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逸材の生命  作者: 郁祈
第二章 破滅の逸材編
18/130

偽りの点数

 気持ちのいい朝だ。

 こんな日は学校をサボりたくなるね。


 「(しょう)、今学校サボりたいとか思ったでしょ」


 (みこと)は俺の心の中を読んだのか、俺が思っていたことを的確に突いてきた。


 「全く、頭がよくてもサボっちゃダメなんだからね」


 この小さい身体でグイっと俺近づき注意してくる。


 

 「──朝からお盛んね、命さん、境川くん」


 振り返るとそこには御神槌(みかづち)(くすのき)が仲良く登校していた。


 「おはよう楠さんに御神槌さん」


 命は楠と御神槌に挨拶をする。


 「あれ、そういえば今私たちの呼び方・・・」


 命は気がついたようだ。昨日の楠は俺たちのことを「命」「境川」と呼び捨てにして呼んでいた。

 だが、今の挨拶・・・「さん」「くん」と言っていたな。まあどうでもいいがこいつが呼び方を変えてくるとはな。


 「気が向いたのと少し呼び捨てはどうかと思ったまでよ」


 楠はクールな感じで答える。こいつが表情を変えるところ見たことないんだよなぁ・・・御神槌は見たことあるのだろうか。


 俺はふと御神槌の方を見る。


 「なんだ?」


 御神槌はすぐに俺の視線に気がづいた。


 「・・・なんでもねえ」


 視線はすぐに気がつくのに俺の思考は読み取ってくれないみたいだな。

 

 「くだらない事してる暇はないわ。ほら行くわよ」


 楠がトコトコと歩き始めた。


 「んじゃ、教室は違えどさっさと行くぞ」


 御神槌が俺の肩をポンと叩き、楠の後ろについて行った。


 

 


 玄関に入り俺はある視線に気が付く。


 「ん・・・?」


 あれは・・・学園長。


 「もしかして・・・」


 俺は深い溜息をつき、


 「命たち、教室には先に言っていてくれ」


 そう言った。


 「あ?どういうことだよ境川」


 「あー・・いいのいいの生は時々こういうことあるから。でも予鈴までには帰ってきてよ」


 物分りのいい命は御神槌の質問と止め、そのまま教室へと向かった。



 「──それで、何用ですか?」


 俺がそう言うと学園長はこっちにたったったと走ってきた。


 「久しぶりだね。境川くん」


 この幼児体型で幼い顔をしている男が恋桜学園の学園長だ。


 「なんですか、もしかしてまた書類整理ですか?」


 俺はある一件から学園長に目をつけられている。だから時折俺は学園長室に呼ばれそこで学園長の仕事の手伝いをしているのだ。授業サボって。


 「いや、仕事は今ないんだ」


 「ならなんです」


 「その大したようじゃないんだけどな」


 学園長の顔はとても何かを言いたいけど言えないような顔をしていた。


 俺は辺りを見回す。もしかしたら誰かがこのあたりで学園長を見張っているとかがありえるかも知れない。

 視力を集中し、周りに視線をやる・・・。


 「(登校中の生徒のみ・・・か)」


 俺はフッと目の力を閉じ、学園長に聞いた。


 「誰かに口封じされてるとかそんなんですか?」


 「ち、違うよ」


 学園長は手をわたわたさせて言う。


 「ならどうしてそんな顔をするんですか」


 「そ、それは・・・」


 そこで俺はある人物に気がついた。


 万が一を想定して、聴覚を集中していたのだ。

  

 「(生徒の足音が動いてない箇所がある・・・)」


 まさか生徒になりすまし見張っている。


 そこに目の意識を当ててみる。


 「(いや・・・こいつは誰かを待っているだけか)」


 俺はホッとする。朝から変なことには巻き込まれたくないからな。


 「学園長、貴方が話したくないなら別に構いません──でも、もし俺が必要でしたらいつでもお声をおかけください」


 俺はそういい一礼をしその場を去った。


 「・・・・ッ」


 去るときにチラッと学園長の顔が見えたが何かこれからやばい事に巻き込まれるんじゃないか。俺はそう思ってしまったのだ。




 「あれ生、珍しく早かったね。いつもなら一時限目いないのに」


 俺がHR前に来たのが珍しいのか命は俺が席につくなりそう言ってきた。


 「確かに、生はいつもいないもんな。まあ俺としてもいてくれた方が話し相手いて助かるんだけど」


 後ろから棗が話しかけてくる。


 「お前たち教室で何もなかったか?」


 「えっ?」


 「いや、特にこれといったことはないね。どうしたん生?」


 命と棗が俺の聞いたことに対して疑問に思っている。

 

 何も・・・ない、か。

 学園長の態度が非常に気になる。本当に何も起きなければ....。


 ガラガラガラ、

 俺が考え事をしている間に先生が入ってきた。


 「朝のHRを始める──」


 学園の連絡事項を話し終え、HRが終わろうとしたとき


 「ああ、そうだ沢渡(さわたり)お前はちょっとこい」


 先生が棗を呼び出した。


 「えっ、あ。はい」


 そう言って先生と棗は二人揃って教室を出る。


 

