「恋桜」と「愛桜」
謎の手紙の考えながら朝を迎えた。
祭りまであと一日──
昨日の夜 棗から電話が来て色々と詳しいことを聞かされていた。
それぞれの役目や必要な道具、そういったことを全て聞いた。
それで、俺は同日に生徒会長と一緒に会計係をやることになっていた。
そのためか俺は当日まで結構暇ってことだ。
命は作る側のメインとして今日は一人で買い物に出かけている。
御神槌と楠は販売の方をメインとしているため、今日は暇なはず。
棗は道具の準備として今日から色々とやっているみたいだ。
俺は何もすることがなくて暇だったので暇つぶしがてら散歩に行くことを決めた。
トコトコといつもの道を歩いている。夏休みなせいか結構子供たちをみかける。
俺の住んでいるところは住宅地ってこともあって人が結構いるところだからな。子供たちは家の前とかで何やらゲームをしたりしている。
そんなとき、ふと俺は目の前の人物に気がついた。
「──あれは・・・」
茶色い髪の毛をしていて長く結ばれているあの後ろ髪・・・間違いない、愛桜先輩だ。
愛桜先輩は以前、会長を殺そうと試みていたが、会長のあまりにもの強さにより返り討ちにあい、ボロボロになって俺たちと一緒に病院で入院していた人だ。
俺が既視感の代償によって眠っている間に、退院していたらしくそれからというものはあっていないのだ。
向こうもこちらに気がついたようで少し動きか鈍くなっていた。
「さ、境川・・・・生」
めっちゃ嫌な顔をして俺の名前を呼ぶ。
「お久しぶりですね。愛桜先輩」
一応俺たちの敵であるのだけれども、この先輩は一応生徒会のメンバーだから迂闊に手を出すこともできない。
それに、会長は敵と知っていても尚彼女の事を切らなかった。そこに免じて俺も向こうが仕掛けてこない限りは何もしないつもりだ。
「先輩この辺に住んでいらっしゃるのですか?」
「・・・・・」
うっわ・・・答えんか。会話が続かねえよ。
しばらく沈黙が流れ俺と先輩はただ単に立っているだけとなった。
「──貴方、私を殺さないの?」
突然先輩は訳のわからないことを言い出した。
「私は貴方たちの敵なのよ?それなのに・・・どうして貴方は何もしてこない。どうしてなの・・・・私は会長にあんな事をしたって言うのに・・・」
先輩は顔を下に向けてそう言った。
「先輩・・・・」
だけど俺は知っている。あの時の先輩は自分の意思でやってのかは知らないけど会長に一度負けたあと、彼女は生徒会室に来てこういったのだ。
『会長を・・・たすけ・・・』
先輩は敵でありながらも会長を助けてといった。それはどういった意味なのかは分かりえないことだが、きっと本心だったのだろう。
「俺は先輩を敵としてみていますが、そちらが何もしてこないのならこちらがすることはありませんよ」
「ッ・・・・」
先輩は予想もしていなかっただろう言葉で返されて慌てていた。
「そう.....貴方もそういう人なのね」
「貴方も・・・?」
「さっき丁度こんな感じで会ったのよ。会長・・・恋桜とね」
なるほど。会長もきっと俺と同じことを言ったんだろうな。あの人は先輩のことを受け入れているし。
「これは聞いちゃいけないんだろうと思いますが何で先輩は──そちら側にいるんですか?」
単純な質問だ。先輩はどういう経緯か俺たちの敵、Mr.K側についている。
教員と同じで学園の規律を守るために指名されたのかそれとも脅されているのか。
「・・・そうね。貴方には言っておくわ。これはお・・・会長には言えないことですもの」
あの場所で話すのもあれだったので俺たちは近場にある公園のベンチに座った。
「話すわね・・・」
そう言って先輩は口を開き、語ってくれた。
「私はね・・・《前世の記憶》を持っているの」
前世の記憶・・・それはつまり
「そう、私が愛桜三夏になる前の私のこと。私はそれを今でも覚えている」
「でもそれで俺たちの・・・会長の敵になるにはおかしいですよね」
「そうね。普通それだけだったら何もないわ。でも、私の前世にはね、──兄がいたのよ。兄は賢くて私の憧れだったわ。でも私の前世は中学生のときに亡くなっている」
つまり先輩の生前は中学生で終わっているということだ。
「そのことが学園側のトップに知られてね。生前の私を知っている人だったの。あの人には逆らうことはできないから」
Mr.Kの知り合い・・・そして中学生に亡くなっている。それはつまり。
