追憶
少し昔話をしよう。生がそういい。彼は語りだした。
自分がどうして逸材になったのかを
小学校を卒業し俺はスグに遠い街に行くことになった。
理由は両親から仕事の都合だと聞かされていた。
向こうでは忙しいから、俺をどこかに預けると聞いていて俺は少しだけ胸が高鳴っていた。
新しい出会いを期待して・・・・。
車で走ること15分、森の奥に大きな家が見えてきた。
「さあ生。ここが君の新しいお家だよ」
父親にそう言われ俺は窓越しにその大きなお家を見る。
とてつもなくデカイ・・・・この家の持ち主は金持ちか何かなんだろうかな。
「生ごめんな。父さん仕事の都合で会えなくなってしまった。でもこの家で真面目に過ごすんだぞ」
そう言って父は車で来た道を戻っていった。
これが家族とはしばらく会うことはない。つい最近幼馴染とも別れをしてきたせいか、なんだが色々いっぺんにきて複雑だ。
「待っていたよ、君が境川くんの倅だね」
家の入口から白衣を来た大きな男性が出てくる。
「さあ、入って。君の新しいお友達たちが待っているよ」
男に案内されるまま、俺はこの大きなお家の中へと入っていくのだった。
──中は外見どおり広かった。入口から入り、長い廊下・・・コツコツと音が響く。
そして2分くらい歩いただろうか。ようやく、目の前にロック式のドアの元にたどり着いた。
白衣を着た男が胸に下げているカードでロックを解除する。
そうするとドアが自動で開いた。
「──僕がついて行くのはここまでだよ。さあ、行きなさい」
白衣を着た男は少し、悲しい表情をしていたが、この時の俺にはまだそういうのはよく分かっていなかった。
だから特に気にすることなく、俺はドアの先へと向かった。
「ッ・・・・」
入った先で俺は奇妙な光景を目にした。
まず、周りを見渡す。
そこは"何もない"・・・後ろを振り返りさっき入ってきたドアがあるだけ。窓もなければ他の部屋に行く道もない。
この部屋に合う言葉、それは「無」そう呼べる。
そして次に目に入ったのは20人程度の俺と年齢が変わらない子供たち。
父さんは新しい友達たちと言っていたから、この家には何人か俺みたいな子達がいるとは予想していたが、なんとその20人程度の子供たちはみな、ボロボロだった。
「あなた・・・新しい子?」
近くにいた女の子に問いかけられる。
「あっ。今日からここでお世話になる境川生・・・よろしく」
小学生の頃は男友達は結構いたが、女は幼馴染の東雲命としか接していなかったかせいか、どうやって接したらいいのかが少し分からない。
「生くんか、私は"星川 綾野"よろしくね生くん」
長い髪をした女の子、星川は見ず知らずの新人である俺によく世話をしてくれた。
星川に聞きわかったのだが、この家は家族が仕事で忙しく子育てが難しくなった人のために作られた介護施設みたいなところらしい。
だが、表向きはそうであって、実際は違っていた。
介護するどころか、この家にいるものは俺たちをことごとく道具のように酷く扱われていた。
この年齢にして勉学は大学生の研究者並みの問題を一日7時間。昼はあっても夜飯はなく、寝るところもこの何もない部屋で横になるだけ。
辛い生活だが、俺はまだまだ新参者。少しだけこの生活が楽しいっちゃ楽しいと思えるんだ。
「生くん。こんなところに来ちゃって気の毒だよね。表向きはいい場所なんだろうけど、ここはあくまで私たちを実験に使いだけの場所。でもある条件を満たせば、この部屋から出してくれるみたいなの。だからみんなも頑張っている、生くんもこれからいろいろが辛く思えるだろうけど、くじけずに頑張っていこうね!」
世話焼きなのか何なのかは分からないが今日一日、俺は星川に色々と教えてもらっていた。他の子達も歓迎はしてくれるものの、あまり話してはこない。
それは俺に対してでなく、この部屋の子供たちが基本的に会話をしないだけだった。
「──星川、ちょっとこい」
突然、どことなく現れた白衣の男が星川を呼び出す。
「じゃあ生くん。先に消灯していてね。私呼び出されちゃったから」
バイバイと手を振り星川は白衣の男と一緒にどこかに行ってしまった。
一瞬だが星川の表情は笑っていなっかったように思えた。
