失いし最愛の人物 誕生する生命の逸材
──ドゴォォォォン!!
勢い置く俺は扉をぶち壊した。
鍵がかかっていなかったにしろ、俺はこうしていただろう。
ブーブーとサイレンが鳴る。ただちに入口の前には人が集められた。
「──誰だ・・・貴様」
白衣を来た男は相も変わらず昔と同じ容姿と格好をして俺を出迎えた。
「誰だ?俺は逸材者だ」
名前を名乗るのでなく俺はそう答えた。
「──宣戦布告だ」
そう言って俺は入口近くの白衣以外の男を一瞬で倒した。
筋肉を強化し、速さを最大限まで持ち出し、まるで《時が止まったかのような》速さで倒したのだ。
だから相手側から見れば一瞬でなんの誤差もなく周りの人物が倒れたように錯覚する。そして恐怖を覚える。
「・・・なっ・・・」
予想通り白衣の男は驚き恐怖していた。
「Mr.Kはどこだ?俺はそいつに用がある」
「──待て、動くな・・・動いたらお前の身内を殺しに向かわせるぞ」
白衣の男はそう言って俺に脅迫を仕掛けてくる。身内、となると恐らく命も含まれてしまうだろう。厄介だな迂闊には動けなくなった。
ブラフだとしても俺には効果覿面のセリフだった。
こいつも一瞬で倒す(殺る)かと考えたが、その時だった。
──コツン.....コツン.....
一瞬で誰だか分かってしまう足音が聞こえた。
「──何事かね?」
この顔は一度見たら忘れるのことのない容姿、二メートル以上のこの身長、そして銀色の髪の毛、多少生え際った髭、その姿は以前と変わらずの《Mr.K》の姿だった。
「み、Mr.K!!し、侵入者です。逸材者と名乗るものが・・・」
白衣の男は後ろを振り返り、Mr.Kに状況を伝える。
「ほぉ、逸材者・・・・」
そう言ってやつは俺に視線をやる。
これが二度目・・・こいつの姿を拝むのは。なんという迫力、以前より俺は身長を高くしたつもりだが、やはりこの男はデカすぎる。
「お前は確か・・・」
Mr.Kは目を閉じながら何かを考え出した。
「ああ、思い出した──」
そして何かを思い出したようだ。
「過去の傑作、何しに来た?」
「ッ・・・!」
Mr.Kの瞳はまるで俺をゴミを見るかのような危険な目をしていた。
最高傑作と言ったこいつが・・・俺のことを過去の傑作と呼んだのだ。
「──過去の・・・ではこいつが境川生ですか」
「そうだな。だがお前は過去の作品に過ぎん。それに我々に歯向かっているそうではないか。そんなやつ、生かしておくだけ無駄だというものだ」
「言いたい放題いいやがって・・・過去の傑作だと?だったら見せてやるよ、過去の力ってやつを」
俺は闘う構えを取る、だがKは──
「フン、お前ごとき私が出るまでもない」
クルッと後ろを振り向きそういった。
「なっ、貴様──」
足に力をいれ、俺は一瞬でKの背後に飛び立つ、やれる・・・この間合いなら、
ガシッ、
「ッ・・・!!!」
俺の拳はKには届かず、何者かに掴まれていた。
なんだ・・・この力ッ・・・!!
Mr.Kは後ろを向いたまま、
「紹介しよう、これが《今の最高傑作の逸材者》・・・」
俺は地面に着地する。そして顔を上げるとそこにはフードを被った人物が立っていた。
「名は──」
Mr.Kが名を口にしようとしたが俺にはこいつの正体がすぐにわかった。
フード姿の人物はフードを取り、姿を見せた。
「お前は・・・・」
身長は俺と変わらず、顔の色は一部分が濃く染まり、髪も一部分白くなっている。目に光はなくこちらを見ているのかも判断しかねてしまう。
「俺・・・なのか」
だが自分自身のことだ。これはどう見ても俺だと分かってしまう。それにあの濃くなった肌、それは今俺の手のひらにある謎の肌色と同じなのだ。
つまりこれは《未来の境川(俺)》ということなのか。
「ほぉ、飲み込みが早いな──そうこれが今の最高傑作、未来から私の為に来てくれたお前自身だよ。お前の逸材は極めて強力なものだ。だが、それは自分自身が相手だった場合、どうなると思うかね?」
少なくとも過去の俺では未来の俺には勝つことは不可能だろう。だが、俺がMr.Kに服従するとは思えない。なのにこいつは俺の目の前に現れた・・・。
「気になるか?」
Kは俺の心を読んだかのような言葉を言ってくる。
「──簡単なことだよ。この男は【逸材に目覚めたにもかからわず、無の部屋を卒業しなかったお前(境川)の姿だ】」
無の部屋にいた頃の俺には感情が乏しくない。つまり卒業しなかったということは人間的に死んでいるということだ。
未来の自分との闘いということで咄嗟に構えたが、
グンッドゴォッォォ!!
