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逸材の生命  作者: 郁祈
第二章 破滅の逸材編
20/130

崩壊の「エピローグ」

 「さて、どうやって職員室に乗り込むか・・・」


 監視カメラの映像が職員室で確認ができることを知った。だが、職員は今敵みたいなもの。簡単に入れてはくれないはず。


 「普通に行くのが妥当なのかもしれないけど、普通生徒に監視カメラの映像なんて見せてくれないわよね」


 (くすのき)も俺と同意見だった。


 「えぇ、じゃあ行き詰っちゃったね・・・」


 (みこと)はシュンと落ち込む。


 「だったら実力行使しかねえよなァ!」


 バン、と御神槌(みかづち)が立ち上がる。


 「御神槌...お前それ本気で言ってるのか?」


 「ったりめえよ、力でねじ伏せれば向こうも納得するだろ」


 俺はハァと溜息をつき、御神槌にこう言った。


 「お前の力は認める。だけどそれは教職員に対して振るってみろ、あっという間にお前も退学になるんだぞ」


 御神槌はそっかと納得し席についた。


 「御神槌、馬鹿ね」


 隣で楠が御神槌に対してそう言う。

 

 

 「フフ、お前も人が悪いな。境川」


 会長が俺を見てそういう。


 「どういう意味ですか?」


 「皆から意見をとっているが、お前自身もう策は思いついているのだろう?」


 「本当!?(しょう)!」


 「どういうことかしら境川くん」


 「んだ、テメエ!あるならさっさといいやがれ」


 それぞれが俺に対して突っ込んできた。 

 まあ、策はあるんだけど・・・。


 俺は一回みんなを落ち着かせてから喋りだした。


 「──俺の考える策はこうだ。俺たちの代理に職員室に向かわせる」


 「でもさっき楠が言ってただろ、生徒に対して監視カメラの映像を見せることなんて・・・」


 御神槌がそう言いかけたが、途中で何かに気がついたみたいだ。


 「まさかお前──」


 「お前の予想しているとおりだ御神槌、それは俺たちがなんの力も持たない生徒だからだ。だが、仮にこの場にいる生徒会長、愛桜会計が申し出たとしたら・・・」


 会長と愛桜先輩の方を見る。


 クイッとメガネを上げ、


 「なるほど・・・我々を巻き込むか。確かに生徒会は生徒を守る義務があり、そのために監視カメラの映像を確認することも可能だろう」


 「か、会長・・・」


 「なんだ?愛桜」


 愛桜先輩は何か言いたかったようだが、会長に問われ、


 「い、いえ・・・何でもないです」


 何も言えなかった。


 「会長、頼まれてくれますか?」


 真剣な眼差しで会長を見る。

 御神槌も楠、命、棗・・・この場にいる全員が会長の方をみる。


 「・・・ふぅ」


 会長は一息いれ、


 「いいだろう。沢渡棗の退学を阻止するのも生徒を守る生徒会の仕事だ。確認に行ってやる。愛桜、同行しろ」


 「え、会長一人でではないんですか?」


 「一人で行きたいところだが、二人で言ったほうが説得に応じるだろう」


 そう言って会長と愛桜先輩は生徒会室を出て行った。


 

 「これで、大丈夫かしらね」


 「心配そうだね楠さん」

 

 「ええ・・・ちょっとね」


 楠は少し何か考えていた。



 「おい境川、お前はどう思ってる」


 突然御神槌に小声で話しかけられた。


 「何がだ?」


 「あの生徒会長、逸材者じゃないんだろ?でも色々と頭回りすぎじゃねえか?」


 確かに、会長は頭が良すぎる。それは逸材者と言ってもいいほどに。俺たちにアドバイスを出すなり色々してきた。でもその存在は謎に満ちている。


 「少し・・・探ってみるか」


 俺はそう言って聴力と視力の力を使って、会長と先輩の後を追った。


 「はえー便利だなその力」


 御神槌が素直に感心している。


 「視力と聴力を極限まで集中してできるんだ。お前もやればできるんじゃないか?」


 「バカ言え・・・まあ仮に出来たとしても射程範囲は極端に短いだろうけどな」


 そう言って御神槌は腕を頭の後ろにやって椅子をギコギコやり始めた。

 

 

 さて、会長たちは・・・・と、

 御神槌と話していたので少し見失ったが、すぐに見つけることができた。


 



 『──会長、なんであの連中と関わるんですか』

  

 愛桜先輩が会長に向かってそう言っていた。


 『なぜ、それはおかしい質問だな。何度も言うが我々の役目は生徒を守ること、それだけだ』


 『でも、会長境川生と出会ってから少しだけ変わった気がします。元々は私たちの役目は「彼を潰す」ことだったはず・・・』


 俺たちを潰す・・・だって・・・。会長たちが・・・!?


