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逸材の生命  作者: 郁祈
第二章 破滅の逸材編
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後悔

 俺と(みこと)(なつめ)は今日はまっすぐ家に帰るのではなく、病院に寄って帰る。

 それは今回有田の策により傷ついた中である、生徒会長そして御神槌(みかづち)・・・。

 他にも愛桜(あいさか)先輩という人物が存在するのだが、彼女は一応敵でもあるのであまり会いたくはない。


 「しっかし、楠ちゃんも一緒にくればよかったのにね」


 楠は一足先に病院に向かっている。御神槌が心配なんだろう。


 「まー楠さんも心配してるってことだよ。先に行くってことは」


 「でもどうせ後で合うんだから一緒に行ったほうがいいと思うだんけどな~」


 何気ない会話を交わしているが、俺たちはさっきまで殺されそうになっていたのだ。

 棗に至っては退学に陥れられていた。だというのに俺たちはこんな普通に生活していていいのだろうか。


 「(しょう)、まーた怖い顔してる」


 命がビシッと指を刺す。

 本当は顔に指を当てたいんだろうが、その低い身長が故に俺の胸辺りに指があった。


 「命ちゃんってよく生のこと見てるよねー」


 棗がニヤニヤしながらそういった。


 「それくらい心配してくれてるってことだろ」


 棗の会話に答える気力がないので俺は素っ気なく返す。

 

 「ちぇ、つまんねえ反応」


 そうこういっている間に俺たちは病院にたどり着いた。


 「わー結構大きいね」


 「それほど重症ってことなんじゃないかなぁ」


 「知らんけど棗・・・中では騒ぐなよ」


 「へーい・・・」


 病院の中に入ると俺は受付に行き、御神槌たちの病室を聞いた。

 



 「ここか」


 名前のところに御神槌、恋桜、愛桜と書かれている。


 「生徒会長さんと会計の先輩ってどっちも桜ってついてるんだ」


 「ホントだ!棗くんよく気がついたね」


 ・・・どうでもいいところ見てるんだなぁ....


 ノックをして俺はドアを開ける。


 そこには眠っている愛桜、ベットに寄りかかっている御神槌、立ち上がって窓を見ている生徒会長がいた。


 「会長、立ってて平気なんですか?」


 「俺は結構軽症だからな。これくらいではなんともない」


 いつもならメガネをクイッとやるところなのにやらないのをみると、腕がやられているんだなと理解できた。


 「あれ?楠ちゃんは?」


 棗はキョロキョロ辺りを見渡す。だがそこには楠の姿はなかった。


 「楠なら来てないぞ」


 御神槌がそう言う。


 「あれでも先に言ってるって・・・」


 「・・・・」


 俺は不安になった。

 楠の目はとてもじゃないがあれは普段の楠ではなかった。怒りや殺意といった感情が表に出ている目だ。

 そして楠は俺に有田(ありた)の居場所を聞いてきた。


 

 「どうした、境川・・・」


 御神槌が聞いてくる。


 「嫌な予感がする」

 

 「楠に関することか?」


 「・・・ああ」


 俺が頷くと御神槌はベッドから飛び上がった。

 

 ドン....地面に着地すると御神槌は、


 「探してくる」


 そう言って病室から出ようとしたが、


 「ま、待って御神槌さん」


 命が止めに入った。


 「その状態で出歩くと傷が広がっちゃうよ・・・」


 御神槌は決して軽傷とは言えない。楠を庇い銃弾をモロに喰らってしまっている。


 「だが、楠が来てないとなると何かに巻き込まれ・・・」


 「で、でも・・・」


 「──俺はあいつの傍にいると誓った」


 その時の御神槌の声はいつになく本気で焦っている声だった。

 でもその言葉は皆の心に大きく響いた。


 「あいつには友達がいなかった。だがあいつは俺が居ることを受け入れた。だから何があっても俺はあいつを裏切らねえし楠も俺を裏切らない」


 「・・・・固い友情だな」


 「そうだ、だから俺は見つけに行く。アイツに危険が迫っている気がしてならねえんだ!」


 「俺もついていく」


 御神槌一人で行かせるわけには行かない。


 「な、なら私も・・・」


 「いや、これは俺と御神槌だけでいい。もし何かあったらヤバイからな」


 「生・・・・」


 「棗、会長・・・何かあったら頼みますよ」


 「OKだぜ、生!!」


 「引き受けよう」


 会長と棗は快くここに残ってくれるみたいだ。これなら命を置いていっても大丈夫だな。


 「行くぞ、境川」


 御神槌は待ちきれないのかそう言ってきた。


 「ああ、待たせて悪かったな」


 そう言って俺と御神槌は病院を出て楠を探し始めた。





 「・・・何か当てでもあるのか?」


 俺は御神槌に聞く。


 「いや、これといってねえが、有田っていったか?そいつのところに行っている可能性がある」


 「だけど俺はあいつの居場所を楠に教えてないぞ」


 一度問われたが、楠に万が一あった場合ヤバイと判断して俺は有田の居場所を喋っていない。


 「有田ってやつ逸材者なんだろ?しかも生まれ持っての。ってことは少なからずどこかしらでは有名なはずだぜ」


 「・・・楠が聞き込みをしていたら」


 「そういうことだ」


 俺と御神槌はより一層走る速さを強めて楠を探し始めた。

 

