表裏一体
「いるんだろ──影?」
静かな声で俺はそう言った。
「ッ・・・どうして・・・なんで・・・」
命は驚いていた。なぜ俺が影のことを知っているのかと。
そりゃあそうだよな。何せ命から見れば俺はただの一般人。そこらじゅうにうんと沢山いる人間に過ぎないのだから。
「悪いな東雲。俺はお前と"同類"だ」
同類──それは同じ力・・・異能とも呼べる力「逸材」のことだ。
「そうだったんだ・・・驚いたよ。まさか名前まで当ててくるなんてね」
命は納得したかのように胸を撫で下ろしホッと安心した感じでそういった。
「俺はそれだけを伝えに来たわけじゃない。影──お前に話があるんだ。出て来いよ」
強く、そういう。すると命の髪の毛がフワアアっと上に逆立ちいつものポニーテルもただのロングとなり髪色が黒から赤色に染まっていった。
命の瞳が開くとそのルビーのような綺麗な紅き瞳をこちらに向けていた。
「影だな」
「ええ、そうよ。私は東雲影。まさか私を知るものがこんな近くに居たなんてね」
ニヤリと笑いそう言う。
その口調からしておそらく俺のことは覚えていないのだろう。
「それで?なに用かしら。まさか私を倒そうだなんて思ってるの?」
「それも面白そうだが、遠慮させもらうよ。俺の要件はたった一つ。お前の"代償"──教えてもらおうか」
「代償?なにを言ってるの」
まるで自分の力には何も代価がない。そんな顔をしている。
「とぼけてるのか?それとも無自覚か?」
「後者のほうが近いわね」
「知らないか」
「何かあったのかしら?」
「ああ」
俺は即答をする。だけど言ったとしても信じてもらえないだろうな。
「そう。それは残念なことがあったわね──生」
最後の方のみ何故か協調をして放たれた一言。
俺はその言葉に反応してしまった。
「・・・・・ッ」
いや、まさかな。
まるで覚えていたかのような口ぶり。そんなものを感じさせる言い方だった。だけど命と記憶がリンクしている以上、影は俺を覚えることはないはずだ。
「私は影。もう一人は命。影は光がなければ生きることはできない。光を失えば当然影は失われる」
「何が言いたい」
「表裏一体。それが私たちよ。私の逸材。未来視の代価。知っているとも」
じゃあさっきの言葉は何だったんだよ。
「いや、単刀直入に聞いてくるかと思ったまでよ。それに"今喋っている私"は過去のバックアップ。もうじき貴方の記憶は消えるわ」
「なら教えてくれ。記憶を戻す方法を」
「失った記憶は戻らない。それが未来を見てしまった代価ならね。だけど本来未来視の代償は命そのものよ。稀なケースに陥った私はどうすることもできない」
徐々に影の声が掠れていく。
「ただ──同族。同じくして未来を見通せる者にあいな・・・さ・・・い・・・・」
そういうとフッと髪の色が黒に戻った。
「あ、あれ?私・・・・」
そこにはいつもの命がいた。もちろん俺に対しての記憶は一切持っていない。数分前の命の姿だった。
だけど影は言った。命のケースは稀なもの。本来は命を持っていく危険な力。そして記憶を戻すことは不可能だと。
光を与えず闇だけを残していったその言葉。だけど俺にはまだ望みは存在していた。
"表裏一体""光と影"
あれはただ単に口ずさんだのではない。影は俺に闇・・・絶望を言い放った。それは嫌がらせではなく。誰かに悟られないよう。
闇があるのなら光が存在する。表裏一体。それがキーだ。
同じくして未来を見通せる人物。俺はある男の姿を思い浮かべた。
「話は終わったぜ東雲・・・教室に帰ろう」
ピースは揃った。あとは実行するだけ。
実行は──今夜開始だ。




