表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逸材の生命  作者: 郁祈
第三章 夏休み編
30/130

知恵での補い

 夜・・・・深夜と言ってもいいこの時間、俺達は全員で無の部屋が存在する森に来ていた。


 「──まさか、またこの場所に来るとわな」


 御神槌(みかづち)がそう言う。


 「貴方と出会えたのもこの場所のおかげよね・・・」


 (くすのき)が懐かしそうに言う。


 「ここが・・・冬花(ふゆか)を閉じ込めた空間」


 クイッとメガネを上げ会長が言う。


 「うう・・・何か武者震いしてきたぜ」


 (なつめ)がバカみたいな発言を言う。


 「Mr.K──私は貴方に歯向かいます。どうか・・・お許しを」


 目をつむり愛桜(あいさか)先輩は謝りながらそう言う。


 「命・・・待っていてくれ。これが俺たちにとって一番の闘いだから」


 俺はゆっくり目を開け、赤い右目を光らせながら決意の元、そう言った。



 今度は負けない。その覚悟を持ち、俺たちは無の部屋にへと堂々と入口から突入した。


 コツコツと長い廊下を歩く。


 「しっかし、よくぞまあこの廊下をここまで・・・」


 御神槌が辺りを見渡しながらそう言う。


 「・・・敵は思っていたより強いということか」


 「お・・・会長、どうか無茶だけは控えてください」


 「御神槌もよ。ここであんたが死んだら東雲さんに合わせる顔がないからね」


 「わーってるよ。もう誰も死なないんだろ?境川」


 御神槌がそう言うと全員がこちらに視線を集める。


 「──もちろんだ。もう俺の仲間は死なせない」


 

 

 「なら、死なせてみせよう」


 そう前から声がし、バッと声の方を向いた時だった。


 「──やはり生きていたか《俺(境川)》」


 ビュンっと俺の目の前に突然現れた未来の俺、


 

 「なに・・・」


 「速い!!」


 「境川くん!!」


 御神槌、会長、楠の反応がかなり遅い、この速さ・・・


 俺は咄嗟(とっさ)に手でカードの姿勢をとる。だが、


 ボゴォッ、


 ガードしたにも関わらず、俺の腹に拳が当たった。


 「ガッは・・・・」


 「生きていたことには驚いたが──よもや戻ってくるような愚か者だったとはな」


 未来の俺の攻撃は深く重たい一撃だった。




 「御神槌・・・あの速さ、見えた?」


 「いや、見えなかった」


 「──境川は攻撃の前に守りの姿勢を取っていた。それにも関わらず、奴の攻撃は防御した境川を超えて攻撃を出した」


 クイッとメガネをあげて会長は


 「考えたくはないが、あの一瞬、境川が直感で動いたガードのタイミングより、奴は速く行動したということだ」


 



 ──俺は地面に伏せながら未来の俺をみる。やはりこいつは格段に強い・・・。

 俺より速く行動することができる。奴が俺を殴ってからダメージが反映されるまで多少の時間があったはずだ。

 つまり、もはや彼奴の攻撃速度は一瞬、《世界の時間》が止まっているといってもおかしくはないのだ。


 「まじ・・・・かよ・・・」


 命によって生かされたこの命、悔しいけどまた無駄にしてしまう・・・。そんな気がしてしまった。


 未来の俺は俺の目の前に立ち、


 「今度は迷うなよ・・・・」


 トドメを刺そうとした──


 「ッ──」


 未来の俺は何かに気がつき、俺の前から飛び離れた。


 グゥゥゥン....と拳が未来の俺が居た位置に振りかざさられる。この音の攻撃は御神槌だった。


 「ちぃ・・・外したか」


 「御神槌・・・お前」


 攻撃速度は俺に劣るものの、戦闘知識なら圧倒的に俺より上の御神槌だ。奇しくもこいつの攻撃は一瞬未来の俺を下げさせる力があった。


 「あいつ・・・未来のお前なんだってな。だったらこいつの相手は俺がする」


 御神槌は拳をグッとし、未来の俺の方をみる。


 「──俺の目的はお前を潰すこと、それは未来だとか過去だとか関係ねえ・・・境川生ってやつは皆、俺の目的だ」


 そう言って御神槌は未来の俺の方に向かって走り出す。


 「うおおおおお!!」


 右手を構え、殴りの体制に入る。だが、俺でも御神槌を追い詰めることができたんだ。出会ったことがないにしろ、勝ち目があるとは思えにくい。

 

 俺の予想は当たった、御神槌が殴りの体制に入った瞬間、未来の俺は姿をバッと消した。

 高速で移動したのだ。

 奴の体感速度では俺たちの動きは止まっているはず、それほどに速いのだ。



 「──無謀だな」


 空中から未来の俺の言葉が聞こえる。御神槌は反応しない。つまり俺は少しだけ速度に順応しているということか。

 

