魂を奪う逸材者
──境川が公園で愛桜と話し終え少したった時間、とある道路にて、
「あぁ・・・・暇だな」
御神槌と楠は駅前に出かけいた。
特に用事はなかったのだが、家にいるよりかは外に出たほうがいいと判断して外にいる。
「駅前なら何かしらあると思ったのだけれでも何もないわね」
周りを見渡すが、子供が多くいるくらいだ。夏休みなので学生が殆どとなっている。
そんな時 楠は駅前に一つの人だかりが出来ているところに目がいった。
「ねえ御神槌、あそこで何かやってるのかしら?」
人たがりの方を指差す。
「ん?ああ、人が密集してるな。誰かいるのか」
気になったので俺たちは人だかりの方に向かって歩き出す。
そこにいたのは男の人が立っていて、そこに人が集まっているという状況だった。
「彼知ってる?」
「いや、知らねえな」
テレビとかで見たことあるのならまだしも全く見たことのない男だった。しかも周りをみてもカメラがいる様子はない。
「そう、ならここに居る必要はないわね。行きましょ」
楠は興味がないのかそこから立ち去ろうとした。
「──ッ、待て楠!!」
御神槌が声を上げる。
「ほぉ」
人だかりの中心に立っている男はその時初めて声を出した。
そして男が歩き始めると御神槌の周りに居た人だかりはスっとどき始め男が通れる道が出来ていた。
「君、気がついたのかい?」
「・・・楠、こっちに来るんだ。そこから先に出ると・・・何かがあるぜ」
楠がこの場を立ち去ろうとした時に御神槌はなにもないところに何か壁があるように見えた。
「御神槌・・・一体どうしたの」
楠は御神槌の言葉通りにちゃんと帰ってきてくれた。
「この人だかり、よーく見てみるとわかるが・・・こいつら──"目に光がないぜ"」
御神槌にそう言われ楠は近くに居た人を見てみる。
「ッ・・・・これは・・・・」
──パチパチパチ、男は拍手をした。
「へぇ、よく気がついたね。君は中々に面白いよ」
「何した・・・テメエ」
「おぉ、怖いね。別に命はとっていないさ。ただ、この力はいい。僕の範囲に入ったものの魂を抜き取り、力やスピード全てを吸収できるんだからね」
「──御神槌・・・この人」
「逸材者か!・・・テメエ」
御神槌は男を睨みつける。
「その通りだよ。俺は逸材者だ、生まれ持ってのね。この空間に気がついたってことは君も逸材者なんだろうね」
「ここの人たちを解放しろ」
「やなこった。──でも、俺は君が逸材者と知って生かしては返さない。君の力欲しいからね」
男はニヤリと笑って、
「勝負をしないか?一体一の殴り合い。君が勝てば人々は解放しよう。でも負けた場合、君とそこの女の魂は俺が頂く」
「み、御神槌・・・」
楠は心配そうに俺をみる。
だけどここで勝負しなければどのみち俺たちは出ることができない。だったら、
「いいだろう。勝負してやる」
「そうこなくちゃ」
そう言って男は構え出す。
御神槌は構えずに立ったまま、
「いいのかい?構えなくて」
「・・・いいんだ」
「じゃあ、行くよゥ」
男はそう言ってビュン─っと走り出す。
一瞬で御神槌の背後に周り拳を構える。
だが、
「──ッ!」
男は驚いた。
「遅い・・・!」
御神槌は男の拳より早く男の顔をめがけて拳を振りかざした。
男は遠くに飛ばされ近くに木に衝突した。
「ぐ・・・・は、早い・・・・」
「一般人から力を奪ったと言っていたな。それだけで俺に敵うと思っていたのか?だとしたら侵害だな」
「ば、馬鹿な・・・たかが一人の人間でそこまで早く動けるやつなど・・・」
「悪いが俺はお前たちのような逸材者とは違う。性能も、力の方向性もな」
そう言って御神槌は拳を構え腰を低くする。これは空気弾の構えだ。
男を殴った時にあたりの空気を削り取っていてたので空気が御神槌の拳に集まる。
「とどめだ!!」
そう言って御神槌は空気を思いっきり殴りつける。
弾は一瞬で男のところに行き、命中した。
「やったか!?」
煙が出ていて前がよく見えないが手応えは大アリだ。
「──なぜ俺が人ごみのある駅前にいると思おう?」
どこからか声がした。
「それは簡単だよ。時間が経てば俺の力は多くの人の魂を奪い始める」
後ろから
「もう俺はお前の力も速さも越したんだよ」
横、前、上・・・様々なところから声がする。
「くそ・・・!」
駅の方をみる。そこには生気を失っている人たちの姿があった。
「御神槌!!前!」
楠の言葉で俺はハッとする。
だが一瞬遅かった。
ボゴォォ・・・男の拳は俺の腹に命中した。
「く・・・がっは・・・・」
この威力・・・そして速ささっきの比ではない。この駅前には何人もの人が乗り降りしてくる。その人々全員の力を吸収することによって俺を超えたというわけか。
