破滅のカウントダウン
──俺は命に包み隠さず、過去の事を話した。
それは俺にとってとても辛い記憶であるが、それは命も似た境遇だったから話すことができた。
「生にそんなことが・・・・」
俺の過去を聞き命はどうしたらいいのか分からない顔をしている。
「その・・・星川さんって子、いい人だったのね」
「・・・ああ。星川は俺が無の部屋で生きる理由そのものだったからな」
彼女がいなければ俺は頑張れなかった。犠牲・・・とはちょっと言い難いが俺が逸材となった理由は明らかに星川の死が原因だったから。
「これが俺の過去・・・俺が逸材になった経緯なんだ」
馬鹿だった俺も三年間あの何もない無の部屋で過ごし、逸材になるまでの力を身につけることができた。
あの部屋は決していい場所とは言えない。俺たちを道具のように扱い、それでなお食事も殆ど与えられない環境。
そんな環境でよく逸材者を生み出すことができたと今でも思っている。
「生は・・・どう思ってるの。逸材になって後悔とかしてる?」
命の質問・・・それは俺が逸材になった経緯をしって聞いてきたことだ。
「俺があのとき才能を開花させなければ恐らく星川以外にも被害が及んでいただろう。だから俺は逸材になったことに後悔はない」
二度と大切な人が消えるところは見たくはない。その為だったら俺は自身を犠牲にしてまで守りぬくだろう。
だから──そのためには必要な力なんだ。この逸材は。
「そっか。なら星川さんもきっと報われるよ。生がこうしてちゃんと生きているんだから・・・」
命は優しく俺に言った。立場なら命も似た過去を持っていたというのにも自分は気にしていないとばかり俺だけを心配してくれる。
「俺たちは離れても似た者同士だったのかもしれないな」
命は中学校でいじめに友達を失った。
俺は無の部屋で星川を失い逸材になった。
どちらも大切な人を失ってしまっている。だけど俺たちは再開をし、その失った部分を埋めている。
だから命とならどんなことにも立ち向かっていける。そう俺は思っている。
「ふふそうかもね。でも私たちは似ていても《仲間》はいるじゃない」
仲間、そうだ。俺たちは二人じゃない。たった数人だが俺たちの事をよく思ってくれてる人たちがいる。
まずは同じクラスの「沢渡棗」棗は馬鹿だけどこうして俺たちといることを自分で決めている。
周りから嫌われてもついて来てくれる・・・。
もう一人は恋桜学園の生徒会長、「恋桜祐春」
生徒会長もなんだかんだで俺の事を気にかけてくれてる。妹さんがいたらしいんだけどどうやら無の部屋で死を遂げてしまったらしい。
俺と同じで無の部屋にいたということは少なからず関わりがあったんだろう。覚えていればもうちょっと生徒会長と話しが出来たかもしれない。
この二人は俺たちにとって影替えのない仲間、そう言える。
「ああ・・・そうだな。俺たちは仲間がいる」
少人数だが頼りになる二人だ。
俺たちはみんなで恋桜学園を変えるんだ。
俺たちは一人では笑顔でいることはできなかった。俺と命は過去に辛いこともあったが仲間という存在で笑顔でいることができる。
このメンバーでやっていくんだ!
決意を胸に暗い夜空の中、俺と命は二人で星を見てた。
──ザッザッザ・・・
公園に一つの足音が聞こえる。
「よぉ」
暗い木々から二人の影が姿を現した。
二人のうちの片方は男性、片方は女性だった。
男の方は俺たちの方に来るなり声をかけてきた。
「なにかようか?」
「なんだ覚えていないか・・・」
茶色い髪の男は俺を見るなり、ガッカリそうに言った。
「生 知り合いなの?」
命が心配そうに聞いてくる。
「いや・・・知らないはず」
だが、なんだ俺はこいつを知らないはず。でも会ったことがある・・・そんな気がしている。
「お前、境川生だろ?そんでそっちの女が東雲命」
男は俺と命を指でさし名前をフルで当ててみせた。
「なぜ・・・・知っている」
「逸材者、それを聞くか。・・・聞かなくても答えはスグに浮かぶんだろ?天才的な頭脳を持っているんだからよォ」
「──いや、その考えは愚かよ《御神槌》」
とその時、男の隣にいた女が口を挟んだ。
「あぁ?愚かだと!?どういうことだ!《楠》!!」
御神槌と呼ばれた男は楠という女に怒鳴りつける。
「彼は・・・境川生は間違いなく逸材者。でもそれは純粋な逸材でない。貴方と同じよ」
「っへ・・・なるほどな」
俺と同じ逸材者だと・・・・それは無の部屋の卒業生ということか!!?