 俺と御神槌だけだから走る速さは常人を超えている。世界陸上以上の早さだ。その気になれば電車より早いんじゃないかな。


 「テメエは有田の居場所わかっているのか」

 

 走りながら御神槌が聞いてくる。


 「ああ。今日撃たれた弾丸、そして以前襲われた時の弾丸の匂いが一致した。だからこの匂いを辿って行けば有田の家ってわけだ」


 「はっ、相変わらず変わった芸風ができるやつなことだァ!」


 匂いの位置は隣町、だけど電車より早く走っている俺たちはすぐさまその場所にたどり着くことができた。



 「──ここが・・・」


 「有田院の家だな」


 「楠はここにいるのか・・・?」

 

 視力を集中するが予想していた通り、この家は職員室同様中を見ることができなかった。


 「ダメだ、中の様子がみれない」


 「ってことは殴り込みか」


 「いや、万が一楠がここにいなかった場合、俺たちはここにいる意味がない。争っても無駄となるだけだ」



 だが、そんな事を思っていたが、中から


 ドォォォォンンンン・・・!


 音が響いた。

 

 「くっ、これは・・・」


 「く、楠・・・!!」


 御神槌は血相を抱えて飛び出してしまった。


 「御神槌・・・くっそ!!」


 俺は御神槌を追いかける形で有田の屋敷に突入した。


 


 中に入ると広い玄関が存在した。


 目の前には長い階段、そしてその奥の部屋から人影が出てきた。


 「・・・!有田・・・」


 中から青い黒髪をした男が出てきた。出てきたのは有田院だ。

 



 「久しぶりだね、逸材者」


 有田は俺を見るなりそう言ってきた。


 そして有田の隣には──


 「ッ!楠ィ!!!!!」


 頭から血を出しボロボロの制服姿の楠だった。


 「君たちのお仲間のようだね。フフ、面白い子だったよ。力もないくせして僕に挑みに来るんだからね」


 「テメエ!!」


 御神槌はすぐさま腰を下ろし拳を引く構えを取る。

 空気弾を撃つつもりだ。


 「何をする気かは知らないけど・・・とりあえずこの子の無事は保証させないよ」


 「くっ・・・・」


 御神槌は体制を元に戻す。


 マズイ、楠が人質に取られている状態だ。迂闊に動くことはできない。


 「一応聞くが、君たち何をしに来たのかな?」


 「決まってんだろ、楠を取り返しに来たんだ!!!」


 「・・・俺はその付き添いだ」


 

 「フフ、なるほど。いい友情だ。だが、偽りの逸材者がこの正規の逸材者に勝てるとでも?」


 有田は余裕たっぷりだ。俺は辺りを警戒し始める。だが、御神槌は怒りで周りが見えてなかった。

 御神槌を攻めてもいいが、もしあの人質が命だったと考えると俺もそうしていたが故に、この怒りは生半可では落ち着かないと判断した。


 「僕は奥の部屋にいる、手下ども、やれ」


 合図と同時にバン、と周りの扉が開きそこからスーツ姿の男たちが出てきた。


 「待ちやがれ!!」


 御神槌は有田にそう言う。


 「手下をやっつけたら話を聞いてやるよ」

 

