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逸材の生命  作者: 郁祈
第三章 夏休み編
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やり直した世界

 グニャアアアン・・・世界が揺れるような感覚に襲われる。

 だが、俺はもう失いはしない・・・。守るんだみんなを・・・ッ。





 「──(しょう)・・・生!!」


 ハッと目を開ける。


 「どうしたのボーッとして」


 俺の視界には愛しい(みこと)がいた。


 「・・・悪いちょっと考え事してた」


 「もぅ・・・ほら病室の前まで来たんだから」


 病室の前・・・か。確かに『戻ってきた』ようだな、数時間前に。


 ここからだ。運命を変えなくてはならない。


 「命、棗・・・悪いがちょっと用事を思い出した。先に行っててくれ」


 「用事?何かあったっけ?」


 命が考え込む。


 「まあまあ、先に行ってようぜ命ちゃん」


 「あっ、ちょっと・・・」


 棗に強引に押し込まれて命は病室に入っていく。


 これでいいんだ・・・。御神槌が動くよりも先に俺が有田と決着をつける。

 

 俺は急いで有田の屋敷へと走ったのだった・・・。





 有田の屋敷の前にたどり着く、細工をしているのか、この中は俺の目の力でみることはできない。

 だけど──


 「悪いが、こちとら体験済みでね」


 俺は頭の中で屋敷内のイメージを広げる・・・。

 部下の配置場所、そして有田の持っているナイフ。

 それら全ての位置を確認。

 

 手を前に(かざ)す。それと同時に俺の手から風圧が吹き出た。


 風圧が出てから三秒くらいして、俺は屋敷内に入った。


 ──コツコツ、と足音が響き渡る。


 そして長い階段を見上げるとそこには、


 「よお、有田」


 有田院(ありたかき)がいた。


 「さ、境川・・・何をした」


 「なにって?何のことだ」


 「ここに入る前になにかしただろ!!」


 「さあな、俺は(くすのき)を取り戻しに来ただけだ」


 そう言って有田のいるところに歩き出す。


 「それ以上近づくなよ、こいつには爆弾を取り付けている。これをポチっと押せば、ばくは・・・」


 コツコツ、


 「お、押すぞ・・・!!いいのか・・・!?」


 コツコツコツ・・・・


 俺は有田の言葉をまったくもって無視して、階段を登る。


 「ええい、こうなったら押してやる・・・!押してやるぞォォッ!!」


 有田の指がボタンに触れようとしたそのとき、


 グギッ、

 

 「にぎゃああああ!!!!!」


 有田の指がもげたのだ。


 「どうした?押さないのか」


 指がもげた有田は楠を離して、バタバタとしだした。


 俺は楠を受け止め、背中にある爆弾を取り、投げ捨てた。


 「──よほど痛かったみたいだな有田」


 「ゆ、指を攻撃するなんて・・・卑怯な・・・・」


 「卑怯?よく言うぜ。自ら勝負を仕掛けてこないで部下を連れ回し挙句の果てには人質・・・・そんなお前が卑怯か」


 俺は鋭い眼差しで有田を睨む。


 「お前の作戦は俺がやってきて部下を倒し、ナイフを突き出すもそのナイフが弾かれるのを想定したはずだ」


 「な、なんで・・・そのことを・・・」


 「だが、それは失敗に終わった。お前は相手を間違えたんだ。偽りの逸材者だからといって過信していたからこのような自体を生んだんだ」


 未来に体験した御神槌の死、仲間を失うというのは今まで以上に辛いものだ。怒りもこみ上げてくる。だが、この世界では死んでいない。だから俺は有田をこれ以上苦しめることはなかった。


 「次に俺たちの前に現れてみろ、ただじゃおかないからな」


 俺はそう言って階段をおりて有田の屋敷から出るのだった。



 

 出た先には丁度御神槌が楠を探しに来ていた。


 「・・・よくここが分かったな」


 「境川・・・!なんでお前が・・・って楠!!?」


 ボロボロに成り果てた楠を見て御神槌は驚く。


 「あと一歩ってところだったな。なんとか無事だぜ」


 「世話になっちまったな・・・境川」


 「気にするな」


 御神槌と楠をみるが、俺の視界は安定しなかった。

 世界がねじれて見える・・・あれ・・・・おかしいな、


 そのまま俺は倒れてしまった。


 「おい、境川!?境川!!!」


 御神槌の声が聞こえたが段々と意識が消えていくのがわかった。










 次に目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。


 「──ハッ」


 起き上がり周りを確認する。そこは見慣れた光景、病室だった。


 「俺・・・倒れたのか」


 日付を確認すると8月5日。


 「1ヶ月以上も寝込んでいたとか・・・・嘘だろ」


 足を動かそうと思ったが、足元に誰かが居るのことに気がついた。


 「命・・・」


 すぅすぅと可愛い寝息を立てながら俺の足元で寝ていた。

 俺は命の頭を優しく撫でた。


 「ずっといてくれてたのか・・・命」


 撫でながら俺は命に感謝をする。


 「んにゃ・・・生・・・?」


 「ん、おはよう命」


 俺の声を聞いて命がバッと起き上がる。


 「しょ、生・・・!!起きたの!!」


 嬉しさのあまりか命はいきなり抱きついてきた。


 「うう・・・ずっと心配してたんだよ。鼓動はあるのに一ヶ月以上も目を覚まさないんだから」


 「心配かけてしまったようだな」


 

