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逸材の生命  作者: 郁祈
第六章 偽りの因果編
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働くこと、これだけが生き甲斐である。【その弐】

 一日目が終了した。 

 学園長が言うには修行なのらしいが、これといってそう感じることは無かった。

 何を思いあの喫茶店で働かせたのか。その意図は理解できない。修行というからには逸材の力であることには間違いはない。だが命の力も俺自身の力もあの場で活かせるようなものではないのは明白だ。

 それなのになぜやらせているのか・・・。まだもう一日ある。そこで俺は見つけ出さなければいけないのだろうか。この目的の意図を。


 『学園長の意図・・・か。それは俺にも分かりえないことだな』


 俺は意図を知っていそうである会長に電話したのだが、あっさりとした返答が返ってきた。


 『だが、あれでも学園長。学園を統べるおさ──何かしらの意味があるのには違いないだろう。ましてや俺は逸材者ではない。逸材については専門外であるゆえこれ以上は何も言えないな』


 「・・・・・」


 『今日一日行って何を見た?それを自分の力に当てはめてみたか?』


 「一応はやってる。だけど無理だ。あそこから学ぶもの、得るものはない・・・」


 『何もない、か。それは己が完璧であるがゆえという判断のもとというわけか』


 「別にそういうわけでは・・・」


 『個人的な見解だが、己の力は己で見るのは難しい。客観的にみろ・・・とは言わない。だが、お前は一人でないのは確かなのだ。互いに意見を出し合うのもありなのではないか』


 会長が言いたいことは何となく分かる。

 俺が命の力──"未来視"が使えたらどうするかということだ。あの店で未来を見通す必要があるのか。それを俺が考え、逆に命が俺の力について考えるということだ。

 だが、俺の力は未知数。自分でいうのも厚かましいが、固定された力がないのは確か。故に難しいのだ。


 『俺から言えるのはここまでだ。明日も仕事あるのだろ?もう寝るんだな』


 「・・・・貴重な意見には礼を言っておきますよ」


 俺はそういって電話を切った。



 どうすればいいのか。このまま成長の糧がなければ他の逸材者に勝てないのは確か。御神槌や樹たちに追い抜かれることだってあるだろう。

 それに世界にはまだ知らない逸材者がうんとたくさん存在している。今は鳴りを潜めているものや現在進行形で犯罪を犯している者、それらを相手にするとなると分が悪い時だってある。だからこのままではいけない。それは分かっている。

 美月が言った人物「アンドレア・リッカルド」。あいつもまた俺たちと同様に大会に参加してくるのだろうか。相手の力を奪う力。それはかつてないほどの危険な能力。今の俺で対処できるか・・・それすら定かではないのだ。


 (俺の欠点・・・それは一体....)


 暗い空を見上げながら俺は考える。

 ──あらゆる力を強化する"五感強化"

 ──1.5秒先の世界に移動する"時間跳躍タイムリープ"

 ──物を消す力である"消滅"

 ──相手の視線を誘導しそらす"視線誘導シソーラス"

 そして

 ──限界のその先、極限の世界に入る"極限の極地"

 これらの力に欠点・・・あるとするのなら、


 「極地・・・」


 そう、この力だけ発動するトリガーが難しい。真に集中した瞬間にのみこの力は作動する。良くも悪くも素晴らしい能力だと言い切れるだろう。

 だが、これは昔の俺を引き出すと同様で、己のみで闘う思考に入ってしまう。それは極地に深く入り込めば入り込むほど──百パーセント入り込めば俺は猛威の力や思考を持つことができるだろうが、その反動で誰とも共闘する考えは持たなくなるだろう。

 二十パーセントまでなら自力で発動はできる。それが俺の維持できる最大の領域だから。

 でもそれだけでは足りない。百パーセント、これを自分のみで発動できたとき、俺はこの力を本当に使えたということになる。

 百パーセントに至ったのは数は少ない。しかもこの力は厄介なことに慣れれば慣れるほど深く入れなくなってしまう。慣れればそれそうに雑念が入ってしまうからだ。

 

