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逸材の生命  作者: 郁祈
第六章 偽りの因果編
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救う方法

 命に忘れられた。

 それはすぐに伝わった。

 楠と御神槌をみて何を変わらない反応を示したことからして俺だけの存在が消えていることにたどり着いた。

 確信は持てていない。だが、分かっているのは命自身が「境川生さかいがわしょう」という人物を知っていないのだけだ。

 朝は普通に俺と接していたことからして命に異変が生じたのは学園に来てからだ。俺が学園に着く前に命は倒れている。楠の情報によれば朝方から体調が優れていなかったらしい。

 可能性があるのならそれが原因だろう。命が俺を忘れたこと、それは俺にとって強烈なものだった。


 「・・・・ッ」


 極致の状態じゃなかったら俺は焦り狂っていただろう。

 だけど今はまだ冷静でいられた。俺はそのことに感謝を覚えている。


 「だけど、これはまずい状況ね」


 楠はブツブツと何か言っている。


 「東雲さんが境川くんのことだけを忘れるということは何かが起きているということで間違いないわね。記憶障害ってわけではない。もっと恐ろしい何かが・・・」


 「しっかし境川、お前もよく冷静でいられるな」


 「──これでも精神は研ぎ澄まされているからな」


 「いらねえ形でその力が役に立っていると」


 「ああ。だが、内面は冷静じゃないぜ、御神槌・・・。焦りはしていないが、この状況を整理するのにいっぱいだからな」


 「お、おう・・・そうか・・・」


 御神槌は少し申し訳なさそうに引き下がった。


 「ねえみんなどうしたの?」


 命は不思議そうに楠の方を見てそう言う。


 「いやなんでもないのよ。・・・ところで東雲さん。体調の方はもう大丈夫?」


 「うん。もう大丈夫よ。次の授業からは戻れるわ」


 「そう、ならよかったわ。それじゃ一緒に行きましょうか」


 そう言って楠は命に手を伸ばして立ち上がらせる。

 そしてそのまま命を連れて保健室を出ようとした。その時すれ違い様に楠は


 「貴方は貴方なりに解決策をみつけなさい」


 そう言って出て行った。

 御神槌もその後についていってしまい残されたのは俺ただ一人だった。


 「・・・・・」


 くそ・・・と俺の心の中で俺は苦しくもがいていた。

 平常を保っていたが、心の中では叫び、苦しんでいた俺にはようやく一人になれて少しだけ安心している。

 これで一人で悲しめるからな。


 「なぜ・・・だ・・・。命....」


 こうしちゃいられないな。

 俺は苦しさを隠し携帯を取り出してとあるところに電話をかけた。














 ──俺は授業を抜け出して少し離れたところにある森にやって来た。

 そこはかつて無の部屋が存在していた森だ。


 「いきなり呼び出すなんて・・・・あら?急用のようね」


 もちろん呼び出したのは美月だった。美月は俺の顔をみるなり状況を少しだけ把握したようだ。


 「極致の状態を維持しているわね。それでも少し雑念が見てるわ。生、貴方どうしたの?」


 「悪いが単刀直入に聞く。命が記憶を失った。心当たりはあるか?」


 その言葉に美月は一瞬何かを察した顔をしたが、


 「....いや、知らないわね」


 そう言った。だが、俺はそんな顔を見逃すはずもなく


 「知っているんだな」


 「知らないといったはずよ」


 「今の俺を出し抜くことは師であるアンタにもできやしないぜ」


 「強情ね」


 「何とでも言え」


 それほどまでにして俺は命を助けたい。だから俺は誰だろうと今は利用するまでだ。


 「はあ、全く・・・先に言っておくけどこれはあくまで仮説よ」


 「ああ」


 美月はふぅと一息入れて語りだした。


 「逸材能力、それは人類に与えれた特別な力のこと。この世には"天才"と"秀才"の二つの存在で成り立っている──でも、それを覆したのが私たち"逸材者"よ。生まれついて又は才能の開花、常人よりもプラスアルファで力を得た私たちはどんな人類よりも価値のあるものとなった。一般世間から見ればこれは素晴らしい力だと思われている。だけど私たちからすればこれは一種の呪いよ」


 呪い・・・その言葉に俺は命の姿を思い浮かべた。


 「何の代償もなしにこの力が使えるとは思っていないでしょ?」


 「ああ・・・そうだな」


 「貴方にも私にもあった力、禁忌である既視感タイムリープ。過去に行く力の代償は己の命。力が強力であれああるほどその代償は大きく酷いものとなる。彼女の場合未来を見通す代価が記憶障害というだけで助かるのはレアなケース。とまあとりあえず逸材の代償ってことね」


 「だがなぜこの時期にその代償が現れた?これまでだって命は幾度なくあの力を振るってきたはずだ」


 「求めすぎたのかもしれないわね。未来視を」


 美月が言うにはただ未来を見るだけに過ぎなかった今まではギリギリの範囲で代償が表面に現れなかったそうだ。だが、急な力の成長を遂げさせようとした命はギリギリの範囲を超えてしまい今回のようなことになってしまったらしい。

 代償は「大切な存在の消去」・・・つまり俺との記憶だ。


 「治す方法はあるのか?」


 「あるわよ」


 「なんだ?」


 「簡単なことよ。その逸材能力を失う・・・それか思い出させるしかない」


 未来視を失えば記憶は戻る。美月はそう言った。だがしかし現状そんなことが可能なはずがない。


 「例外を引き起こすことも可能性としては捨てきれないわ。でもそれは現実的じゃない」


 「・・・・そうか。色々すまないな。教えてくれて」


 「いいわよ。このまま生が堕ちる前に教えれただけマシな感じね。まっ、頑張りなさい。幼馴染なんでしょ?過去を頑張って活かすのよ」


 美月はじゃあねと言い残してその場を立ち去った。


 「命・・・・」


 記憶を戻す。それが今の俺の使命。

 バイトまでにまだ時間はたくさん残っている。それまでに少しは今の命と付き合っていかないとな。色々大変だからな。


 「待っていてくれよ」


 俺は絶対に取り戻してみせる。そう俺はかたくなに自分の心に誓うのだった。

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