.Kの目線からは俺たちの動きは止まっているように感じるのだろう。


 

 会長はメガネをクイッとやり、


 「つまり奴に勝つには5秒後の動きを予測──あるいは5秒後の世界にたどり着くしか方法はないということか」


 未来の俺がやっいた技量と似た技、それが出来なければMr.Kに勝つはおろか触れることすらできない。


 「冗談じゃねえよ・・・そんなやつが存在していいのかって」


 「だが、時間を停止しているわけではない。こちらが向こうの速度に追いつければどうってことないだろ?」


 会長はお前ならできると言った感じに言ってくる。


 

 「話はまとまったかね?」


 遠くからKが訪ねてくる。強者の余裕ってやつだろう。あまり向こうから仕掛けてくることは無かった。


 

 「境川、少し時間を稼げ。俺は少し考えがある」


 そう言って会長はゆっくりと後退を始める。


 「──信じてますよ。考えを」


 対策がない以上、俺は会長の考えに賭けてみることにした。それが成功するのかは分かりえないことだが、今の俺たちに出来ることはそれしかなかった。


 

 俺はダッシュしてKのところに向かう。


 だが、目の前でKが消える。これはさっきと同じ・・・だけど──

 俺は一瞬だがKが移動する方向が見えた。


 ギリギリのところで俺は踏みとどまり、右に向き拳で守りの姿勢を取った。


 「む──!」


 Mr.Kは連撃を繰り出す。だが俺は事前に守りの姿勢をとりそれをカードした。


 ドゴォォォ...!!最後の二発の拳は俺の守りを通り抜け、腹と腕に攻撃がヒットした。

 未来の俺と同じ原理だ。何秒か前に攻撃をしていてそのダメージが時差で与えられる。


 Kの攻撃をある程度防ぎ俺はKの前に立つ。



 「境川生・・・貴様・・・・」


 「なんだよ」


 「その右目か。入口で会った時には存在しなかったお前の(わず)かな変化。それが私の未来についてこれる理由か」


 「どういう意味だ・・・・」


 未来についてこれる?それは一体・・・


 「──私はお前が近づいたとき確かに右方向に避けた。だが、お前は私の動きを見切ったのだ。普通なら体感できない速さなのにお前は見たのだ。私の移動を」


 そう言ったMr.Kは次に見た瞬間、これまで以上にない怖い声で、


 「私と同じ逸材、その目・・・生かしてはおけないな」


 そう言ったのだ。


 「まさか・・・命・・・」


 命は逸材者であることを教えてはくれた。だが、彼女は自分の能力がなんなのかは教えてくれなかった。

 でも命は言っていた



『"この力は....この力があれば私は生を守ることができるの"』


 俺を守ることができる。その通りだった。命の力がMr.Kと同じで"未来予知"なら俺は奴に勝つ手段が少しは見えてくる。


 「貴様の予知能力、それは2秒・・・それくらい先なら私と同様、その速さでその世界に行くことが出来るな」


 「・・・すぐにお前に追いついてやる」


 残り3秒の差なんてスグにでも埋めてやる。

 俺は足の筋肉を強化する。


 俺は速さを最大限にKに向かって拳を殴りつける。

 だが、やはりギリギリでKは姿を消し攻撃は空振りに終わってしまった。


 「くそ・・・」


 Kの移動する範囲は全て俺の近場だった。だからすぐに俺はKのいる方向に身体を向けて攻撃を繰り出す。

 でもその攻撃全てがかわされてしまう。数秒とは言え俺の動きを予知できているんだ。くそ・・・。


 「ガッカリだよ。もう少し楽しめるかと思ったんだけどね」


 ピンッ、


 Mr.Kは俺の目の前に現れデコピンを俺のおでこに撃つ。


 俺は一瞬反応できなかったが、デコピンをされたと理解した瞬間、勢いよく吹き飛ばせた。


 「がっ・・・」


 デコピンでこの威力・・・・・

 脳に衝撃が行き俺は全身に力が入らなくなる。立つこともできなかった。


 生きているのが運がいいとしかいいようのない状態。だけどKは動きを止めることなくこちらに近づいてくる。


 ふと疑問に俺は思う。


 なぜMr.Kはこう言う移動には速さを駆使してこないのか。なぜ普通のように歩いてくるのか。

 考えたが頭にダメージを負っているためまともに考えることができなかった。でも振り絞って俺は思考を巡らす。


 ──五秒後の世界、未来予知・・・・この二つがKの逸材能力。つまりだ。


 五秒後に入れる範囲、それがKの超人的速さの秘密だ。俺はそれを理解した。

 だから俺が近づいてきた時にしかやつは先の世界に行くことがない。移動先が全て俺の近くだというのにも納得がいく。

 未来の俺と違い筋肉強化を会得していないMr.Kは数秒で遠くに行くことは不可能。そういう事だったのだ。


 「(──分かったぞ、だがこの負傷・・・では・・・動くことが・・・・くっ)」


 折角(せっかく)Mr.Kの力の謎が解けたというのに身体が動かないんじゃ話にならない。

 このことを会長に伝えなくては・・・・でも声が思うように出せない。