「あんた、無の部屋の卒業生か?」
俺は気になったので聞いてみる。
「あ?そうだと言ったら何なんだ。俺は二年前に無の部屋を卒業した御神槌 忍様だ」
二年前・・・・それは俺の一個前に卒業しているということになる。
だがそれは三年前、俺が無の部屋に来て間もない頃にこいつと面識があるということだ。
でもこんなやつがいただなんで覚えていない。
「・・・それで何様だ?」
思い出せないので俺は話題を変え、この二人が俺たちの前に出てきたことを聞いてみる。
「楠!話してやれ」
了解。と言わんばかりに楠という女性は命じられ俺たちに説明をし始めた。
「──私たちがここにきた理由はたった一つだけです」
「Mr.K様より、貴方がたを潰すよう命じられました」
「なに!?」
「嘘!!」
俺と命はそろって驚いた。Mr.K、無の部屋の創設者でもあり恋桜学園に関わりのあるある意味黒幕。
そいつが俺と命を潰しにだと・・・
「あなたたちは恋桜学園に置いて厄介な人物と判断されています。加え、転校手続きを拒否したそうですね」
転校手続き・・・・放課後に父から伝えられたことか。確かにあの時俺は断った。
「貴方たちをこのまま学園で泳がしていると恋桜学園そのものが変わってしまう恐れがある。Mr.Kはそれを恐れている。故に潰すように命令が下された」
「ふざけるなよ・・・!ただ普通に学園生活をおくっているだけなのに、お前たちの勝手な言い分で潰されるだと!」
反論するが、楠はまるで微動だにせずに、
「貴方のような逸材者は普通に考えればもっと上の所に行くのが筋です。でも貴方はイレギュラーなんですよ。あのような底辺の学園を選び、学園を変える?ありえませんね」
そう言った。
「恋桜学園はいわば落ちこぼれの救済処置の学園。落ちこぼれの中から光る存在を持ったものだけが生き残れる場所。それを変え用だなんて馬鹿馬鹿しいにもほどがあります」
「・・・・潰すといったな。お前たちは俺たちをどうするつもりなんだ」
「いい質問です。今の言葉を聞く限り、貴方たちは学園を離れる気はない。そういうことと見ていいですね?」
最終確認と言わんばかりの言い方だった。
「命・・・」
俺は命の方を見る。
「私は生に従う。何があってもあなたについて行くと決めているから」
「なら答えは変わらない。俺たちはあの学園でこのまま生活をする」
「なるほど・・・では決定ですね。御神槌!」
待ってましたと言わんばかりに御神槌が前に出てくる。
「期待通りの答えだぜ、境川ァァ!!!」
力強い声が夜の公園に響き渡る。
なんだ・・・こいつの存在感は・・・・!棗同様の力を感じる。
「お前も知っているだろ。無の部屋出身の逸材者はちょっと変わった力を身に付けるということを。実際お前も何か持っているだろ」
御神槌も同じ無の部屋出身だ・・・あまり手は抜けない。
御神槌から感じ取れる棗と似たオーラ。ということはコイツは力関係で俺たちをねじ伏せに来ている。
「行くぜ!」
声を上げると同時に御神槌は俺の方に向かって走ってくる。
「早い・・・!」
そして俺の目の前にたち右手を大きくあげてその拳を振りかざした。
グァァァァン
間一髪で交わすことができたが、何か妙な音がした。
「カスった音ではない・・・なんだ」
視力の力を使い、御神槌が振りかざした所に着目する。
・・・!これは
「ほぉ、交わしたか」
クルッと振り向き、体制を整える。
「──お前・・・そこの地面はどうした」
御神槌が振りかざしたところの地面一体。そこは──
「う、嘘でしょ・・・・」
命もこれには驚いていた。この日まで様々なことがあったり襲われたりしたが、ここまで危険なことをする奴は見たこともなかった。
そう──"地面が消滅していた"
振りかざした一体に大きな穴が空いている。その穴がどこまで続いているのかは分からないくらい深い穴。
「見たか。感じたか?これが俺の力・・・」
「身体的ではない逸材の力・・・」
「何も頭脳だけが逸材ってなわけじゃないぜ。俺は無の部屋でここから出てやるという思いでこの力を手にした」
つまりあの何も無い壁から出てやるという思いが御神槌の逸材となりあの力を引き出させたということか。
遠くから楠が見ているが彼女はさも当然のようにこう言った。
「──御神槌 忍、貴方と同じ無の部屋の卒業者・・・そして」
目をゆっくりと開け、
「破滅の逸材者──そう呼ばれています」
【キャラ説明】
■御神槌 忍
性別:男
能力:「破滅の逸材」
説明:空間を削ることのできる逸材を持った男。境川と同じで1年早く無の部屋から出ており、そこで色々と世界を知る。
容姿:茶色(髪の毛)
学校:???