攻撃が見えず、俺は一瞬で殴られ壁まで飛ばされた。
「(攻撃が見えなかった・・・・これは俺以上に身体能力が上だ)」
攻撃を見ることができない。それは俺がさっき行った高速の攻撃、だが未来の俺はその段階を数段上の段階で行っている。
つまり真に時間停止に近い攻撃をしたということだ。
「あとは任せたぞ・・・境川」
そう言ってMr.Kと白衣の男は長い廊下の奥に行き姿を消した。
「くそ・・・まて・・・」
追いかけようとするも目の前には未来の俺が立ちふさがる。
「ちぃ──」
抵抗しようと筋肉を強化し、一瞬で目の前に移動する。
「ッ・・!!」
だが、その抵抗も虚しく読まれ未来の俺は既に俺の背後に移動していた。
バギィ!!!
背中を思いっきり蹴られる。
「がはぁ!!」
何とか受身を取ることができたが、このダメージは相当なものだ。
「(こりゃ・・・勝てねえわ)」
何を思って俺はこんなところに来たんだか・・・まさか未来の俺が待っているとはな。予想外だったぜ。
「(──やり直すしか・・・・ないのか)」
やり直し、俺は今日この場に来ることをやめる。そうすれば今のように闘うことはまだない。策を練り直しここは一度引くしか、
禁忌を使おうと俺は目に力を入れる──しかし、
ブシュ・・・
未来の俺は一瞬で間合いを詰め、俺の右目を目掛け指をスっっとスライドした。
「ぐああ・・・・」
一瞬すぎて感覚が追いつかなかったが俺は瞬間で理解した。
ぽたぽたと目から血が流れ落ちる。そして俺の視界に映るのは左よりの景色・・・・。
──そう、俺は右目を失ったのだ。
既視感の欠点は俺の命を奪う他、俺自身の光が必要だ。俺の目が使えて初めてタイムリープすることができる。
だから阻止するには俺の視界に何もうつらないよう暗くするか、目を閉じさせる必要がある。
だが、未来の俺はそんな優しいことではなかった。目を潰したのだ。
「ぐ・・・が・・・あああああああ」
その痛みは尋常ではないものだった。俺は苦しんだ。かつてないほどに苦しんだ。そして──死ぬんだなと理解した。
「──終わりだ・・・」
初めて口を開いた未来の俺は止めを刺そうと拳を振り上げる。
だが──
「──生!!!!」
俺も未来の俺もその言葉に反応する。外はザーザーと雨が降っている。でもそこにはずぶ濡れになりながら涙目で立っているひとりの女の子の姿があった。
「み、命・・・・」
なぜ命がここに・・・いやそんなことより、
「逃げろ・・・命!!!」
俺は出せる声を振り絞って叫んだ。こんなところに命がいたら感情を失った未来の俺は殺しに行ってしまう・・・。クソッ・・・。
だが、俺の叫び声が五月蝿かったのか未来の俺は
ザシュ....
俺の心臓を目掛け手を突き刺した・・・。
「ッ──生!!!!!」
──私は未来が見えていた。それは生が死ぬ未来。雨の中、大きなお屋敷で殺される未来。
いつの日かは分からなかった。でも最大のヒントは雨の降っている日だということ。
私は不安で仕方なかった。もしかしたら今日なんじゃないかなと思っていた。
そして生の様子を見に行ったら案の定、彼の姿は家のどこにもなかった。
必死に走った。雨でも構わず私必死で走った。足に自身はないけど振り絞って頑張って間に合ってという気持ちで走った。
場所は未来を見ることによって把握できた。だからたどり着いた。
──だけど、遅かった。
「逃げろ・・・命!!」
生はそう叫んだ。
ザシュ....
