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逸材の生命  作者: 郁祈
第二章 破滅の逸材編
16/130

ごく普通の食事会

 なんて光景なんだろうか。


 夕方6時くらいのファミリーレストランに高校生4人という光景。

 しかも御神槌(みかづち)は身体は細いけどやたらと筋肉質なためいかついし、(くすのき)に至っては落ち着いているというか高校生に見えないし・・・

 この二人連れてきたのは間違いだったのかな。



 「おっしゃ、何食うかなぁ!!」


 「こら、はしたないですよ御神槌」


 この二人を見てると同年代というより、楠が母親で御神槌が息子に見えてくる。


 「フフ、あの二人楽しそうだね」


 命はこの光景をみて楽しんでした。

 まあただ高校生が夕飯を食いに来ているだけなんだ。たまにはこんな面白い光景があってもおかしくはないか。


 

 


 それぞれが注文をし、料理が来て、みんなは食べ始めた。


 「しっかし、強盗に巻き込まれるとは、ついてなかったぜ」


 御神槌がそういった。


 「確かにですね。別にただ強盗だけというのなら、私たちは何にも恐れることはないのですが、ああも人が密集しているところであると不利となってしまいます」


 「その点に関して境川の戦い方は意外と大人数と戦うのに向いているみたいだな」


 不可視の攻撃ができる俺だが、アレには相当な時間を要する。

 

 「簡単に言ってくれるな。何度も言うがアレはやろうと思ってできるものではない」


 「人数が多いほど力は人数で割られていく、今回は5人だからどうにか銃を破壊する力がありましたが、もしあれが10人・・・それ以上だった場合」


 「ああ、俺は攻撃しても指で頬を突っつく程度の力までになっていただろうよ」


 そう考えるとこの攻撃はとても弱いものだ。


 「まあ、何にせよ、今回のような事態は異例ですからね。私たちは学園生活をまともに過ごせばいい。それだけです」


 「俺は境川を潰すっていう目的があるからな!」


 「・・・勝手にしてくれ」


 俺は恋桜学園を変えてみせる・・・。明るい未来がないこの学園。だというのにも関わらず、退学者は死、生き残るのは選ばれたエリートのみ。

 こんなシステムを作り上げた彼奴は・・・俺が・・・倒す。

  

 「生、顔怖いよ」


 命が俺の顔を覗き込み、心配をしてくる。


 「・・・ああ」


 「何か考えてた?」


 こう言うところは俺をよく見ているんだな。鋭いや。


 「いや、大丈夫だ」


 命に変な心配をかけるわけにはいかなく、俺はそう答えてしまう。


 「そういえば気になったんだけど、御神槌さんと楠さんってどこに住んでるの?」

 

 命が話題を切り替えようとそういった。


 「この近くのマンションよ、そこに私と御神槌は住んでいるわ」


 「ええ、それって一緒に住んでいるってこと?」


 「・・・何を驚くことがあるの?」


 「えっ、いや・・・その・・・」


 驚く命に対して、楠はこれが当たり前じゃないのという顔で答える。命の反応が正しいのにこれは酷い。



 「俺たちも一高校生だからな。これでも・・・本来なら俺も別々に住むことを提案したんだけど、楠が金の都合ってことでこうなってんだ」


 飲み物を飲みながら御神槌がフォローを入れてくれる。

 御神槌は一応楠と一緒に住むことは反対だったみたいだな。でもお金の都合なら仕方ないだろう。


 「──それに御神槌をひとり暮らしさせるだけ無駄よ。彼は洗濯はおろか掃除だってしなさそうだし」


 俺と命は御神槌を見るなりして、あーーーっと頷く。


 「おいそこ、頷くんじゃねえ!!」


 いや、でも御神槌絶対やらないだろ。


 「ったく、お前たちまでそんな反応するってことは俺相当馬鹿扱いだろ」


 「・・・違うの?」


 楠が首をかしげ可愛い姿勢で言った。


 「俺これでも逸材者だからな!?境川はわかるよな、あのキツかった教育!!」


 「勉学は確かにきつかったな。だが御神槌、俺たちは知識はつけさせられたが、私生活のことは一切学んでいないんだぜ?」


 基本知識は無の部屋にいた頃にうんと叩きつけられたが、何せあの部屋はなにも無かった。故に、家事全般といった基本的なことはできない。俺はできるけど。


 「ほら貴方の頼みの綱である境川も貴方の敵よ」


 「くっそーーー!」

 