 『愛桜、それを口に出すな』


 会長はこれまでに見たことない口調で愛桜に向かってそう言った。


 『・・・すみません』


 

 会長が俺たちを潰そうとしていた。初めて出会った時のことを思い出す。

 確かに食堂で一回フォーク刺されそうになったな・・・あれ潰すのが目的だったのか。


 

 そう言っている間に職員室の近くまで来ていた。

 入口を近くして愛桜は止まった。


 『どうした、愛桜』


 『会長、あなたは境川生に味方をするんですか?』


 『何を言う・・・』


 『答えたください・・・!』


 愛桜先輩は真剣な瞳で会長に向かってそう言った。

 

 「ん・・・?」


 愛桜先輩の手に注目する。何かを取り出した・・・?

 

 チキチキ・・・っと音がする。


 「あれは・・・カッターか」


 どうするつもりなんだ。まさか会長を・・・?



 

 『私は境川生に協力するつもりだ。元いい私がこの地位に上がってきたのは学園の改善、それが目的だったからな』


 『やっぱり・・・』


 『そして愛桜三夏(あいさかみか)、お前は去年生徒会に入ってきたんだったな。──理由は私の監視という名目で』


 『知っていたんですか』


 『無論だ。私はいつも周りを警戒する。例えば、今お前が私を殺そうとしていることもな』


 そう言って会長は愛桜の手元にあるカッターに向かって手を出す。取り上げつもりだ。


 『そのまま刺してあげますよ!!会長!!!』


 愛桜は避けようとするどころか会長の手に向かってカッターを突き出した。


 『なに・・・』


 会長は不意を突かれたのかカッターが向かってきていることに対して反応することができなかった。


 

 「──ちっ、行けるか・・・」



 俺はカッターに視点を起き、そこから力でカッターに攻撃をした。


 チッ、っという音とともに愛桜先輩の手にあるカッターに衝撃が伝わる。

 そしてカッターはそのまま手から弾かれ、上に上がった。


 

 『ッ・・・何で・・・』


 愛桜先輩はいきなり手からカッターが飛んだところに驚いていたが、


 『隙きありだ!』


 会長は隙だらけの愛桜先輩のお腹に一撃の拳を食らわした。

 

 『ガッハ・・・』


 愛桜先輩はそのままガックリと姿勢が落ち、気絶した。

 会長は倒れる前に彼女を受け止めた。


 『・・・お前を連れてきた本当の理由はこれだ。お前を置いていったら向こうで何が起きるか分からない。だから連れてきたんだよ、愛桜』


 気絶している愛桜に向かってそう言った。果たしてその言葉は彼女に届いているのか・・・。


 愛桜を入口前に寝し、会長は職員室に入っていた。中の会話を聞こうと思ったが、


 

 ──バチッ、



 「ん・・」


 中を見ることが出来ず、俺の視界は生徒会室になっていた。


 「どうした境川?」


 御神槌が俺の方をみた。


 「途中まで追えていたんだけど職員室の中に入った瞬間途切れた」


 「・・・向こうもお前の対策ばっちりみたいだな」


 「そうだな・・・会長に何もないといいんだけど」


 俺は愛桜先輩のことを思い出す。彼女は会長の監視をし、俺たちを潰そうと考えていた。

 俺の援護もあり愛桜先輩を気絶させることはできたけど職員室の中に至っては何が起きているのかわからないから心配だった。


 「・・・・・・」


 

 「生、どうしたのーー?」


 「命・・・・」


 突然命が俺の目の前に顔を覗かせた。

 正直いって可愛いから目の前に来られると困る。


 

 「恋桜先輩たちが心配なの?」


 「・・・・ちょっとな」


 達っていうか生徒会長が心配なんだよな。愛桜先輩はどちらかというと敵みたいなものだし。


 



 その時だった、


 ──ガラガラガラ・・・・


 生徒会室のドアが開いた。



 「えっ、愛桜先輩・・・?」


 ドアを開けたのはヨロヨロと、弱っている愛桜先輩だった。

 まさか気絶から立ち直るとはな。俺たちを攻撃しに来たってわか。


 俺はスッと立ち上がる。


 「生・・・?」


 しかし、愛桜先輩からは殺気というか戦う意思を感じられなかった。


 「境川・・・会長を・・・たすけ・・・」


 バタン、愛桜先輩はそう言って地面に倒れ込んだ。


 「境川ァ」


 御神槌がいち早く反応する。

 