でも間に合わなかった。生は最後まで私を優先した。そのせいで今・・・・刺されてしまった。
私は途端に怖くなった。目の前にいる男は私の方に向かって歩いてくる。
ブン──
そして一瞬で背後に周り、殺しに来るのかと思ったが、一瞬男は躊躇いがあった。
隙に私は生の元に駆け寄る。
「──生!!しっかり・・・・しっかりして・・!!」
一応振り返るが男は動いてこない。
何か葛藤している様子だ。
チャンスとばかりに私は生に声をかける。だが、生の瞳は開くことがなく、心臓も動いていなかった。
「どうして・・・・なんで・・・・一人で・・・・・」
私を連れてきたからどうだって変化は無かった。でも事前に止めることはできたはずだ。
部屋で見たときの生の瞳、あの時点で私は気づいてあげるべきだった。
でも気づくことは叶わず、死なせてしまった──
「何か・・・方法はないの・・・」
私は片目を赤くし、訴え続ける。
私の力は未来を見通す未来予知だけ。生を蘇らせることもできない。
「こんな力・・・いらないよ・・・・生を助けてよ・・・・・」
ドン、っと生を叩きながら私は泣きぐずれる。
──私は誓った。生と共に生きると。助けられてばかりではなく"共に隣を歩いて生きていく"
そう誓った。
だから・・・
私は冷たくなった生の手を優しく握る。
「──私が貴方を助けます・・・・。この誓いは絶対に破らないから」
『本当にそれで・・・いいの?』
脳裏に聞こえる言葉は少し悲しそうなもうひとりの私の言葉。
「いいのよ・・・でももし生が目覚めた時、ちょっと怖いかな」
彼は絶望するだろうか、それとも受け入れてくれるだろうか。どちらにしても強く生きて欲しい。それが私の願いだ。
私は瞳をゆっくり閉じる。
生と私は光に包まれた。
「ッ・・・」
男は眩しさに手で目を塞ぎ、近づいて来る様子はなかった。いや近づけなかったのだ。吹き飛ばされそうな風が私たちの周りに飛んでいるからだ。
「──ゴメンね・・・・生」
私は生の唇に優しくキスをし、そのまま倒れた。
──俺は死んだのか・・・・死んだという自覚の中俺は意識を彷徨う。
だが、上を見上げるとそこには暖かい光が存在した。
俺はそこを目指し這い上がる。そして、
「ッ・・・・・・・」
俺は意識を取り戻した。
視界は天井を映す。──いや、そんなことよりも、
「右目が使える・・・・」
状況を飲み込めず、俺はゆっくりと起き上がる。周りを見ると未来の俺は存在していなかった。
コツン、
冷たい何かに当たる。
「ん・・・?」
暗くてよく見えなかったが、段々と目が慣れていき、その当たったものをみる。
「──・・・・なんでだよ」
そこにいたのは一番好きであった人物、
「なんでお前がそんなところで──」
でも体温はなく、冷たく冷え切っている。
「命──」
そして俺は理解した。"生きていた"のではなく"生かされた"という状況に。
近くのガラスに自分の顔を映し出す。そこには右目が確かに存在していた。だが、その瞳は《赤く》綺麗な目をしていた。
この目は命の逸材の象徴である瞳だ。
「どうしてだよ・・・・」
命は自分の逸材と命を俺に託したのだ。そうすることにより俺を蘇生させた。
「俺はお前がいないとどうすれば・・・・・」
俺は泣き叫んだ。最愛の人に助けられ同時にそれを失った。
「くっそ・・・・あああ・・・・・・ああああああああああ!!!」
バン!っと地面を殴りつける。
「境川!!」
外から御神槌と楠の声がする。
「ッ・・・・これは」
二人は状況を確認して察した。
「東雲さん・・・?」
そこにいた命は倒れていて、嬉しそうな笑みを浮かべで死んでいる姿。
「どういうことだ・・・境川」
御神槌は俺の胸ぐらを掴みそう聞いてくる。
「なぜ、お前がいながらこいつを死なせた!!!なあ答えろ」
「やめなさい御神槌!!!」
楠はいつになく本気の声で叫ぶ。
「二人を責めないであげて・・・」
「ッ境川・・・その目」
ようやく御神槌は俺の右目の存在に気が付く。だが、この二人は命の逸材を知らない。