「フフ、これは勝負ありのようだね。たとえここで君が反撃しようと俺はあと数分後にはまた力が増大する。どのみち勝ち目なんてないんだよ」
「御神槌!」
「くす・・・のき・・・俺は大丈夫だ。心配するんじゃねえ」
御神槌は立ち上がる。
「ほぉ、立つか。起き上がるか?そう来なくっちゃ面白くいない」
男はそう言って拳を振りかざし御神槌に連撃し始めた。
「オラオラオラ!!」
あまりもの速さに御神槌はガードすることすらできなかった。
「さっきのお返しだよ!!」
最後の一撃は連撃よりも早く重たく御神槌の顔面にヒットした。
御神槌は飛ばされ地面に倒れた。
「勝負あったね」
男は楠の方を見る。
「まずは君の魂から貰うとしようか」
「く・・・そ・・・」
御神槌は手だけを上にあげる。倒れたままのせいで腕は真っ直ぐ空の方向にあがる。
ドォン・・・・
「ん?何か飛ばしたようだが、その角度では俺の方向に届くはおろか誰もいないではないか。最後の抵抗ってわけか?はっ、無駄だね」
たった数分しか戦っていないのに御神槌はボロボロだった。
「まあ、いい。さて女・・・お前も中々に良さそうな人材だな」
コツコツと楠の方に向かって歩き出す。
「に、逃げろ・・・・楠・・・」
御神槌は精一杯の声で楠に話しかける。
「逃がしやしない。俺の魂を抜き取る範囲はこの駅前全体はあるからな。だが、よりよく吸収するにはやはり直でやらなくてはならない」
足を止め男はチラッとこちらをみる。
「──それに、君の友達だろ?目の前で抜き取って君の絶望する顔を見てみたいしね」
「て・・・てめえ」
男はどこまでも卑劣な奴だった。こんな逸材者がいるなんて・・・思いもしなかった。生まれ持っての逸材者。その力は人の魂を抜き取りそれを自分の力に加算する能力。
「──ちょっと待ちな」
男はいきなり声がして驚きその声の方向をみる。
そこに立っていたのは境川生、だった。
「御神槌・・・随分と派手にやられたもんだな」
御神槌の方をみる、その身体はボロボロだった。
「へっ・・・境川・・・おせえぜ来るのがよ」
「悪いな。居た場所が悪かったよ」
「ば、馬鹿な・・・仲間を呼んだだと。どうやって!!?」
男は焦りはしていたが頭は冷静だった。
「ッ、そうか貴様・・・あの時飛ばした何かは抵抗でも俺に対する攻撃でもない。──呼んだんだな。こいつをッ」
御神槌が飛ばした空気弾、その気配に俺はいち早く察知して、この場所を突き止めた。
公園から駅前は結構距離があったため到着が遅れたのだ。
「お前・・・逸材者か」
俺は男の方をみてそう言う。
「そうだ。お前も逸材者だな」
「ああ」
「なら俺と勝負をしないか?勝てばこの男たちに危害は加えない。だけど俺が勝った場合、お前の魂を頂くというのは?」
「・・・・よくわからないがそれがお前の力ってことか。いいぜ」
「ま、待て・・・境川・・・そいつは力を加算する、お前でも勝つのは厳しいぞ」
御神槌はアドバイスをしてくれたが、俺は、
「大丈夫だ。こいつ雑魚だ」
そういった。
「いうねえ・・・だったら」
ビュンッと男は猛スピードで姿を消した。
バッバッバッバ・・・俺の周りを走り回り、姿が見えなくする。
「どうだ。捉えられるか?ハッ、無理だろう・・・・なッ!?」
バッと一瞬俺の目の前に現れた瞬間俺は男に向かって蹴りを当てた。
「ぐああ・・・なんだとぉ」
「境川のやつアレを見切ったのか!」
「境川くんやるわね・・・」
俺は蹴りを男に喰らわせ、吹き飛ばす。
「速さなど目で追うから混乱するんだ。どんなに早くても気配は一つしかないお前のチンケなその力では俺には勝つどころかいくら加算したところで無駄だ」
「馬鹿な・・・気配を掴むことができるなんて・・・ば、化物か・・・・お前」
男は俺に怯え出す。
「御神槌と俺は逸材者の中でもちょっと特殊でね。色々と過ごしてきた環境が違うんだ」
「ひ、ひいいい・・・!!」
男は怯えながら逃げ出してしまった。
「境川・・・逃がしたのか?」
「ああ。周りの人たちは解放されたみたいだし、別に彼奴は悪でも敵ではなかったみたいだしな」
俺は御神槌を起こしてそういう。
彼奴は自分の力に溺れてああなっていただけなんだろう。
──楠は御神槌と境川を見つめる。
「・・・御神槌は強い。でも境川くんはあの男を一撃でビビらせ勝利した」
以前御神槌が境川と闘った時は境川は力を使うことなく頭だけで勝利していた。だからこれが境川の戦うところは初めて見た。
でも驚いたことに彼の戦い方はいつも動きが少ない。強盗の時も一瞬で武器破壊を行い。今回は一歩も動くことがなかった。
御神槌ですら空気弾を放つときには必ず構えが存在している。でも境川にはその構えが何一つ存在していない。
「──境川くん・・・貴方は本当にただの逸材者なの・・・・・」」
今回の事を通して私は彼の素性が少し気になり始めた。