 「棗くんどうしたんだろうね」


 「さあな」


 気になったので俺は聴覚の能力を使って棗と先生の会話を盗み聞きした。なんだろう棗関連でいつも盗聴してる気がする。


 



 『──沢渡棗、お前は今日の放課後を持って退学だ』


 『えっ、どういうことですか!!』


 棗の反応を見通していたのか先生はパラっと手から一枚の紙を見せてきた。


 『これはお前のテストの総合成績だ。現代文、英語、科学・・・どれもギリギリのラインだ。だが』


 一番下に書かれたテストの点数。それは数学の点数。


 『29・・・点』


 赤点だった。


 『そういうことだ。お前はこの学園で最下層の人物だった。いつ退学になってもおかしくはない。まあ、今日が最後の学園だ精々楽しめ』


 先生はそう言うと棗をスルーして廊下を歩いて行った。





 「嘘・・・だろ・・・」


 俺は思わず声を出してしまった。


 「しょ、生!?どうしたの」


 「い、いや・・・棗が・・・」


 ここで話すものあれだから俺は命を連れて教室を出た。


 丁度棗がいたので棗も拾い俺たちは食堂に来た。






 「朝の食堂ってか・・・一時限をサボってこんなところにいたら怒られるんじゃない?」


 命はキョロキョロしながらそういう。


 「問題ないだろう。仮に教師がこんなところに足を運んでいたらそれこそ何をしていたのかと問い詰めてやる」


 「・・・・・・」


 棗は喋らない。退学ということが辛いのだろう。

 だが、恐れていた自体が起きてしまった。朝の学園長のあの態度、それはこういうことだったのか。


 「棗──話は大方理解しているつもりだ。その・・・退学は辛いだろうがあんな証拠をだされちゃな」


 「俺は赤点を取っただなんて認めない・・・しかも数学だ。あれは問題用紙に答えを書いた。自己採点で俺は32点だったんだから」


 「どういうことだ・・・」


 棗の言い分が正しければ29点という数字は嘘ということ。だがなんで棗を退学させようとする・・・・。なぜだ・・・。


 「問題持ってるか?」


 「・・・ああ」


 棗はそう言って問題用紙を取り出す。

 俺は棗が問題用紙に書いた答えを見る。命もひょこっと顔を出して見てきた。


 確かにこれは32点だな・・・決していい点数とは言えないが赤点ではない。


 「これを見せれば先生も納得するんじゃないかな」


 命がふと提案をする。


 「いや、効果ゼロだろうな」


 「どうして?」


 「必ずしも解答用紙に書いた答えと問題用紙に書いた答えが一致すわけじゃない。ましてや相手は教師だ。採点ミスなんてことはありえないだろう」


 誰かが棗を陥れようとしているのか・・・。

  

 「・・・・じゃあどうしたら」


 いつものように覇気がない棗。俺はこいつを信用している。だから助けてやりたい。でも棗を赤点じゃないと言い切れる証拠がない。


 

 「──あら、32点・・・・ふぅ馬鹿ね」


 「んだと!」


 後ろから言われた声に棗が反応する。


 「ん、楠じゃないかそれに御神槌も」


 楠と御神槌が食堂に来ていた。


 「お前たち授業はどうしたんだ?」


 俺は一時限目なのにこいつらがここにいることに疑問を抱く。


 「それはこっちのセリフね境川くん」


 俺は楠と御神槌に棗のことを全て話した。



 「──なるほどな。こいつァ厄介なことに巻き込まれたな。棗」


 御神槌が棗向かってそう言う。


 「テストの点数を教師側が偽るだなんて考えたくもないけど私たちの誰かを退学にさせて焦らせようとしている可能性があるわね」


 「確かに先生は棗は頭の悪さは学年一って言ってた気がするな。陥れるには最適だったというわけか」


 「なあ生、さりげ俺けなしてるよな」


 棗が悲しんでいたがまあいいだろう。


 「御神槌、何か考えとかない?」


 楠が御神槌の方を見て聞く。


 「──協力したいのは山々だが、俺と楠に至ってはこの学園にきて日が浅い。だからこの学園についてシステムをよく理解していないんだ。だからなにもないな」


 「・・・確かにそうよね」


 考える人のポーズをしながら考え込む楠。


 「いや、証拠があるとすればあれね」


 楠が考えをだす。


 「棗くん貴方が見せられたのは確かテストの個票だったわね。なら数学のテスト自体はまだ帰ってきてないことになる。もしだけれどもそれが帰ってきさえすれば何かわかるかも知れないわ」


 「そうかなぁ・・・」


 棗は楠の提案に少し不安げになる。


 だがリミットは今日の放課後まで、それまでに棗を救う方法が見つからなければ棗はこの学園を退学・・・それだけで済むだろうか。

 

 「だとしたらまずは数学の先生を探さないとな」


 やることは決まった。棗を救う。そのために俺たちは動き出すのだった。

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