生命の逸材者【その参】
辺りが静まり返っている。
バチバチと雷が落ちているような音がこの場所全域に響き渡る。
この感覚は久しぶりだ。まさかこんな形で"入ることになる"とはな・・・。
──極限の極致。俺にとって最も最優の力であり、絶対無敵の能力。極度の集中状態により入ることが出来るが、その集中状態はそう簡単に入れるものではない。
だから俺は今この場で入れたことに深く驚きを感じていた。
「あれは・・・」
「知っているのか?」
伊吹は樹にそう聞く。
「知っているさ。あの状態の境川は非常に厄介であり、楽しませてくれる」
樹は極致に入った境川と一度闘っている。だからあの状態についてとても詳しいのだ。
「なんというか。境川の闘い方は常に最善の策を考え動いている。主に仲間を想い闘っている。──だが、今の境川はそんな感情は抱いていない。あれは無の存在。そう私は考えている」
「あれは紛れもなく生の本気状態。抑えていた力が全て開放された・・・そういうことかしらね」
「随分と詳しいんだな。アンタは」
御神槌は美月にそう言う。
「詳しいわよ」
なにせ美月は境川の師匠だから。
さっきまで他の人たちもそれぞれに闘いを繰り広げていたが、境川の衝撃波の音により全員が境川の方に集中してしまい。全員が闘いをやめている。
それどころか境川と命を除いた人物は全員端の方により闘いを観戦しだしているのだ。
(それほど全員が兄様と東雲の闘いを気にしている・・・ですか)
二人の闘いに邪魔をするものもいない。
「どうした命・・・さっきのようにかかってこないのか?」
(生の状態は明らかに変わった。雰囲気だけじゃない。何かが変わった)
境川の変化。それは分かっているが何が起きたのかは命は理解をしていない。
──シュッ
境川は命の目の前から消えた。
「ッ!!」
「こっちだ」
境川は後ろに回り込みドゴッっと蹴りを喰らわした。
「なっ──きゃあ!」
命は攻撃を喰らい遠くに吹き飛ばされる。
そのまま壁に激突しガクッと倒れた。
「やっべ・・・やりすぎたか」
フッと目から稲妻が消える。
そして走り倒れている命の下に駆け寄った。
(失敗したな・・・極致の状態に入ったせいで命とは言えども攻撃してしまったか。くっそが・・・俺はまだ使いこなせていないみたいだな)
極致の状態は精神が集中の状態を意味している。そのせいで境川は味方でも容赦なく攻撃してしまう。それが敵と認識しているのであれば。
(だが、これで終わりだな)
周りをみるとどこも闘いはしていない。境川と命の闘いを全員が観戦しているからだ。
「どうやら賭けは俺の勝ちのようですね、学園長」
振り返って学園長にそういう。
「終わりにするんだ」
「ああ」
「なら賭けは僕の勝ちだ」
「・・・・なに?」
突然学園長はそんなことをいいだす。
「君はこのバトルロイヤルを勝ち抜いたら賭けを勝つといった。だけどここにいる全員は負けたのではなくただ単に観戦しているだけに過ぎない。そして君はこの闘いを終わりといった。それは君自身がリタイアするということだろ?」
「・・・なるほど・・・な」
すっかり忘れてた。
「てなわけで君はもれなくメンバー入りってことだ」
学園長ははしゃぎながらそう言う。
「やれやれ・・・」
俺はまたいらぬことに巻き込まれるのだろうな。そう思うのだった。