 

 「おっ、起きたようだな境川」


 「ちょうどいいタイミングだったみたいね」


 入口から御神槌と楠の声がする。

 二人共私服だった。


 「夏休みだからな」


 「貴方が寝込んでいる間結構学園は大騒ぎだったのよ」


 「えっ・・・」


 まず、生徒会室の惨劇、その光景は学園が若干壊れていることを意味していて、学園はしばしの休校になったらしい。

 んでそのまま夏休みだとか。


 「それって夏休み中に直るのか?」


 「いや、直らないみたいだ。9月から二学期だが、急遽休校になったみたいで、今学園は色々考えるらしい」


 「・・・それはそうとして東雲さん。あなた何してるの?」


 命はというと俺に抱きついたままそこを動かなかった。


 「だって生に久々に抱きついたんだもん!!そうそうは離さないわよ」

 

 命は力強くそういった。


 「・・・まあ、好きにするといいわ」


 「しっかし、これで全員無事だったってわけか」


 生徒会長は大した怪我でなく、御神槌もスグに治ったらしい。

 愛桜(あいさか)先輩はというとすぐに目が覚めたらしい。あんなことがあったが会長は愛桜先輩を会計から外す気はないだとか。


 「あの会長も中々の強者だよなぁ」


 御神槌は笑いながらそういった。


 「とにかくにもこれで一件落着ね」


 楠がホッとしたように胸をなで下ろす。


 「そういえば境川、何でお前は倒れたんだ?」


 「そういえばそうね。境川くんはどこも怪我を負っていなかったと聞いたわ」


 

 そうだった・・・・。俺は倒れた。それは紛れもなく俺が過去に戻ったからだろう。

 過去に戻る代償、それは俺の生命を少しだけ分け与える。

 だから俺は一ヶ月近く倒れる羽目になってしまったわけだ。


 だが、それをこいつらに話すわけにはいかない・・・。


 「力を使いすぎたのかもな」


 俺はそう言って誤魔化した。


 

 「まあ、いいわ」


 楠はちょっと俺を疑っていたが、諦めてくれた。


 「境川も起きたことだし、夏休みだ。なにかしようぜ」


 御神槌が拳を合わせてそういった。


 「あら、貴方にしてはいい意見ね」


 「しようしよう!!!」


 命は俺に抱きついたまま賛成と言わんばかりに手を上げてバタバタしてた。

 

 小柄だから重くないんだが、胸の柔らかいものが当たっていて気まずい・・・命は気がついていないみたいだけど。


 「とは言っても何かすることでもあるのか?」


 「御神槌なにか提案」


 「ウォイ・・・なにもねえよ」


 「使えないわね」


 「うぐ・・・」


 俺はこのふたりの会話を聞いて実感した。


 あぁ、平和だなと。

  

 ──ある世界では、俺は後悔をしていた。



 ──ある世界では、俺は仲間を失った。



 ──だけど取り戻したんだ。俺たちの仲間が全員いる日常を。


 

 「生!起きたって本当か!!」


 いきなりドアを豪快にあけ棗が入ってきた。


 「病院だぞ。静かにしろ棗」


 「起きたようだな、境川・・・」


 棗の後ろから会長がメガネをクイッとやって入ってきた。


 「会長・・・!」


 「事情はなんであれ、お疲れのようだな。色々あったが8月いっぱいは休みだ。ゆっくりするがいいさ」


 「棗、お前何持ってるんだ?」


 棗の手元に握られている紙に視線を向ける。


 「フフ・・・よくぞ聞いてくれました!!これは何と」


 そう言って棗は紙を広げた。


 それはこの街の一番の祭りのポスターだった。


 「なんだこれに行くのか?」


 「行くだけならつまらんって」


 棗がチッチッチっと指を振る。


 「折角なんだし──全員で出店、だそうぜ」


 全員で祭りの屋台を出す。棗はそう言ったのだった。


 「おお、いいわね!!」


 命が食いつく。


 「面白そうじゃねえか、これが安だ楠!!」


 「・・・貴方の案じゃないけどね。だけど面白そうではあるわね」


 御神槌も楠も賛成の勢いだった。


 会長はというと、


 「──祭りに参加、ということなら幾度なくあるが店をだす立場というのは経験したことがないな。これはいい勉強になりそうだな」

 

 メガネをクイッと上げながら言っていたが、これは参加するということで間違いないな。


 「んで、生はどう?」


 「どうってもな・・・」


 俺はあまりこういったことに興味がない。祭りもどちらかというと参加する側だからなぁ。


 「生、やろうよ」


 命がそう言う。


 「ほら、彼女さんもそう言ってるわよ」


 「そりゃ、断れねえよなあ?」


 御神槌と楠がダメ押しにそう言ってくる。


 「諦めろ境川、参加したほうが身の為だ」


 会長もそっち方面ですか・・・・はいはい・・・。


 「わかったよ。参加するよ」


 「そう来なくっちゃな!!」


 祭りの日程は3日後の8月8日、そこで俺たちは屋台をだし祭りを盛り上げる側の立場になる。

 確かにこれまで祭りの屋台を出した経験はない。会長ではないがこれはこれでいい勉強になることだろう。


 このメンバー全員で行う初めての作業。それはきっと楽しいものなんだろうな。

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