 ドゴゴゴゴゴゴ....目の前から嵐が飛んできた。


 しかしいち早く御神槌が俺たちの前に立ちふさがり、生徒会室の一角にあった机を盾に俺たちのみを守った。


 「これは・・・・」


 「御神槌・・・何事よ」


 俺たちは全員困惑していた。いきなりボロボロの先輩が入ってきて倒れた瞬間マシンガンのような銃弾の嵐ときた。


 「分からねえが、会長がやばいぜ・・・多分」


 「だろうな」


 この状況をみて、安全とは言い難い。いや、会長だけでなくこの学園全体がやばいのかもしれない。

 防いだ銃弾が地面に落ちている。


 俺は一弾を拾い上げ、


 「この銃弾──」


 「生、これって・・・」

 

 愛桜先輩を抱いた命も気がついたようだ。


 「──有田院(ありたかき)・・・・あいつの部下の銃弾と同じだ」


 有田院、俺や御神槌と違って生まれついての逸材者、頭のキレがとてもよく俺と同じで遠くを見ることに長けている。

 以前俺は有田に目をつけられたが色々と手回ししてきたあいつの部下を蹴散らしそれっきりだった。

 でもその有田が今攻めてきたということは、学園側と何らかの関わりがあるってことだな。


 「この銃弾、少々面倒ね」


 「楠、何か知っているのか」


 「ええ、この銃弾は"無音の銃弾(サイレントガン)"、この場では音がしているけれど数メートル先には音が届かない銃弾よ」


 「それってつまり・・・」


 命が何かに気がつく。


 「──この騒ぎは周りの生徒に知れ渡らない。つまり本格的に潰しに来ているわね」


 

 「楠ィ・・・解説しる場合じゃねえぞ・・・そろそろ机の耐久も終わりだ」


 御神槌が机を抑えながらそう言った。


 だが、その前に銃弾の音が消えた。


 「弾切れ・・・?」


 楠が確認しようと身を乗り出す。


 「まて、楠それは罠だ」


 俺がそういった時にはもう遅かった。

 顔を出した瞬間、一発の銃弾が楠の方に向かって放たれた。


 「ッ!!」


 グシュ....楠の目の前から血が飛び出る。


 「う、嘘・・・・」


 命と棗が青ざめる。


 ──命中する間際、御神槌が楠を庇った。

 なのでもちろん銃弾が当たったのは御神槌だ。だが、身長差的に、当たった場所は頭でなく、身体だ。


 「ぐっは・・・・」


 御神槌は楠を抱いたままその場に倒れた。


 

 「マズイ・・・」


 銃弾の嵐が来る・・・。


 「御神槌!!!しっかりしなさい御神槌!!!」


 後ろからはいつも冷静だった楠が大きな声で叫んでいる。


 ──俺たちは死ぬのか・・・??

 このまま死ぬ・・・。皆・・・命も楠も棗も御神槌も先輩も・・・。


 「一応心臓には当たってないみたいね」

 

 命が御神槌の当たったところを見る。

 

 その瞬間、銃弾の嵐が再び俺たちを襲った。


 俺は手を前にかざす。


 フッ、っと風が向こうの銃弾の方に行き、銃弾は俺たちの前にたどり着く前に地面に落ち始めた。

 

 そして足の筋肉を強化し、俺は一瞬で敵の方に移動し、全員を峰打ちで仕留めた。


 たったったと生徒会室に戻るが、その光景はあまりにも残酷なものとなっていた。


 銃弾の嵐による、周りの被害、割れ果てたガラスの窓・・・。そして、

 倒れ込んでいる御神槌と愛桜先輩。


 愛桜先輩はただの気絶だろうが、御神槌は敵の銃弾をモロに食らっている。


 「起きなさい・・・・起きさない御神槌・・・」


 楠の瞳から大きな涙がこぼれ落ちる。

 これでも楠は御神槌と共に行動してきたはず。俺たちよりもずっと長く・・・一緒に。

 その悲しさは誰よりも大きいのだ。

 

 

 

 「──ちょっとそこをどくんだ」


 俺の肩に手をあて後ろから生徒会長が現れた。


 「会長・・・!」


 会長の姿はボロボロだった。腕を引きずり下ろし、歩くのがやっとの勢いだ。


 だがそのまま御神槌のもとまで行き、御神槌の心臓あたりに手を置いた。


 「ムン!!」


 ドンッ!!っと御神槌に一撃叩き込む。


 「ガッは・・・」


 御神槌は息を吹き返した。


 「御神槌!!」


 「まだ完全に意識は戻らないだろうが、死にやしない・・・・」


 「何をしたんです?」


 俺は会長に尋ねる。


 「衝撃を与えただけだ、この方法で助かる場合もあるんだ」


 会長は立つことが出来ず、そのまま膝から落ちた。


 「境川・・・お前にこれを託す」

 

