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逸材の生命  作者: 郁祈
第三章 夏休み編
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禁忌の力 ──『既視感(タイムリープ)』──

 俺が倒れている間に学園は夏休み。

 色々あったが俺たちは無事に一学期は乗り越えることに成功していた。


 俺たちを潰しに襲ってくる『Mr.K』と呼ばれる人物、それは中学の頃俺を閉じ込めた《無の部屋》を作り上げた張本人だ。

 Mr.Kはありとあらゆる手段を使い、俺や命・・・そして御神槌(みかづち)(くすのき)、棗や会長と言った俺に関わる人物すら敵とみなしてくる。

 

 一度俺は御神槌を失った。だけど"時間を戻す"ことによってその世界は消え、御神槌が生きる世界に変わったのだ。

 その代償として俺はしばらくの間眠ってしまったのだ。これは時を戻す力の代償、命が消えていくということだ。


 時間を巻き戻す原理としては、俺の視力の力を過去の出来事を見ることによってタイムリープすることができる。

 だが、それは俺の目に光が宿っていないと行うことはできない。暗いところや、俺が目を失った場合にはこの力は使えなくなる。

 

 ──既視感(タイムリープ)、この力の応用すれば今までできなかった、"未来をみる力"・・・未視感も使えるようになるはずだ。

 だけどこの力は多様はできない。俺の命そのものを失うと考えると今までの力とは圧倒的に代償が大きすぎるのだ。


 「・・・・やり直しか」


 俺はベッドに横たわりながら考えていた。

 今までこの力は使ってこなかった。使えることは知っていだがやり直す重要性が無かったからだ。

 

『キミはこの部屋の最高傑作、それを忘れるな』


 脳裏にある言葉が過る。


 それは俺が無の部屋から出る間際にMr.Kに言われた言葉だ。

 

 このことを覚えているということは、俺はこの時代に既視感(タイムリープ)することができる。

 だが、俺は二度とあそこには帰らないと決めている。


 「・・・・・」


 でも分かっているんだ。俺の過去、それを頼りに既視感(タイムリープ)することによって俺は失ったものを取り戻すことができる。


 俺の頭には一人の少女の姿、

 

 彼女を死なせてしまったのは俺の責任・・・もし、それをやり直せるとするなら・・・。


 目を閉じ考える。


 もし俺が過去に戻り星川を死なせないようにしたら・・・この生活は変わっていたのだろうか。

 星川が生きていたら俺も違った人生を歩めたのだろうか。


 答えは簡単だ、NOだ。


 過去に戻ろうが俺の運命は変わらない。たった一人の幼馴染(命)がいる限り俺は命を選ぶ。


 「この力は不必要だ・・・」


 できればこの力はもう二度と使いたくない。でなければ俺はもはや長く生きることはできなくなってしまうからだ。

 初めて使用して一ヶ月近く眠っていたとなると、次には一年・・・そして永遠に目が覚めなくなる可能性が十分にある。


 色々考えているうちに俺は眠ってしまった・・・・。







 

 夜中、境川生の幼馴染である東雲命(しののめみこと)は家に居た。


 「棗くん張り切っていたわよねー」


 (しょう)に御神槌さんと楠さん、それに恋桜(こいざくら)先輩たちと一緒に祭りを盛り上げる・・・何だか学生って感じよね。

 今からでもウキウキしてしまう。こんな時間だってのに私ったらホント色々おかしくなっちゃてる。


 その時だった──


 ピン、ポーン・・・


 玄関からチャイムの音が聞こえた。


 「こんな時間に・・・?誰だろ?」


 私はドアを開ける。そこには生くらいの身長の男の人が立っていた。

 髪の毛は黒髪だけど所々白毛が存在している。でも不自然なくらいの白髪だ。それに顔の三分の一は色が濃くなっているし。


 「あ、あの・・・?どなた・・ですか?」


 明らかに見たことない人物だったので私は思わずそう言ってしまう。


 男は少し沈黙をして、


 「これ」


 何かを差し出してきた。


 「・・・え、これって」


 男の人が渡してきたのはボロボロになった私の髪を束ねるリボンだった。

 あれ、落としったけな・・・?