 こうして話しているとこいつらが敵だということを忘れてしまう。

 それほどこいつらと会話しているのが楽しいのかもしれない。でも俺は大きく笑うことは出来ない。そういった感情は失ってに等しいから。


 「こちらとして気になったのだけれど、東雲命、あなたは境川にいつもついているけど貴方も逸材者か何かで?」


 「・・・命でいいよ、フルネームはちょっとあれだし」


 「そう、なら命。どうなの?」


 「私は逸材者でも何でもないよ。生とは幼馴染だったの。家も隣だし、あと・・・彼・・・氏.....だし」


 最後のほうはもろ小声になっていてなんて言ってるのか聞き取るに聞き取れないくらいの声だった。


 「そう、そういうことなの」


 「あっ?楠何か分かったのか?」


 「あの程度の声を聞き取れないなんてあなたはやっぱり逸材者らしくないわね御神槌」


 「それってけなしてるよな?」


 「ええ。他に何かあって?」


 なんだろう。御神槌は逸材者なのに一般人である楠には頭があがらないみたいだ。

 そういえば楠のことはなんにも分かっていないな。これといって戦えるようには見えないし、俺にとっての命みたいなものなのかな。


 「どうしたの?境川」


 楠が俺の視線に気がついたみたいだ。


 「いや、なんでもない」


 直接聞いてみるのもアリだと思ったが、何だろうな。楠にそれを聞くのは何か、危険だと思った。俺の直感がそう告げている。


 「そういえば境川ァは今日テストだったんだってな。俺たちは転校初日だからなかったけどよ」


 テストなかったとはそれは(なつめ)が聞いたらさぞかし羨ましがるだろうな。


 「それがどうかしたか?」


 「俺たちにとってテストなんてあってないようなものだ。なぜお前は真面目に受ける」


 「なんだ。お前はこの学園を理解していないんだな」


 「どういう意味だ?」


 「──この学園で生き残るには優等生で有り続けるしか道はない。偏差値の低い学園だが、この学園は不必要な人間は切られ、優秀な人材だけを残すようになっている」


 成績が悪ければ学園から追放されるだけでなく、予想が正しければこの世界で生きることすら叶わなくなる。この学園はそういうところなのだ。


 「なるほど、では貴方はその学園で卒業し、なにをするのですか?」


 楠が俺の説明したことに対して、質問をしてくる。


 「今の話を聞く限り、この学園を卒業したところでまともな未来があるとは思えません」


 「そこは俺も気にしている。だが、この学園はおそらくだが何かがあると俺は見ている」


 無の部屋が逸材者を作り出すというところならこの恋桜学園にもきっと何かが存在するのは明確。


 「それを解き、解いたところでの問題です。そんなことをしても貴方には得なんてありやしない」


 「得なんて考えてないさ」


 「では貴方は何を望んでいる・・・」


 言うべきなのだろうか。この学園の設立者を見つけ出し、この学園を変えさせてみせるということを・・・。


 「楠、そこまでにしておけ、境川の気持ちも少しは考えるんだ」


 珍しく御神槌が楠を止めた。


 「──御神槌ッ」


 止めた御神槌を睨もうとしたが、御神槌の目は本気の目をしたいた。


 「く・・・ッ」


 楠も御神槌の目を見て、何かを察したようだ。


 「境川にも考えがある──だが、それは決して俺たちが聞いていいことではない。あいつだって話したくない過去の一つや二つあるはずなんだ。お前はもっと人の気持ちを考えるべきだ!」


 「御神槌....」


 珍しくも楠が御神槌に怒られている。

 しかし初めて見たな。楠が怒られているところは。

 

 御神槌は逸材者だから俺の気持ちが少しだけ分かるのかもしれない。だからこそ止めてくれたんだ。


 「御神槌の言うとおりですね。すみませんでした。少し聞きすぎたかもしれません....」


 楠は礼儀正しくも自分の間違いを認め謝った。


 「境川、ちょっといいか」


 御神槌は表を指差し、少し外に出た。






 

 ──外はすっかり暗くなっていた。夏が近いといえ夜は冷える。


 「──で、なんの用だ御神槌?」


 俺は外に呼び出した御神槌に話しかけた。


 「・・・楠の前じゃまた聞かれ得るかもしれないからなぁ」


 御神槌は少しだけ間を空けて口を開いた。


 「お前が恋桜学園にこだわる理由は、あの環境下が無の部屋に似ているからだろ?」


 いきなり確信を持ったことを聞いてきて俺は驚いた。


 「俺も無の部屋の卒業者だ。あの学園に入ったとき、感じたよ。たかがテストだってのにクラスの連中ときたらものすっごい勉強のしようだったからな」


 「・・・よく見てるんだな」


 「それに聞けばこの学園は偏差値も高くないし進学・就職もよくねえらしいな。だというのに何で勉強するのか。考えちまったよ」


 でもそれだけであの学園が無の部屋と似ているとは言えないはずだ。


 「極めつけはお前の言った言葉だ。恋桜学園で生き残るには優等生でいる有り続けること、それはつまりテストで赤点なんてとったら退学ってことだろ?その退学は生きていけるとは限らない」