──気がついたら俺は寝ていたらしい。布団もしかず、床に寝そべっているだけだから身体のあちこちが痛かった。
ふと隣を見るとそこには星川が寝ていた。
すうすうと寝息をたて膝を曲げた幼児体型で寝ている。
女子の寝ているところは初めて見たので不覚にもドキッとしてしまった。
「ん・・・?」
星川をよーく見ると身体のあちこちに傷が出来ていた。
昨日白衣の男に呼ばれ行くときにはこんな傷はなかったはず・・・。
「あれ・・・生くん・・・おはようどうしたの?」
見つめすぎていたのか星川が起きてしまった。
「星川・・・その傷どうしたの?」
「・・・・・」
傷のことに触れたら星川は黙ってしまった。
答えたくないと言わんばかりの顔をして。
「大丈夫・・・・生くん。大丈夫」
星川は手を胸にあててこう言った。
「"──貴方は私が守るから"」
この時の俺にはこの言葉の意味は理解できなかった・・・・。
それから何日かが過ぎ、俺は徐々にこの部屋のことを知っていった。
まずこの部屋の目的は人間のレベルを最大限引き出す部屋らしく、俺たちはあらゆる知識をつけさせられる。
俺は勉強が出来ないので最初はここの勉強に苦戦していたが星川が教えてくれたりして俺はかろうじてついていっていた。
だが今だにわからないこともある。それはちょくちょく呼び出しをくらう人たち。
俺を除いた全員が日に日に呼ばれている。最初は気にしていなかったのだが、星川の傷がまた増えていたため次第に気になるようになっていった。
──この部屋に入り一年が過ぎた。
俺の身体も成長を遂げ、身長もやや伸びていた。
勉強も食事制限も全て慣れたようなもので少しはこの生活に不便を感じずに過ごすことが出来ていた。
更に俺は自分自身の身体の変化に気がついた。
まず現れたのは耳鳴り・・・。
とある夜に寝ていたら急に耳が痛くなり、様々な幻聴やキーンっと言った音が聞こえるよになった。
だが、その幻聴は幻聴でないことを理解してしまった。それはある言葉を聞いたからだ。
『──星川ッ、手が止まっている。なんだその態度は。しっかりせい!!』
夜、星川が呼び出され、先に寝ていてと言われたので俺はいつもの通りに寝ていた。
だが耳の異変はこの日にもやってきていた。
そして聞こえた。俺はガバッと起き上がったが、近くに星川は存在していない。
それどころか男の存在もなかった。
やはり幻聴・・・俺が星川と関わりすぎたせいで聞こえたのかな。だが、
『そういえば星川ァ、お前随分と新人に目をやっているみたいだな。もしや、奴は素質があるのか?』
素質・・・・何を言っていやがる。
『ますた・・・ァ・・・やめ・・て・・・しょ・・うくん・・・には手を出さないで・・・』
星川の声が聞こえた。だが、この声はもう正常な星川の声ではなかった。
やばい・・・このままだと星川が・・・・ッ。
音の聞こえる方を見る。だが、この部屋には何もない。ただ壁があるだけだ。
『確か境川とか言ってな。彼奴はデータによると全て平均以下の力だ。故にこうして呼び出すこともしなかったが、引き金を引けばでるものはあるかもしれない』
くそッ・・・音の場所はわかっているんだ。一体どこにいる星川・・・!!
『星川ァ。お前は今年で三年目だ。だからこうしてお前だけ呼び出す回数が多い。だが喜べ。ついにお前にも役目が生まれた』
役目・・・・三年目・・・何を言っていやがる・・・。
壁の隅々を見たがどこにも扉らしきものがある気配はなかった。
だが、その時、ウィーン・・・と壁が開いた。
「おや・・・?」
中から出てきたのはボロボロになった星川と白衣を着た男。
「しょ・・・う・・・くん・・・?」
虚ろな目になりながらも星川は俺のことを理解してくれた。
「境川生。ちょうどよかった。お前もちょっと来い」
白衣の男は俺と星川を連れ、部屋の中央にやってきた。
バッと明かりがつき、寝ていた子供たちも皆、起き始めた。
「なんだなんだ・・・?」
「ねえあれって星川さんと、境川くんじゃない」
「こんな遅くに何するんだよ」
起きた子供たちは皆色々言っていたが、皆俺たちがやることを理解していなかった。もちろん俺も何をするかは分からない。
「さあ、星川。やれ」
男が命じるままに星川は俺の元に歩く・・・。
ドス・・・・
えっ・・・・?
