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逸材の生命  作者: 郁祈
第三章 夏休み編
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祭りの出し物

 暑い日差しが地面を照りつけている。

 外からはセミがミンミンと鳴いており夏だということをより一層に実感させる。


 「──で、集まるのは構わないんだけど」


 (くすのき)が額から汗をかきながら、


 「なんでこんな暑い中、公園なのよ!!」


 珍しくも怒ったかのように言ったのだった。


 「落ち着け楠。心頭滅却すれば火もまた涼し。冷静になれ」


 御神槌は汗一つかかずに楠にそう言った。


 「だが、棗・・・なんで店の中とかでなく、態々公園にしたんだ?」


 集まるだけなら公園でなくカフェとかゆっくりできるところに集まるものだと思っていたが、こういうこともあるんだなと俺は思う。


 「フッフッフ・・・祭りまで猶予はない。何かをやると決めたんだ。まずは君たちの得意なことでも見せてもらおうかと思ってね」


 棗も汗をかいていた。


 「暑いんだな」


 「ええ、暑そうね」


 「棗くん・・・無理しないでね」


 「あいつ馬鹿だろ」


 ここにいる全員。俺と命、御神槌に楠に棗は散々な言われようをしていた。


 まあでも実際店を出すにしろ。あと祭りまではあと二日だ。それまでに何か俺たちにできることを見つけないといけないんだな。


 「無難に焼きそばでも作ったらどうなんだ?」


 御神槌が提案をする。


 「いや、無難すぎてつまらないね。なんかこう俺たちにしか出来ないことをやりたくないか!!」


 棗はここぞとばかりに強く言った。普段頭を使わない奴だからこう言うイベントごとには目がないってところだな。


 「とは言ってもなぁ・・・」


 俺はみんなの方を見る。


 命は「料理が出来る程度」、御神槌は「空気弾を飛ばす逸材者」、楠は「謎に満ちている」し、棗は「力馬鹿」って感じだし。


 「このメンツ、個性ありすぎるんだよな」


 「まあ最悪料理の出来る命ちゃんがいれば何でもできるよな」


 「い、飲食関係ならね」


 棗の言葉に命はテレながら反応する。


 「・・・・料理って言えば楠おまえ」


 御神槌が楠の方を向いて何かを言おうとしたが、


 「グホォ....」


 お腹を思いっきり殴られた。


 「な、何をする・・・楠・・・」


 「あらゴメンなさい。手がすべったわ」


 「嘘つけ・・・・」


 「本当は足を蹴ろうと思ったのだけれども手が滑ってお腹になっただけよ」


 楠らしい言い訳の仕方だ。だが、今の反応からして楠は料理が得意な方ではないみたいだな。


 「さて、なんにしてもよ。このメンバーでやることは簡単なものの方がいいわね」


 「というと?」


 棗が首をかしげる。


 「祭りで主に見かけるのはくじ屋よ。あれなら何とかなるんじゃないかしら」


 「なるほど。クジか・・・」


 楠の提案に御神槌は何かを納得する。


 「楠の考えは間違ってないが、景品はどうするんだ?」


 「そうね。私たちは高校生だしそんな高いものは用意できないけど、どうせ引く側の人間は当たりを信じてないし、比較的安いものでもいいんじゃないかしら」


 「・・・なんだその独断と偏見は」



 中々にいい案だったのだが、結局景品をどう用意するかが決まらなかったのでこの案は没となった。


 

 「うーん・・・」


 それからというものの、出す案は結局難しいところがあったりするため色々と没になっていた。


 「これじゃ決まらねーな」


 「そうね」


 「まあ、無難に飲食系だな。こりゃ」


 「わ、私頑張るよ!!」


 俺がそう言うと命は両腕をぐっと構えてやる気を見せる。


 「まあ・・・考えても出てこないし、それでいいかぁ」


 棗ももうこれ以上案がでないと踏んで飲食系で折れてくれた。


 「それで、何作るの?」


 「祭りなんだし持ち運びができる食べ物とかの方がいいわよね」


 「うーんそうなるとぉ・・・」


 指を口に当てて命は考える。


 「焼きそばとかたこ焼きとか・・・林檎飴とかかな」


 「定番だね」


 棗は命に対してそう言う。

 

 「でも、ここは無難で行ったほうがいいかも。今回は急にやること決めたし・・・時間もないしね」


 さっきまで無難が面白みがないとか言ってたやつのいうことか。そう思ったが口には出さないでおいた。


 「焼きそばとたこ焼きなら両立してできるからそれでいいんじゃねーか?」


 御神槌がそう言う。


 「そうね。それでいきましょ」


 楠も反対する気はなかったようだ。

 まあ、この炎天下でずっと外にいるんだ。はやく涼しい所に行きたいんだろう。


 「んじゃ、場所とかのことは俺に任せてくれ。食材の調達とかはそっちに任せるから」


 棗はそう言ってどこかに走っていってしまった。


 「・・・・御神槌、いきましょ」


 棗が去ると楠もどこかに行こうとする。


 「帰るのか?」


 「ええ。食材の調達とかは事前にでもできることだし、今日は帰るわ」


 「じゃあな、境川に東雲」


 御神槌は手を上げて楠と一緒に帰っていった。



 「・・・・・祭りか」


 外の世界に出て久々に体験する行事の一つ。どんな感じだったかはもう覚えてないに等しいが、きっと皆でやれば楽しいことなんだろう。


 「そういえばなにげに命、重大な役目だよな。調理って」


 「うん、でも大丈夫。簡単なものだし。頑張るよ」


 ニッコリと笑顔で答える命。


 「・・・大丈夫そうだな」


 今までの流れからしてこの祭りは無事で済むとは思っていない。警戒は怠らない。命が楽しいと思えるように俺は・・・・守ってみせる。








 公園のすぐ近くにあるビルの屋上、そこから公園の様子を眺めることができる。


 フードがある上着を来てその下には恋桜学園の制服。髪の一部分は白く染まっており顔の肌の一部分は濃く染まっている。

 その男は屋上から(しょう)たちの事を見ていた。


 「・・・・・・」


 男は表情を変えずに目を閉じる。

 そしてクルッと振り向いて、そのまま屋上を去った。






 