 「驚いたよ御神槌。流石は逸材者だな。そこまで導き出せるとは」


 「お前は二度とあの環境に人を巻き込まないため、いや理由は違えど似た理由なんだろうが、だからあの学園を変えると言ったんだろ?」


 俺は命を守ると誓った。彼奴が安心して学園を卒業させる・・・そのためには恋桜学園を潰しでも変えなければならない。


 「あの学園にはMr.Kが関わってるのは間違いないだろうな」


 御神槌が聞き覚えのある名前を出してきた。


 「お前もそう思うか御神槌・・・」


 Mr.K、無の部屋で一番の権力を持っていた人物。そして無の部屋の設立者。

 

 「彼奴は手ごわいぞ?」


 「知っているさ。でもやるしかないんだ」


 拳をグッと握り俺は覚悟を決めてると御神槌に見せる。


 「頭脳ではまず勝てやしない。さらに言えば力でも勝てるとは思っていない。彼奴はお前が考えているよりずっとやばい奴だ」


 御神槌が顔を険しくして言う。こいつがこんなに言うってことは相当なんだろう。


 「さらに言えばだ。俺もアイツに命令されて一度は潰しに来ているんだ。いずれKのやつが俺の裏切りに感づく」


 ──御神槌が何が言いたいのかは理解できる。


 「境川、破滅のカウントダウンはもう始まっているんだぜ」


 破滅のカウントダウン。それはMr.Kが俺たちに対して様々な方法で潰しにかかってくること。

 

 「奴は無の部屋で更なる逸材者を生み出すだろう。俺たちは旧作なんだ。いずれは超える存在が沢山出てくる」


 俺はあの部屋を卒業するときに最高傑作と言われた。それは後ろを見れば俺に及ぶやつはいないということ。

 だが、その先を考えたことはなかった。御神槌の言うとおり、これから誕生する逸材者には勝てないからもしれない。


 「でも、お前と俺がいれば大丈夫だろ」


 今は仲間がいる。命が・・・御神槌、楠、生徒会長、棗・・・仲間が居る。


 「そう・・・だな」


 逸材者が二人もいる。それはとても大きいことだ。どんな相手がかかってこようと負けるつもりは無い。

 学園で生き残り俺は命を幸せにしてみせる。


 ──それが俺にとっての幸せでもあるからだ。







 「御神槌さんたち遅いね・・・」


 御神槌さんと生が外で話をしているから店内の一席は私と楠さんの二人だけだった。


 「どうせ、くだらないことでも話しているのでしょう」


 「そうなのかなぁ~」


 うっ。会話が続かない・・・・どうしよう。まだ苦手意識あるのかな。


 「ねえ」


 楠さんが私に話しかけてきた、その時だった。

 

 「よぉ、待たせたな」


 御神槌と生が帰ってきた。


 「あら、御神槌。もう話はいいの?」


 何かを言いかけたようだったが、彼女は特に何もなく、御神槌さんに話しかけた。


 「ん?どうした命」


 「えっ、いやなんでもないよ」


 「そうか・・・?」


 命の様子が少し挙動だったので気にしたのだがなんでもなさそうだな。


 「それじゃ、そろそろ出ましょうか」


 楠が立ち上がった。


 「おい、俺たち今戻ってきたところなんだけどォ?」

 

 「そんなの知らないわ。もう結構遅い時間よ」


 御神槌の抵抗も虚しく失敗に終わる。


 「まあ、いいじゃないか。行こうぜ」


 俺の言葉にしぶしぶと御神槌が立ち上がる。


 「お会計はどうするの?」


 命が聞いてくる。


 「割り勘でもいいけど個別で出すと迷惑かかるしなぁ・・・」


 伝票を見るが、値段が中途半端なため、個別会計は非常に迷惑がかかるだろう。


 「・・・いいわ。今日は私が出す」


 楠が俺の手から伝票をとり、会計を済ませに歩いて行った。


 止めようと思ったのだが、


 「楠が払うって言ったんだ。払わしてやれ」


 御神槌が止めてきた。


 「彼奴あれでもお前に聞きすぎたと反省してお詫びの印かも知れない。ここはアイツにやらせてくれ」


 御神槌がそういうので俺は何も言うことはなかった。


 「お前、結構楠のこと考えてるんだな」


 俺がそう言うと、


 「彼奴は──俺がいなかったら一人ぼっちだったからな」


 御神槌は少し悲しそうな目をしてそう言った。


 楠が一体どう言う人物なのかも分かっていない。だが、彼女は恐ろしく孤独。そう言わせるほどのオーラを感じた。

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