星川が俺に近づき、俺は何かで刺された。一瞬のことだったので理解が追いつかなかった。
徐々に痛みを感じ俺は苦しんだ。
「さあ、苦しめ・・・そして見せてみろ。お前の素質を・・・!」
苦しんでいる俺を全く助けずに男は笑っている。
周りにいる子供も動きはせず顔を青ざめている。
俺・・・死ぬのか・・・・。
俺を刺した星川は既に目が死んでいる。まるで操られているみたいに。
数分間にわたり俺は苦しんだ。だが次第に痛みになれ俺は静かになった。
「フム・・期待はずれだったみたいだな。少しは期待してたのだが、こいつはもう使い物にならないな。人数が減るのは惜しいが殺してしまうか」
ポケットからナイフを取り出す。
ああ。俺は死ぬんだな。
分かりきってしまった。俺はここで死ぬ・・・と。
──ブス・・・・。
あれ・・・?痛くない。最後って案外こういうものなのか。
目を開き、俺は驚愕の光景を目にしてしまった。
「なに・・・」
俺を庇い刺されていたのは俺を一生懸命世話をしてくれた星川だった。
「星川・・・だと」
男も予想外のできごとに驚きを隠せなかった。
星川は前から倒れ、血がたくさん出てきた。
「ほ、星川・・・!」
俺は慌てて星川の元に駆け寄る。星川に刺された痛みはとっくに忘れて。
「しょう・・・く・・ん・・・ゴメンね・・・・さ・・・刺して・・・」
ゆっくり手を動かし、俺を刺したところを触る。
「気にするな。お前も疲れていたんだ。だけどどうして俺なんか庇って」
「わたし・・・は・・・この・・・なかで・・・一番・・・のおねえ・・さ・・・んだから」
ニコリと笑って言って見せてくれた。
「境・・・川・・・くん・・・貴方は生きて・・・・・」
星川はそう言うと手が地面にバタっと落ちて目を閉じた。
死んだ・・・星川が・・・死んだ・・・。
「ちっ、出来ぞこないめ。かばって死ぬくらいなら我々の研究に役立ってから死にやがれ」
男は死体の星川をガツっと蹴る。
そして男はそのままどこかに行ってしまった。
「星川・・・・!星川ーーーー!!!!!!」
俺は叫んだ。どれだけ言われようと叫んだ。
俺がこの部屋で生きていけたのは少なからず星川が居たからだった。星川がいたからこそ頑張れた。
だがその星川ももういない。俺はどうすればいい・・・・。
「星川さん死んじゃったね」
「でも結構持った方でしょ」
「えーー次は誰かな」
周りは星川が死んだってのに誰ひとり悲しんでいなかった。
いや、もしかしたらこれが日常茶飯事だったのかもしれない。
星川はこの中で一番のお姉さんといった。それは星川がここにいる全員を庇っていた。そういうことだ。
星川が庇っていなかったらこの中でもっと早く犠牲者が出ていたに違いない。
「・・・俺はお前の分も生きなきゃいけないな」
俺は星川に恩がたくさんあった。それに答えるには俺は死なずにここを出るしかない。
──この日を境に俺は感情のあらゆるものをすて、この部屋から卒業することだけをもって生きていった。
そして二年が過ぎ、世間は中学卒業の時期。
俺はというと、星川が死んでから驚く程に勉学に励み、この部屋の中でトップの頭脳を誇るようになった。
それだけでなく、運動も考察力もありとあらゆるもの力がみるみる上がっていった。
そして俺はこの部屋の偉い人・・・Mr.Kと呼ばれる人物に認められるようになった。
「おめでとう境川生。お前は逸材に選ばれた。よってこの無の部屋から出ることを許可する」
なんの抵抗もなく、俺はこの部屋を卒業した。
何もないところに戻ると、俺は壁際に行き、即席であるがお墓っぽく作った前で、
「──星川・・・・俺は成し遂げたよ。お前が死んでから他のやつらは何人か死んじゃったけど、俺は打ち勝った。」
俺の恩人である星川。
それに別れを告げ、俺は3年ぶりにドアから外に出た。
この頃に少しは感情を取り戻していたが、人に対する接し方など忘れてしまった。
後ろを振り返り、俺を閉じ込めた忌々しい空間を見つめ、
「──お別れだ」
そういい、俺はこの場所を後にした。
迎えなど来るはずもなく俺はただひたすらに歩いた。久々の外の世界。それは俺にとって嬉しいことだ。
「ここから俺の人生の一歩だ」
見慣れた街につき俺はそう言った。
この街に再び帰ってきたのには理由がある。それは幼馴染が心配だったから。
俺は幼馴染と星川を重ねて見えている。
もし、幼馴染が消えることがあるなら俺はきっとこの世界で生きていくことはできないだろう。
二度とあのような光景を見ることだけはあってはならない。俺は変わったんだ。
大切な人を守るために必死で努力をして・・・・変わったんだ。
三年前と変わらない家の前までたどり着く、ちょうどそこには一人の女の人が立っていた。
「生・・・?」
俺の存在に気がついたのか女は俺に話しかけてきた。
あの頃とは背は少し伸びていたが、俺もスグに女の人が誰だか理解できた。
理解できたから俺はこう言った。
「──だだいま・・・・命」
何があっても俺は命も守り抜いてみせる。そのために頑張って俺は逸材者になった。
見ていてくれ星川・・・俺はお前のようになってみせるから。
朝日が照らす中、俺は幼馴染と再会し、過去の出会いを胸にしまい誓を決意したのだった。
【キャラ説明】
■星川 綾野
性別:女
能力:???
説明:無の部屋で生が出会った人物。彼女との出会いで彼の人生は変化した。
容姿:──
学校:無の部屋