 「・・・・ん?」


 俺は誰かに見られている気がした。だが、その気配を感じた方向をみてみる。

 だけどそこには誰も居なかった。


 「生・・・どうしたの?」


 「いや、誰かに見られている気がしたんだけど、気のせいみたいだったな」


 一応年の為に建物のほうに目を集中する。だけど誰も人が居なかった。

 

 「(俺の気のせいか・・・・いや違うな)」


 確かに見られていた。だけど気配を消すだけならまだしも、その場所からいなくなるというのはおかしい。

 

 「(瞬間移動でも使えるのか・・・)」

 

 原理的には瞬間移動はできないが、御神槌のように空間を削り取っての移動や、超高速で動くことでの瞬間移動なら可能だ。

 つまり俺や御神槌以外の逸材者が俺を見ていた可能性というのが大きいな。


 「(一応警戒はしておくかな)」


 常に周りに気配を集中させておく、もし遠くから俺を観察していても俺がスグに反応できるようにだ。

 

 

 「とりあえず、帰ろうか命」


 この場に長くとどまっているのは色々と危ないと判断し俺は命を連れて帰った。





 

 


 「ふふふふーん♪」


 命は上機嫌なのか鼻歌を歌いながら俺の家で夕飯を作っていた。


 まあ俺がこっそり覗いてるだけだから実際俺がそこに居合わせたら鼻歌なんて歌わないんだろうけどな。


 「随分と上機嫌だな。命」


 「ひゃ!?しょ、生・・・!」


 俺の言葉にめっちゃ驚いてた。


 「い、いつからいたの・・・・?」


 多分鼻歌のことを言ったら顔真っ赤にするんだろうな。ちょっと見てみたいが、心臓に悪いので、


 「今来たところだよ」


 俺はそう言った。


 そう言うと命はホッとしていた。次こんな機会あったらこんどはからかおう。


 その時だった、公園で感じた視線と同じものを感じ取った。


 「──・・・・!」


 この気配、あの時と同じ・・・。


 「悪い命、ちょっと出かけてくる」


 俺は急いで家の外に出た。

 

 外は真っ暗だ。だけど辺りに人の気配はない。だけど公園の時とは違うことがある。それは、


 「視線を・・・まだ感じるぞ」


 まだ見られているということだ。──だったら、


 俺は音と目の力を駆使してこの周りを見渡した。


 「(どこだ──近くにいるはずだ)」


 辺りを見渡すがそこには俺を見ている人は存在しない。

 

 「(どういうことだ・・・まさか気配だけでなく、姿まで消せるというのか)」


 もしそんなことが可能だとしたら今の俺は簡単に暗殺されてしまうだろう。だが、こんなにも俺が無防備なのに殺しに来ないということは、少なくとも敵意がないということだ。

 それだけが救いだった。もしこの謎の視線と戦わなければならないとなれば俺は絶対に勝つことはできない。


 「視線が消えた・・・・俺をみることをやめたのか」


 結局誰が見ているのかもわからずじまいで俺は家の中に戻った。


 


 「あれ生?早かったね」


 エプロン姿の命が玄関前に居た。


 「ちょっと外に居ただけだからな」


 俺はそう言って靴を脱ぎリビングに向かって歩きながら言う。


 食卓には命が作った料理が並んでいた。どれも美味そうなので俺の食欲をそそるものばかりだ。


 「──ん?」


 だけど机の端に何か紙が置いてあった。


 「命これは?」


 紙を取り命に尋ねる。


 「えっ、なにそれ?」


 どうやら知らないみたいだ。だけどこの場にいたのは命だけ・・・・。


 俺は恐る恐る紙を開く。

 そこには手紙みたいなものが書かれていた。



──境川生、東雲命。

お前たちはこれから様々な苦難が襲うだろう。

だがお前たちならどんなことが起きようと切り抜ける力がある。

特に境川生・・・お前はどんな人物よりも優れた人材だ。

力を隠すことをやめ、本当の力で戦うことを勧めよう。

なおこの手紙は



 「読み終えたと同時に・・・」


 「消える・・・?」


 俺と命が最後の言葉に目を通した瞬間、手紙はボッと小さく燃え消えた・・・・。


 「なんだ、あの手紙は・・・」


 「様々な苦難って書いてあったよね。それって」


 命の顔が暗くなる。

 そうだな。苦難ってことは有田のようにMr.Kが何かを利用して俺たちを潰しに来るってことだ。

 

 そしてあの手紙の後半の部分。それは確実に俺に宛ててきているものだった。

 ──力を隠すことをやめる。その言葉は俺の全てを知っているかのような口ぶりだ。


 確かに俺はまだ全ての力は使っていない。この前だって初めて既視感(タイムリープ)を使用した身だ。

 そのほかにも沢山の禁忌が存在する。

 禁忌は代償を伴わずしては使うことはできない危険な力だ。

 その力を使うとき、俺はきっと怒り狂っているか、どうしよもない状況なのだろう。


 「一体誰なんだ・・・・書いたやつは」


 謎に包まれながらも俺たちの夏休みは進んでいるのだった。

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