「先輩の生前って無の部屋の被害者・・・・」
「そうよ。私は無の部屋を体験してるの。それで生まれ変わり記憶のある私を知り、興味を持ったらしくまたこうしてあの人の支配下に置かれてるわけ」
「だからそいつに命じられて俺たちを殺そうとしているわけか」
「・・・それもあるわ。でも一つ間違いがあるの」
「間違い・・・?」
先輩は目を一回閉じて深呼吸をした。
そして目を開き──
「私の記憶、それは会長を殺すことによって消すことができる」
そう言った。
「Mr.Kは言ったわ。私の前世の記憶を消したいのなら、手始めに会長を殺すことだって」
でも記憶を消したいのになぜこの人は会長を助けてとあの時言ったのだろうか。もしこの言葉が本心ならあの時の行動とは一致しないことになる。
「フフ・・・バカみたいよね。でも私はそれを実行するために生徒会に入ったの。最初は殺す気でいたわ。でもね・・・気がついたの」
先輩が会長を殺そうと思っても殺せない理由それは──
「会長・・・恋桜 祐春は私の・・・」
先輩はこう言った。
「──兄、なのよ」
会長は前に言っていた。妹が無の部屋に行き、そこで死を遂げたと・・・・。
だけど妹は生まれ変わっていた。愛桜三夏として記憶だけをもって生きていた。
「最初は気がつかなかったわ。私には幼い頃にしかあっていないもの。でも接触していくたびに理解したのよ。会長の苗字をしり、疑い始めた。そして気づいた。あの人は私の生前の兄なんだと」
運命とも言える再開。でもそれは決して喜ばしいことではない。
「兄を殺すことで私は愛桜三夏として本当の人生を歩むことが出来る。でも過去の私はそれを望まない」
「・・・・会長はそのことを知っているんですか?」
「知らないわ。私は頑張って生前の記憶を彼の前では封じ込めているもの。でも本当は私が生前会長の妹だってことを打ち明けたい。でもそうしたら私はあの人を本当に殺せなくなってしまう」
先輩の目からは涙がこぼれ落ちている。
「先輩・・・・」
Mr.Kにより命じられた恋桜 祐春を殺すこと。それは生前の兄を殺すことだ。
記憶を受け継いでいる愛桜先輩にとってはこのことはどんな事よりも辛いことなのだろう。
「それに妹だからとしてだけじゃないわ。私はあの人のこと・・・・・好きなのよ」
その言葉に俺は驚いた。
「・・・好きになった人は私の元兄で殺す対象の人物。私はどうしたらいいのか迷い続けていた。・・・そしてそれが弱さに繋がった」
泣いている先輩の姿は生徒会室にいたときの先輩とは大きく違う感じだ。まるで小さい女の子を見ているかのような感じ。
そう、彼女は生前と今を生きている。妹としての記憶、そして今の先輩という記憶。その二つが混じり合って生きてきたんだ。
どれほど辛かったことなのだろうか。
「・・・・先輩は今も殺そうと思っているんですか?」
「うん・・・迷ったけど私はやっぱりMr.Kには逆らえない。過去に体験したあの恐怖の出来事があるから私には──」
先輩がそう言いかけたときだった。
「──『冬花』・・・」
その声に先輩はガバッと顔を上げた。俺も視線をそっちにやるとそこには会長が立っていた。
「・・・そうか。薄々そうじゃないかと思っていたがまさかお前が・・・妹だったとはな」
「お・・・・兄ちゃん・・・・」
素で言ってしまったのだろうか、先輩は会長の事をお兄ちゃんと呼んだ。
「なるほどな。お前は俺を殺そうとしていたがそれを実行することはできなかった。そして度々お前から違う視線を感じていたが、それはそういう事だったのか」
会長は知ってしまった。同じ生徒会であるたった一人の存在。愛桜三夏の前世を。
「恋桜冬花、その生まれ変わりが、今この場にいるお前・・・愛桜三夏」
会長は動じることなく、先輩に向かってそう言った。
「・・・・・そうだよ。私は前世の記憶を持っている。私は貴方の妹だった」
「運命というのは何を運んでくるのか予測できないものだな」
「──でも私は・・・貴方を」
バッとバッグからハサミを取り出し会長に刺そうと襲いかかる。
だけど、
ガッ、っと会長は手でハサミを掴んだ。
ブシュっという音がして、手からは血がこぼれ落ちる。
「会長!!」
俺は助けに入ろうとしてが目で大丈夫と訴えられたので俺はその場で動くのを辞めた。
「な、なんで・・・受け止め・・・」
「今のスピード、本気じゃなかったな。あんな遅い速度なら受け止めるのは簡単だぞ」