でもなんとなくだけど察したようだった。
「彼女・・・東雲さんはきっと貴方に託すことを決めて死んでいったのよね」
嬉しそうなあの表情、そこからはそう感じ取れる。
「──俺は・・・・どうしたらいいんだよ・・・・」
既視感を使おうと思ったが、片方の瞳は俺の出ないため、発動することができない。
俺は助かっても命を助けることはできない。
「この場所、ここ無の部屋だよな。まさかお前たち」
御神槌は場所から俺たちが戦っていた相手のことに気づき出す。
「Mr.Kあるいはその部下たちと交戦していたわけね。そうとう強いみたいね・・・その様子だと」
「・・・・・」
俺は命を見ていてた。その時命が手に持っているあるものに俺は気が付く。
「ッ・・・・」
バっと俺はそれを取り、
「ん?境川、そりゃリボンか」
「これは・・・」
ボロボロになったリボン、それは命のだが、突然知らない人に渡されたというリボンだった。
そこから何か微弱な力を感じた。
俺はリボンを命の心臓のもとに置く。するとリボンは命の体内に入っていき消えた。
──ドクン・・・ドクン・・・・
「──!!」
命の心臓が動き出した。
「これは・・・!」
「嘘でしょ・・」
二人は驚いた。もちろん俺も驚いた。あのリボンは一体なんだったのかは知らないが命の心臓が動き始めた。
だが、命は目覚めない。
「とりあえず病院に行きましょ」
冷静な楠の提案の元俺たちは深夜にやっている病院へと急いで向かった。
「とりあえず心臓は動いていますが、目覚める気配はありません・・・」
病院の人にそう言われ俺たちはとりあえず解散することになった。明日のことは明日に連絡すると俺は言い残し病室に残った。
命の頭を優しくなでる。目が覚めない命は何をしても反応がない。
「命──俺は生きた・・・・でも結果的にお前を一回死なせてしまったよ」
俺は情けない。誰も死なせないと誓ったのに一番身近な人物を死なせてしまった。
どうしたらいいのかもうわからない。でも命の想いは十分に伝わった。
「お前からもらったこの力と命・・・今度は無駄にはしない」
俺がそう言うと命の表情は何だか微笑んだように見えた。
『──私たちはずっと一緒だよ』
ふとそんな声が聞こえたように思える。
それは幻聴だったのかもしれない。でもその声のおかげで俺は再び悲しくなり、涙がこぼれ落ちた。
「まさか・・・・」
右目に手をやる。俺の赤く輝くこの瞳。これをお前に返して初めて命は蘇るのじゃないかと。
でもそれをすれば俺は再び死ぬ可能性がある──それは命は望まない。だったら、
「──全てが終わったらまたここにくる・・・そのときは」
Mr.Kを倒し、学園を変えたら俺の役目はなくなる。その時、俺がまだ生きているのであれば──
「返しに来るから」
そう俺は優しくいうのだった。
病室から出るとそこには驚くことに、
御神槌、楠、会長、棗、愛桜先輩・・・・俺の仲間が全員いた。
「よっ、生」
棗が無神経な挨拶をしてくる。
「事情は楠から聞いた──どうせお前のことだ。今すぐにでも乗り込みに行く魂胆だろう?」
会長はいつものようにメガネをクイッとやりそういった。
「もちろんですよ・・・俺は命と約束しましたから」
全てを片付けお前のもとに帰ってくると。
「──・・・お前雰囲気変わったな。誰だ?って感じだ」
「そうね境川くん少し変わった気がするわ」
「瞳も赤いしな!」
そうだな・・・境川生という男は今だけ生まれ変わってるんだ。
「──俺は"境川 生命"だ」
命からもらった命、それは俺に新しい力をくれた。
そして今度は仲間も一緒だ。絶対に負けない。
──待っていろ・・・Mr.K!!俺はお前を許しはしない・・・!!
「みんな──行くぞ」
俺たちは一致団結をして、目的の敵の場所へと向かうのだった。
・・・・眠ったヒロインの為に敵を倒すって王道って言うんですかね。
まあ、こじ付けのような展開ですけどこういうのは嫌いではないです