 有田はクルッと振り向き奥の部屋に帰ろうとした。



 「──いーや、帰る必要はないぜ、もう終わってるからよ」


 「何!?」


 有田が驚いた顔で振り向く。


 スーツの男たちはたちまち膝から崩れ落ちていっていた。



 「こ、これは・・・・」


 「境川・・・・」


 怒っているのは御神槌だけじゃねえ・・・。俺だって怒るさ。


 「さっさと楠を話すんだな。有田・・・!次はお前がこうなるんだ」


 俺は一瞬で加速して周りの手下たちを殴ったのだ。もちろん手加減していないので運が悪ければ一生目が覚めない状態になっている人もいる。


 「くっ・・・それいじょう近づくな。こいつをこ、殺すぞ」


 楠にナイフを当てる。


 「ッ・・・有田、貴様!!」


 「落ち着け御神槌」


 俺は視界内にナイフ映す。


 そしてナイフを吹き飛ばした。


 この技は強盗のときにやった技術と同じものだ。対象が一点だけだったので発動に時間はかからず一瞬で執り行うことができる。


 「な、なにをした・・・!」


 驚きのあまり有田は楠を落としてしまった。


 「っと」


 地面に落ちる前に御神槌が楠を受け止める。


 「もう大丈夫だぜ、楠・・・」


 御神槌は気絶している楠に優しく微笑む。


 「し、しまった・・・」


 有田は慌てているが、なんだあの態度は・・・少し様子がおかしい。




 「・・・なんちゃってね」


 その予想は的中したのか瞬間的に有田の表情は変わった。


 「僕は逸材者だぞ。お前が部下を一瞬で倒すのも予想していた。ナイフを遠くから消し飛ばすのも予想済みだ」


 そして有田はポケットから何かを取り出す。


 「このスイッチは押すと爆発が行われる。もちろん衝撃を与えてもだ」


 つまりさっきのように消し飛ばすことができないわけか。


 「爆弾はその女の背中に取り付けてある。三人まとめて消し飛ばしてくれるわ」


 「しまった・・・!」



 絶望している中、楠が意識を取り戻してしまった。


 「み、御神槌・・・?」


 「楠・・・」


 御神槌は楠の頭を優しくなでる。


 「何なでてんで貴様ァ!!ボタンを押すぞ」


 有田はキレ気味で御神槌にそう言ってきた。


 だが御神槌はゆっくりと有田の方を向き、


 「御神槌・・・・?」


 その表情は何かを決意した顔だった。


 「悪いがここは消し飛ばさせない」


 「は?何を言っている貴様、このボタンを押せばな」


 御神槌は後ろに振り向き、しゃがんだ。

 そして楠の顔をみて、


 「・・・・すまねえな楠」


 そういった。


 「みか・・づ・・・ち・・・?」


 「俺はお前についていくと決めたのによ、ここで"お別れ"みたいだ」


 「なに・・・をい・・・て・・・?」


 俺は御神槌の行うことに気がついてしまった。


 「ま、まて・・・御神槌」


 そう言ったがもう遅かった。


 御神槌は楠の背中にある爆弾をバリッと取り除き、右手を振りかざした。


 ポチ、


 それと同時に有田はボタンのスイッチを押した。だが、


 ドォォォン・・・・!!


 爆発は500メートル先の有田の屋敷ないで爆発した。

 御神槌は拳を振りかざして、空間を削ったのだ。そしてその先に瞬間移動を行った。

 

 「みか・・・づち・・・」

 

 楠は何が起きたのか理解できなく、ただ爆破した先の方に手を伸ばし御神槌の名前を連呼した。


 有田はというと・・・


 「ば、ばかな・・・何が起きている。そうだ・・・これは夢だ・・・そうだゆゆゆゆ夢・・・」


 おかしくなり、有田はその場で倒れこんだ。こりゃ、気絶したな。


 ってそんなことしてる場合じゃねえ。

 俺は走って爆発先の元に駆け寄った。


 


 爆発したところは煙であたりが見えない。

 

 「げぼげぼ・・・」


 辺りを探す。その時足に何かがあった。


 「これは・・・」


 俺は正直言って青ざめてしまった。


 

 「ど、どうしたの・・・」


 少し回復したのか楠がよろよろしながらこちらにやってきた。


 「く、来るな・・・!!」


 楠を近づけてはならない。

 だが、楠は見てしまった。


 「うそ・・・・・・でしょ・・・」


 楠がみたのは黒く染まりはて前から倒れている御神槌の・・・・・死体だった。


 「御神槌・・・嘘でしょ・・・嘘だって言ってよ・・・・起きて・・・ねえ、起きてよ・・・御神槌!!」


 楠は御神槌のところに駆け寄り声をかける。だが、反応はしない。死んでいるからだ。


 「楠・・・・」


 俺はこのときなんて声をかけたらいいのかわからなかった。でも楠が一番信頼している人物が失われてしまった。

 その人物の最後は俺たちを庇い、死んだんだ。


 「うそ・・・・貴方が死んだら私は生きている意味がない・・・・起きて御神槌・・・おねがい・・・だから・・・」


 

 俺は理解したのかもしれない。先生が言った俺の決意の先の後悔。

 その意味は──死。


 仲間を一人失い。これが連鎖となり俺たちは崩壊していく。守ると決めたのに、俺は守れなかった。

 それどころか守られてしまったのだ。



 「くっ・・・・」


 世界は時として残酷て無常である。


 だが、俺はこの決意を果たすと決めた。だから、俺は・・・



 「楠、どいてろ」


 「なに・・・する気・・・」


 俺は優しく楠の前で嘲笑し、


 

 「"やり直すんだ"──御神槌は俺が必ず助ける」



 ──禁忌を犯すことを決意した。

境川は御神槌を失ってしまった。

だが、それでは学園を守ることは愚か、楠までもが死んでしまうと判断した。

だから禁忌を行うことにした・・・・

次回か第3章です。お楽しみ!

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