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逸材の生命  作者: 郁祈
第六章 偽りの因果編
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拉致【その壱】

 朝を迎えた。

 何事もなく俺は起き上がる。見慣れた天井、見慣れた部屋・・・だけどその光景はいつもとは違っていた。

 そう、いつもいるはずの存在がない。みことが居ないのだ。


 「・・・・・」


 くよくよはしてられない。俺は俺のやるべきことをこなすだけだ。

 




 制服に着替え階段を下りてリビングに向かうとそこにはリアがいつもどおりテレビを見ていた。


 「あっ兄様」


 どうやら俺に気づいたらしく視線がテレビから俺の方向へと移り変わっていく。


 「兄様?」


 台所に視線をやる。やはり命はいない。それがどこか悲しく虚しかった。


 「大丈夫ですか・・・兄様」


 「・・・大丈夫だリア」


 この辛さを早く取り戻すためには一刻も早く命を救わないとな。

 そう思い俺は朝食の用意を久々に自分で行うのだった。







 朝食を食べ終え俺は学園に向かう。何事もなく予鈴ギリギリに俺は到着した。

 学園にいれば命がいる。そう思っていた。

 だが、事件は起きた。


 「・・・・ッ」


 居なかったのだ。

 いつも席に座っている時間帯だというのに命の姿がどこにも見当たらない。


 「なあ楠ッ・・・命は?」


 「東雲さん・・・?そう言えばまだ今日は見てないわね」


 何かあったか?それともただの遅刻・・・いや、命に限って遅刻なんてありえない。

 畜生が。これも運命ってか!?


 「おーっす生!おはようー!」


 異性のいい挨拶をしてきたのは親友のなつめ・・・そういや久々に話した気がする。


 「なんだ今それどころじゃ」


 「あれ?命ちゃん来てないの?朝みたんだけどな」


 その言葉に俺は瞬時に食らいついた。


 「みた・・・?どこでだ」


 「うわっ怖いよ・・・あーーあれは登校中だったからスーパーの近くだったかな」


 スーパーの近く?おかしいな俺や命の家からでは通らないはずだが。


 「そう言えば誰か他の生徒と一緒に居た気がする」


 「・・・っ」


 その言葉に俺と楠は何かを悟るような感じだった。


 「ねえ境川くん」


 「なんだ」


 「その・・・東雲さんって逸材者だけど力の方は?」


 「期待はできないな」


 「そう」


 つまり誘拐、拉致されたってことか。


 「えっ、マジかよ・・・あのとき声かけるべきだったか」


 「いや、見たっていう情報だけでいいよ。有難うな」


 俺は棗の肩をポンと叩きそう言った。

 そして、


 「悪い──ちょっと用事だッ」


 そう言い残して俺は超速球で走るのだった。

 俺の脳裏には過去に起きた出来事が巡っていた。

 それは前に楠が逸材者『有田』に攫われたときのこと。そうあの時も俺はこんな感じで走った。だけどあれは救えなかったんだ。

 やり直し俺は救った。今度はそうはいかない。片方の瞳から光が消えた俺に"やり直し"をする権利など毛頭ない。だから俺はもうあのようなことは繰り返しはしない。だから迷うことなく俺は走ったのだ。



 「・・・とは言っても場所がなぁ・・・」


 完全に適当に走ってきたからな。とりあえず棗が見たっていうスーパーのところまでには来たんだけど。


 「どうにか探すしかないか」












 ──少し離れた先

 薄暗い倉庫の中に東雲命はいた。


 「ん・・・・ここは・・・?」


 「ようやく目が覚めたか」


 「貴方は・・・?」


 命の前に立ちはだかっているのは見知らぬ男性が二人。見た感じ上級生のようだ。


 「お前に個人的な恨みはないが、少し可愛かったもんでな。拉致させてもらったぜ」


 「・・・・何が・・・目的」


 命の身体は酷く傷ついており喋るのがままならない状況だ。


 「はっ、特に目的はないよ。ただ、お前を独り占めしたいのさ」


 「・・・・ゲスね」


 「おーおー威勢がいいことだ」


 男は目を鋭くしてこう言った。


 「お前、境川生と付き合っているんだってな?」


 「えっ──」


 その言葉は命には理解できなかった。何を言っているのか分からない。


 「とぼけるかぁ。まあいいだろう。俺はあいつが気に入らない。お前のことは買っているんだぜ東雲命。なあアイツとはもう縁を切れ・・・なっ?」


 男が囁く。その度に命の脳になにか映像が流れ込んでくる。 

 ザザ──ザザザ....その映像の中にはひとりの男性が映っている。


 「あっ・・・く」


 「どうだ?」


 「私が・・・境川くん・・・・と付き合っている・・・・?どういうこと・・・」


 「なんだこいつ」


 「きっと脳が回っていないじゃないですか?」


 「なるほどな」


 男は隣にいる男の人の言葉に納得する。


 「だが、幸いここは人げのないところだ。お前が正常になるまで待ってやるさ」


 命は意識が薄れていった。だが、その刹那に命は口ずさんだ。


 「助けて・・・・しょう・・・・」


 それは彼女の意思ではない。咄嗟にでた一言だ。だが、その一言は彼女を救うただひとつの光となる。









 「ッ・・・・」


 境川は目を閉じて耳を澄ましていた。そう周囲の声を探っていたのだ。


 「命・・・」


 聞こえた。助けを呼ぶ声が。


 「俺は・・・お前を助けるからな」


 助けを呼ぶ声の方に向かって境川は走り去った。

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