 そうしている間にMr.Kは俺の目の前までやってきていた。


 「未来を見通すその逸材・・・誰から譲り受けた?」


 「──お──える──かよ」


 教えるもんかよと言いたかったが声は出なかった。


 「脳を攻撃したのだ。生きているだけマシと言える方か。喋るのも、意識を保つのも辛かろう。安心しろ今楽にしてやる」


 Kの身長はでかい、それに加えて俺は倒れた状態で奴に目を向けているからその大きさは尋常ではないものだ。

 会長は俺の方に必死で走って向かってきているがこの状況では俺を助けることはできない。


 俺自身でどうにかするしかない・・・。でもそのとき俺は意識が一瞬飛んだ。


 「さらばだ──」


 心臓をめがけて拳を放つ。

 

 ガシッ、


 どういうわけだろうか。俺は無意識にKの放った拳を受け止めていたのだ。この射程範囲は向こうの逸材の力の範囲、超高速の拳だったにも関わらず、無意識に俺は受け止めていた。


 「なんだと・・・」


 グググと抑えられた拳を前にKは驚く。


 「くそ・・・!」


 空いているもうひとつの腕で俺の心臓をめがけて拳を放つ。


 ボゴォォ!!


 俺に向かって攻撃したはずなに吹き飛んだのはMr.Kの方だった。



 「馬鹿な・・・私より先に攻撃を当てただと・・・」


 俺は攻撃を繰り出した時にようやく意識が回復する。


 「──ッ・・・・」


 そのときに俺は気がついた。近くに落ちていたガラスの破片で自分自身の姿を見ることができたんだ。


 赤く染まり果てた俺の髪、そして命から受け継いだ右目の赤い瞳、それが今の俺の状態だった。


 「その髪・・・一体・・・何をしたというのだ」


 俺は立てるはずもないダメージを負っていたにも関わらず、立っている。それどころか、痛みを感じなかった。


 「力を感じる・・・・」


 拳をギュッと握り締める。その時に感じ取れたこの異様な力の入りよう。今なら勝てる気がする。そう思えた。


 「赤くなったからといっていい気になるなよォ!!」


 Mr.Kはさっきまでの冷静とは違い、大きく乱れてこちらに向かってきた。


 5秒先を行くMr.Kだったが、俺はついにはそれを目で追い、捉えることができた。


 そして──


 ボッゴォォォッ!!!


 Kの攻撃をひらりとかわし俺は腹にめがけて一撃を喰らわした。


 「無駄だ、俺が存在するのはお前の未来──5秒の遥か先だ」


 そう言って腹に押し込んだ拳を思いっきり降る。Kは吹き飛ばされた。


 

 「かはッ・・・・」


 ピィン──起き上がろうとしたMr.Kだったが、その姿が停止する。それどころか俺の視界に入る全てのものが停止しているのだ。


 俺はゆっくりと歩きながらこの原理を理解した。これがMr.Kが言っていた未来の世界。奴は5秒の間、この止まった空間で俺たちを殴っていたのだ。

 短い射程だったが、俺の場合、筋力強化でどこまでも早くすることが可能な為、範囲は広く8秒先の未来に飛ぶことができた。


 つまり、


 俺はさっきと立場が逆でKを見下ろす。


 パァン・・・8秒経過。世界が通常速度に戻った。


 「なっ・・・速い・・・」


 俺の速度についてくることはできず、Kは俺がいきなり目の前に現れたと錯覚する。


 「見えたか?見えないだろうな。この能力は俺の力ではない。一人では成し得なかった力──俺と命、二人合わせてこの力になったんだ」


 視力、聴力、嗅覚、筋力、全てを強化できる俺の力、そして未来を見通す命の力。この二つが合わさりMr.Kの逸材を超える力になったのだ。


 「俺はお前を倒し、学園を変える。それが目的だ」


 「なるほど、お前がここに立つ理由がわかった気がするよ。学園を変える。はっ、出来るものか。私が不在なるあの学園は存在しているのですら難しくなるんだからな」


 「それでも俺たちは何とかしてみせるさ。少なくともお前がいた頃よりずっと良くしてみせる」


 「では──見届けるよしようか・・・」


 諦めたかのようにKは目を閉じる。


 「ああ、《あの世》で見てるんだな」


 ザシュ。


 俺はそう言ってKの首を跳ねた・・・。


 これで終わったんだ。俺の目的は。


 フッ──と力が抜ける。髪の色も元に戻り、俺は倒れそうになる。


 「境川、大丈夫か?」


 会長が俺を支えてくれた。


 「・・・大丈夫ですよ」


 「そうには見えないがな」


 優しく微笑みながらそう言ってくる。


 「終わったのか?」


 「ええ。終わりましたよ」


 Mr.Kは死んだ。時を越えるという凄い逸材を持っていたが、一人ではなく、俺たちの力で勝利をしたんだ。


 ──さあ帰ろう。命の元に・・・。


 俺は会長に支えられながらもこの施設から出るのだった。


 これで全てが終わった、そう思えていたのはどこまでなのだろうか。

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