 「それでもあの力に頼らないと今の俺は・・・ッ」


 この力を使ったきっかけはアメリカに行った時だ。あの時、俺は初めて外国の逸材者と交戦した。はっきり言って俺の存在は小さいということを示すには十分すぎる経験だった。

 決して力は持たないが知性だけで闘うもの。反対に力のみに特化した攻撃型の者。はたまたどちらにも属しないテクニッカーの者。

 俺はこの3タイプならテクニッカーなのだろう。様々な力を持つ。それは強力な武器だ。反対に欠点、それは"同じ力"には敵わないということ。

 世界は広い。本当なら出会うことのない確率なのだろう。でも俺は知っている。同じ極地立つ人物を。

 アメリカで出会ったアリスという人物。奴は俺と同じくして極地の力を持っていた。おまけに俺と違い力の操作はお手の物。あっという間に奴は百パーセントの力を発揮する。

 アリス自身気づいているのだ。自分にとってのトリガーを。俺と違い半端物でないからこそ気づけるのだ。


 「どうしたの兄様」


 俺が考えことをしているとリアが近づいてきてそういった。


 「・・・リアか。外は冷えるぞ」


 「兄様なにか考え事してた。難しい顔をして」


 「・・・・」


 「東雲から色々聞いたです。大きな大会に出るって。きっとそれは兄様にとっても自分を変えるものなんだろうって東雲は言ってたです」


 「俺を変える・・・?」


 未来でも見たのか。それともただの予測か。


 「私は自分の力が要らないと思ったときは多々ある。でもこの力のおかげで私は兄様と出会えた。それは確かなこと。だから今はこの力・・・逸材に感謝している」


 「感謝か」


 「兄様はどう思っているんですか?自分自身の力について」


 俺自身どう思っているか。

 俺はもともと一般人だった。だが中学の時期を境に無の部屋という逸材者を生み出す機関、組織というべきだろうか。そこに連れていかれ俺は逸材者として完成した。

 トップであったMr.K。彼は俺のことを「最高傑作」と呼んでいたが、それについて実感はなかった。でも俺に勝てる奴はいるのだろうかと思ったことはあった。

 それからあの部屋を卒業し俺はこの町に戻ってきた。その時の俺は感情がしんでおり人と接することは決してなかっただろう。だが心の奥底で残っていた大切だと思う存在。そのおかげで俺はここまで生きてきた。

 過去に失うことがあったが、俺は様々な苦難を乗り越えた。いのちを失い。右目を失った。それでも俺は生きている。それはみことという失ってはいけない最大の人物がいるからだ。

 俺は命を失うことはしたくない。その一心でこの町に戻ってきてこの町で暮らしている。


 「俺自身どう思っているかなんてわからない」


 リアの顔を見て俺はそういう。いや、そう言うしかなかったのだ。

 

 「兄様....」


 寂しげな表情。そうだ。俺はこの顔を見たくはない。だから周りを救おうと一生懸命だった。

 平穏に生きたい反面、誰もが生きてほしいと願う。この矛盾を背負い俺は生きている。

 そのために俺は自分の力を振るい闘っているのだ。

 アメリカで俺は極地を解放した。昔のままではいけないと思ったから俺はトリガーを解放した。

 思えば俺は無の部屋にいたとき極地の状態を維持していたのかもしれない。周りを見ずに己だけで行動していた。いつしか仲間に囲まれて封印してしまったのだろうな。

 

 「集中・・・か」


 ああ、わかったよ。俺がなぜバイトという修行を課せられたのか。

 あれは集中状態の特訓。あの場所で極地を使いこなすのが学園長の目論見なのだ。学園長は気づいていたのかもしれない。俺にとって極地が未完成であるということを。


 「はっ──何だよそれ」


 「に、兄様・・・!?」


 俺は悔しいが笑った。なんでこんなことに気づけないんだろうと愚かな自分に対して心の中で大いに笑った。

 ──バチバチ....

 目を閉じ俺は再び目を開ける。

 激しい雷の音と共に。


 「これが修行なら俺は乗ってやる....」


 なんもないこの場で俺は極地の状態に自ら入ったのだった。

 まだ二十パーセントしか解放できていない。だが、俺はこの期間にこの力をものにするんだ。


 「リア」


 「えっ、は、はい!」


 ビシッと背筋を真っ直ぐにしてリアはそう返事する。


 「ありがとうな」


 俺はそう耳元でささやいて部屋に戻った。極地の状態を維持して。 

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