 「えっと・・・有難うございます?」


 よくわからなかったので思わず疑問形になってしまったが、


 「それじゃ」


 男はそのままどこかに行ってしまった。声をかけようと表に出たが、男の姿はどこにも見当たらなかった。


 「・・・なんだったのかしら」




 部屋に戻り私は棚を漁る・・・。

 

 「やっぱり」


 私はゾッとした。


 男の人が渡してきたリボン、それは──


 無くなってなどいなかった、ちゃんと私はしまっているのだ。

 だけど どこからどう見たって男が渡してきたこのリボンは私のだ。

 

 昔に生が誕生日ってことで買ってくれた大切なリボン。幼かった私はこのリボンに自分の名前を書いたのをよく覚えている。

 私が保管してあるリボンにも名前は書いてある。そしてこのボロボロのリボンにも名前が・・・・書いてあった。


 「どういうことなの・・・・」


 ──リボンが二つ存在している。それは一体何を指し示すのか。もしかしたらこれから起こる新たな事件の暗示なのか。

 どちらにしても もうこりごりだ。誰かが傷つくなんてもう嫌だ。

 

 怖くなった私は急いで布団に潜り込み、そのまま寝ることにした。





 「は?リボンが二つあるだって?」


 朝になり、私は(しょう)を起こすついでに昨日の夜の出来事を話した。


 「そうなの・・・生が昔に買ってくれたこのリボン、二つあるんだけど」


 そう言って命は綺麗なリボンとボロボロのリボンをみせてくる。

 確かにこれは昔俺が命にプレゼントしたリボンだった。


 「命・・・・」


 「生?」


 紛れもなく、これは同じリボン。片方はボロボロだが、命の名前が書いてあることからして本物なんだろう。


 「これ、あれか?俺が買ったリボンをボロボロにしたからバレないようにと思って見様見真似で命が自作したのか?」


 「・・・・・・」


 俺がそう言うと命の顔が笑ってなかった。


 「あ、あの・・・・」


 「生・・・・」


 やべえ、怒らせちまったかな。


 「じょ、冗談だよ命。わざわざ俺に見せたってことは何かしらあるってことだろ?」


 俺は慌てて命に言い訳をする。


 「何かしら・・・・そうね....また何かに巻き込まれるようなそんな感じ」


 辛そうな瞳でそう言う命。これまでに巻き込まれてきたことからしてあまりこれ以上は関わりたくない気持ちがあるんだろう。

 

 まあ確かに俺も有田院(ありたかき)みたいな非常なやり方をするやつは嫌いだけどよ・・・でも学園を変える為には避けては通れない道だからな。多少の覚悟は出来ているつもりだ。


 「大丈夫だ。何があろうと俺はお前を守る・・・・」


 俺が頭を撫でようかと思ったその時、


 「──私が心配なのは生、貴方なんだよ」


 その言葉に俺は手を止めてしまう。

 俺を心配。それはどこまでも命という人物の言葉だ。


 「今回だって楠さんを助けるために動いたって御神槌さんから聞いた。でもその時に生は倒れたって・・・」


 そうか。あのとき命は現場にいなかった。病院で俺を待っているお前にとって次にあった時には昏睡状態だったからな。

 色々と心配かけちまってるってことか。

 

 「・・・生?」


 「え、あ・・・?」


 また考え事してしまったかと思ったが命が見ていたのは俺の手のひらだった。


 「どうかしたか?」


 ゴミでも付いてたかな?


 「・・・手のひら、少しだけ肌の色が濃くなってない?この一部分」


 「え?」

 

 命に言われて俺は手のひらを見てみる。・・・確かに少しだけ色が濃くなっていた。だが、日焼けかなにかなんだろう。


 「夏だしな。日焼けでもしたんじゃないか?」


 「でも生、ここ最近は病院で寝ていただけだし」


 はっきり言って日焼け以外に肌の色が一部分だけ変わることはあるのか。新しい病気か何かか。

 でももしそうだとしたら病院で寝ている間に医師たちが感づくはずだしな。病気ではないだろう。


 「──まっ、特に気にすることはないだろう」


 特に痛みも感じなかったので俺はそういった。


 「まあ、生が大丈夫ならいいんだけど・・・」


 うん、問題ない。

 

 「きゃ!」


 「命!?」




 


 

 生の手のひらが濃くなっていた。大丈夫とは言っていたけど気になる。

 

 ──バチッ、


 「きゃ!」


 私の頭に一つの映像が流れ込む。


 

 『──と──から──い』


『───ッ─────!』


 

 男の人が私に向かって何かを言っていた。


 

 「命!?」


 生が倒れそうになった私を支える。


 「・・・あ、ありがとう」


 「どうした!?」


 今見えた映像を言うべきなのだろうか。

 本来なら言わないとダメなんだろうけど、私には言うことはできなかった。


 「ちょっと目眩(めまい)しちゃって」


 「気をつけれろよな」


 

 果たして言うべきだったのだろうか。私は一つの映像を見た。

 それは過去の記憶とかではない。映っていた人物は私の知っている人だったのだから。

 でも姿は少し違っていたけど、特徴が残っているため理解できた。


 

 ──恋桜学園の制服を来た、男の影。

 髪の毛は黒色でその後ろ姿からは幾度も危機を回避してきただろうと思えるほど凄い体つき、


 

 映っていたのは紛れもない──




 見えたのは未来の映像か私の妄想か、




 どちらでもハッキリしていること、それは──









 最愛の人物、境川生(さかいがわしょう)そのものだったのだから。

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