 「御神槌!!」


 俺が叫んだが、時は既に遅かった。

 御神槌の後ろに未来の俺は立っている。


 「ッなに・・・後ろ」


 ──ザシュ、その言葉と同時に御神槌の腹の辺りから血が飛び出る。


 「終わりだ」


 その言葉通り、御神槌は今の攻撃で・・・・そう思っていたが、


 「──何が終わりだ?」


 「ッ・・・・!」


 後ろから拳が振り下ろされる。未来の俺は反応に一歩遅れ拳を受け止める形になった。


 「・・・貴様・・・・腹を切られ生きて・・・・ッ」


 そういい未来の俺は御神槌の腹周りをみる。驚いたことにそこには、


 

 「傷がない・・・制服が切れてるだけよ」

 

 遠目から楠が反応する。


 


 「へへ、忘れてちゃ困るが俺もこれでも逸材者でね・・・」


 「──なるほど、侮ってはならないか」


 拳を弾き、未来の俺は大きく後退する。


 

 「貴様、逸材者と言ったな。名は?」


 「御神槌──御神槌(みかづち) (しのぶ)だ。未来の境川、どうやら俺とお前は未来では合うことはなかったみたいだな」


 「無論・・・俺はお前と違い、無の部屋を出ることがなかったからな」


 「はっ、どうりで・・・感情が死んでいるわけだ」


 「貴様がどんなに逸材者として素質があろうと、俺に勝つことはできない。今の攻撃を防いだのは評価に値するが勝敗は別だ」


 御神槌は理解しているかのように目を閉じる。


 「確かに俺の力では今の境川のも未来の境川にも勝てやしないだろう・・・。でもな、逸材者が"いつ能力だけの存在"になった?」


 御神槌は目を開きこう言う──


 「──逸材者の特権は《能力》じゃねえ《知力》だ。天才、秀才を上回るその知性、それこそ俺達逸材者の存在意義なんじゃねえのか?」


 「抜かせ、知性だけで俺に勝つことなど万に一つもありえない」


 「現に知性を振り絞って俺はお前の攻撃を不正だぜ」


 そう言って御神槌は拳をグッと構える。これは空気弾の構えだ。


 「結局は能力か・・・・小賢しいやつめ」


 「これも・・・策の内だよ!!」


 ドゴォォン・・・!!そう言って御神槌は空気中に集まった空気を勢いよく弾く、

 一直線に未来の俺に飛んでいくが、


 「無駄な・・・」


 手を前に構え、それを受け止める。弾といっても空気なので、受け止めた瞬間、空気弾は元の空気に戻り何もなかったようになる。


 「これしきの攻撃でよくもまあ、あのような戯言(ざれごと)を言えたものだ」


 

 「御神槌・・・」


 遠くから楠は御神槌を応援することしかできない。

 

 「心配か?御神槌が」


 「ええ・・・心配です。御神槌は強い、でも今の境川くんにも勝てなかった彼が、未来の境川くんに勝つのは厳しいかと」


 会長が心配してくれるが、助けに言ってくれるというわけではない。この場にいる全員が知っているのだ。境川が誰よりも強いということを。


 「だが、あいつも紛れもない逸材者だ。何か策があるみたいだぞ」


 メガネをクイッと上げ会長はそう言った。





 「やっぱり防がれたか・・・だったら」


 御神槌は落ち込むこともなく、再び空気弾を撃つ構えをとる。


 「なんの真似だ・・・」


 未来の俺は呆れたかのように御神槌をみる。


 シュゥゥゥゥゥゥゥ....御神槌の腕の先に空気が集まるのが分かる。


 「──俺だって伊達にこの一ヶ月何もしてなかったわけじゃねえんだぜ!!喰らえ」


 そう言って御神槌は空気を弾く。


 一瞬だが確かにわかった。さっきの空気弾とは弾き方が違う。


 通常の空気弾は空中に集まった空気を『押す形』で放つ。

 だが、今の空気弾を弾くとき御神槌の腕はグルッと回転し、『回転して押す』というものだった。


 なので弾かれた空気弾は回転力を回し、未来の俺のもとに放たれた。


 「同じこと・・・・」


 さっきと同じように腕を前に出す。


 「ッ・・・!!」


 だが、当たる一歩手前でさっきとは違うということに気が付く、


 「ちぃ!!!!」」


 手からフッ、と風邪が飛び出す。それと同時に空気弾は消滅する。


 「なに・・・・!!」


 御神槌は驚いた。未来の俺に当たるに消し飛んだのだから。


 ──今のは俺が希にやる技を打ち消す奴だ。過去に生徒会室で襲われた時に銃弾を止めるために一回使用している。

 これは俺が本当にピンチの時に使う技だ。そうなると未来の俺は一瞬だが焦りを生じたということで間違いないだろう。


 「なるほど・・・これは驚かされた」


 未来の俺は表情を変えず、驚いたと御神槌に向かったそう言った。


 御神槌の進化させた空気弾はこの場にいた全員を驚かせた──だが、その攻撃は悲しくも未来の俺に届くことはなく、失敗に終わった。

 