そう言って会長は力を強めて先輩からハサミを取り上げる。
そしてメガネをクイッとやり、
「お前の殺意は重々承知している。だが、今の攻撃で理解した。お前は・・・・迷っているのだろ?」
「ッ・・・・」
「私を殺すのは構わない。それがお前の使命なんだろう。だが、『中途半端な覚悟など捨ててしまえ』それはお前にとって足枷となり、行動を鈍くする」
会長の言葉の意味は恐らくMr.Kの言うことをやめろということなんだろう。殺そうとしている先輩だけど心のどこかで殺したくないと思い、それが足枷になっている。
それならば、いっそ使命なんて捨てろってことなんだろうな。
だけど先輩が殺せない理由はもうひとつある。
冬花(妹)として兄を殺せないプライド・・・・・そして愛桜(同級生)として好きだという気持ち。
この二つが先輩を苦しめているんだ。
会長は先輩の気持ちを知り尽くしていない。でも俺の口からは言えることではないんだ。
「・・・・貴方に・・・何が・・・わかると・・・」
先輩は息を荒くして会長にそう言った。
「わからないさ。だが、誰にでも迷いはある。俺だって迷っていたときがある。お前が死に俺はどうしたらいいか考えていた時期がある」
会長が高校二年のときに妹である冬花は亡くなっている。そこから恋桜学園が無の部屋と同じということを知って頑張ってきたのだろう。
妹を殺した人を許しはしないという気持ち、それは俺と初めて会った時から存在していたであろう決意だ。
「・・・・だが、私とお前では色々が違う。お前にはお前の気持ちがあるからな。全ては理解できんさ」
そして会長は手に持ったハサミを先輩に差し出した。
「なんの・・・・つもり・・・よ」
「──1度だけチャンスをやる。俺は抵抗もなにもしない。殺りたければ殺るがいい」
そう言って会長はその場に立ち尽くした。
「・・・・ッ」
「会長!!?」
「境川、止める必要はない。私は元いい妹の為にここまで来たんだ。だが、その妹に殺されるのなら私は本望というわけだ」
「くっ・・・・」
「さあ、来い!!」
先輩は渡されたハサミをグッと握ったが、
カシャアアン....手をブラっと下に下ろしはさみを手から話した。
「できるわけ・・・・ないじゃないですか・・・・」
そして膝からガクッと体制を崩して先輩は再び瞳から涙を落とした。
「生前とはいえ貴方は私のお兄ちゃんだった。そんな人物を殺すことなんて・・・できるわけない」
「・・・・そうか。それがお前の答えというわけか」
いつものようにメガネをクイッとやり、会長はそう言う。
「──お前は私を殺すことはできなかった。それが答えだ。・・・だが、再び殺すことを覚悟するならそれでも構わない。私はいつでもお前の相手をしてやる」
そういって会長はクルッと振り返り、そのまま公園を後にした。
取り残されたのは俺と先輩のただ二人だ。
「先輩・・・・」
俺はなんて声をかけたらいいのか分からなかった。
「・・・ようやく決心がついたよ。私はあの人を殺すことはできないって」
先輩はこちらを見てそう言った。
「Mr.Kに逆らうんですか?」
「結果的にはそうなるわね。私はもう貴方たちの敵であることをやめる。これからは生徒会のメンバーとして貴方たちと接するだけ」
先輩はスッと立ち上がった。
「今日貴方に出会えてよかった気がするわ。貴方に出会わなければ私はまだ迷っていたのかもしれない。ありがとうね」
そう言って先輩は公園を出てどこかに行ってしまった。
俺も公園を出ようかと思ったとき、入り口付近の茂みから会長が出てきた。
「・・・帰ったんじゃないんですか?」
「冬花・・・いや、愛桜は決心したか」
「ええ。もう俺たちを殺すことはやめるそうですよ」
「そうか・・・」
表情はいつもと変わりはしなかったがどこか会長は嬉しそうな顔をしていた気がする。
愛桜先輩は過去に会長としての妹の記憶を持ちながら会長に片思いをしている。
殺すことを辞めた今、彼女はその想いを伝えるのだろうか。
会長は先輩のことをきっと一人の女としてはみていないだろう。でもこのふたりの関係はこれから変わっていくのだと俺はそう思った。
【キャラ説明】
■愛桜 三夏
性別:女
能力:転生の逸材
説明:生徒会メンバーで生前は会長の妹だった。生前の記憶を持つことでこれからも記憶を引き継いでいく歩く伝記みたいな存在。
容姿:茶色い髪の毛
学校:恋桜学園 3年