 そう言って渡してきたのは一枚のSDカード。


 「これは・・・?」


 「それは・・・テスト最中のお前たちのクラスの監視カメラの映像の記録だ・・・」


 「しかし、会長・・・なんでそんなにボロボロに」


 「この学園には知ってはいけないことが多くありすぎたみたいだ。今回はなんとか耐えたが・・・この先は厄介になる」


 

 「生、とりあえず負傷してる人たちをみんな一旦病院に運ぼう!!」


 会長との会話を妨げ、命がそう言ってきた。

 確かにこのままだと会長もやばいな。


 「・・・そうだな」


 

 救急車をよび、会長及び御神槌と愛桜先輩は運ばれた。

 

 今回のことは救急車を呼んだことで色々と騒ぎになってしまった。ぐちゃぐちゃの生徒会室、そして落ちている銃弾。

 教員側は正体を知っているからこそ、俺たちに対して何も言ってこなかったが、



 「よもや生きていたとはな。驚きだよ、境川、東雲、沢渡・・・そして転校生の楠」


 俺たちのクラスの担任がそう言ってきた。


 「今回の件、先生たちの企みですか?」


 「さあな」


 俺の問いに先生は答えない。


 「・・・それとは関係ないですが、これ」


 俺は会長に渡された一枚のSDカードを差し出す。


 「これは?」


 「棗のテストの日の映像です。ここには棗が書いた答えも映っています。これが証拠です」


 そう言うと先生は大きく笑い、


 「クックック・・・なるほど、恋桜が職員室に来た時は何かと思ったが、そうかそうか、彼奴が関わっていたのか。これは一杯やられたな」


 そう言って先生はSDカードを受け取る。


 「なるほど、確かに証拠は受け取った。棗の退学は取り消してやる」


 「ッ!」

 

 棗の瞳が大きく開く。


 「よかったな。・・・だが、今回はこれで済んだ。・・・次は死者がでるかもしれないぞ?それでも抗うか?」


 「抗いますよ。少なくとも俺は誰も死なせやしません」


 「固い決意だな。だが、その決意はいずれ後悔するだろう」


 そう言って先生は学園の中に戻っていった。


 


 「生!!」


 棗が俺のもとに来た。


 「ありがとう・・・俺の退学を取り消してくれた!!本当に有難う」


 「・・・よかったね棗くん」


 「まっ、とりあえずよかったわね」


 命と楠も棗に言葉をかける。


 だが、楠の表情はどこか悲しそうな顔をしていた。

 楠のとなりにいつもいるはずの人物がいない。彼女には御神槌忍という男の存在がとても大きかったのだ。


 

 棗と命がワイワイと楽しんでいる中、


 「ねえ境川くん」


 「ん?」


 「今回御神槌を撃った主犯って──」


 「有田・・・院のことか」


 「そう、その有田って人どこにいるか知っている?」


 楠の瞳からは光が消え、殺意に満ち溢れている。

 居場所は隣町ってことしか知らないんだけど、銃弾の匂いを辿ればすぐにでも見つかるだろう。

 

 ──でもなんだ・・・。楠に教えたらマズイ気がする。


 "まるで楠が死んでしまうような"


 そんな感情を覚えたので俺は、


 「・・・・知らないな」


 そういった。


 そうすると楠は、


 「そう、変なこと聞いてゴメンさない」


 目を閉じて謝った。


 「ちょっと一足先に帰るわ」


 「おい」


 時間は気が付けば夕方。色々バタバタしたが一応下校時刻、だけど俺は楠を止めた。


 「なに?」

 

 不満そうにこちらを振り向く。


 「・・・・絶対に無理するなよ」


 「病院に行くだけよ、そえじゃ」

 

 そう言って楠は病院に向かっていった。


 俺もあとで行くか。


 とりあえずは棗の退学は取り消された。一件落着ってところだな。


 「生、そろそろ帰ろ」


 「命ちゃんとこれから病院に見舞いに行くけどお前も来るだろ?」


 棗と命がこちらを向いてそう言う。


 「・・・ああ。もちろんだ」


 先生は言った。俺の決意はいずれ後悔すると、それがどんな意味を持つのかは分からない。でも俺は後悔は絶対にしない。


 ・・・一度守ると決めたら俺は守り通す・・・・例えそれが悪の道だったとしても。



 俺たちは仲良く横に並んで病院に向かうのだった。





 ──この時の俺はまだ気が付いていなかった。


 これから起こる最大の悲劇を──

エピローグですが第二章は次はラストです(笑)

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