 「御神槌忍──その名前だけは覚えておく」


 ザシュ・・・ザザザザン


 御神槌の身体の至るところの制服が切れた。異常な速さでの攻撃は時差が激しすぎ、いつ攻撃されたのかも分からなかった。


 「──まだ・・・だぜ」


 御神槌の身体からは血が飛び出なかった。それどころか御神槌はニヤリと笑っていた。


 「人間、技量で足りないのなら知恵で補うものだ──見せてやるよ『破滅の逸材者』の全力をなッ!!!」


 そう言った瞬間、この場に霧が発生する。


 「これは・・・・」


 一瞬俺には理解できなかったがすぐにわかった。外は雨が降っている。そして御神槌は空気を扱うことを武器にして戦うんだ。

 つまり、雨と部屋の空気を利用して霧を作り出したのだ。


 「お前たちは先に行け、ここは俺がやる!」


 濃い霧の中から、御神槌の叫び声が聞こえる。


 「しかし・・・」


 俺は御神槌だけでは心配と判断している。

 その時、後ろから


 「大丈夫、御神槌は私が見ている。境川くんたちは先に言って」

 

 楠がそう言ってきた。

 

 「でも・・・」


 楠は逸材者ではない。ましてや棗や会長のように力を持っているわけではない。

 だが、楠の目は本気だった。


 「これは私のワガママかも知れない・・・でも私も御神槌には死んで欲しくない。だから見届ける」


 「・・・なら、仕方ないか。御神槌!!任せていいんだな」


 

 「ったりめえよ。未来のお前(境川)を倒してすぐにそっちに行くからよォ」


 「ああ・・・任せたぜ」


 

 そう言って俺は奥の方へと走った。


 「──我々もあとに続くぞ」


 メガネをクイッとやり、会長に棗、愛桜先輩が追いかけてくる。未来の俺は追ってこない。向こうも御神槌と決着をつける気だ。


 


 「珍しいな。目的(ターゲット)を見逃すとはよ」


 御神槌が未来の俺に対しそう言う。


 「お前と決着がつくのは一瞬だ──別に今追わずとも後から始末することは可能だ」


 「そうかい、生憎だが、こっちも負けるつもりはない」


 そう言って御神槌は拳を構える。

 未来の俺は相変わらず棒立ちのままだ。


 

 「御神槌・・・・」


 楠は両手を握り合わせながらこの二人の状況を見ている。

 もちろん御神槌を信じ、勝つことを願ってる──だけども勝算はあってないようなもの。初めから決まっている感じだ。

 それでも境川たちを先に行かせるようにしたのは御神槌・・・そして楠だ。御神槌が勝つと信じた、だからこの場には楠だけが残っている。


 

 「拳を構えたところで貴様に勝ち目など存在しない。俺はお前が反応する1.5秒速く動くことができる──その差は大きい」


 「けっ、よく言ったものだ。俺だって策なしにここにいるわけじゃねえんだぜ」


 大気中の霧が御神槌の周りに集まりそこの辺りが濃くなっていく。


 「む・・・」


 そして未来の俺は気がついた。御神槌が行おうとしていることに。


 「貴様・・・・まさか・・・」


 「流石は境川だな。そうだ俺が成すこと・・・それは」


 周りの霧が弾丸の形に変わる。空気弾だ

 しかし、それはいつものように御神槌の拳の先にあるのではなく、


 「この"嵐"、1.5秒早く動けたところでかわせるかな?」


 御神槌を中心に無数の空気弾が中を舞っていた。まるで鉄砲隊を率いる軍隊の隊長のように。


 「考えたな。だが、空気弾を弾くのは貴様の拳のはずだ。それを成せない無数の空気だんなど、恐ることはない」


 「どうだかな・・・」

 

 御神槌の額から汗がこぼれ落ちる。集中状態を維持することで空気弾を中に浮かせているのだ。

 つまりこの無数の場合、相当な集中力が必要となる。

 

 「──喰らえ!!」


 叫ぶと同時に、御神槌の周りにある空気弾は未来の境川に向けて放たれる。

 スピードは少し通常の空気弾より劣っていたが、この数なら・・・!


 「甘いな」


 境川は一瞬で目の前から消える。超人な速さを使ったのだ。


   

 未来の境川は一瞬で御神槌の首元に出現する。まだ御神槌は気づいてすらいない。このままでは首元が飛ばされる。


 「終わりだ」


 ビュンと御神槌の首に手を振った──


 バァン!!


 地面に穴が空いた。


 「なに!!?」


 未来の境川は御神槌に攻撃をやめ、宙に舞う、そして離れたところに着地をした。


 御神槌は空いた穴のところに浮いている。


 「っぶねえー。もうそこにいやがったのか」


 驚いた顔をする御神槌、だがその顔は笑ってた。


 「確かに速かったな。だが、そろそろ慣れてきたところだぜ」


 ニヤリと笑いそう言った。


 「──なるほど」


 未来の境川は遂に目が本気になった。



 第二ラウンドの始まりだ──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