二度目の救われ
──夕日が照りつける中、境川と命は病院の屋上にいる。
要件は命の方から呼びつけたものだ。彼女は何かを伝えるために境川をこの場に呼び出した。
また、それを境川も悟っている。
「風、冷たいね」
「ああ・・・まだ寒いよな。冬だし」
ぎこちない会話が交差する。だが、その時間こそ今は必要な時だ。
「ねえ境川くん。今回は本当にゴメンね。私が弱いせいでこんなことになって・・・」
命の瞳は悲しそうだった。心の底から申し訳ないと思っているのが伝わってくる。
「あの時境川くんが来なかったらきっと私は別の道を歩んでいたんだと思う。私は救われたんだよ」
「・・・・」
境川は何も言わない。言えないのだ。
「"二度目"だね」
「ッ・・・・」
不意の言葉。二度目といった。
「命ッ──お前」
「ううん。違うよ。私の記憶は戻っていない。でも、あの時脳裏に映ったの。学園に入学して間もない頃、私と境川くん・・・そしてもう一人の存在がクラスの輪から外れていたとき、私はクラスの人に色々暴言を浴びていた。それを救ったのも貴方だった」
それは境川も覚えていることだ。
あの時は前触れもなく命が倒れたのだ。そうだったな。俺はこれで二度目だ。
「嬉しかった。とっても嬉しい・・・」
「それは何よりだ」
「でもその時の私は私じゃない。その記憶は本来の東雲命──私自身が体験した出来事」
命の空気が変わる。
「今回の件を通して思ったんだ。私は今まで自分が何かを忘れているとは感じていた。でもそれはどうでもいいことだと割り切っていた。だから記憶は戻らないんだと。軽いショックとかなら一週間でもあれば治っている。でも私の場合は私自身が逃げていた。私が臆病だから皆に心配をかけた」
「違う!!お前は弱くなんて・・・」
「いいの。弱者は諦めるだけが全てなの。強がることもしないでただ負けを認めるだけ。だけど今回で決意をしたの。私はもう逃げないって」
命はそっと目を閉じる。何を考えているのかは境川には分からない。それでも境川はただ見つめることしかできなかった。
「──お別れね。境川くん」
「何を言って・・・!?」
「色々お世話になったけど、私はとっても楽しかったよ。この数日。貴方に出会えって本当に良かった。私の為に身体をはって助けに来てくれたときは嬉しくて泣いちゃったよ」
へへっと命は笑ってみせた。
その笑顔は眩しいと同時にどこか遠いところに行くような別れを思わせる。
「前の私は貴方のことが好きだった。・・・付き合っていたみたいだしね」
「・・・」
「だから私も言うわ──境川くん。私は貴方のことが大好きだよ!!」
「ッ・・・・」
満面の笑みだった。
命は笑いそう言った。境川は記憶を失った命に告白をされたのだ。
ビュウウウと強い風が吹く。
命は緊張していたのかその風で体制を後ろに倒れる形に崩れた。
「命・・・!」
境川はゾッとした。命が立っている位置。それはすぐそこから見える地面、つまりフェンスの近くに立っていたのだ。
体制を崩した命はそのままフェンスを乗り越えて
──落ちた。
「きゃあ!!」
声がした瞬間にはもう遅かった。
だが、境川はなんの迷いもなく命を追いかける形でフェンスを乗り越えて飛び降りた。
「命ーーー!!」
境川は手を伸ばし命をギュッと掴む。
(しまった・・・急に飛び降りたから筋力強化間に合わねえ・・・!)
命は決意した。逃げずに記憶を取り戻すと。
だが、そんなこと一人でできるわけがない。
誰が傍にいるんだ・・・決まってるじゃないか。
"俺"が傍にいるんだ。
ずっとずっと──もう二度と後悔のないように。
「うおおおおおお!!」
俺は片腕の指先のみを筋力強化をした。
腕や足といった大まかな部分だと少し時間がかかってしまうが、一点に絞ることで一瞬で強化することができるのだ。
強化した指先を地面に真っ先にぶつける。
当然指だけでは身体を支えることはできない。だが、着地の地点での衝撃は抑えることが可能だった。
指だけで地面に折り立ち何とかそのままバタンと地面に身体がつく。
「ったく・・・危ないやつだよ」
命をみる。怖かったのか気を失っていた。
境川はその時感じていた。
ああ──これであの命とはお別れなんだなと。
すぅすぅと寝息を立てている今の命はいつもの俺を知っている命なんだと感じていた。
「は・・・・これで難関は一つくぐり抜けたってもんだな」
残されて難所はサバイバルゲームのみ。境川の脳裏には少し前に出会った逸材者、ジャンヌと紫翠の顔が過ぎっていた。




